いい歌でありさえすれば必ずヒットする。
これが歌の本来あるべき姿です。しかし、現実は強力なタイアップが付いていなければ売れない時代です。いかがなものか?と思います。この風潮に私はあえてアンチテーゼを投げかけたい。いい歌は売れるべきだし、たくさんの人たちに聴いてもらいたい。そんな“音楽愛”が私のポリシーです。

 「こんないい歌、聴かなきゃ損!」

音楽評論家の富澤一誠です。いい歌を見つけて紹介するのが私の仕事です。「演歌・歌謡曲」でもない。「Jポップ」でもない。良質な大人の歌を「Age Free Music」と名づけて私は推奨していますが、ベイビーブーは高度なハーモニーを縦横無尽に駆使してコーラス・グループとして新しい地平を切り開いています。そこで今回はベイビーブーの皆さんをゲストにお迎えして、ベイビーブーがめざしている「大人の歌」にせまってみたいと思います。というわけで、ゲストはベイビーブーの皆さんです。

★ボーカル・グループの台頭!

この〈音声版〉を聴く前にぜひ読んでおいていただきたいコラムがあります。かつて私が出演していたテレビの音楽番組〈Mの黙示録〉(テレビ朝日)がありましたが、その中に〈音楽評論〉というコーナーがあり、私が毎回ひとりでテーマを決めて数分間しゃべりまくっていました。その中にベイビーブーがメジャー・デビューした2002年のミュージック・シーンを分析して語っているコーナーがあります。題して〈ボーカル・グループの台頭〉(2002年8月27日オンエア)です。当時のミュージック・シーンでなぜボーカル・グループが台頭してきたのか?そして、その中でベイビーブーはどんな存在だったのか?興味深いところです。ぜひ参考までに読んでみて下さい。

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ボーカル・グループの台頭!

富澤一誠

 ゴスペラーズのブレイク以降、ボーカル・グループの台頭がめだっています。特に去年後半から今年にかけて、RAG FAIR、INSPi、Baby Boo、チン☆パラ、AJI、チキン・ガーリック・ステーキなどたくさんのグループがデビューしています。なぜ今、ボーカル・グループなのでしょうか?

 ボーカル・グループの歴史を検証してみましょう。

 海外でボーカル・グループといえば、1980年代から活躍するボーイズⅡメン、テイク6、オール4ワン、14カラットソウルなどがすぐに思い浮かびます。いずれもゴスペルの流れをくんでいて、特に高音の伸びが素晴らしく、幾重にも重なるハーモニーは芸術ともいえる美しさを持っています。
 そんな流れに対して、日本のボーカル・グループといえば、古くはダークダックスに始まり、ボニージャックス、デュークエイセスなどにまで遡ります。彼らはボーカル・グループというよりは、唱歌や合唱に近い形態を祖にしており、明らかに海外のものとは違う流れを歩んで来ています。

 合唱隊に近いグループでの4声、ハーモニーが中心だったボーカル・グループの中にあって、キングトーンズの登場は異質でした。日本で初めて外国でも通用する本格的なグループとして評価され、それ以降、ボーカル・グループとは声を重ねるだけではないという認識を世間に広めました。

 さらに80年にデビューしたシャネルズ(ラッツ&スター)は忘れられません。当時ゴスペルはもちろんのこと、ハーモニーを美しくこなせる唯一の存在と考えられていた黒人への憧れから、顔を黒く塗りたくっていたシャネルズですが、彼らのドゥーワップを取り入れたスタイルは、高音、低音だけではなく、ベース音、打楽器音を声だけで表現できることを世間に広め、バンド形式のボーカル・グループの始祖となりました。そして“本格的なボーカル・グループ”というふれこみのもと、ゴスペラーズが登場しました。

 ゴスペラーズが94年12月にシングル「Promise」でメジャー・デビューした当時は、ボーイズⅡメンなど海外の主だったボーカル・グループが日本に輸入されて来た1980年代後半から90年代前半という時期と重なっています。自らの声を磨きあげた本格的な海外のボーカル・グループ台頭のおかげで、ゴスペラーズも注目されましたが、まだ一般の人たちにまでボーカル・グループの存在は浸透しませんでした。結局、ゴスペラーズがブレイクするまでには7年間という年月が必要だったのです。

 ゴスペラーズは自力で道を切り開きました。彼らは5人全員がリード・ボーカルを取れ、作詞作曲もこなせるため、ア・カペラやバンド形式やDJとのセッションといった様々な形態で、ポップスやソウル、ブラック・ミュージックやヒップホップといった、あらゆるサウンドを歌いこなすことができます。ボーカル・グループでほぼ皆無だったこの才能は、どんな需要にも対応できるだけの柔軟さとなり、若者向けの音楽番組にも、ニュース番組にも露出できる強さを身につけて大きく成長していったんです。

 その成果が2001年に花開きます。シングル「永遠に」は長い時間をかけてヒットし、続く「ひとり」は大ヒットとなりました。

 ゴスペラーズのブレイクが、地道に活動していたボーカル・グループを触発しました。そしてテレビの人気コーナー〈ハモネプ〉がボーカル・グループの火付け役となりました。つまり、ゴスペラーズの登場でハーモニーの美しさに触れ、〈ハモネプ〉でハモる楽しさを知った若者たちを中心に、ア・カペラやハモりが大人気となり、RAG FAIR、INSPiなど続々とボーカル・グループがデビューを果たしたのです。

 ボーカル・グループが今注目されているのは、コーラス、すなわち、人の声にはダンス・ミュージックに代表されるようなデジタル音にはない“生の人間の良さ・人間の温もり”があるからです。シンセサイザーやドラム・マシーンが多用される現在の音楽に対峙する形で、数年前に一大ムーブメントとなった“アコースティック系”の台頭と同じ背景です。音楽に限らず、世の中のあらゆる場面で、機械化・合理化が進んでいます。これはより便利な環境のためには避けては通れないものですが、一方で機械の“冷たさ”“無機質”を生み出しています。そんな今だからこそ、人々は心の拠り処として人間の温かさを求めています。その温かさがボーカル・グループにはあるのでしょう。

 最近のボーカル・グループの特徴は主にふたつ挙げられます。

①4声にこだわらない、柔軟な発想。以前はリード+和音3声、またはリード+和音2声+ベースが主流であり、常識でした。しかし、最近のボーカル・グループはそういった既成概念にとらわれることなく、自由な編成をしています。

②ボイス・パーカッション。ここ数年のポピュラー音楽の流れの特徴に“リズム”が挙げられます。ダンス・ミュージックやヒップホップなどはその顕著な例で、現在の音楽にはリズムが全面に出ていることが重要なポイントとなっています。そんなリズム重視の時代にあって、ボーカル・グループに自然と取り入れられたのがボイス・パーカッションです。これは音楽が常に生ものであり、その時代性、流行に左右されるものであることを物語っています。

 それでは期待のボーカル・グループを紹介しましょう。
 RAG FAIR。実力もさることながら、トークなどのエンタテインメント性にも秀でています。お客さんを楽しませようと意識が強いためか、ライブが充実しています。

 INSPi。大阪出身の6人組。カヴァー曲がレパートリーの多くを占めるケースが多い中、オリジナル・ナンバーを歌うことにこだわっています。

 Baby boo。ボイス・パーカッションが光っています。リズムが重要視される時代にあって、時流に乗った実力派です。

 チン☆パラ。埼玉大学ア・カペラ・サークル出身。B’zの「LOVE PHANTOM」など、これまでの常識では考えられない奇抜で既成概念にとらわれない発想が魅力です。

 AJI。5人がそれぞれのパーツになるのではなく、5つの声でメロディーを作り、その重なりで表現したのがAJIサウンドです。

 Smooth Ace。間口の広いポップさと緻密さ、こむずかしさを聴き手に与えないコーラス・ワークが魅力です。

 チキン・ガーリック・ステーキ。結成12年目を迎える彼らは、ゴスペルやR&B、ジャズだけでなく、日本のフォークやニューミュージックがバックボーンとなっているのが特徴です。全体に漂う成熟した雰囲気はこれまでになかったボーカル・グループです。

 ハモることの敷居は低くなりました。だからこそ逆に、自分たちの個性を発揮しつつ、生き残っていくことは難しくなりつつあります。なぜならば、確固たる個性がないグループは自然淘汰されていくからです。ヒップホップ・グループと並んでボーカル・グループは今年の2大潮流です。ボーカル・グループは、かつて若者たちを熱狂させたバンド・ブームに迫る勢いを持っているに違いない、と私は確信しています。

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 あれから22年という年月が経ち、ベイビーブーは独自の立ち位置でオンリーワンの世界を確立して現役の第一線で活躍を続けています。むろんここまでくるのには一朝一夕でなったものではない。そのプロセスをこの〈音声版〉でじっくりと聴いて欲しいものです。22年間という年月がベイビーブーを独自のキャリア・アーティストに成長させたのだ、と私は確信しています。

<音声版>富澤一誠のこんないい歌、聴かなきゃ損! 第29回 ベイビーブーさん

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富澤一誠

1951年、長野県須坂市生まれ。70年、東大文Ⅲ入学。71年、在学中に音楽雑誌への投稿を機に音楽評論家として活動開始し、Jポップ専門の評論家として53年のキャリアをもつ。レコード大賞審査員、同アルバム賞委員長、同常任実行委員、日本作詩大賞審査委員長を歴任し、現在日本レコード大賞審査委員長。また尚美学園大学名誉教授&客員教授なども務めている。「わかり易いキャッチコピーを駆使して音楽を語る音楽評論家」としてラジオ・パーソナリティー、テレビ・コメンテーターとしても活躍中。現在FM NACK5〈Age Free Music !〉(毎週木曜日24時から25時オンエア)、Inter FM〈富澤一誠のAge Free Music~大人の音楽〉(毎月最終月曜日20時から21時オンエア)パーソナリティー。BS日テレ〈そのとき、歌は流れた〉(毎月第2・第3水曜日20時から22時オンエア)コメンテーター。また「松山千春・さすらいの青春」「さだまさし・終りなき夢」「俺の井上陽水」「フォーク名曲事典300曲」「『こころの旅』を歌いながら」「私の青春四小節~音楽を熱く語る!」など著書多数。

俺が言う!by富澤一誠

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