デザインはあくまでシンプルに、使って、着て実感する「道具性」
ブランドを立ち上げた背景には、コロナ禍における働くスタイルの大きな変化があった。「出社したくても出社できない状況が続き、リモートワークも普及して働き方もライフスタイルも多様化しました。と同時に、スーツスタイルがある一方、セットアップにスニーカー、リュックを合わせるなどカジュアル化が広がり、通勤スタイルも多様化しました。ただ、カジュアル化といってもどこまでがOKといった規定があるわけではなく、どういうスタイルをすればいいのか分からない人も少なからずいます。このグレーになっている領域をカバーするカジュアルスタイルを提案しようと思った」と、アントラックのディレクターを務める生本紘史さん。その考え方から、「URBAN×OUTDOOR」をテーマに、都会と自然、仕事と遊びなど異なる領域をシームレスにつなぐ都市生活者に向けたライフスタイルブランドを構想した。その軸として据えたのが、バッグとアパレルだった。
アントラックを手掛けるエースは老舗バッグメーカーだけに、鞄作りの技術・ノウハウはもちろん折り紙付き。とはいえ、ビジネスバッグやスーツケースを得意とし、カジュアルの領域でも商品開発をしてきたが、さらなるライフスタイルの多様化への対応が課題となっていた。また、アパレルはエース傘下のラゲージブランド「ZERO HALLIBURTON(ゼロハリバートン)」のゴルフラインで展開しているが、カジュアルウェアは初めての取り組みだった。新たな挑戦であることから、誰も足を踏み入れたことのない未開の地を意味する「UNTRACKED」に着想を得た造語「UNTRACK」をブランド名とし、タグラインとして「Find Your Trail」のフレーズを添えた。「身に着ける人もまた、自分自身のスタイルで新たな道を切り拓いてほしいという思いを込めた」と生本さんは話す。
物作りで重視したのは、「感性的な価値」と「機能的な価値」の融合。バッグもウェアも物を持ち運ぶ「道具」として捉え、時を超えて愛され続けているビンテージアイテムや定番モデルをベースに、そのデザインや造形などのエッセンスを生かし、現代の生活に必要な機能を掛け合わせることで新しい価値へと昇華させているのが大きな特徴だ。「僕自身、ビンテージが大好きなんです。量産型ではできないというか、妥協の無い手仕事が施され、普遍的な美しさがある。ただ、現代における使いやすさは足りなかったりするので、単にビンテージを復刻するのではなく、新たな機能を内蔵させていくという考え方で物作りをしています」と生本さん。デザインはあくまでシンプルに、使ってみて、着てみて実感する「道具性」がアントラックの信条だ。
無機質さと有機的な質感を融合し、「URBAN×OUTDOOR」を体現
デビューから5シーズンを重ね、自社ECと各地でのポップアップストア、百貨店やファッションビル、ライフスタイルストアなどへの卸でブランドへの認知を広げてきた。ただ、あえてデザインはシンプルにしているだけに、ECでは素材の質感や機能までは伝わりづらく、ポップアップストアは限られた商品展開になる。「お客様からも、特にウェアは実際に試着したいという声が多くあった」ことから、ブランドのコンセプトを体現した空間にコレクションを一堂に揃え、スタッフの接客を通じて素材やアイテムの背景にあるストーリーをしっかりと感じてもらえる拠点が必要になった。そして昨年11月21日にオープンさせたのが、旗艦店となる「UNTRACK Harajuku(アントラック原宿店)」だ。
店舗はファッションブランドやセレクトショップ、美容院など多様な路面店が点在し、訪日外国人客も含め大人の来街も増えてきた奥原宿エリアのキャットストリート沿いに立地する。打ち放しのコンクリートとガラス張りのファサードのシンプルさは、ブランドのオーセンティックなデザインと作り込まれた中身と重なる。売り場面積は約52㎡。コンクリートのグレーと壁面の白を基調とした空間に、中央に配したブルーの什器、ドライフラワーのオブジェが象徴的にディスプレイされ、明るく柔らかい照明が注ぐ。都会的な無機質さの中に、自然につながる有機的な質感が共存するインテリアは、ブランドコンセプトの「URBAN×OUTDOOR」を体現する。
オブジェはマダガスカル原産の「旅人の木」と言われる植物のドライフラワー。扇状に大きな葉を伸ばす20mほどの大きな植物で、一説にはその葉に雨水が溜まり、旅人の喉を潤したことから名付けられたのだそう。「何ものをも恐れぬ精神」の花言葉があり、「UNTRACK / Find Your Trail.」が意味する新たな挑戦との親和性からオブジェとして取り入れた。生本さんが十数年前にインテリアとして購入したものなのだとか。
ビンテージをベースに、ライフスタイルに必要な機能を加え作り込む
店舗空間のウインドー側と左壁面にはバッグ、右壁面にはウェアがディスプレイされ、中央にはコレクションからピックアップしたアイテムが並ぶ。
バッグは当初、オーセンティックなデザインの「CITY(シティ)」、クロスバイク向けの「CROSSBIKE(クロスバイク)」、アウトドアギアの機能を取り入れた「OUTDOOR(アウトドア)」、メイド・イン・ジャパンの「PARK(パーク)」の4シリーズでスタートしたが、ブランドの個性を最も体現しているシティシリーズをメインに据え、その幅と奥行きを広げている。
アイコンとなっているのがシティシリーズのデイパックだ。メイン収納のほか、独立したPC収納スペース、フロント上部に浅めのポケットを備えた「2.5層」の構造が特徴だ。両サイドにはスマホやパスケースを出し入れしやすいオープンポケットとファスナーポケットをそれぞれ配置した。24年秋冬コレクションからスタートした「CITY/DS」以降のデイパックには、エースの研究開発部門「エースラボ」が独自開発した「ユニバーサルハーネス」を搭載。リュック専用の人体測定器を開発し、20~60歳の男性被験者60名を計測したデータに基づき、より多くのユーザーにフィットするハーネス形状、取り付け位置、取り付け角度を導き出した。また素材も国産の「DICROS® SOLO(ディクロス ソロ)」に変更。「SOLOTEX®(ソロテックス)」を高密度に織り上げることで、高級感のある風合いを生み、形態安定性に優れ、撥水性と耐久性が備わった生地を採用した。
もう一つ定番人気なのはヘルメットバッグ。1970~80年代のモデルをベースとしたヘルメットバッグが多い中、90年代後半に作られたモデルをベースにしているのが、ビンテージ好きの生本さんらしいこだわりだ。「90年代後半は前ポケットやメイン収納部分の襠幅が厚くなり、それまでは無かったバックポケットやショルダーベルトが付いたんですね。ヘルメット自体も進化しましたが、同時にバッグも使いやすさが進化した時代」という。このデザインを細部まで忠実に再現し、PC収納スペースなど現在の生活や仕事に必要な機能を加えてアップデートしたのが「CITY PLUS / The Helmet(シティ プラス/ザ ヘルメット)」シリーズだ。「CITY PLUS / The Helmet | Tote Bag 60343」は、デフォルトモデルの約80%程度のサイズに変更し、ビジネスにも取り入れやすい大きさが魅力。本体素材は元のモデルのカモフラージュ柄のナイロンからディクロス ソロに変更し、ハンドル部分はレザーへ。内装にはベルベット調の素材を使い、高級感を演出した。
ビンテージバッグコレクターの間で人気が高まっているニューズペーパーバッグも、アントラックらしいこなしが面白い。ベースにしたのは、1900年代のアメリカで新聞配達向けに作られたフラップ付きのモデル。当時は本体フロント部分に新聞社名がプリントされ、何十部もの新聞を詰め込んだバッグを斜め掛けして少年たちが配達していた。そのサイズ感を踏襲したのが「CITY PLUS / NEWSPAPER | Newspaper Bag L 60403」。当時のニューズペーパーバッグはコットン製が一般的だったが、シティプラスではヌバック調に起毛させたポリエステル・ナイロン混の生地を使い、マットな質感に仕上げた。
「CITY / DS | Garden Tote 60217」は、収穫した果実を入れたり、落ち葉を運んだりするガーデニング用のバッグから着想したトートバッグ。「直方体で間口が広く、自立し、視認性も高い。そうした特徴を現代のバッグに置き換えたらどんな形になるかと思って企画した」と生本さん。縦型(H39xW33xD15cm)と横型(H31×W37×D16cm)の2タイプがあり、いずれもあえてショルダーストラップは付けず、手に提げたときのバランスにこだわったサイズ感となっている。
40年代に映画のフィルムを収納するために作られたバッグをベースにした「CITY / ECCO | Screen Bag 60415」もユニークだ。マチ無し・手提げタイプのレザーバッグで、デザインはごくシンプル。PCバッグとして意図され、大きなバッグのインナーバッグとしても使える。ちょっとクラシカルなムードを演出しているのは、ECCO®LEATHER社のシュリンクレザー。サステイナブルな皮革生産の背景を持つ同社の天然シボレザーを用い、さらりとした手触り、上質かつ上品なバッグに収斂させた。
店奥にはエースのストリートバッグブランド「EDGELINK(エッジリンク)」のコーナーを設けた。アントラックが展開していないスーツケースを扱っていることから、「出張のスタイルも提案していきたい」とエッジリンクのコレクションからセレクトして提案している。
培ってきた知見を生かし、「着るバッグ」としてのウェアを追究
アパレルラインはゆったりとしたフォルムとシックなカラー展開が特徴で、全ての商品が撥水や伸縮性、家庭洗濯ができるイージーケア性などの機能を備える。アウターやジャケット、シャツ、パンツ、スウェット、ニットなど基本アイテムは全て揃う。「バッグメーカーがアパレルを手掛ける意義を考え、ウェアもバッグと同様、物を持ち運ぶ道具として捉えたんですね。『着るバッグ』をキーワードに服作りに取り組んでいます」という。
鞄に見立てた服作りを象徴するのが、デビュー時から継続する「Essential Jacket(エッセンシャル ジャケット)」。スタンダードな2ボタンのシングルジャケットだが、内側にはスマートフォンやウォレット、イヤホン、鍵、パスポートなどを整理して収納できる多機能ポケットがあり、それぞれに収納可能なアイテムのアイコンがプリントされている。「着るバッグ」の代名詞である「アイコンポケット」だ。
今季は素材を刷新し、2タイプを製作した。一つは、ポリエステル100%だが、収縮差のある糸を国内の仮撚り加工技術を生かして組み合わせ、天然素材のような風合いと軽やかさを生みつつ、ストレッチ性も高めた高機能ファブリックによる「UT-M5A2a | Essential Jacket 60433」。速乾性やイージーケア性といった機能も嬉しい。もう一つは、ポリエステル100%ながら後染めによってブラックデニムのような風合いを持たせた特別仕様のファブリックによる「UT-M5A3a | Essential Tech Denim Jacket 60439」。シワになりにくく、伸縮性に優れ、コットンデニムのような経年変化による色落ちもない。同素材のパンツとのセットアップを楽しめ、上品な印象を与える素材の質感、落ち着いたカラー展開はオンシーンにも対応する。仮撚り加工技術による高機能ファブリックはシャツやTシャツにも用い、セットアップスタイルのインナーとしてもコーディネートできる。
「都市部では冬も温かい日が多くなった中で、薄く暖かいアウターを作りたい」と開発したのは、「Essential Feather Light Jacket(エッセンシャル フェザーライトジャケット)」。2000年代初頭の米軍のマウンテンパーカをベースに、タウンユースに適したデザインへと再構築した。ナイロンの表地に、中綿と裏地を一体化した帝人フロンティアの機能素材「Octa® CPCP(オクタ シーピーシーピー)」を組み合わせ、薄く、軽く、保温性も担保した新たな冬のアウターを生んだ。ジャケットでは内装に備えるアイコンポケットを外装に施すことで、メインファスナーを開けずにアクセスでき、体温を逃がすことなく物の出し入れを可能にした。脱いだときもダウンジャケットのようにかさばらず、扱いやすいこともこのアウターの持ち味だ。
ウェアはサイズ展開を拡充、ジェンダーレスに楽しめるブランドへ
原宿店はオープン以降、40代前後の男性客を中心に好調に推移している。当初は原宿という立地柄、20代を中心とする客層を想定していたが、大人世代の来店が多く、「原宿の奥のほうにあるので少ないと思っていた外国人のフリー客も予想以上にある」。加えて強化を図っているのは、女性客へのプロモーションだ。ブランドを立ち上げてからメンズ寄りのプロモーションを展開してきたが、「ECやポップアップストアに取り組む過程で女性客による購入が意外に多かった」からだ。25年春夏シーズンから女性モデルも起用したプロモーションに切り替え、ジェンダーレスにブランドを訴求している。今季はMDでも初めてスカートを投入し、原宿店で先行発売した。
スカートは、エッセンシャル ジャケットとのセットアップで着用できるよう設計された2タイプ。「Essential Skirt(エッセンシャル スカート)」は、タイトシルエットのロングスカート。バックにスリットを施すことで歩きやすく、ウエストにはゴムを使うことですっきりとした印象はそのままに快適に着用できる。サイドにはスリットポケットとファスナーポケット、コインポケットを配置し、ウィメンズウェアにありがちなポケット不足を解消した。「Essential Pleated Skirt(エッセンシャル プリーツスカート)」は、広めに取ったプリーツとミディアムロング丈が大人の女性の落ち着きと華やかさを演出。ウエストのゴム仕様により快適に着用でき、スリットポケットとファスナーポケット付き。
ウェアは26年春夏シーズンからサイズバリエーションも充実させる予定。これまではMとLを軸に一部アイテムでSを展開していたが、XSからXLまでに広げる。「より女性にとっての選択肢が充実し、ジェンダーを超えて楽しめるブランドのイメージを広げていきたい。そのためにもリアルのブランド体験ができる場は重要。世界に向けて発信できる原宿店を東京の拠点として、主要都市にもう1拠点は設けて発信を強めていきたいと考えています」としている。
写真/野﨑慧嗣、エース提供
取材・文/久保雅裕
関連リンク

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。
