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SOUND PLANET「A-57 USEN MONTHLY SPECIAL」
10月のテーマはネオ・シティ・ポップ
――そもそもおふたりが出会って、いっしょに作品を作ることになったきっかけは?
ナツ・サマー「下北沢に「バァフアウト!」の編集室を兼ねたブラウンズブックス&カフェという場所があるんです。そこで「MIDDLE&MELLOW」っていう不定期イベントをやっていて、私はライブ、瀧口さんはDJとして出ていらして、初めてお会いしました。そこからいろいろ相談に乗ってもらったりしているうちに作品をリリースすることになりました」
クニモンド瀧口「当時のナツ・サマー――まだナツ・サマーになる前ですけど―――はカバー中心でギターとデュオでやってたんですけど、彼女と話していくうちに、レゲエが好きだったりとか、両親とも山下達郎さんが好きで、小さなころからシティポップを聴いてたっていうのがあって。で、“何か作りましょうかね”って話になって」
ナツ「その頃はジャズやボサノヴァ、昔の歌謡曲のカバーを歌っていたんですが、いろいろ迷走してて、何が自分に合ってるかわかってなかったんです」
瀧口「それやってて楽しいのかな?っていうのを僕も感じていて。“じゃあ思い切ってコンセプトを決めてやってみたら?”って話になったんです。で、下北の焼き鳥屋さんで、ちょっとした会議飲みをして、その時にコンセプトだったり、どういう楽曲をやっていくのかって話し合ったんですよね。で、まあまあ酔っ払ってたので、冗談半分でナツ・サマーという名前も決まりました。彼女、本名が“なつき”だし、7月生まれだし、いいんじゃない?って(笑)」
ナツ「その時に、サーフィンとか海をテーマにした曲とかって決めちゃいましたよね」
瀧口「加藤和彦さん作曲、坂本龍一さん編曲のラバーズロックなんですけど、テレサ野田っていう沖縄出身の女優の「トロピカル・ラブ」っていう1979年のシングル曲が再発されて。2015年かな。僕らのまわりではちょっとざわざわしてたんですよ。ラバーズとかレゲエって、90年代のレゲエの人たちはわりとソウルフルに歌っちゃうイメージがあったんですけど、テレサ野田さんは全然ソウルフルじゃないんです。そういうシティポップの感覚で曲調だけラバーズロックをやったらどうかなって。ナツ・サマーのコンセプトはそこだったんですよね」
――世代が違っていても達郎さんやユーミンなど、共通したバックボーンがあったことも大きいですよね?
ナツ「そうですね。もともと両親の影響で聴いていたんですけど、ちゃんと聴き始めたのはここ数年ですね。去年初めて達郎さんのライブに行ってきました。小学生の頃は、昔の音楽って感覚で聴いてたんですけど、いま改めて聴くと、全然古臭さを感じないし、新しいものとして聴けています」
瀧口「僕は小さい頃から聴いてたのでそういう感覚はないんですけど、たぶん彼女ぐらいの世代になると、その時代の音楽を再評価して聴いてる。で、そういう若い人たちが増えてきて、バンドをやり始めて、Awesome City ClubとかLUCKY TAPESみたいな達郎さんたちのテイストが入ったバンドが出てきたのかもしれないですね」
――今回のアルバムではラバーズロックだけでなく、いろんなことにチャレンジしていますよね。「Hello, future day」のスネアの音なんか80s感があったりとか。
瀧口「80年代の音をやってみてる感じはありますね。2010年以降のシティポップでいうと、Dorianとかもやってましたけど、ヤオヤ(TR-808)とか909みたいなリズムマシーンの音を使っていることが結構多くて。でもそれが古臭さを感じない。たとえば当時の角松敏生さんなんかは打ち込みを上手く取り入れてたりするんですけど、機材とかテクニックが進化してそういうのも自然に聴けるようになったし、逆にそれが新鮮に聴こえる。アメリカだとソウル/ファンク系のTuxedoってユニットがいますけど、あの辺もそういう音像でやってますよね。リズムマシーンとかアナログシンセを使った打ち込みなんですけど、なんかかっこよく聴こえちゃう(笑)。そういう時代になってきてるのかなって気はしますね」
――加えて瀧口さんのコード感っておしゃれじゃないですか。瀧口さんらしさが出るのってそこなのかなと。
瀧口「ワンパターンなんですよ(笑)。そういうのしかできないので。中学校の頃から宅録で曲を作り始めたんですけど、変わってないねって言われちゃう。中学時代からずっとAORとか達郎さんを聴いてたんで、コード感とかは全然成長してないんですね。新しいコードも多少は覚えましたけど、好きなサウンドはそこなので。だから僕がレゲエをやってもファンクとかやっても、コード感は似てくるかもしないですね」
――世代によって、それを懐かしいと感じるか、新しいと感じるか全然違うと思うんですよ。ナツ・サマーさんはどう感じましたか?
ナツ「新しく感じました。そこからオマージュした元の曲――たとえば、小泉今日子さんの「Fade Out」(1989年リリース。作詞作曲は近田春夫)とかラー・バンド(80年代に活躍したUKのエレポップユニット)とかを聴いて“あ、ここからきてるんだ!”みたいな」
――そしてボーカルが割とガールポップ的な感じで、そのバランスが面白い。
瀧口「いま言われちゃいましたけど、ちゃんと元ネタがあるんですよ(笑)。たとえば、達郎さんがアイズレー・ブラザーズっぽいことやったり、『ナイト・フライ』やったり、それと同じです。僕もこういう感じでやりたいなっていう元ネタがあって、そこにナツ・サマーの歌が乗っかるとどうなるのかな?っていう。コンセプトはラバーズロックなんですけど、僕自身が果たしてラバーズロックがそんなに好きか?って言ったらそうでもないんですよ(笑)。じゃあ、何を作りたいか?それはやっぱりナツ・サマーのボーカルが生きる楽曲とかアレンジだろうと。それでブギーだったりバラードも入れました」
――なるほど。結果的に振り幅の広い作品になったということですね。ナツ・サマーさんにとってチャレンジングだった曲、逆にすんなり歌えた曲はありますか?
ナツ「うーん……「TA・RI・NA・I」は意外とすんなり歌えたなって思うんですけど」
――この曲はMTVヒッツぽいですね。
瀧口「マドンナの「ホリデー」みたいな感じをやりたかったんです」
ナツ「あと、前からバラードを作ってくださいって言ってたんですけど、「ふたりが隣にいること」でやっと実現しました」
――アルバム中、最もJ-POPっぽいというか……
瀧口「90年代の、今井美樹さんとかが歌っていそうな感じを意識してますからね」
――それは歌詞の設定にも影響してますか?
瀧口「してますね。今回はちょっと90年代に寄った感じにしようかなと」
ナツ「じゃあ「メッセージ」は?」
瀧口「「メッセージ」は、宇宙から来たロボットとか人工知能なんかが、人間の感情を持ってしまった!ってシチュエーション(笑)。ナツ・サマーは“24時間テレビのテーマ曲みたい”って言ってましたけど(笑)」
ナツ「“未来の子ども達が笑い合うように”っていう歌詞とか好きです」
瀧口「これも元ネタがあるんですよ。ラー・バンドの「アクロス・ザ・クラウドムーン」っていう曲があって。知ってる人は気づいてくれると思います」
――ラバーズ感があるのは「恋のタイミング」と「街あかり」でスチールパンとホーンが入ってるところかなと。ナツ・サマーさんは、たとえば「街あかり」に懐かしさを感じたりしますか?
ナツ「いや、全然(笑)。かっこいいと思いますけど懐かしさはないですね」
――そこが面白いんですよね。世代で受け取り方が変わる。
瀧口「ツバキハウスとかGOLDとか、90年代のクラブに通ってた人はわかると思いますけどね。いとうせいこうさんとか、当時のクラブシーンのオマージュはちょっと入ってるから。歌詞もそうだし。僕はその頃、クラブに行ってて、その時のことをイメージして作ったのが「街あかり」だったりするんですね。でも、それを全然わかってないで歌ってるのが逆に面白いと思うんですよね」
――そう考えるとこのアルバムタイトルは示唆的ですね。
瀧口「ははは!そこまで考えてなかったな。でも『Hello, future day』って響きはとてもいいなあと思っていて。やっぱり次の世代に繋げていきたいんですよ。僕が2003年にシティポップって銘打って活動し始めた時に思ったのは、若い人に聴いてもらいたいなということで。ただ懐かしいだけだとそこで終わっちゃうじゃないですか。そうじゃなくて、僕を通じてその音楽のルーツを知って欲しいから。そういう意味でも「Hello, future day」って、未来に向かってる感というか、前を向いているって意識がある」
――ナツ・サマーさんはどう思われますか?
ナツ「そこは私もいっしょですね。やっぱり子供から年配の方まで幅広く聴いてもらいたいので。別にそこから掘り下げるとかまでは求めてないんですけど、瀧口さんが作る曲はキャッチーで覚えやすので、洗い物しながら口ずさんだりとか、日常に溶け込むようにナツ・サマーの曲が浸透していったらうれしいです」
――そして夏がぴったりではあるけれど、夏以外の季節に聴いても気持ちいいアルバムです。
瀧口「今回はそんなに季節感を入れてないんですよ。夏がテーマになってる曲もありますけど、夏じゃなくても聴けるようなアルバムにはなってるのかなと(笑)」
――一通年で女の子の心情を歌ってみた(笑)。
瀧口「その心情を書いてるのはおっさんなんですけどね(笑)。ナツ・サマーみたいな子はおじさんホイホイなんですよ。こういうルックスなのに、おじさんも聴けるサウンドだとやっぱり親しみやすいし、おしゃれ」
ナツ「瀧口さんの曲って、幼稚園くらいの子供でも覚えて歌ってくれるので親しみやすさはありますよね。でもおしゃれかっていうと、どうなんでしょうね(笑)」
――いや、おしゃれですよ。おじさんが勝手にシンパシーを感じてるだけで(笑)。ナツ・サマーさん世代にはおしゃれで新しいと思いますよ。
ナツ「確かに。私自身も新しいと思って歌っていますから」
――あらゆる世代に入口の多い音楽性だということですね?
瀧口「はい、そう思っていただけるのが何よりです(笑)」
(つづく)
後編は9月29日にアップ予定です。
取材・文/石角友香
写真/柴田ひろあき
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- ナツ・サマー『Hello, future day』
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2017年7月5日(水)発売
PCD-24636/2,400円(税別)
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