──『遠景に覗う』と『胸中を浚う』という2作のEPが同時にリリースされますが、2作同時というアイディアはどのようにして生まれたのでしょうか?

「ディレクターから“アルバム1枚よりもEP2枚同時の方が楽ですよ”という空気感を出されたんです。“あ、そうなんだ”と思ってやってみたら、8曲も新曲を作ることになったので、“今までと一緒じゃねえか! 騙された!”と思いました。タイトルもEP2作分を考えないといけないですし…」

──(笑)。EP『遠景に伺う』は“ドキュメント”、そして、もう1枚のEP『胸中を浚う』には“イメージ”というコンセプトを掲げられていますが、これは小林さんご自身で作ったコンセプトなんですよね?

「そうです、絞り出しました。最初は“オン”と“オフ”という仮のコンセプトを立てていたんですけど、そこからGoogleで“オン 類語”、“オフ 類語”と調べまくって、“ドキュメント”と“イメージ”が一番センスありそうだなと思って、このタイトルに決めました」

──小林さんの中で、オンとオフは明確に分けられるものなんですか?

「ああ…でも、ほぼオフみたいな感じでライブもやっているので、意外とそんなに違いはないのかもしれないです」

──ライブの話で言うと、今年の10月と11月に大阪と東京で開催する小林私単独公演『飛ぶための荷物』は、2年ぶりのワンマンライブですよね。

「そうなんです。逃げられなかったです…」

──逃げられなかった?

「本当は去年もワンマンをやる予定だったんです」

「でも、“ワンマンはやりたくない”とごねてみたら、意外と2マン企画でやらしてもらえたので、なんとかなった感じでした。ただ、去年は2マンライブを5公演やって、毎回セッションをしたり、コラボをしたり…“ワンマンの方が実は楽なんじゃないか?”という説が浮上してきて。2マンは自分がライブをやる時間が半分になるからサボれると思っていたんですけど、主催だと全然サボれないことに気付きました。ワンマンの方が意外と楽なのかもしれないです」

──“楽”という言葉が出てきていますが、小林さんが音楽活動をされるうえで大事にしていることはどんなことですか?

「僕は就活から逃げてミュージシャンになった人間なので、嫌なことからは逃げ続けないといけないと思っています。ミュージシャンになるために頑張っていたわけではないので、事務所の大人に打ち合わせで言われたことからも背を向けていかないといけない。それは思っています」

──同時期にデビューした人たちや近しい間柄のミュージシャンなど、比較できる存在はたくさんいると思いますが、現時点で、小林私はどんなミュージシャンになったと自分では思いますか?

「すごく浮いている…」

──(笑)。

「僕がよく遊ぶ同業の人たちは、当たり前のようにミュージシャンになることが夢で、ミュージシャンとして食っていくために頑張ってきた人たちが多いんです。でも、僕は美術大学に通っていた人間で、大学時代の同級生には、もちろんそれで食っていきたいと思っている人もいましたけど、“制作は暮らしとして続けていくものだよね”というスタンスの人が多くて。で、結果的にそれが仕事になっている人もいれば、なっていない人もいて、各々の環境でみんな制作を続けています。僕もそういうスタンスではあるので、ミュージシャン仲間の中で浮いている感じはします」

──小林さんの音楽にはずっと純粋さが保たれていて、その中で、多くの場合、音楽で“虚しさ”を表現されている。そんな気がするんですよ。


「そうですか?(笑)。結構、楽しんで生きていると思いますけど。同業者の話を聞いていると、“すごい落ち込むやん…”と思うんです。“そんなに落ち込まなくてもいいのに”って思います。どうせ死ぬんだから(笑)。現実が期待を下回ると人は落ち込むんだと思うんです。でも、そもそもの期待値が高くないと、そういう感情にはあまりならないですよね」

──周りの同業者に対して、“よく落ち込むなあ”と思いますか?

「とても感情の起伏があると思います。ネットで流れてきたニュースとかに対しても、“よくそんなに落ち込むな”って。僕には共感能力がないのかもしれないです。ミュージシャンとして致命的な気がしますけど(笑)」

──さきほど、“浮いている”とおっしゃいましたけど、小林さんは別にそれを是正したいわけではないんですよね、きっと。

「結局、小学生の頃からずっとこうだったので。高1の時とか、大学1年の時もすごく嫌われていて。でも徐々に、“小林ってそういう奴だもんな”って、3年生くらいになると急に受け入れられ始めました。なので、今もそれ待ちって感じです(笑)」

──周りが“小林私ってこうだもんな”となるの待ち?

「そうです。“お前、治らないんだな”って受け入れてもらうという(笑)」

──今年のワンマンライブのタイトルは『飛ぶための荷物』ですが、すごく印象的なタイトルだと思いました。何故なら、小林さんの歌の中には“落ちる”という動きがよく出てきますから。

「ああ~」

──なので、対照的な“飛ぶ”という動作を掲げているのが凄く印象的でした。このタイトルにはいろんな意味を込めたのかな?と思ったのですが、いかがですか。

「まず、友だちから“次のワンマンのタイトルは読める漢字にしてくれ”と言われたんです。“それはお前の語彙力次第だろ”と思ったんですけど」

──確かに(笑)。

「それでもまあ一応、読める漢字にしたのがひとつ。あと、今までライブをやる時の美学として、“ステージに持っていくものはギターと、自分の肉体と、曲だけ”というのがあったんですけど、今回はそこをもう少し広げてみてもいいのかな?と思って。それで“荷物”という言葉を入れました。で、“荷物”にくっつける言葉としてかっこいいものを探したら、“飛ぶ”が出てきました」

──美学を広げようと思ったのは何故ですか?

「なんとなくです。…これ、言っていいのかな? 本当にやるかどうかはまだわからないですけど、ライブでバルーンアートをしたくて。バルーンアートで犬を作れるんです、僕。それをみんなに見せたら楽しいだろうなと思って。で、ライブにバルーンアートを持って行くなら、もう何を持っていってもいいじゃないですか」

──まあ、確かに(笑)。少し話を戻します。僕は、小林さんの音楽にはやはり魅力的な“虚しさ”のようなものが漂っていて、そこに惹かれています。ご自分では、小林私は音楽でどんなことを表現してきていると思いますか?

「曲によっていろいろではあります…“このコードを使いたいな”から曲作りが始まる時もありますし、“前は速い曲を書いたから、次はゆっくりした曲を作ろう”という時も。今回のEPで言うと、例えば「内窓」はEPを作ることが決まってから作り出した曲で、どうやって書いたのかは全然覚えていないです(笑)」

──この曲の“窓”は、恐らく、自分と世間との境界線の象徴のようなものですよね?

「そうですね。ずっと“部屋”をよく曲に書いていたんですけど、“部屋の曲、多いわ”みたいな顔を周りにされたので、“じゃあ窓にしよう”と思って(笑)。窓だから、少しは外が見えてまーす、みたいな」

──少し外は見えている状態なんですね。自分と社会との間にあるどうしようもないそりの合わなさみたいなものが曲に表れる瞬間もあるように思いますが、ご自分ではどう思いますか?

「それもないことはないですけど、ミュージシャンを続けてきて、“俺、全然社会性ある方だな”と思うんですよ。締め切りとか守りますし。周りを見ると全然、締め切りを守れていないんですよ。でも、“それがウチらだよね”って感じだから、“え、マジかよ”となります(笑)。まあ、“俺は誰を敵にしているんだろう?”というのはありますけど」

──“敵”ですか?

「自分が誰を味方にして、誰を敵に回したいのか、結局あまりわかっていないです。そういう部分はあると思います」

──自分を敵にする瞬間はありますか?

「あまりないです。“他人に優しく、自分にもっと優しく”という生き方なので(笑)。だからよく“今日やりたいことあったのに、結局ゴロゴロ寝ちゃった。最悪!”みたいなことを言う人がいますけど、全然ピンとこないです。“もっと真正面からゴロゴロしなよ”と思います。僕は“今日あの作業した方が後々楽だよな”と思いながら7時間くらいゲームしてしまっても、“最高―! いい1日だったー!”って感じなので(笑)。僕は多分、自己肯定感が高くて、自己評価が著しく低いんだと思います。さっきの話にも繋がりますけど、僕は自分に対しての期待値が高くないですし、“せいぜいここまで”というのが自分の中にあるので」

──周りとの比較の話で言うと、小林さん自身は悩んだり、問題意識を持っているのに、どうして周りはこれについて悩まないんだろう?ということはありますか?

「うーん…全然ないかもしれない。結局、僕には悩みがないのかもしれないです。僕は実家をすごく出たくて、実家を出た時点で、僕の人生は上がりです。そこからもう余生です。22歳くらいで実家を出て、そこからもう老後の気持ちです。実家で暮らしていた頃に比べたら、何が起きても、って感じなので」

──実家は居辛かったですか?

「最悪でした。激仲が悪くて。大学23年くらいの頃に離婚してくれて、母親と妹と弟二人が出ていったのが人生でも上位に入る嬉しいことでした。でも、結局、“ここを出ないと始まらない”というのがあったので、実家を出て…実家を出た時点でもう人生、楽しいことしかないです。だから、いい意味で“死にたいな”はあります。ここから生きていても楽しいことしかないんだから、もういいじゃんって。毎日そんな気持ちです」

『遠景に覗う』
『胸中を浚う』

──2作同時リリースのEP、『遠景に覗う』はアコースティックギターを生かしたバンドサウンド、『胸中を浚う』はエレクトロニックと、それぞれ方向性の違うアレンジが加えられた楽曲が収録されています。小林さんは常々、アレンジャーが入った楽曲は二次創作で、弾き語りが原作、というふうに語られていますが、今回もそういうふうに受け取って間違いないですか?

「はい。基本的にアレンジはお任せなので、裏で悪口を言われているんじゃないか?って不安ですけど(笑)。“小林私から来る案件、具体的な注文ねえから何やったらいいからわかんねえよ”って思われているかもしれないです」

──そもそも弾き語りが小林さんの基本軸だとして、弾き語りだけで成立しているJ-POPって、あまりないですよね。

「そうですよね。でも、アコギの弾き語りが一番かっこいいと思っています。それにDTMは機械が難しくてできないし、バンドも組めなかったし。あと、これはシンガーソングライターあるあるかもしれないですけど、なるべく自分が操作できる範囲内に収まってほしいんです。なのでアコギ1本で曲を作ったり、ライブに出たり、というところから離れられないんですよ」

──“小林私をどう音楽作品にするのか?”ということはずっと探ってきていることだと思いますし、それ故に曲にも様々なアレンジが生まれていると思いますが、『遠景に覗う』はアコースティックギターを生かしながらもバンドサウンドになっていますね。個人的に、この方向性は凄くいいと思いました。ご自分ではどうですか?

「“小林さん、アコギ弾いてください”と言われた時、すごく嫌でした」

──(笑)どうしてですか?

「ずっと一人で家やライブで弾いてきたので、オンテンポで弾くことがまったくできなくて。だから、“決まったBPMで弾くならもっと上手い人にやってもらってよ”と思うんですよ。でも“弾いてください”と言われたので、“嫌だなあ”と思いながらレコーディングしました」

──そうなんですか…(笑)。

──僕は『遠景に覗う』の最後に収録された「金平糖」が好きで、「暮らしの用例」と一緒にシングルでリリースされた時から特別な曲という感じがしていました。この曲の歌詞の<何処までも行ける指差す方に、でも頑なに静かな方に、>というフレーズが無性に好きなんですが、<静かな方>って、小林さんが音楽をやっていたり、あるいは人生を進めていく中で、目指すべき場所なのかな?と思ったんですよ。

「これは、できるだけ“僕は逆張りです”というのをかっこよく言った感じです(笑)」

──(笑)。今、小林私の<指差す方>には何が見えていますか?

「最近自覚したんですけど、これまでの曲を振り返ってみても、僕は完全にネガティブな人間ではないんですよ。むしろ自分の可能性だけをすごく信じていると思いますし、それってポジティブだと思って。<指差す方>は何でもよくて、“今日はデリバーしちゃおうかな?”って日に、歩いてコンビニに行くのでもいいですし、“1歩踏み出す”みたいな意味じゃなくても、いつも通る道で急に右に曲がったりしたって全然いいんです」

──なるほど。『胸中を浚う』の「瞳<type.5>」(読み方:ひとみご)にも<悲しくないから悲しいけれど、静かな道だっていい>という歌詞があって、やっぱり僕は小林さんが歌う“静か”という言葉にすごく惹かれますが、“静か”ってどうですか?

「難しい(笑)。…PK Shampooの好きな曲で「死がふたりを分かつまで」という曲があって、その曲に<住む場所は騒がしい方がいい>という歌詞があるんです。静かな方がいいか騒がしい方がいいかという話ではなく、昔から断言する歌詞に憧れがあります。back numberの「瞬き」の歌い出しの<幸せとは~>って断言する感じも凄いと思いますし。そう思うと、もし自分が歌うとして、断言に値する言葉とはなんだろう?ということは考えていたかもしれないです。断言できる人ってすごい…本当にそう思っているかどうかより、それを歌詞にして歌えることがすごいと思います。根本から自分とは人間の作りが違うなって」

──断言した歌詞を歌う人って、その人にとっての理想を歌っている場合もありますよね?

「そうか! だから僕には歌えないのか、理想がないから(笑)。…ただ結局、僕の曲は全部そうなんですけど、最終的には肯定しているんです。なんだかんだ言いつつ、“まあまあ、生きていくので”と言っています。何を言っていても、それを机に向かって歌詞にして歌っている以上、肯定しないと嘘になってしまうと思うので。だから、常に等身大のところに戻ってきている意識はあるんですよ」

(おわり)

取材・文/天野史彬

RELEASE INFORMATION

小林私『遠景に覗う』

2026年916日(水)配信

小林私『遠景に覗う』

小林私『胸中を浚う』

2026年916日(水)配信

小林私『胸中を浚う』

LIVE INFROMATION

小林私単独公演『飛ぶための荷物』

2026年10月25日(日) 大阪 Music Club JANUS
2026年11月8日(日) 東京 I'M A SHOW

小林私単独公演『飛ぶための荷物』

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