──オレンジスパイニクラブはフルアルバムを大事にしている印象がありますが、2ndフルアルバム『Crop』をリリースしてから3年。その間に30代になったメンバーもいたりしますが、3rdフルアルバム『好きにしろ』に至る変化では何が大きかったですか?
スズキナオト(Gt,Cho)「変化で言えば、例えば1stミニアルバム『イラつくときはいつだって』(2021年4月リリース)だと「キンモクセイ」という曲がすごくよく聴かれました。でも、メジャーに行くタイミングで“それだけじゃねえぞ”みたいなトゲというか反骨精神があって、そういうマインドでメジャー1stフルアルバム『アンメジャラブル』(2021年10月リリース)をレコーディングしていました。で、反対に、『Crop』(2023年9月リリース)は「キンモクセイ」のような僕たちが持っている優しさとかを受け入れて、“ポップで優しいアルバムを作ろう”という真逆のコンセプトがありました。それから3年経って、『好きにしろ』に関してはコンセプトは一切なくて、その時に作りたいと思った曲を作っていく感じで制作しました。なので、感情が左右されるノイズのようなものがないすごくフリーな状態で作れた初めてのフルアルバムです」
──4thミニアルバム『ナイフ』(2025年9月リリース)も“特にテーマを決めていない”と話していたと思うので、割とその頃からバンドに流れているモードなのかもしれないですね。
スズキユウスケ(Vo,Gt)「そうですね。オレスパってロックンロールとかパンクロックとかの流れを汲んでいるバンドなんです。バックボーンがそっちなので。以前はいろいろ気にしながらやっていたんですけど、3rdミニアルバム『生活なんて』(2024年7月リリース)くらいから“やっぱオレスパってこういうバンドだよな”という意識がより強く出てきているような気がします」
ナオト「『生活なんて』は“パンクっぽいところに原点回帰しよう”と言って作ったアルバムだったので、このモードは『ナイフ』くらいからじゃない?」
ユウスケ「うん。『ナイフ』くらいから少し解放された感じかな」
──オレスパはロックンロールとかガレージ、パンクのようなサウンドであってもあまり圧はなくて抜けがいいですね。
ユウスケ「そうですね。そういうジャンル特有の怖さはないかもしれないです」
ナオト「そこは意識しているところです、その圧が出ないように」
──ちなみに『好きにしろ』には先行配信されているタイアップ楽曲も収録されていますが、“出来た曲を入れていく”にしてもこのアルバムらしい方向が見えた曲はありますか?
ナオト「今回、“今、書きたい曲を書く”という意味では僕、ミドルテンポが得意というか好きで、コンセプトとまではいかないですけど、そういうアルバムにしたい…ミドルテンポの曲が増えそうだという予感はしていました。それを体現したというか決定づけたのは「無くしたピックを重ねて月に行こう」や「グッドバイ!!!!」が、今回のアルバムの方向性が見えた曲だと思います」
──「無くしたピックを重ねて月に行こう」はバンドマンもですが音楽をやっている人以外でもロマンを保ったまま大人になっていくことを描いた曲なのかな?と思いました。20代前半とは違う人生の挑戦という感じがします。
ユウスケ「確かにそうですね。曲が上がってきた時から第一印象はすごく良くて、“刺さる人、多いだろうな”と思っていたんですけど、特に歌詞にすごく感銘を受けました。愛する人がいて、少し意地っ張りな主人公で、とても感情移入できる曲だと思いましたし、サビもすごくメロディアスでお客さんも聴きやすい曲だろうと思いました」
──ナオトさんは現実に存在しているわけではない、ピュアな人をイメージしてこの曲を作ったのでしょうか?
ナオト「はい。かなり意識して、ユウスケに“こういう風に歌ってほしい”というイメージも伝えました。でも、<ダーリン ピッチのズレた 「I LOVE YOU」>のところとかは…僕は尾崎豊の「I LOVE YOU」をよく歌うんですけど、そこは現実の僕のことだったりします」
ユウスケ「この前、カラオケ行った時は歌ってくれなかったですけどね」
ナオト「スナックだとみんなが歌うので、“嫌がられる”とかあったり(笑)。でもその第三者はいる前提ですけど、意外と僕が思っていることや感じていることも歌詞にはしています」
──多分、無くしたピックは相当あるんでしょうね。
ナオト「そこはもう負けませんよ(笑)」
──“なくした年月”というか…。
ユウスケ「そんな感じですね」
──唐突ですが、お2人はやっぱり兄弟という感じがしますね。似ているけど考え方は違うんだろうな…とか。
ナオト「考え方、本当に違います」
──歌う人とギタリストの違いも感じます。
ユウスケ「それはあると思います」
──それって血縁関係がなくても、バンドでボーカリスト向きな人とギタリスト向きの人がいると思うので、それの分かりやすいモデルケースのようです。
ユウスケ「教科書のような(笑)。嬉しいです。ありがとうございます。ぜひ、皆さんに僕たちを参考にしていただきたいと思います(笑)」
──表現方法が全く違うんだと思いました。
──では、話を戻して、「グッドバイ!!!!」についても聞かせてください。
ナオト「「グッドバイ!!!!」も「無くしたピックを重ねて月に行こう」と同じ時期に書いていた曲です。今回のアルバムを通して、僕が思っていることを書く曲がほとんどですけど、「グッドバイ!!!!」に関しては完全なテーマがあって。“記憶を一日でなくしてしまう男”というテーマで、最初はサビから作っていました。なんとなくメロディーに乗せてみて<グッドバイ>から広げていって歌詞を書いて…“お別れの歌になるかな? でも、それだと面白くないな”と思って。だったら記憶の中からもう消えてしまうようなテーマがいいと思いながら書いていきました」
──受け取りようによっては、歳を取って認知症になってしまって…でもそれを責められていないというか、わからなくなったらなったで幸せ。そんな雰囲気がすごくあると思いました。
ナオト「かなりそれは意識しました。記憶がないことだけがバッドエンドではなくて、幸せでもあると思いながら書いています」
ユウスケ「こういうテーマにしては!マークが多くて、そこがバッドエンドではない感じがあります」
ナオト「ポジティブなグッドバイです」
──ユウスケさんは作り手のナオトさんと捉え方が違ったのでしょうか?
ユウスケ「僕は悲しいながらもポジティブな感じもしていて。でも悲しさの方が強かったかな? で、この!マークですから。その対比…ギャップがとても良かったですし、好きです。サウンドもどことなく懐かしさがある感じの音で」
──作詞作曲者としてはそこまで説明をしていないんですね。
ナオト「そこまで説明はしないです。どうして記憶がないのかも言ったことはないです」
ユウスケ「そこは各々が感じるまま解釈しています」
──オレスパは歌詞が素敵ですね。作詞した人のボキャブラリーとストーリーがあって、分かりやす過ぎないから歌われてもベタっとしなくて。ユウスケさんはご自分の作詞作曲でアルバムの全体像が見えた曲はどの曲になりますか?
ユウスケ「1曲に絞るのは難しいですけど…それで言うと最初に出来た曲は「夕暮れて世田谷」でした。でもこんなに激しい曲になる予定ではなかったです。でも1曲くらいそういう曲があってもいいと思ったので、デモとして持っていきました。オレスパは以前から“日常を歌うバンド”と言ってもらえたり、僕たちも常々そう思ってはいるんですけど、今回のアルバムで僕が作る曲に関してはもっと激しい日常を臆せずに書きたかったので。今まで遠慮していたところも少しはあったんですけど、今回は攻めた歌詞にしてみようと思って。だから僕が作った5曲はそういうイメージで書いています」
──同じ世田谷でも下北界隈のイメージだったんですが…。
ユウスケ「下高井戸に住んでいたんです。でも、いい思い出が1つもないので、“なんかこれ書きやすいぞ”と思って書いた曲です」
──下高井戸は住みやすい街の印象ですけど年齢にもよるのでしょうか…荒ぶっている頃というか。
ユウスケ「そうですね。東京に引っ越してまだ1 、2年くらいの頃で、バイトもほぼ週5で入っていました。“懐かしいな”と思う一方で、“全然楽しくなかったな”とも思います。“激情の世田谷”という思い出の街です(笑)」
──そういう思い出はなかったことにしようとはならないんですね。曲にすればいいわけですし。
ユウスケ「もったいないですから。せっかくこういう思い出があるので、そのままなかったことにしてしまうのももったいないと思って。“残せるものを残しておこう”と思いました」
──ユウスケさんの曲でアメリカのドラマのようなセンスを個人的に感じて他のバンドにないタッチだと思ったのが「Fxxin’ in the Darling」でした。この曲の着想はどんなところからでしたか?
ユウスケ「「Fxxin’ in the Darling」はオアシスの「Fuckin' In The Bushes」の影響でタイトルに使わせてもらいました。デモの段階では、パンクサウンドで2ビートのドカドカ系の曲だったんです。でも、いざメンバーと音を合わせてみたら自分なりの頭にあったイメージとナオトのイメージとで、この曲の捉え方にズレがあってこのサウンドに落ち着きました。歌詞の乗り方とメロディーの哀愁感はこのテンポ感が1番合っていると改めて感じますし、この雰囲気の曲は僕たちには珍しくて、新しい発見ができたと思います」
──ゆっきーさんとゆりとさんが今回のアルバムの方向性が見えたと思った曲、もしくは個人的な推し曲と言えばどの曲になりますか?
ゆっきー(Ba,Cho)「「おとめ座のココロ」です。ミディアムテンポの曲が出揃った後にナオトが持ってきた曲で、オレスパらしさもあって、アルバムになかったギターロックな曲で出揃っていた曲も引き立つような締まりのある1曲になったと思いました」
ゆりと(Dr)「僕は「グッドバイ!!!!」ですね。メロディーのキャッチーさと歌詞の世界観と主人公の前向きなマインドがとても好みです」
──プレイヤーとしての手応えを感じたり、バンドアレンジのここを聴いてほしいと思う曲も教えてください。あと、もしそのプレイのリファレンスになった作品とかがあれば知りたいです。
ゆっきー「「52Hz」は、これまでやってこなかったサウンドメイクをしているので新鮮で楽しかったです」
ゆりと「何かの作品を参考にすることはあまりしていなくて、曲ごとに好きなプレイヤーをイメージしてレコーディングに臨むようにしていました」
──例えば?
ゆりと「今回のアルバムでいうとVincent Peter Colaiuta(※注)のプレイを見漁っていました」
※ヴィニー・カリウタ:イタリア系アメリカ人のドラマー/スタジオ・ミュージシャン。スティング、フランク・ザッパ、ジョニ・ミッチェル、日本人では松任谷由実や中島みゆきの作品にも参加)
──今更ですがユウスケさんのメロディメーカー、ボーカリストとしての資質を作っているアーティストが誰なのか、とても興味があります。
ユウスケ「やっぱりTheピーズの影響力は大きいです。その他にも力まずいい意味で力が抜けていて脱力しているボーカルさんが好きです。家を出てそのままのノリで“じゃ、歌いますか”みたいな。だけど僕自身、感情の起伏が激しい方なので我を失って感情的にならないように常に意識はしています」
──なるほど。ではナオトさんの作詞に影響を与えた音楽…ミュージシャン以外の影響はあったりするのでしょうか?
ナオト「現代短歌が好きで色々な歌人さんの作品を読み漁っています。あと、あれです、伊藤園の『お~いお茶新俳句大賞』の募集がある度に何作品か応募したりしています」
──え!? あの応募作品はついつい読んでしまいますよね。
ナオト「でも未だに入選していませんけど(笑)」
──今後、入賞作品をチェックします(笑)。
ナオト「あとは映画や小説も好きですが作品から直接影響を受けることはなくて、ただ映画を観たり本を読んだりする前と後では曲や歌詞に対する考えが違うだろうとも思います」
──お二人はソングライターのタイプが真逆というか…ユウスケさんは物語の主人公でナオトさんは脚本家のようですよね。ゆっきーさんとゆりとさんはこのお二人のタイプの違いをどう感じていますか?
ゆっきー「アルバムを作るときに自ずとバリエーションが生まれるのでそれが今のオレスパの強みになっていると思います」
──ところでアルバムタイトルの『好きにしろ』は誰に向かって言っているイメージがありますか? あと、そこに今のオレスパのスタンスがあるとしたらどんなものでしょうか?
ユウスケ「僕の中ではいわゆる“突き放す”とは異なります。あくまで“自分なりに素直に”と捉えています。大きく表現すると、人生は一度きりなので、何かに気遣って後悔してそのまま終わる人生は嫌ですから。そんな経験が少なからず誰にでもあると思うので、この『好きにしろ』というタイトルからは、“あなたらしく好きにしろ、好きに生きてくれ”という捉え方を僕はしています」
ゆりと「自分自身に向けて“好きにしろ”と言っている気がしていて、“やるのもやらないも自分次第で好きにしろ”と念仏を唱えると結局、“やらなきゃいけねぇ”って自然と“やる気スイッチ”が入るので。さあ、ツアーをみんなで楽しもう!」
──O.K.です! 今、“ツアーを楽しもう!”とゆりとさんからもありましたが、10月から始まる『オレンジスパイニクラブ ワンマンツアー2026 「Do you like me?」』の意気込みと、このツアータイトルに込めた意味合いも教えてください。
ユウスケ「アルバムの1曲目に収録されている「リモン」の歌詞からツアータイトルに起用しました。お客さんと僕たち4人の感情の一致を、このツアーを通して目の前で見られたらとても嬉しいです。このツアータイトルの答えがいい形でたくさん見つけられたら幸せです」
(おわり)
取材・文/石角友香
RELEASE INFORMATION
オレンジスパイニクラブ『好きにしろ』初回限定盤
2026年9月16日(水)発売
CD+PlayPASS PAKカード/WPZL-32328/32329/5,500円(税込)
LIVE INFORMATION

オレンジスパイニクラブ ワンマンツアー2026 「Do you like me?」
2026年10月14日(水) 福岡 LIVE HOUSE CB
2026年10月16日(金) 鹿児島 SR HALL
2026年10月18日(日) 広島 SECOND CRUTCH
2026年10月19日(月) 高松 TOONICE
2026年10月31日(土) 札幌 SPiCE
2026年11月14日(土) 盛岡 the five morioka
2026年11月15日(日) 仙台 LIVE HOUSE enn 2nd
2026年11月19日(木) 福島 club SONIC iwaki
2026年11月21日(土) 名古屋 SPADE BOX
2026年11月26日(木) 新潟 GOLDEN PIGS RED STAGE
2026年11月28日(土) 金沢AZ
2026年12月13日(日) 梅田 CLUB QUATTRO
2026年12月19日(土) 東京 Zepp Shinjuku
