全3回、30曲で振り返る企画「厳選30曲で振り返るシティポップ50年史」。第3回は、シティポップ的な音楽が息を吹き返し、シティポップ・リバイバルを経て、ネオシティポップと呼ばれる新しいアーティストたちが隆盛するまでを追っていきたい。

90年代に入り、いわゆるJ-POPの時代になると、シティポップ的なサウンドは影を潜めた。渋谷系と呼ばれたポップスがそのエッセンスを受け継いではいたものの、王道的なシティポップは下火になったと言っていい。しかし、その系譜は脈々と受け継がれており、次第に70年代から80年代のサウンドを再評価する動きが現れる。その大きなきっかけのひとつとなったのがキリンジだ。AORやR&Bの影響を受けた極上のポップスは、多くの音楽ファンに新鮮な驚きを与えた。

同時期には、ソウルや80'sポップスの影響を感じさせるノーナ・リーヴス、アシッドジャズの薫りをまとったparis matchなども登場する。さらに流線形やLamp、土岐麻子らの活躍によって、後に“ネオシティポップ”と呼ばれる新たな潮流の土壌が育まれていった。

そして象徴的な作品として挙げたいのが、一十三十一が2012年に発表した『CITY DIVE』である。流線形のクニモンド瀧口のプロデュースによって生み出された本作をはじめ、この時代にはシティポップを現代的に解釈する動きが活発化。同時期にはcero、Suchmos、never young beach、Yogee New Wavesといった新世代のバンドも台頭し、“ネオシティポップ”とも呼ばれる新たなポップミュージックが広がっていった。

さて、ここしばらく「シティポップがブーム」と言われてきたが、本来ブームというのは1、2年持てばいいものであって、10年以上もブームと言い続けていること自体が異例である。これはもう、ブームではなく、定着したと言っていいだろう。70年代から始まり、リバイバルを経て定着し、定番化したシティポップ。ようやく世界からも評価されるようになった今、これからもさらに掘り起こされ、新しい才能あるアーティストが登場することは間違いないだろう。

キリンジ『ペイパードライヴァーズミュージック』

キリンジ「双子座グラフィティ」(1998年)

90年代の派手なJ-POPサウンドが一段落し、R&Bが主流となりつつあった頃だけに、キリンジの登場は意外な驚きと共に迎えられた。AORやシティポップ的な質感のスタイリッシュな音像でありながら、スティーリー・ダンを思わせる複雑なコード進行や緻密なアレンジ、どこかシュールな世界観の楽曲を歌う堀込泰行と堀込高樹の兄弟のハーモニーにノックアウトされた。メジャーデビュー作となったこの楽曲は、まさに新しい時代におけるシティポップの扉を開いた名曲と言えるだろう。また、この楽曲を含むファーストアルバム『ペイパードライヴァーズミュージック』は完成度が極めて高く、アレンジやサウンドプロダクションを担った冨田恵一の手腕を広く印象付けた作品でもあった。

paris match『type Ⅲ』

paris match「Saturday」(2002年)

2000年代のジャジーなポップスを代表する存在のひとつがparis matchである。ヴォーカルのミズノマリ、サウンド面を手掛ける杉山洋介、作詞やアートディレクションを務める古澤 大(2007年脱退)という変則的な3人のユニットで、バンドというよりもプロジェクト的な印象が強かった。ソウルミュージックやAORのテイストも感じられるが、スウィング・アウト・シスターのようなUKソウルやジャズファンクの方が近いかもしれない。隙が無く徹底的に洗練されたサウンドメイクと、クールな佇まいのヴォーカルのマッチングが見事で、この曲のようなアップテンポの楽曲でも耳に優しい。ドライブミュージックとしても心地よく、良い意味で癖のない透明感を感じさせるポップスだ。

流線形『CITY MUSIC』

流線形「3号線」(2003年)

今でこそ現行シティポップの象徴のように言われる流線形だが、デビュー作『CITY MUSIC』を発表した当初は、ジャズ・サックス奏者の菊池成孔が絶賛していたことに象徴されるように、あくまでもサブカルチャー的な文脈で評価されるアーティストだった。クニモンド瀧口の個人プロジェクト的なスタイルで活動し、ヴォーカルは基本的にゲスト扱い。これまでに一十三十一、比屋定篤子、堀込泰行などを迎えて制作している。この曲はデビュー作に収められた代表曲のひとつで、ヴォーカルにはサノトモミが参加。ソウルミュージックやクロスオーヴァーの影響を受けたメロウなサウンドに乗せて、東京の風景を描いていく。2024年からはヴォーカルのSincereを正式メンバーに迎え、RYUSENKEIと英語表記に変えて活動中。




土岐麻子『TALKIN'』

土岐麻子「ファンタジア」(2007年)

90年代末にCymbalsのヴォーカリストとして登場した土岐麻子。ポスト渋谷系の代表的な存在としてポップな存在ではあったが、シティポップに接近したのはソロになってから。とりわけ、ソロでのメジャーデビュー作となった『TALKIN'』は、ノーナ・リーヴスのメンバーを中心に据えたサウンドが印象的で、グルーヴィーなアレンジが全編を貫く傑作となった。なかでも、川口大輔が書き下ろしたこの曲は、コーラスやフリューゲルホーンが効果的に使用されたメロウなナンバーで、彼女のロマンティックなヴォーカルスタイルがアピールされた一曲。その後も、EPOとの共演やネオシティポップ的な新しい試みなど、様々なアプローチを続けており、現行シティポップを代表するシンガーのひとりとして評価されている。ちなみに、彼女の父親は長年、山下達郎のバンドで活躍したサックス奏者の土岐英史。

 一十三十一『CITY DIVE』

 一十三十一「DIVE」(2012年)

ネオシティポップという潮流を決定づけた作品のひとつと言っていいのが、この曲が収められた一十三十一のアルバム『CITY DIVE』ではないだろうか。流線形のクニモンド瀧口がプロデュースを手掛け、シティポップ的感覚を散りばめた本作は、後続する若手アーティストたちに大きな示唆を与えたことは想像に難くない。佐藤 博の1982年の名盤『Awakening』をリファレンスに置き、80年代のシンセサイザーやリズムマシンの音色を彷彿とさせるサウンドメイクを施し、メロディや歌詞に関しても80年代初頭の空気感を巧妙に取り入れた。一歩間違えばパロディになりかねないところを、2010年代のセンスと見事に接続したところが、一十三十一とクニモンド瀧口のセンスの良さと言えるだろう。スーツ姿の男性がプールに飛び込む印象的なアートワークは、ファッションブランドからレーベルまでを手掛ける弓削 匠によるもの。

cero『Obscure Ride』

cero「Summer Soul」(2015年)

一時期はネオシティポップの旗手などと言われることもあったceroだが、実際にはシティポップとして評価するのはなかなか難しい存在である。最初のアルバム『WORLD RECORD』(2011年)や2作目の『My Lost City』(2012年)あたりは、細野晴臣やムーンライダーズ、さらにはフィッシュマンズの流れを汲んだようなインディポップ然とした印象が強く、郊外から都市を見つめるような視点はシティポップ的とはいえ、音楽的には少しひねりのあるオルタナティヴ・ポップといったイメージが強かった。ただ、3作目の『Obscure Ride』(2015年)になるとジャズやR&Bを大胆に取り入れることにより、クールなグルーヴを持つサウンドへと変化。ここに収められたこの曲などは、気だるいソウルサウンドとも相まって、現代的なシティポップとしても機能する一曲となっている。



LUCKY TAPES『Cigarette&Alcohol』

LUCKY TAPES「MOON」(2016年)

インディシーンにおけるシティポップ再評価の波は静かなムーヴメントとなり、never young beachやYogee New Wavesといった新しい感覚のバンドが多数登場し、ブレイクしていった。そんな新感覚バンドのひとつが、LUCKY TAPESだ。高橋 海、田口恵人、濱田 翼の3人で結成し、ソウルやソフトロックを取り入れたスタイリッシュなサウンドのバンドとして少しずつ評価が高まっていった。2作目のフルアルバム『Cigarette & Alcohol』(2016年)に収められたこの曲に象徴されるように、どこかクールな佇まいのポップナンバーが高く評価されている。その後バンドはメンバーの脱退が続き、現在は髙橋海のソロ・プロジェクトとして活動を続けている。

サカナクション『834.194』

サカナクション「忘れられないの」(2019年)

シティポップ・リバイバルは、いわゆるシティポップを自称するアーティストに限らず、ロックバンドからヒップホップやアイドルに至るまで多くのアーティストが取り入れる音楽のひとつとして定番化していった。サカナクションのような先鋭的なロックバンドがシティポップに接近したこの曲は、スラップベースを取り入れたダンサブルなサウンドや、80年代テイストのシンセサウンドを駆使し、山口一郎のソングライティング力が漲るような印象を受ける強力なポップチューンに仕上がっている。1980年代の歌番組やアイドル映像を想起させるミュージックビデオもユニークで、パロディも大まじめにやると完成度の高い音楽になることを実証した。

離婚伝説『離婚伝説』

離婚伝説「愛が一層メロウ」(2022年)

ここ数年のネオシティポップ勢の中で、もっともインパクトがあり、人気を得たバンドが離婚伝説だろう。ヴォーカルの松田 歩とギターの別府 純による2人組バンドで、グループ名はマーヴィン・ゲイが1978年に発表したアルバム『Here, My Dear』の邦題『離婚伝説』に由来する。そんな彼らの初の作品がこの曲。軽快なカッティングギターとコーラスワークが印象的なイントロ、畳みかけるようなヴォーカルスタイルのインパクトは大きく、サビの“愛が一層メロウ”を連呼する楽曲構成もユニークだ。満を持して2024年に発表したファーストアルバム『離婚伝説』は、CDショップ大賞を受賞するなど、名実ともに高く評価された。2026年9月には日本武道館公演を行うなど、数あるネオシティポップ・バンドのなかでも、大きくブレイクしたアーティストだと言える。

離婚伝説『ファーストキス』DISC INFO

2026年10月21(水)発売
通常盤/BVCL-1574/3,520円(税込)
Ariola

離婚伝説

離婚伝説HALL TOUR 2026-2027EVENT INFO

2026年12月10日(木)カナモトホール(北海道) _ SOLD!_
12月11日(金)旭川市民文化会館 大ホール
2027年1月14日(木)フェスティバルホール(大阪) _ SOLD!_
1月17日(日)仙台サンプラザホール
1月22日(金)Niterra日本特殊陶業市民会館フォレストホール(愛知)
2月6日(土)東京国際フォーラム ホールA
2月7日(日)東京国際フォーラム ホールA
2月11日(木)サンポートホール高松
2月13日(土)広島上野学園ホール
2月27日(土)福岡サンパレス _ SOLD!_

GOOD BYE APRIL『HOW UNIQUE!』

GOOD BYE APRIL「悪役」(2026)

さて、現行のシティポップ・アーティストのなかで、世代を超えて活躍している存在と言えば、GOOD BYE APRILを挙げないわけにはいかない。2011年に結成し、2023年にメジャーデビューを果たした彼らは、2010年代から続くシティポップ・リバイバルを体現するアーティストと言えるだろう。特筆すべきは、いわゆるシティポップのオリジネイターたちとの交流の深さだ。メジャーデビュー曲「BRAND NEW MEMORY」は林哲司との共作・プロデュースによるもので、この2026年発表曲「悪役」も同じ座組で制作されている。それ以外にもシティポップの名曲カヴァーを積極的に発表しているほか、EPO、南佳孝、ブレッド&バターといったベテラン・アーティストとの共演実績も豊富。70年代から活躍するシティポップのオリジネイターと、近年のネオシティポップ・アーティストをつなぐ存在として、極めて貴重な役割を果たしている。



3回にわたってシティポップの50年を振り返ってきたが、もちろんこれでシティポップの歴史が終わるわけではない。海外からの再発見と再評価は今後も続いていくだろうし、その影響を受けた新たなアーティストも次々と登場してくるだろう。これから先、シティポップがどのような広がりを見せていくのかはまだわからない。しかし、その動向を追いかける楽しみが尽きることはなさそうだ。

(おわり)

文/栗本 斉
監修/本多義明、河合芳樹(USEN)

河合芳樹(かわい よしき)PROFILE

株式会社USEN 編成部所属。各チャンネルの選曲、ディレクションを担当。インストゥルメンタル楽曲をセレクトすることが多く、ヒーリングやイージーリスニングを中心に、季節/催事に合わせた音楽なども日々模索中。

本多義明(ほんだ よしあき)PROFILE

USENチーフディレクター。趣味は渓流釣り(疑似餌のみ)。好きなミュージシャンは山下達郎。SOUL、JAZZ、SSW(シンガー・ソングライター)、WORLD MUSIC、CLUB MUSIC、CITY POPや昭和のニューミュージックなどなど好きな音楽のタイプはなんとなくあるが、令和のJ-POPやK-POPにはめったに触発されないらしい。

栗本斉(くりもと ひとし)PROFILE

音楽と旅のライター、選曲家。ウェブマガジン「otonano」エディター。1970年生まれ、大阪出身。雑誌やウェブの執筆、ラジオや機内放送の構成選曲などで活動。2022年に発表した『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』と翌年の『「90年代J-POPの基本」がこの100枚でわかる!』(共に星海社新書)が話題を呼び、テレビやラジオなど各種メディア、トークイベントにも出演。コンピレーション・アルバムの企画も行う。

栗本 斉(X)

栗本 斉(監修)『ディスク・コレクション 日本のフュージョン』BOOK INFO

2026年9月30日(水)発売
A5判200頁/3,080円(税込)
ISBN 978-4-401-65756-8
シンコーミュージック

シンコーミュージック

 栗本 斉『「90年代J-POPの基本」がこの100枚でわかる!』BOOK INFO

2023年9月20日(水)発売
ISBN 978-4-06-529705-6
1,375円(税込)
星海社

星海社

 栗本 斉『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』BOOK INFO

2022年2月22日(火)発売
ISBN 978-4-06-527086-8
1,100円(税込)
星海社

星海社

関連リンク

…… and more!

一覧へ戻る