──「台風18号」のリリースから約1ヵ月が経ちました。リスナーから届いた反応を、今はどのように受け止めていますか?

「この曲はミドルバラードですし、幅広い層に向けたというよりも、これまでkiki vivi lilyを応援してくれた方や、私の世界観を好きでいてくれる方に響く楽曲だと思っていました。実際、そういう皆さんが“この曲、好き”と言ってくれているので、自分が思い描いていた形で届いている手応えがあります」

──まさに“kiki vivi lilyらしい曲”だと。

「そうですね。最近はビートメーカーの方と一緒に、まずドラムやビートを組み、その上にメロディーや歌を重ねていく作り方が多かったんです。ただ、どの作品にも数曲は、ピアノに向かってシンガーソングライター的に書いた曲を入れるようにしていて。「台風18号」はその流れにある曲だと思います。ピアノに向かい、自分の内側と向き合いながら、シンプルに曲を書く。自分の中では“純度100のkiki vivi lily”と呼べるような曲ができたと思っています」 

2025年10月のビルボードツアー「kiki vivi lily presents Autumn Sweet Session」の様子

──リリース時のコメントには、「久しぶりに、曲を書く楽しさをたっぷり味わえた」とありました。

「ビートから組み立てるときは、“シンセはこういう音がいい”とか、“キックはこの質感がいい”とか、いろいろなことを考えます。曲を俯瞰しながら、サウンド全体を組み立てていく感覚ですね。でも、ピアノで曲を書くときは、そうしたことを考えず、シンプルに歌そのものの良さと向き合える。ピアノで書いた曲を完成させ、リリースまで持っていけたのも久しぶりだったので、すごく楽しかったです」

──同じ曲作りでも、頭の使い方がまったく違うのでしょうか?

「全然違うと思います。ビートから作るときは、音色やリファレンスも含めて、音楽全体を考えている。一方、ピアノに向かうときは、メロディーと言葉、自分の感情に集中しています。「台風18号」は、後者の作り方の良さがそのまま形になった曲ですね」

──「台風」ではなく、「台風18号」という具体的な号数をタイトルにした理由も気になりました。

「いくつかありますけど、まずは言葉の響きとして、曲へのハマりが良かったんです。それに“18号”というと、夏の中盤から終盤にやって来るような印象があって。季節が少しずつ切なくなっていく頃のイメージにも合うと思い、このタイトルにしました」

──歌詞はどのように生まれたのでしょうか?

「最初に“台風18号が上陸するらしい”という歌い出しが、パッと出てきたんです。“台風というキーワードから、面白い曲が書けそうだな”と思って、そこから物語を組み立てていきました」

──歌詞では、綺麗なものだけを見ていたかった“君”と、相手の嫌いなところまで愛そうとした“私”が描かれています。この対比が、二人の愛し方のずれを象徴しているように感じました。

「台風の目に入ると、一瞬だけ穏やかな時間が訪れますよね。でも、それは長く続かず、すぐに台風は通り過ぎてしまう。二人の気持ちも一瞬だけ重なったけれど、やがてすれ違い、離れていく。その様子を台風に重ねました。台風は、突然現れて、やがて通り過ぎていく“人”の比喩でもあります」

──kikiさん自身は、“君”と“私”のどちらに近いですか?

「私はたぶん、相手の嫌いなところまで愛そうとする“私”の側ですね。この曲に登場する女性と男性も、それぞれ違うものを見ていて、そこからすれ違いが生まれていく。そうしたことは、世の中にたくさんあると思うんです。何か特定の出来事にインスパイアされたというより、誰もが経験し得る普遍的なすれ違いと、自分自身の経験をもとに描きました」

──歌詞にある<大人になるたびに/賢くなるたびに/シャッターをしめ身を隠した>という一節も印象的です。ここで描かれている“大人の賢さ”とは、どのようなものなのでしょうか?

「大人になるにつれて処世がうまくなった主人公が、台風に巻き込まれないように心のシャッターを閉めていた。でも、そのシャッターを開けてしまうほど、誰かに惹かれた瞬間があったんじゃないかと思います。私は以前から、人と人とのすれ違いをいろいろな比喩で書くのが好きだったので、「台風18号」は、昔から描いてきた自分の恋愛観に立ち返った曲なのかもしれません。前作のEP「Blossom」では、もう少し大人の恋愛を書くようになったと感じていたのですが、今回は自分の原点に戻ったような感覚があります」

──アレンジは、Ovallのギタリストであり、プロデューサーとしても活躍する関口シンゴさんが担当しています。以前から一緒に制作したいと思っていたそうですね。

「あいみょんさんの「強くなっちゃったんだ、ブルー」を、関口さんのアレンジだと知らずに聴いていたんです。すごくシンプルなのに、ふと耳に引っかかるコードの使い方が面白くて、“編曲は誰だろう?”と調べたら関口さんでした。もちろん以前から存じ上げていましたが、ギターのイメージが強かったので、シンセを基調にしたアレンジもこんなに素敵なんだと知って。「台風18号」もシンプルな作りの曲だからこそ、そこにちょっとしたスパイスを加えたいと思い、関口さんにお願いしました」

──関口さんには、どのような状態で曲を渡したのでしょうか?

「ピアノと歌だけではなく、ビートとベースも簡単に入れて、曲の世界観がある程度伝わるところまで組み立てたデモをお渡ししました。細かいサウンドの指定はしていません。デモを聴けば、関口さんならこちらの意図を汲み取ってくださると思っていたので、自由にやっていただきました」

──最初のアレンジが届いたときは、どのように感じましたか?

「“これこれ!”と思いました(笑)。もちろん何度かやりとりはしましたが、最初にいただいたものから大きな方向性は変わっていません。こちらの意図をよく分かってくださっている感覚があり、やりとりもとてもスムーズでした。関口さんはすごく穏やかな方なので、お話ししていて癒やされましたね(笑)。それから、関口さんが以前、実際に録音していた生活音も素材として使われているんです。その話を聞いたときは、なんだかうれしかったです」

──ボーカル面では、どんなことを意識しましたか?

「私の曲ではコーラスワークをふんだんに使うことが多いのですが、今回はコーラスに頼らず、メインボーカル一本で聴かせることにこだわりました。J-POPとして、歌心のあるボーカルをしっかり届けたかったんです。歌のニュアンスも細かく考えて、少しだけエッジボイスを混ぜながら、切なさを表現しました」

──今年はデビュー10周年です。これまでの音楽活動を大きく動かした転機を三つ挙げるとしたら、どの出来事を選びますか?

「まずは「LOVIN’ YOU」が生まれたこと。次に、1stアルバム『vivid』を作るにあたって、WONKや、彼らが立ち上げたレーベルのEPISTROPHと出会ったこと。そして、2ndアルバム『Tasty』に収録した「Lazy」が、全国30局のFMパワープレイに選ばれたこと。この三つだと思います」

──「LOVIN’ YOU」は、kiki vivi lilyとして活動を始めるきっかけになった曲ですね。

「それ以前も別の名前で一人で活動していたのですが、当時は音楽をやめようかなと思っていました。そんなときに「LOVIN’ YOU」ができて、自分の中ですごく手応えがあったんです。“新しいものができた”“こういうジャンル感は、まだあまり誰もやっていないかもしれない”と思えた。それでもう一度活動してみようと、kiki vivi lilyという名前を作り、「LOVIN’ YOU」を携えて活動を始めました。あの曲がなかったら、kiki vivi lilyとして活動していたかどうか分かりません。リリースしたあとには、“この曲が駄目だったら、私は何をすればいいんだろう”と思うほど、自分の中で大きな存在になっていました」

──意図的に新しいものを作ろうとしたのでしょうか?

「いえ、遊び心から生まれた感じです。当時、一緒に曲を作っていたパートナーと、“こうしたら面白いかも”と話し合いながら組み立てていきました」

──その後、『vivid』の制作を通じてWONKやEPISTROPHと出会います。その出会いによって、どんなことが変わりましたか?

「「LOVIN’ YOU」は、本当は生バンドで録りたかったんです。でも、まだデビューもしていない段階で、プレイヤーやスタジオをそろえて録音するのは大変だったので、できる範囲で打ち込みも使いながら完成させました。ただ、リリースしたあとも、“もっと生の楽器を入れたい”“もっとグルーヴを出したい”、でも今の自分の力だけでは実現できない、という思いが残っていて。そんなときにWONKやEPISTROPHと出会い、“プレイヤーを呼んで、スタジオでバンドレコーディングをしましょう”と言ってもらえたんです。それなら、自分のやりたかったことを実現できるかもしれないと思いました。実際、その出会いによってサウンドも大きくアップデートされました」

──三つ目に挙げた「Lazy」は、どんな転機をもたらしたのでしょうか?

「『vivid』から『Tasty』までライブ活動を続けるなかで、自然と固まっていったバックメンバーと、初めてレコーディングした曲なんです。そういう意味でも、すごく思い入れがあります。その曲が全国30局のFMパワープレイに選ばれ、Instagramでも多くの方に使ってもらえた。曲が自分の手を離れて一人歩きし、kiki vivi lilyをより多くの人に知ってもらうきっかけになりました」

──三つの転機には、いずれも人との出会いが深く関わっていますね。

「人が私の財産だと思っています。曲を一緒に作ったり、演奏したりするのは、同世代や年下の方が多いのですが、お互いに言いたいことを言い合える関係の中で作ることを大切にしてきました。そこに変な力関係や上下関係がなく、私も萎縮せずに意見を言える。その方がヘルシーだと思うんです」

──人との関わり方や曲作りに対する姿勢は、この10年間で変わりましたか?

「以前は自分の曲に対するこだわりがものすごく強くて、“絶対にこうじゃないと嫌だ”という気持ちがありました。でも最近は、そのこだわりを少し手放して、相手の提案に対して“確かに、それもいいな”と思えるようになった。以前より柔軟になったと思います。そうなれたのは、自分に少し自信がついたこともありますが、それ以上に、一緒に作る皆さんへの信頼が大きくなったからだと思います」

──先日、USENの店舗向けBGMサービス「OTORAKU」で、「Sunshine&Espresso」と題した全50曲のプレイリストを選んでいただきました。曲を並べてみて、ご自身の好きな音楽に共通するものは見つかりましたか?

「自分は朗らかな曲が好きなんだと気づきました。ただ、音色やサウンドの質感には、意外と統一感がないんですよね。“こういう音だから好き”というより、一曲一曲、その曲自体に惹かれて選んでいるのかもしれません。それから、改めて並べてみると邦楽が多いことにも気づきました。その時々で夢中になった曲や、自分の音楽につながる曲を選んでいったので、自然とそうなったのだと思います」

──プレイリストの軸に据えたのは、ご自身の「Ms.Sunshine」です。「台風18号」と並べてみると、晴れと嵐という対照も面白いですね。

「確かに。対極ですね(笑)」

──プレイリストにはNew Editionの「Candy Girl」も入っています。この曲は、kikiさんのサウンドの原点の一つなのでしょうか?

「そうですね。「LOVIN’ YOU」を作っていた頃に、New Editionをかなり聴いていました。“こういうサウンドを日本語で歌ったら、どんな曲になるだろう?”と、いろいろ実験していたんです。コーラスワークも含め、とても参考にしました」

 

──最近、ボーカルやコーラスの面で影響を受けている音楽はありますか?

「K-POPの女性アイドルの曲をよく聴いています。メインボーカルをしっかり立たせながら、まわりにたくさんのコーラスを重ねていますよね。それを聴いたときの気持ちよさが、どこから生まれているのかを考えることがあります」

──R&Bやヒップホップをルーツに持ちながら、韓国のフィルターを通ることで、欧米のR&Bとはまた異なるコーラスの組み方になっていますよね。

「そうですね。だからこそ、日本語のJ-POPにも落とし込みやすいのかもしれません」

──プレイリストにはSweet Williamさんなど、kikiさんと縁の深いアーティストの曲も多く並んでいます。選曲を通して、この10年間の人とのつながりを振り返る感覚もありましたか?

「そういう感覚もありました。ただ、Sweet Williamの曲を選んだのは、今回がUSENのプレイリストだったことも大きいです。実際に美容室でSweet Williamの曲が流れていることが多くて、そういう空間にすごく合うと思っていたんです。友人でもありますし、“有線で聴こえてきたら気持ちいいだろうな”と思って選びました」

──10月1日には、恵比寿LIQUIDROOMで10周年記念ライブ「TOU.」を開催します。タイトルには、どのような意味が込められているのでしょうか?

「TOU.は、“トウ”と読みますが、“to you”という意味も込めています。ここまでの10年間、ずっと応援してくださった皆さんへ向けたライブという意味と、10=“とお“を重ねて、「TOU.」というタイトルにしました」

──どんなステージになりそうですか?

「“kiki vivi lilyのベストヒット”みたいなセットリストにしたいです。ヒットしているかどうかはさておき(笑)、皆さんが“あの曲を聴きたい”と思っている曲を、きちんと聴いていただけるような、スペシャルな周年ライブにしたいと思っています」

──2023年に『Blossom』のリリースワンマンで立ったLIQUIDROOMには、どんな印象が残っていますか?

「すごく楽しかったです。ここ最近はBillboard LiveやBlue Noteなど、座ってじっくり楽しんでいただく会場でライブをすることも多くて、それも大好きなんです。でも、スタンディングのライブハウスでフルバンドの音を鳴らして、お客さんにも思いきり乗ってもらう。ザ・ライブハウスという雰囲気も、やっぱりいいなと思いました。今回も体を揺らしながら、バンドの音と空間全体を楽しんでもらえるんじゃないでしょうか」

──11年目以降、活動を続けていくうえで大切にしたいことはありますか?

「長く続けることが、私にとって大きな目標です。長く、健やかに、いろいろな意味で。楽曲制作も、一緒に活動するメンバーとの関係も、健やかな状態で続けていきたいです」

──これから新しく挑戦してみたいことは?

「楽曲提供にはこれまでも時々取り組んできましたが、もっと挑戦してみたいです。女性シンガーに書くのも楽しそうですし、男性に書くのも面白そう。kiki vivi lilyの曲は自分のために書くので、基本的には枠も縛りもありません。でも、“この人のために、この条件で書く”というように、枠が決まった中で曲を作ることに興味があります。すごく楽しそうなので、ぜひやってみたいですね」

(おわり)

取材・文/黒田隆憲
写真/SHUN ITABA
協力/Billboard Live YOKOHAMA

Sunshine&Espresso by kiki vivi lily「OTORAKU -音・楽- 」PLAY LIST


■ Message from kiki vivi lily
ごきげんな晴れの日に聴きたくなる曲を集めてみました!古い曲も新しい曲も、好きなものを。

1. kiki vivi lily「So much」
2. Hope Tala「Mulholland (feat.sky)」
3. Sweet William「See, Saw (feat.GAGLE)」
4. アンバー・マーク「ミキサー」
5. Vagabon「Lexicon」
6. Mac Miller「Dang! (feat. Anderson .Paak)」
7. kiki vivi lily,SUKISHA「Rainbow Town」
8. ブレイクボット「Baby I'm Yours (feat.Irfane)」
9. New Edition「Candy Girl」
10. kiki vivi lily「Brand New」
11. LAGHEADS「Try (feat. kiki vivi lily)」
12. kiki vivi lily「ロマンス」
13. KIRINJI「ただの風邪」
14. 坂本慎太郎「物語のように」
15. kiki vivi lily「Ms.Sunshine (feat.Sweet William)」
16. Hana Hope「サマータイム・ブルース」
17. 細野晴臣「恋は桃色」
18. kiki vivi lily「The Day」
19. LAURYN HILL「Can't Take My Eyes Off of You [(I Love You Baby)]」
20. kiki vivi lily「New Day (feat. Sweet William)」
21. Kan Sano「Coffee Break feat. 関口シンゴ」
22. kiki vivi lily「Touring (Prod. by Kan Sano)」
23. 星野 源「Eureka」
24. 土岐麻子「Gift ~あなたはマドンナ~」
25. クラムボン「パンと蜜をめしあがれ」
26. kiki vivi lily「Why」
27. PRINCE「Xtralovable」
28. ポロ&パン「Feel Good」
29. サブリナ・カーペンター「Espresso」
30. KATSEYE「Touch」
31. MICHELLE「SYNCOPATE」
32. kiki vivi lily「Goes All Right」
33. kiki vivi lily「Yum Yum (feat. Shin Sakiura & Itto)」
34. Sweet William「Sky Lady (feat. Jinmenusagi, Itto & Kiki vivi lily)」
35. the bird and the bee「リッチ・ガール」
36. Chic「My Forbidden Lover (12" Version) [2013 Up All Night Album Remaster]」
37. スティーヴィー・ワンダー「フォー・ワンス・イン・マイ・ライフ」
38. Suchmos「Miree」
39. kiki vivi lily,SUKISHA「Pink Jewelry Dream」
40. XG「NEW DANCE」
41. オリヴィア・ディーン「Reason To Stay」
42. HAIIRO DE ROSSI a.k.a Rossi N Dee「Espresso (feat. Grace) : Pro. by STUTS」
43. さとうもか「ばかみたい feat.入江陽」
44. Tessa Violet「Crush」
45. kiki vivi lily「39 Minutes」
46. Jenevieve「No Sympathy」
47. Sweet William「Talk to me (feat. kiki vivi lily)」
48. ビリー・アイリッシュ「バーズ・オブ・ア・フェザー」
49. くるり「ハイウェイ」
50. kiki vivi lily「Copenhagen」

OTORAKU キュレータープレイリスト

kiki vivi lily 10th Anniversary Live「TOU.」LIVE INFO

2026年10月1日(木)LIQUIDROOM


ビクター

kiki vivi lily「台風18号」DISC INFO

2026年7月1日(水)発売
Colourful Records / Suppage Records


kiki vivi lily(ビクター)

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