――前回のインタビューとプレイリストの公開後、何か反響はありましたか。
 
「SNSで告知をしたら、本職のDJである沖野修也さんや田中知之(FPM)さんから、”ライバル、現わる”なんてコメントをいただいてヒヤヒヤしました(笑)。もちろん冗談なのは分かっているんですが、いうまでもなく僕は音楽の本職じゃないし、本当に”恐縮です”という感じでした」
 
――それは面白い(笑)。さて、昨年11月に行った前回のインタビューは、ちょうど浜田さんが中国へ行かれる直前でしたが、中国はいかがでしたか。
 
「昨年11月、中国の広東省、香港に接する南の方の広州という省都と、そこから電車で2時間ほどの潮汕(チャオシャン)という、潮州(チャオヂョウ)と汕頭(スワトウ)を合わせた呼称のエリアを、中国の食に詳しい知人たちと一緒に回りました。カジュアルな食事という意味では中国有数の場所だと聞いていたのですが、期待通りすばらしかったですね」
 
――具体的には?
 
「鮮度を生かした料理が特徴です。魚介はもちろんですが、特に牛肉です。このあたりでは、牛を屠畜してから死後硬直が始まる数時間以内に食べるという文化があるんです。まだ旨味成分が出る前の状態なので、味わい自体は強くない。その代わり、独特のコリコリした食感や弾力を楽しむんです。繊細な味わいと、鮮度の良さ特有のテクスチャーを愛でる食文化は非常に興味深かったですね」
 

常兴隆牛肉火锅(牛肉のしゃぶしゃぶ)。中国
常兴隆牛肉火锅(Photo by 浜田岳文)

――極東、中東、中米など世界情勢の変化も目まぐるしい昨今ですが、フーディーとして一年中世界を飛び回っている浜田さんとしても、何らかの影響を感じていらっしゃるのでは?
 
「中国国内を旅するぶんには、政治的な影響を直接感じることはありませんでしたね。3月末には中国観光協会主催の食のフォーラムで北京に呼んでもらっていて、楽しみにしています」
 
――なるほど。物価高も続いていますが、空路についてはいかがでしょう?
 
「そこは重大ですね。今、中東情勢とウクライナ情勢が重なって、世界の移動が本当に難しくなっています。ロシア上空を飛べないため、ヨーロッパへ行く直行便もかなり迂回せざるを得ない。例えば、かつては日本から一番近いヨーロッパを売りにしていたフィンランドも、今では飛行時間が3時間ほど余計にかかるようになってしまった。直行便のメリットが薄れると、経由便の価値が相対的に高まる。エミレーツやカタールといった中東系の航空会社がハブとしての存在感を強めています。とはいえ、カタール航空も以前はかなり割安でしたが、サービスが良いとはいえ、今はもうヨーロッパの航空会社とたいして変わらない価格になってしまった。いずれにせよ、今回の中東情勢の影響で、今後、中東の空港で自由な離発着が難しくなると、いよいよ代替ルートの確保も難しくなってしまう。サーチャージも確実に跳ね上がるでしょうし、世界の距離が物理的に延びていくように感じています」
 

――引き続き道中くれぐれもお気をつけて。さて、ここからは浜田さんのプレイリスト第2弾について伺います。前回のチルなムードとはうって変わって、今回はインダストリアルなテクノやエレクトロニカが目白押し。クールかつストイックなセットリストです。
 
「前回のリストがリラックスして肩の力が抜けるものだったのに対し、今回は、いい意味で背筋がピンと伸びるというか、椅子の背もたれに体を預けるというよりは、むしろ体を起こして料理と向き合うためのリストを作りました。リラックスして料理を食べるという楽しさはもちろんですが、一方で、出てくる料理に緊張したり、静かに心を踊らせながら、ある種の真剣勝負のように料理と向き合いながら食べるという楽しさもあると思うので」
 
――フランス出身のAir(エール)、ノルウェー出身のロイクソップに、クリスチャン・レフラー、パンサ・デュ・プリンス、フェイカといったドイツ勢など、ヨーロッパのアーティストが多いですね。
 
「そのあたりは、元々自分が好きなアーティストでした。エレクトロニカやテクノっぽいものって、結構攻撃的だったりするじゃないですか。でも、食の場にはちょっと合わない。レストランで流す音楽として、あまり攻撃的すぎず、かつダークすぎないようなストライクゾーンを狙える曲を探す作業はなかなかの苦労でした(笑)。ロイクソップのような比較的有名なアーティストも入れていますが、誰もが知っているような代表曲は外しています。前回同様、音楽が主役になってお客さんの耳を奪ってしまうようなプレイリストになるのを避けたかったからです」
 
――浜田さんがイメージされる、このプレイリストが似合うレストラン空間とは?
 
「主にアーティスト性の強いお店ですね。特に20代や30代の若いシェフがやっているようなお店と相性がいいのではないでしょうか。近年、そうしたレストランが増えているように感じます。元々音楽やアートに携わっていた方が、料理というアウトプットを選び、シェフやレストラン経営に就くというケースも増えている。そうした“アーティスト気質”のかたが営むスタイリッシュな空間で、この“背筋が伸びる緊張感”のプレイリストがうまくはまってくれるとうれしいですね」
 

Barroの小麦粉のたんぱく質とグルテンを分離した料理。スペイン Photo by 浜田岳文

――ちなみに中国以降、最近はどちらへ行かれていましたか。
 
「12月はメキシコ、台湾。1月末にスペイン、そして、今まさに話題の中東はアラブ首長国連邦のアブダビにも行きました。まさかドバイにまでミサイルが飛んでくるとは想像もしていませんでしたが」
 
――特に刺激を受けたレストランはありますか。
 
「スペインはマドリード郊外のアビラという街にできたBarro(バロ)という店が圧倒的でした。もともと穀物倉庫だった場所を改装した3層構造のレストランなのですが、シェフは名店、Mugaritz(ムガリッツ)出身の若手で、今、スペインで最も注目されている一軒です」
 
――どのような料理を出すのですか。
 
「地元で失われつつある穀物を復活させて調理したり、グルテンの成分を分離して別々に提示したりと、かなり実験的な料理を出すんです。“おいしい”という本能的な欲求を満たすことよりも、知的好奇心を刺激することに重きを置いている。現代アートのいち作品が料理に転換されて提示されるような感覚のレストランでした」
 
――素人意見ですが、日本でそうしたアプローチを成立させるのは、ちょっと難しそうですね。
 
「ええ。日本は基本的にどこで何を食べてもおいしい国ですし、どうしてもうまいかまずいかが最優先されますから。そういう意味では、素材に恵まれているからこそ、それがある種の足枷となってしまい、実験的な試みをするようなお店が登場しづらい。それを思うと、Barroのように頭で考えて納得するというアートのような料理が支持されるような土壌のあるスペインというのは、やはり面白い土地です。しかし、最近は日本の若い世代のなかでも、メッセージ性の強い料理表現に挑戦する人が増えていますから、今後は楽しみです。そうした彼らにとっても、Barroは示唆に富むレストランだと思いましたね」
 


 

YuDao(蛇とココナッツのパイ包みスープ)。台湾
Villa Mamasのチキン・ターチン(ペルシャ風おこげ)。UAE
Taqueria La Lupita。メキシコ
Taqueria La Lupitaのレジェノ・ネグロ(マヤ風七面鳥の煮込み)のパヌーチョ(フリホーレスを挟んだトルティーヤ)
Quintonil(昆虫のタコス)。メキシコ Photo by 浜田岳文

――さて、このインタビュー時点で3月ですが、今後のご予定は?
 
「今週末からフランスですね。その後、香港と北京を訪れる予定です」
 
――浜田さんは2週間に及ぶ海外旅行でも、荷物は機内持ち込み分だけだそうですね。達人のパッキングの中身が気になります。
 
「基本はキャリーバッグひとつです。現地で洗濯することを前提にスケジュールをプランニングしているので衣類は最小限です。あと、耳栓とアイマスクが深く眠るための必需品ですね」
 
――ほかにも必需品はありますか。
 
「実は僕、腹巻きが大好きなんです」
 
――ほう! スタイリッシュな浜田さんのイメージからはちょっと遠いアイテムが挙がりましたね。
 
「僕、基本、薄着なんですよ。真冬でもTシャツの上にダウンという感じで。薄着ならパッキングもかさばりませんし。例えば室内でダウンを脱いで、ちょっと肌寒いなというときも、腹巻きがひとつあるだけで全く違う。コンパクトにまとまるし、お腹も守ってくれる(笑)。10月から4月くらいまでは特に手放せません。旅のクオリティを支えてくれる名脇役ですね」
 
――フーディーの旅を影で支える名脇役が腹巻きだったとは驚きでした。さて、次回のプレイリストについての展望を聞かせてください。
 
「今のところ、次回はかなり大人しく詩的なエレクトロニカなどを使ったポストクラシカル的なプレイリストを予定しています。3本のプレイリストを通して、あくまで料理が主役というマナーはキープしつつも、料理を楽しむかたがたの心拍数に作用するようなアプローチができればと考えています」
 
――次回の新たなプレイリストと旅のお話しを楽しみにしています。
 
「ありがとうございました」
 
(おわり)
 
取材・文/内田正樹
写真/平野哲郎、浜田岳文
監修/大園絢音、北村魁知(USEN)
取材協力/株式会社Styrism

「OTORAKU -音・楽- 」PLAY LIST「Subtle Motion」by 浜田岳文

前回が力が抜ける緩和をイメージしたのに対し、今回は良い意味で背筋が伸び、料理に集中できるようなプレイリストを志しました。イノベーティブなレストランを中心に、現代的な西洋料理を念頭に、料理人がクリエイティビティを発揮するお手伝いができればと思っています。
 
1. Air「Alone in Kyoto」
2. Air「La femme d'argent」
3. Röyksopp「In Space」
4. テイル・オブ・アス「Alla sera [Kettenkarussell's Triangle Player Rework]」
5. Yagya「The salt on her cheeks」
6. Kiasmos「Blurred (Mixed)」
7. Christian Löffler「A Forest」
8. Christian Löffler「Refu」
9. Christian Löffler「Ry」
10. Christian Löffler「A Life」
11. アゴリア「Scala (feat.Jacques)」
12. Tycho「Weather」
13. Tycho「Easy」
14. Tycho「Pink & Blue(Instrumental)」
15. Ulrich Schnauss「Shine [Mint Remix]」
16. Ulrich Schnauss「Ships Will Sail (feat.Pia Fraus) [Pia Fraus Version]」
17. Ulrich Schnauss,Mark Peters「Circular Time」
18. Ulrich Schnauss,Mark Peters「Chiaroscuro」
19. Boards of Canada「Nothing Is Real」
20. Aphex Twin「#17」
21. Niklas Paschburg「Tuur mang Welten」
22. Niklas Paschburg「Dawn」
23. Max Cooper「Autumn Haze [Original Mix]」
24. Dominik Eulberg「Sansula [Max Cooper's "Lost in Sound" Mix]」
25. Max Cooper「Qualia」
26. Telefon Tel Aviv「The Birds」
27. Telefon Tel Aviv「I Made a Tree on the Wold」
28. Pantha du Prince「Pius in Tacet」
29. Pantha du Prince「Crystal Volcano」
30. Pantha du Prince「Liquid Lights」
31. Yagya「Reverbs and delays」
32. Lusine icl「Dr. Chinme」
33. Trentemoller「In Progress」
34. Apparat「Not A Number」
35. Mt. Wolf「Tucana [Instrumental]」
36. Fejká「Sun Glitters」
37. Fejká「Pulsing」
38. Fejká「Bloom」
39. Fejká「Unfold」
40. Fejká「Youth」
41. pølaroit「夜想曲 (pølaroit Rework)」
42. Lycoriscoris「finale」
43. Angara「9月の太陽 (Angara Rework)」
44. Ben Böhmer,Panama「Weightless」
45. Kidnap「Fall (Oxia Remix)」
46. Max Cooper「Meadows [Microtrauma Remix]」
47. Max Cooper「Gravity Well [Original Mix]」



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