いい歌でありさえすれば必ずヒットする。
これが歌の本来あるべき姿です。しかし、現実は強力なタイアップが付いていなければ売れない時代です。いかがなものか?と思います。この風潮に私はあえてアンチテーゼを投げかけたい。いい歌は売れるべきだし、たくさんの人たちに聴いてもらいたい。そんな“音楽愛”が私のポリシーです。

 「こんないい歌、聴かなきゃ損!」

音楽評論家の富澤一誠です。

いい歌を見つけて紹介するのが私の仕事です。「演歌・歌謡曲」でもない。「Jポップ」でもない。良質な大人の歌を「Age Free Music」と名づけて私は推奨していますが、キャリア50年を誇る細坪基佳さんはまさにAge Free Musicアーティストです。そこで今回は細坪さんをゲストにお迎えして「大人の歌」の魅力にせまってみたいと思います。

★「叙情派フォーク」の名曲がいっせいに花開いたのは1974年のことでした。

「こんないい歌、聴かなきゃ損!」(音声版)では細坪基佳さんのキャリア50年にせまりますが、その折にヒントになる文章がありますので、ぜひ読んで下さい。手前みそで恐縮ですが私が書いたコラムです。このコラム2本を読んでから音声版を聴いていただけると理解度がさらに深まると思います。

〈叙情派フォークの名曲!ふきのとう「白い冬」〉文・富澤一誠

グレープの「精霊流し」、山本コウタローとウィークエンドの「岬めぐり」、NSPの「夕暮れ時はさびしそう」など、いわゆる“叙情派フォーク”の名曲がいっせいに花開いたのは1974年の秋のことでした。いわば聴き手の共感を呼ぶような歌が求められていたということですが、そんな時代のニーズにぴったりとはまったのが、ふきのとうの「白い冬」(74年9月21日発売)でした。
ふきのとうは71年に札幌市で山木康世(50年10月22日、札幌市生まれ)、細坪基佳(52年10月26日、北海道雨竜郡石狩沼田町生まれ)のふたりによって結成されました。当時彼らは共に北海道学園大学に在学中でした。73年、ニッポン放送系主催の〈全国フォーク音楽祭〉で作曲賞を受賞。これがきっかけとなって注目を浴びました。その辺の事情を前田仁ディレクターは語ります。
「才谷音楽出版の方から、札幌にふきのとうというフォーク・デュオがいて、これがとってもいいから聴いてほしいというオファーがあったんです。で、デモ・テープを聴かせてもらったんですが、まず細坪のボーカルがすごいと思った。陽水ばりのハイトーンと叙情性、これはすごいボーカリストだと思った。それと山木の作曲センス、これにも光るものがあった。それで、やろう、と決めたんです」
才谷音楽出版には当時海援隊が所属していたので、新人グループだったふきのとうは海援隊のコンサートに前座として出演していました。ところが、あっという間に海援隊を食ってしまいました。というのは、デビュー曲「白い冬」があれよ、あれよという間に、ヒットしてしまったからです。その辺のとまどいぶりを、彼らはかつてこんなふうに語っていました。
「デビューしたばかりのころは、だれも教えてくれる人がいなかった。事務所もできたばかりだし、もともとマイナーなことしかやったことがなかったから、いきなり売れてしまったので、ぼくらはもちろんのこと、たぶんスタッフもどうしていいのかわからなかった」
彼らのとまどいぶりが目に浮かびますが、「白い冬」はまさに“名曲”でした。それに発売のタイミングも合っていました。秋から冬に向かう季節の中で、あなたを愛した秋はもう去ってしまって、感じるものはただ悲しい白い冬という意味合いが一段ときわだったからです。
富澤一誠著「フォーク名曲事典300曲」(ヤマハミュージックメディア)より。

もう1本のコラムもぜひ読んで下さい。細坪基佳というアーティストのスタンスがよく理解できると思います。

演出家の目で新地平を! 文・富澤一誠

「白い冬」で“ふきのとう”としてデビューしたのが1974年9月21日のこと。ふきのとうが解散して、ソロシンガーとして再スタートを切ったのが92年。デビューしてからもう42年が経った。長い歳月をかけたからこそたどり着いた細坪基佳だけの〈オンリーワンの世界〉がある。一朝一夕にしてなったものではない。ひとつずつライブを積み上げてきた結果である。
60代を迎えて、細坪は〈Live of Nocturne〉という新しいライブにチャレンジしている。いつもは細坪がギターを弾きながら歌い、ギタリストの久保田邦夫がサポートで、これが通常のライブ編成と言っていい。しかしながら〈Nocturne〉では、細坪はハンドマイクを持ってシンガーに徹し、ツルノリヒロ(バイオリン)、妹尾武(ピアノ)、Ayako(チェロ)が3人で支える編成になっている。
こういうシンプルな編成になると、問われるのは個人のスキルと、何よりもコラボレーションの大切さである。細坪はここに懸けたのだ。
普通、ステージのフロントに立つ者は、特にシンガー・ソングライターの場合は、自作自演の一枚看板であるがゆえに「よし俺が頑張ろう」と肩に力が入ってしまうものだ。若い頃はそれでいいかもしれないが、50歳を過ぎた頃から、細坪は自分の歌に疑問を持つようになったという。
「デビューしたのが42年前ですから、その頃に作った歌には初恋とか、まだ幼い恋とか、恋愛のときめきの歌があります。それを50歳になって、君と初めて会ったのは雨の日で胸が痛いよ、と歌っていると、どうなんだろうか?とつい考えてしまうこともあるわけです」
どこまでいってもシンガー・ソングライターは自作自演なので、自分が主人公になってしまう。一度、主人公をはずして歌手に徹してみようと考え、〈Nocturne〉にチャレンジしたら、新しい地平が切り開けた、という。
「歌の主人公をいつも自分と思うから、自分との実年齢のギャップに悩んでしまう。だから、僕ではなく、僕の描いた風景の中に主人公を置いて、それを俯瞰で見るようにして歌うと、全然違う表現ができたんです」
「歌というのは古くも新しくもならなくて、そこにずっといるような気がして。それを自分がどうとらえるかによって変わっていくと思うんです。だから、昔の歌が歌えないというのは、昔の歌を昔のように自分がとらえていたからなんです」
シンガー・ソングライターから演出家の目を持ったエンターテイナーに成長した、ということだろう。
〈富澤一誠の「時代が生んだ歌い手たち/細坪基佳」〉(信濃毎日新聞2016年10月12日付)より。

50周年を迎えて細坪基佳はアーティストとしての「着地」をどうするのか?と同時に、彼と同世代の私たちも自分の着地を考えざるをえません。その意味では、今回の「こんないい歌、聴かなきゃ損!」(音声版)は私たちにとっても一度深く考えてみなければならないテーマなのです。細坪基佳の50周年に積極的に付き合ってみようではありませんか。読んでから聴くか?それとも聴いてから読むか?あなた次第です。

<音声版>富澤一誠のこんないい歌、聴かなきゃ損! 第24回 細坪基佳さん

細坪基佳50周年記念Concert 〜軌跡〜

細坪基佳50周年記念Concert 〜軌跡〜
【日時】    2024年9月16日(月祝)
開場15:15/開演16:00
【会場】    東京国際フォーラム ホールC
【料金】    全席指定:一般8,800円(税込)/高校生以下1,100円
※SOLD OUT※

細坪基佳 Official Web Site

富澤一誠

1951年、長野県須坂市生まれ。70年、東大文Ⅲ入学。71年、在学中に音楽雑誌への投稿を機に音楽評論家として活動開始し、Jポップ専門の評論家として50年のキャリアを持つ。レコード大賞審査員、同アルバム賞委員長、同常任実行委員、日本作詩大賞審査委員長を歴任し、現在尚美学園大学名誉教授&客員教授なども務めている。また「わかり易いキャッチコピーを駆使して音楽を語る音楽評論家」としてラジオ・パーソナリティー、テレビ・コメンテーターとしても活躍中。現在FM NACK5〈Age Free Music!〉(毎週木曜日24時から25時オンエア)、InterFM〈富澤一誠のAge Free Music~大人の音楽〉(毎月最終水曜日25時から26時オンエア)パーソナリティー。また「松山千春・さすらいの青春」「さだまさし・終りなき夢」「俺の井上陽水」「フォーク名曲事典300曲」「『こころの旅』を歌いながら」「私の青春四小節~音楽を熱く語る!」など著書多数。

俺が言う!by富澤一誠

一覧へ戻る