いい歌でありさえすれば必ずヒットする。
これが歌の本来あるべき姿です。しかし、現実は強力なタイアップが付いていなければ売れない時代です。いかがなものか?と思います。この風潮に私はあえてアンチテーゼを投げかけたい。いい歌は売れるべきだし、たくさんの人たちに聴いてもらいたい。そんな“音楽愛”が私のポリシーです。

音楽評論家の富澤一誠です。
いい歌を見つけて紹介するのが私の仕事です。「演歌・歌謡曲」でもない。「Jポップ」でもない。良質な大人の歌を「Age Free Music」と名づけて私は推奨していますが、山崎ハコさんの歌はまさに良質な大人の歌だ、と言っていいと思います。そこで今回は山崎ハコさんをゲストにお迎えして大人の歌「Age Free Music」の魅力にせまってみたいと思います。

★山崎ハコさんは「すごい歌」を歌う「すごいアーティスト」です。

山崎ハコさんを一言で言うなら、「すごい歌」を歌う「すごいアーティスト」です。では「すごい歌」とは何か?「すごいアーティスト」とは何か?を今回は考えてみたいと思います。そのためには何かきっかけとなるものが必要ですが、ちょうどいい資料を見つけました。

それは山崎ハコさんが1975年10月1日に「飛・び・ま・す」でアルバム・デビューしたときの“衝撃”です。正直に言って、山崎ハコのデビュー時の衝撃度はヘビー級でした。その衝撃度の中に、ハコさんの「すごい歌」「すごいアーティスト」のヒントがあるのではないでしょうか?

これから紹介するのは、手前みそで恐縮ですが1977年5月25日に発売された拙著「あいつの生きざま~26人のフォークシンガーたち」(共同音楽出版社)です。この本は吉田拓郎、井上陽水、南こうせつ、小椋佳、泉谷しげる、谷村新司、松任谷由実、イルカ、矢野顕子など当時のスーパースターの中に混じって山崎ハコさんが取り上げられています。デビュー2年目ながら注目度はピカイチということでしょう。

なぜ私がハコさんをあえて取り上げて推したのか?「すごい歌」を歌う「すごいアーティスト」だと評価していたからです。まずはこちらから読んでいただきましょう。

〈 限りなく“優しい”歌をうたう  山崎ハコ 〉文・富澤一誠

★久しぶりにシビレてしまう・・・
 山崎ハコという女性シンガー・ソングライターをご存じだろうか?ハコはニュー・ミュージック界が生んだ新しいスターである。
 一昨年(75年)の10月1日に、エレック・レコードよりアルバム『飛・び・ま・す』でデビュー。デビュー・アルバムは派手な宣伝をしないにもかかわらず新人としては破格の5万枚を売上げた。ふつう新人の場合、1万枚を売れば大成功と言われている。中堅でも3万枚売れれば文句なし、というところをみれば、ハコの5万枚がどのくらい価値があるかわかるだろう。また昨年(76年)の5月25日に発売されたセカンド・アルバム『綱渡り』は、エレックの倒産があって1カ月たらずしか店頭にはなかったが、その間でなんと3万枚も売り切った。新人のアルバムが、5万、3万というのはまさに破格であり、ただ事ではない。いったい山崎ハコとはどういうシンガーでどこがそんなに受けるのだろうか?(中略)
 ハコの魅力について、ぼくはこう考えている。ハコを初めて聞いたのは忘れもしない、デビューする前、一昨年の6月ぐらいのことだと記憶しているが、プロデューサーの尾崎道彦さんの所でだった。たまたまぼくが尾崎さんの事務所へ行くと「まあ、これ聞いてみてよ。今度、やろうと思っている新人なんだけど、抜群よ」と言われて聞いたのがハコだった。聞いたテープは、家庭用のテープ・デッキに録音したものと思われる音はあまり良くなく、伴奏もギター1本だけだった。にもかかわらず、そこから聞こえてくる歌声には迫力と説得力があった。抜群の歌唱力、哀愁を帯びたメロと、グサッと胸に食い込んでくる詞の世界に・・・ぼくは知らず知らずのうちに引きずり込まれてしまった。(中略)
★私はうたっているときが、いちばん幸せ
 ハコは無口である。無口というより、自分の思っていることを上手くしゃべれないということの方が適切だと思うが、それがハコの人間性、生き方にも通じている。また、無口だからこそ、自分の言葉が伝わらなくて誤解されることもある。だが、そのことは歌についてはプラスになっている。ふつうのシンガーは、「この歌は、ぼくと彼女と、あることがあって別れて、ひとり金沢に旅したときに作ったものです」と言って説明してうたい出すが、ハコは「次ナニナニをうたいます」としか言わない。ハコの歌には説明はいらないのである。それこそ、全身の力を込めてうたうだけである。1曲、1曲、魂を入れてうたう。こうしてハコの全感情が1曲に集約されているからこそ、聞いている者にとってそれだけで伝わってくる。ハコはステージが終われば汗をかきグッタリし、今にも倒れんばかりである。そこには完全燃焼してしまうというステージに対する姿勢がある。
 また、ハコは組織というものを極端に嫌う。というのは「なぜなら、たくさんの人といっしょにやっていると、歌だけではなくなってしまうでしょう。変に遊びになったりして。私は歌をうたいたいんです。そのためにはひとりでいたいんです」とハコ。ハコにとっての歌とは、まさに自分のつぶやきでもある。「私は作ろうとしても曲は作れない。鼻歌かなにかで自然と出て来て気がついたら歌となっているんです」。
 こんなエピソードがある。飛行機の中で、フム、フム・・・とハミングしていたと思ったら、それで5分にも及ぶ『綱渡り』という曲ができていた。
 こう考えるとハコの歌はフィクションかノンフィクションかという興味が出て来る。だが、ハコに関して言えば、そんなことは関係ない。フィクションであろうが、ノンフィクションであろうが、現実味があればいいことだ。たとえば、現実にハコは満員電車に乗ったことはないという。でも“満員電車にゆられてどこへ行く”というフレーズをハコがうたうと、たとえそれがイメージの世界であったとしても、現実以上の現実味を感じる。ここが、ハコが並のシンガーとは違うところである。
 ハコは自分を言葉であからさまに出すことを嫌う。だから、ハコの私生活、何を考えているかということはほとんどわからない。ただはっきりしていることは、ハコは歌だけを真剣にうたいたいということ。ステージでは完全燃焼すること、こういう姿勢だけである。あえて、ぼくはこれだけでいいと思っている。ハコとは毎日放送のDJを一緒にやっていたこともあるので、人よりはよく知っているが、いつも感じることは、ハコはそっとしておくことが1番だということ。変にまわりで騒ぐよりも、ただ好きな歌だけをうたわせておいた方がいい。最近、ハコも売れて来て、取材も多くなっているが、あまり騒がない方がいいだろう。それはハコの性格もあるし、また歌で完全燃焼することのできるハコにとっては、やはり歌こそ、ハコを最もよく表現できるものだから。
 「私はうたっているときが、いちばん幸せ。静かにうたわせて下さい」
ハコが、ポツリとつぶやいたとき、ぼくはますますその考えを強くした。
 山崎ハコは、弱冠19歳であるにもかかわらず、人生の真理を鮮烈にうたうことができる紛れもない本物のシンガー・ソングライターである。まだ聞いたことのない人はぜひ1度耳を傾け、またファンの人は、ハコの歌だけにジッと耳を傾けよう。そうすれば、ハコという人間がより理解できるだろう。

この文章を読んでから「こんないい歌、聴かなきゃ損!」(音声版)を聴いてみて下さい。

山崎ハコさんは「すごい歌」を歌う「すごいアーティスト」であることがきっとわかるはずです。

2024年10月から50周年目に入るハコさん。いったい何をしてくれるのか?楽しみですが、その前に5月18日(土)に有楽町のI’M A SHOW(アイマショウ)で行われる〈山崎ハコ バースデーライブ「50周年の前に」〉は50周年の予告編でもあるだけにこちらも大いに楽しみです。

<音声版>富澤一誠のこんないい歌、聴かなきゃ損! 第22回 山崎ハコさん

 2024.05.18(土) 山崎ハコ バースデーライブ「50周年の前に」

2024年05月18日(土)
客席開場 16:00開演 17:00
ARTIST
山崎ハコ(Vo&Gt) ゲスト:原田喧太(Vo&Gt)
TICKET
7,000円(税込) 全席指定
※未就学児童入場不可
※ドリンク代別途必要

INFORMATION

富澤一誠

1951年、長野県須坂市生まれ。70年、東大文Ⅲ入学。71年、在学中に音楽雑誌への投稿を機に音楽評論家として活動開始し、Jポップ専門の評論家として50年のキャリアを持つ。レコード大賞審査員、同アルバム賞委員長、同常任実行委員、日本作詩大賞審査委員長を歴任し、現在尚美学園大学副学長及び尚美ミュージックカレッジ専門学校客員教授なども務めている。また「わかり易いキャッチコピーを駆使して音楽を語る音楽評論家」としてラジオ・パーソナリティー、テレビ・コメンテーターとしても活躍中。現在FM NACK5〈Age Free Music!〉(毎週木曜日24時から25時オンエア)、InterFM〈富澤一誠のAge Free Music~大人の音楽〉(毎月最終水曜日25時から26時オンエア)パーソナリティー。また「松山千春・さすらいの青春」「さだまさし・終りなき夢」「俺の井上陽水」「フォーク名曲事典300曲」「『こころの旅』を歌いながら」「私の青春四小節~音楽を熱く語る!」など著書多数。

俺が言う!by富澤一誠

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