――はじめに2023年の活動について振り返っていただきます。ポール・マッカートニーをカヴァーした「Wonderful Christmastime」のリリース、ライブ、そしてさまざまなアーティストの作品への参加、客演もありましたが、ご自身ではどんな1年だったと感じていますか。
「七尾旅人バンドでのツアー、さかいゆう&origami PRODUCTIONSでの日比谷野外大音楽堂、OvallとKroiのツーマンなどのライブの他に、アイナ・ジ・エンドやBonnie Pinkなどのプロデュース、Ovallのライブとアルバム制作、そして特に後半からは自身のソロアルバム制作を本格化させた一年でした。Ovallや参加しているバンドでの活動、プロデュースなどをしている中で、ソロアルバムを作ろうという気持ちが強くなり、制作をスタートさせました。日々の生活のサイクルから見直して毎日を丁寧に過ごしているうちに頭の中が徐々に透き通っていき、制作に没頭できたことは印象に残っています。現在も引き続き制作していますが、もう間もなく出来上がりそうです」
――ご本人名義とOvall名義での活動で、楽曲制作やプロデュースにおけるスタンスやコンセプトに違いはありますか?
「ソロ名義では、音楽を作る意義や衝動のようなものから始まって、自分の音楽や人生のルーツなどを考えて想いを巡らせ、意味付けて、コンセプトがある音楽に置き換えて制作していく傾向があります。一方、Ovallはバンドなので、もっとシンプルに3人でより具体的な音楽やバンドとしてのスタイルを追求したり、多分に遊びの要素があります。こんな感じの音楽を作ってみよう、とかバンドならではの空気感があって方向性が決まっていきます。アーティストをプロデュースするスタンスですが、特に相手の音楽や背景を知り、共有して、どんな音楽をプロデュースしてほしいのかなどの会話を深めてベクトルを合わせて作っていくというアプローチになります」
――2024年に入ってからも編曲/サウンドプロデュースやRemixなど、ソロワーク以外の活動も活発ですが、そうした経験がソロ作品やバンドでのご活動にインスピレーションを与えていると実感することはありますか?
「誰かのプロデュースやリミックスをしているとその反動でバンドをしたくなったりソロの制作をしたくなったりはしますね。バランスが大切かな、と思っています。偏らないことでフラットでいられるし、新鮮で誠実な気持ちになって音楽活動をすることができます。アレンジやプロデュースは相手の音楽があってその中で自分の音楽のスタイルがミックスされて化学反応を起こすのが毎度楽しみなのですが、ソロになってくると純度100パーセント自分自身の音楽になるので、そこで存分に出し切ることができます。Ovallの制作はその中間ですね」
――Ovall名義の最新リリースである「Cubism」は、一貫してスクエアなビートに、ふわふわと浮遊感のあるシンセ遣いと軽やかなエレピ、ホーンセクションもあってとても賑やかな印象ですが、この曲のアイデアはどんなところから?
「Ovallの数あるデモの中でmabanuaのデモから始まったダンサブルな曲です。意図的に注意深く楽器やフレーズ、音色をチョイスして多層に重なる曲になりました。アイディアはふだんから聴いていたりインスパイアされる新旧の音楽と、日々の生活や音楽感からの表れになっているのでは、と思います」
――個人的にはぜひグッズでTシャツにしてほしいのですが、ジャケットのアートワークについても教えてください。このイラストレーションは曲の完成前/後、どちらに描かれたのでしょう?
「メンバーからのリクエストで曲の完成後に描きました。自分のアルバムやシングルのアートワークはいつも描いているのでその延長のような気持ちですね。曲のようなカラフルな雰囲気というリクエストがあったので、明るくなりすぎない――Ovallの特徴かもしれません――カラーでありながらもカラフルな全体感に、メンバー3人の肖像をイラスト的な抽象画として描きました」
――Shingo Suzukiさん自身のルーツとなる音楽、あるいは音楽以外でも構いませんが、ミュージシャンを志す契機になった作品やアーティストは?
「ルーツとなる音楽は日本のニューミュージックからかもしれないです。来生たかおや寺尾 聰、尾崎亜美は幼少の頃よく聴いていました。意外に思われるかもしれないですが、シティポップは通っていないです。郷ひろみの「二億四千万の瞳」が小さな頃大好きで、初めて7インチのレコードを買ってもらった記憶があります。それらは遠い記憶の欠片くらいなものですが、心の中にしっかりと残っていますね。実際に音楽家になろうと思わせてくれたのはMONDO GROSSSOかもしれないです。バンドでもあり、音源では制作方法がリミックス的で生演奏と打ち込みをシームレスに展開し、ソウル、ジャズのテイストがあり、個性的で格好良く衝撃を受けました。大学生の頃ですね。大沢伸一さんのMPC3000を使ったトラックが大好きで自分もMPC200XLを買い、制作活動を始めました」
――クリエイティブ面で大切にされていることやフィロソフィのようなものはありますか?
「人と比べず、流されず、マイペースでありたいです。そして音楽と人に対して真摯に丁寧に向き合いたいと思っています」
――では、仕事から離れた日常ではどんなシチュエーションで、どんな音楽を聴いていますか?
「車の中、食事中、ジムでランニングをしている時によく聴きます。ジャンルは多岐に渡りますが、ジャズ、HIP HOP、ソウルなどが多くて、コンテンポラリーなメジャーアーティストからインディペンデント、昔のミュージシャンやグループまで、その日の気分で変えています。ソロアルバムやOvallの制作中は自分の作りたい音楽、サウンド、ミックス、楽器など多方面から考えてそれに対して色々なジャンルの曲を聴いてインスパイアされています」
――生活のなかで、店舗や商業施設で流れている、いわゆる“街鳴り”の音楽に耳を傾けることはありますか?
「理髪店に行く時は、そこで流れている音楽を通してお店の人と会話をしたりするので、BGMをよく聴きます。自分が知らない曲が流れているとうれしいです。特にHIP HOPが流れている漢気あふれるバーバースタイルの店が好きで(笑)。そこで流れる音楽はいつも聴いてます。ラーメンや蕎麦のお店は食べることに集中したいので、インストが好みです。誰かと楽しくご飯を食べるシチュエーションは、ラテン、特に少し古めのサルサが好きです。おしゃれで穏やかで楽しいのでおすすめです」
――今回、選曲していただいたプレイリスト「Shingo Suzuki ~Particles of light~」についてのイントロダクションをいただけますか。
「会話を邪魔せず、おしゃれで心地よい気持ちになれる曲を選曲しました。単なるBGMではなく曲ごとに強い癖はあるものの、不思議と空間の中で流れるとその空間に収まってくれて埋めてくれるような曲を集めて、まとまりで聴くとストーリーが感じられる曲集になっています。その空間が少し特別な時間に変わると思います」
――プレイリストの中でレファレンス的な楽曲、あるいは注目すべき楽曲を教えてください。
「Butcher Brownの「Happy Hourrr」、Joshua Redmanの「Greasy G」、The RH Factorの「Kansas City Funk」。いろんなシチュエーションで楽しんでいただけるジャズの曲集です!」
――SNSでは「#アルバム制作の道のり」でアルバム制作の過程を発信されていますが、今後の活動予定は?
「Ovallはアルバムリリース、ライブ、フェスの出演など様々な予定を組んでいます。ソロ活動ではスタジオレコーディングを終え、ミックスも終盤。音源が出来上がりつつあり、リリースに向けて動いています。生楽器主体の新たな曲を作っているのでぜひ、楽しみに待っていてください!」
(おわり)
取材・選曲監修/大園絢音(USEN)
文・構成/高橋 豊(encore)
写真/村長/タカハシ、Sachiko Yamada(origami PRODUCTIONS)
「OTORAKU -音・楽- 」PLAY LIST Shingo Suzuki ~Particles of light~
■ Message from Shingo Suzuki
美容室、レストラン、カフェ、誰かと会話したり静かに過ごしたりする時にやわらかな日差しのように心と体を温めて、リラックスできて、少しアーティスティックにさせてくれる楽曲集です。
1. Butcher Brown「Happy Hourrr」
2. Yussef Dayes「Birds of Paradise」
3. Terrace Martin「Valdez Off Crenshaw (feat. Kamasi Washington, Cory Henry & Robert Sput Searight)」
4. Theo Croker「HUMANITY」
5. ロバート・グラスパー「New Potential」
6. Ovall「Find you in the dark」
7. Don Glori「The Wire」
8. Keyon Harrold「Playing Catch Up - Raydar Ellis Remix / Interlude」
9. Shingo Suzuki「Flower Dance」
10. R+R=NOW「Colors In The Dark」
11. エスペランサ・スポルディング「Ponta De Areia」
12. ロイ・ハーグローヴ「Strasbourg / St. Denis」
13. John Scofield「Radio」
14. マイケル・ブレッカー「Tumbleweed」
15. Avishai Cohen「Shuffle」
16. キース・ジャレット「One Day I'll Fly Away」
17. Joe Lovano Us Five「Powerhouse」
18. Butcher Brown「Truck Fump」
19. ハービー・ハンコック「Butterfly」
20. チック・コリア「Spain」
21. ウェザー・リポート「Black Market」
22. CASIOPEA「MIDNIGHT RENDEZVOUS」
23. アル・ディ・メオラ「Black Cat Shuffle」
24. ジョン・マクラフリン「As the Spirit Sings」
25. Kenny Garrett「Hargrove」
26. マイケル・ブレッカー「Escher Sketch (A Tale Of Two Rhythms)」
27. 黒田卓也「Afro Blues」
28. Grover Washington, Jr.「Mister Magic」
29. ニーナ・シモン「Funkier Than a Mosquito's Tweeter」
30. Joshua Redman Elastic Band「Greasy G」
31. ビリー・コブハム「Red Baron」
32. RH ファクター「Kansas City Funk」
33. ジミー・スミス「Blues 3+1」
34. Kenny Garrett「G.T.D.S.」
35. クリスチャン・マクブライド「Rumble in the Jungle」
36. Soulive「One In Seven」
37. ウェザー・リポート「Cucumber Slumber」
J-WAVE&Roppongi Hills present TOKYO M.A.P.S origami PRODUCTIONS EDITIONLIVE INFO
J-WAVE&Roppongi Hills present TOKYO M.A.P.S origami PRODUCTIONS EDITION
Shingo Suzuki「Wonderful Christmastime」
2023年11月3日(金)発売
origami PRODUCTIONS