いい歌でありさえすれば必ずヒットする。
これが歌の本来あるべき姿です。しかし、現実は強力なタイアップが付いていなければ売れない時代です。いかがなものか?と思います。この風潮に私はあえてアンチテーゼを投げかけたい。いい歌は売れるべきだし、たくさんの人たちに聴いてもらいたい。そんな“音楽愛”が私のポリシーです。

 「こんないい歌、聴かなきゃ損!」

音楽評論家の富澤一誠です。いい歌を見つけて紹介するのが私の仕事です。「演歌・歌謡曲」でもない。「Jポップ」でもない。良質な大人の歌を「Age Free Music」と名づけて私は推奨していますが、今回ご紹介する「Age Free Music」アーティストは鈴木康博さんです。

★これからは自分の好きなことをやって思い切り生きていきたい!

この〈音声版〉を聴く前にぜひ読んでおいていただきたいコラムがあります。手前みそで恐縮ですが、私が鈴木の50周年、正確にはコロナ禍で延期を余儀なくされたので〈鈴木康博 LIVE 2022 おかげさまで50年+2〉にあたって寄せた私のコラムです。

オフコースでデビュー以来50周年を自分で言うのもおこがましいですがコンパクトにまとめて凝縮していると思います。ということで、このコラムを読んでから〈音声版〉を聴いていただくとわかり易いということです。

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これからは自分の好きなことをやって思い切り生きていきたい!
富澤一誠

 鈴木康博には「デビュー日」がふたつある。ひとつはオフコースが「群衆の中で」でデビューした1970年4月5日。そしてもうひとつは、今では伝説として語られるオフコースの〈武道館10日間コンサート〉の最終日(82年6月30日)をもって鈴木康博は脱退した。1年後の83年8月21日「ソロ・アーティスト」として再出発したこの日。

 ソロ・デビュー曲「愛をよろしく」はオフコースへの別れのメッセージだった。
 自分だけの色を探すため、真っ白に戻ってみた「あの日から」38年、オフコースでデビューから51年が経ち、鈴木は73歳のミュージシャンとして現在を迎えている。

 オフコースでデビュー以来、数え切れないほど私は鈴木に取材させてもらっているが、印象に強く残っているのは、「あの日」から30年が経った13年8月のことである。

 この30年間の成果は、ソロ・デビュー以来発表した全ての楽曲群の中から30曲を自ら厳選、さらに新録音をして2枚のアルバム「鈴木康博 Select 30」Vol.1とVol.2にまとめられた。

 「30年間もずっと歌い続けているなんて考えられなかったですね。それとステージのときはギター1本で弾き語りでやっているなんて、ぼくらの時代には、若い頃には考えられなかった機械の進歩と共にひとりでCDも全部できちゃうというか、そういう時代になったんでやり続けられるんだと思います」

 電子楽器の進歩による“打ち込みサウンド”によって1人で何でもできてしまう。だからこそ、アーティスト・鈴木の現在が、旬のままに表現されていると言っていい。

 「選曲は『今』にこだわった」と鈴木。「ステージでよく演っている曲を選びました。すると必然的に今歌っても等身大でみんなに訴えかけられる歌が多くなるんです」

 「今」を象徴している曲が「遠い日のこと」と「時計台の下で」だ。これは、鈴木の等身大のメッセージであると同時に、私たちの「心の叫び」であるに違いない。

 続いて印象に残っているのは、その2年後の15年10月の取材である。この年の5月27日に彼は2枚組のオリジナル・アルバム「この先の道」を発表した。

 ベテラン・アーティストほど「昔の名前で出ています」に頼ってしまいがちだ。しかし、それでは昔のヒット曲などのセルフカバーを軸にして、新曲を1曲か2曲取ってつけたように入れた、お茶を濁したようなアルバムしか作れない。いかがなものか?だ。

 そんな中にあって鈴木の本作は全てが新曲で、しかも2枚組という大作だ。鈴木は“心のぜい肉”を徹底的にそぎ落して、アーティストとして戦える精神をつくり続けているに違いない。だからこそ、鈴木の“旬”が凝縮された好アルバムが作れたのだろう。

 今回のアルバムは、鈴木がカラオケ作りから歌入れ、果てはミックスダウンまで全て自分でやった〈全曲アレンジバージョン〉と、ギターの弾き語りによる〈アコースティックバージョン〉の2タイプが収録されている。これぞ、鈴木が「オフコース」を脱退してから長い年月をかけてたどり着いた〈オンリーワン世界〉と言っていい。アルバム「この先の道」は、鈴木の等身大のメッセージであると同時に、自分の道を捜し続ける私たちの「心の叫び」でもあるに違いない。

 それからさらに8年が過ぎた21年の10月13日に鈴木はニュー・アルバム「十里の九里」をリリースした。

 「人生を十里とすればもう九里ほど来ているので最後の方なんだけど、それでも人生まだ半ばって思って頑張ろう、というつもりでタイトルはつけました」

 このアルバムに託した熱い想いは?

 「こんな時代だからこそ、今思っていることを言葉にして歌おうと思います。50年以上もやってきたんだから、これからは自分の好きなことをやって思い切り生きていきたい。そんな想いでこのアルバムを作りました」

 それだけにポジティブだし、聴いているとパワーをもらえる。これだけ頑張ったんだからもう自由に生きてもいいよね、やりたいことやってもいいよね、と自分を鼓舞する人生応援歌は50年というキャリアを積んだ歌だからこそ説得力があるのだろう。

 2022年、遅ればせながらの50周年、おめでとう、と言いたい。

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 鈴木康博は来年デビュー55周年を迎える。そして喜寿(77歳)となる。55周年と喜寿。ダブルで祝うことになるだろう。となれば、気になることは、アーティストとしての着地はどうなるのか?ということだ。その命題は鈴木と共に人生の歩みを共にしてきた私たちに対する問いでもある。鈴木の話を聞き、歌を聴き、自分なりに考えてみるのも私たちに与えられた責務ではないだろうか?

<音声版>富澤一誠のこんないい歌、聴かなきゃ損! 第27回 鈴木康博さん

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富澤一誠

1951年、長野県須坂市生まれ。70年、東大文Ⅲ入学。71年、在学中に音楽雑誌への投稿を機に音楽評論家として活動開始し、Jポップ専門の評論家として50年のキャリアを持つ。レコード大賞審査員、同アルバム賞委員長、同常任実行委員、日本作詩大賞審査委員長を歴任し、現在尚美学園大学名誉教授&客員教授なども務めている。また「わかり易いキャッチコピーを駆使して音楽を語る音楽評論家」としてラジオ・パーソナリティー、テレビ・コメンテーターとしても活躍中。現在FM NACK5〈Age Free Music!〉(毎週木曜日24時から25時オンエア)、InterFM〈富澤一誠のAge Free Music~大人の音楽〉(毎月最終水曜日25時から26時オンエア)パーソナリティー。また「松山千春・さすらいの青春」「さだまさし・終りなき夢」「俺の井上陽水」「フォーク名曲事典300曲」「『こころの旅』を歌いながら」「私の青春四小節~音楽を熱く語る!」など著書多数。

俺が言う!by富澤一誠

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