いい歌でありさえすれば必ずヒットする。
これが歌の本来あるべき姿です。しかし、現実は強力なタイアップが付いていなければ売れない時代です。いかがなものか?と思います。この風潮に私はあえてアンチテーゼを投げかけたい。いい歌は売れるべきだし、たくさんの人たちに聴いてもらいたい。そんな“音楽愛”が私のポリシーです。
「こんないい歌、聴かなきゃ損!」
音楽評論家の富澤一誠です。いい歌を見つけて紹介するのが私の仕事です。
今回紹介するのはギタリスト、作編曲家、音楽プロデューサーとして八面六臂の活躍をしている久保田浩之さんです。久保田さんはジャズを軸に多彩なプレイ・スタイルには定評がありますが、最近ではプロデュース能力にたけたマルチクリエイターとしても注目されています。その意味では、これからのミュージック・シーンを牽引するニューリーダーと言っても過言ではありません。
ということで、今回のゲストは、ギタリスト、作編曲家、プロデューサーでもあるマルチクリエイターの久保田浩之さんです。
★アーティストとガチンコ勝負のクロスバトル・インタビュー!
この〈音声版〉を聴く前に、今度のインタビューの趣旨についてお話しておきたいと思います。
久保田浩之さんとはこれまでに何度かお会いしています。たとえば広瀬倫子さんのレコーディングでとか、ライブでとか。私のラジオ番組にも3回程出演もしていただいています。とはいえ、そのときのお話は断片的なことばかりで、だから、全体像は把握できていないのが現実です。
ラジオ番組で言うと、そのときどきで話題のテーマが違います。たとえば、ジャズ・シーンの現状は?とか。リリースしたアルバムのポイントは?とか。いずれにしても全体像にはせまりきれていません。
しかし、今回は60分程のロング・インタビューになりますから、こちらも話すテーマなどをあらかじめ準備しておかなくてはなりません。そこで本人制作のプロフィールとか「ウィキペディア」などの紙資料を集めて、事前に調べておくとか、相当の準備をしておかなければなりません。いずれにしても、準備をしておかないとアーティストの本質に肉薄することができないということです。
私の音楽評論は、巷では音楽評論と呼ばれるより“音楽生きざま論”と呼ばれることのほうが多いようです。なぜかというと、音楽生きざま論は、音楽評論を始めたときに、私自身が考え出した方法論だからです。
音楽は、はっきり言って、言葉では語れない。言葉では語れないからこそ音楽ともいえる。だが、それを承知であえて語ろうとする場合、どうしたらいいか? そう考えたとき、音楽の特性に私は気がついたのです。
音楽はそもそも己の自己表現です。何か言いたいことがあるからしゃべるように、何か訴えたいことがあるからこそ詞を書き、曲をつけてうたうのです。その意味では、人間がまずあって歌がある。歌があって人間があるのでは決してない。だからこそ逆に、聴き手である私たちは、その歌を通してアーティストの人間性、生き方、考え方などにまで触れることができるのです。すなわち―人間があって歌があるのだから、その歌を作り出した人間を語ればいいということになる。いや、いいというより、人間を語るしかないと言ったほうが的確です。必然的に“音楽生きざま論”は生まれたというわけです。加えて、私の音楽生きざま論は、生きているアーティストの“生きざま”と“音楽”を鏡にして自分自身の生きざまを描き出すことでもあります。そのためには当然ながら、アーティストと裸の付き合いをして、ときにはぶつかり、けなしあい、共に感動しながらひとつの共感を探し出さなければなりません。
音楽評論を始めてから早いもので53年という年月が流れました。この53年間に、私が知り合い交遊して来たアーティストはおそらく3千人は下らないでしょう。それぞれにさまざまな人生模様がありました。
そんな人生模様の中で、私とアーティストがもっとも激しく交錯したのは1980年代だと言っていいでしょう。私の音楽生きざま論がアーティストの本音を鋭く引き出した。そこに忖度はなかった。あったのはガチンコの勝負でした。
今回の久保田浩之さんへのインタビューは間違いなく「ガチンコの勝負」です。このインタビューをもとに私は「久保田浩之論」をいずれ書こうと思っています。そのためには今回のようなインタビューは必ず必要なのです。どうか、そんな私の思いをくみとって今回の〈音声版〉をお聴きください。より身近に感じられると思います。
<音声版>富澤一誠のこんないい歌、聴かなきゃ損! 第32回 久保田浩之さん
久保田浩之「launch vehicle」
ギタリスト・作編曲家 久保田浩之の待望のソロ名義初作品。 ジルデコ(JiLL-Decoy association)在籍時代からライブを重ねて磨き上げてきたオリジナル曲から最新の書下ろし楽曲までギタリスト、作曲 家としてジャズやインストゥルメンタルミュージックに真正面から向き合った1枚。 20年来の盟友の島裕介(トランペット・フルート)をプロデューサーに迎え、若手最高峰ドラマー松浦千昇、ベーシストtoyoとの2日間の濃 密で最高にクールなセッションの中から選りすぐりの12曲を集めた。 ジャズに軸足を置きながらネオソウル、ファンク、ジャズ、フュージョンなどあらゆるジャンルをポップにまとめあげる久保田浩之のクリエイターとしての センスと、伝統的なジャズからソウルフルなアプローチまで多彩な表現力と温かみをもったギターが冴えわたる。
久保田浩之さんの最新情報はこちら
富澤一誠
1951年、長野県須坂市生まれ。70年、東大文Ⅲ入学。71年、在学中に音楽雑誌への投稿を機に音楽評論家として活動開始し、Jポップ専門の評論家として53年のキャリアをもつ。レコード大賞審査員、同アルバム賞委員長、同常任実行委員、日本作詩大賞審査委員長を歴任し、現在日本レコード大賞審査委員長。また尚美学園大学名誉教授&客員教授なども務めている。「わかり易いキャッチコピーを駆使して音楽を語る音楽評論家」としてラジオ・パーソナリティー、テレビ・コメンテーターとしても活躍中。現在FM NACK5〈Age Free Music !〉(毎週木曜日24時から25時オンエア)、Inter FM〈富澤一誠のAge Free Music~大人の音楽〉(毎月最終月曜日20時から21時オンエア)パーソナリティー。BS日テレ〈そのとき、歌は流れた〉(毎月第2・第3水曜日20時から22時オンエア)コメンテーター。また「松山千春・さすらいの青春」「さだまさし・終りなき夢」「俺の井上陽水」「フォーク名曲事典300曲」「『こころの旅』を歌いながら」「私の青春四小節~音楽を熱く語る!」など著書多数。
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