いい歌でありさえすれば必ずヒットする。

これが歌の本来あるべき姿です。しかし、現実は強力なタイアップが付いていなければ売れない時代です。いかがなものか?と思います。この風潮に私はあえてアンチテーゼを投げかけたい。いい歌は売れるべきだし、たくさんの人たちに聴いてもらいたい。そんな“音楽愛”が私のポリシーです。

 「こんないい歌、聴かなきゃ損!」

音楽評論家の富澤一誠です。いい歌、いいアーティストを見つけて紹介するのが私の仕事です。「演歌・歌謡曲」でもない。「Jポップ」でもない。良質な大人の歌を「Age Free Music」と名づけて私は推奨していますが、今回ご紹介する「Age Free Music」アーティストは丸山圭子さんです。

丸山さんの濃密な大人のラブソングはまさに「熟恋歌」です。そんな「熟恋歌」の魅力にせまってみたいと思います。ということで、今回のゲストは丸山圭子さんです。

この〈音声版〉を聴く前にぜひ読んでおいていただきたい私のコラムがあります。それは「どうぞこのまま」が大ヒットとなる背景です。大ヒットの背景を知ってから聴いていただいた方が理解度は深まると思います。

★どうぞこのまま/丸山圭子

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丸山圭子は16歳の頃から作詞・作曲を始め、17歳のときに〈VIVA唄の市〉で入賞。それがきっかけでエレック・レコードにスカウトされ、72年11月にデビューしました。まだ18歳の少女でした。だからこそ、ラッキーなデビューをして売れなかった後はよけいにきつかったのです。そうこうしているうちに、エレック・レコードの方針が変わり、彼女は完全に見はなされ、さらに悪いことには、エレック・レコードが倒産してしまったのです。これは悲劇と言っても過言ではないでしょう。

それから3年半後の76年3月―彼女はキング・レコードに移籍してアルバム『黄昏めもりい』を発表し、“再デビュー”をしました。このアルバムはサウンドがファッショナブルでシャレていて高い評価を受けました。

再デビューした直後、私は彼女に会っていろいろなことを尋ねてみました。その中で一番印象に残っているのはこんな彼女の言葉です。

「エレック時代に、レコードを出しても売れなくて仕事が全然なかったとき、私はいろいろと考えたんです。歌というものは、まずうたって自分の感情を伝えるのだから、歌が上手くなければならない。だから歌を上手くなろう……そう思って先生について発声練習から習いました。それとやはり詞ですね。エレック時代のアルバムは少女趣味的というか、あの頃は本当に何も知らなくてどうしようもなかったんですが、この3年半の間に恋もしましたしね。だから、より現実味を出そうと思いました。私にとっては長いブランクでしたけど、とてもいい勉強になりました」

そんな話を聞いたとき、一度つまずいた彼女は、初めて自分の欠点と長所を知ったのだろうと思いました。誰からも相手にされなかったブランクの中で、あえて自分の欠点を見つめ、それを直したからこそ、見違えるようなものを作ることができたのでしょう。3年半のブランクは無駄ではなかったのです。

アルバムの中の1曲「どうぞこのまま」の評判が日増しに高まってきました。そんな背景もあって76年7月5日に「どうぞこのまま」はシングル・カットされました。するとこの歌は有線放送のリクエストから火がついて、じわじわと売れ出し、とうとう50万枚を超える大ヒットになったのです。

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<音声版>富澤一誠のこんないい歌、聴かなきゃ損! 第39回 丸山圭子さん

丸山圭子「彩色兼美」

1. 月影
2. 海とピアノと珈琲と
3. 風花
4. 浅き夢見し
5. Starting Over
6. 旅立ち
7. 惑い
8. Soul Mate
9. どうぞこのまま2025
10.五線譜を舞う恋

・発売日:2025年10月25日
・価格:¥2,800(税込)
・品番:ELFA-2504
・発売元: ELEC RECORD

丸山圭子オフィシャルサイト

★丸山圭子「彩色兼美」はYouTubeでも視聴できます★

丸山圭子アルバム「彩色兼美」発売記念ライブ 詳細はこちら

富澤一誠

1951年、長野県須坂市生まれ。70年、東大文Ⅲ入学。71年、在学中に音楽雑誌への投稿を機に音楽評論家として活動開始し、Jポップ専門の評論家として53年のキャリアをもつ。レコード大賞審査員、同アルバム賞委員長、同常任実行委員、日本作詩大賞審査委員長を歴任し、現在日本レコード大賞審査委員長。また尚美学園大学名誉教授&客員教授なども務めている。「わかり易いキャッチコピーを駆使して音楽を語る音楽評論家」としてラジオ・パーソナリティー、テレビ・コメンテーターとしても活躍中。現在FM NACK5〈Age Free Music !〉(毎週木曜日24時から25時オンエア)、Inter FM〈富澤一誠のAge Free Music~大人の音楽〉(毎月最終月曜日20時から21時オンエア)パーソナリティー。BS日テレ〈そのとき、歌は流れた〉(毎月第2・第3水曜日20時から22時オンエア)コメンテーター。また「松山千春・さすらいの青春」「さだまさし・終りなき夢」「俺の井上陽水」「フォーク名曲事典300曲」「『こころの旅』を歌いながら」「私の青春四小節~音楽を熱く語る!」など著書多数。

俺が言う!by富澤一誠

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