――まずは、今回初めて浜田さんのことを知る読者に向けて、自己紹介をお願いできますか?
「僕は、世間からは“Foodie”――フーディーとは美食家、食通という意味ですね――と呼ばれている、世界の素晴らしいレストラン巡りを人生の基軸にして生きている者です。とは言えそれでは収入が得られないので、エンターテインメント産業や食の領域のアドバイザーなどを務めて生計を立てつつ、だいたい年間5ヵ月は海外、 4ヵ月は日本各地、 3ヵ月は東京で、毎日のようにいろんなレストランを食べ歩いています。東京では1日 平均1.5食ぐらい。地方や海外に行くと、昼夜の 2食プラス朝食が入ることもあるので、年間でおよそ 700食から800食を食べています。その全てが外食で、自炊やテイクアウトの食品を食べることはほぼありません。レストランという場所が提供してくれる体験の価値を享受するために日々食べ歩いているという感じですね」
――浜田さんの公式サイトのプロフィールには、「米国イェール大学在学中、学生寮の不味い食事から逃れるため、ニューヨークを中心に食べ歩きを開始」という一文があります。素朴な疑問ですが、学生寮の食事って、そんなに不味かったんですか?
「もう酷かったです(笑)。今はかなり改善されたそうですが、当時は美味しい/不味いという味以前の、必要最低限の栄養素を確保するための食事という感じでした。ちょっと目先を変えてアジアっぽいメニューが出されるときがまた最悪で。アジア料理を知らない人がそれっぽいものを作るので、何でもオイスターソースで炒めてしまう(笑)。僕は関西の出身ですが、そもそも関西圏というのは昔から不味いと商売が成り立たない土壌なので、実はあまり不味い味に出会ったことがなかった。ですので、本当にその不味さたるや、人生初の衝撃的な体験でした」
――そうした体験が美食に関心を抱くきっかけになるのですから、人生、分からないものですね(笑)。
「そうですね。留学以前は親が作ってくれた普通の食事を食卓でとれていましたし、美味い/不味いを測る比較対象も特に無かったので、関心も興味もなかったんですが、生きるためには是が非でも何かほかの食事にありつかなければ、という必死な思いでした。そして一旦外食に興味が湧くと、物事を突き詰めて深掘りしないと納得できない自分の性格から、大学を卒業後、本格的に美食を追求するためパリに留学し、現在のようなFoodieになっていきました」
――世界を旅することや海外生活への興味は以前からお持ちだったのでしょうか?
「幼少の頃、実家の食卓の壁に世界地図が貼ってあって、それを見ながらご飯を食べるのが好きだったんです。地図を見ながら、”ここはどんな土地だろう?”とか”どんな人が住んでいるのかな?”と考えるのが楽しかった。中学に入ると、一人で、一週間ほどハワイで過ごしたり、先輩と沖縄を自転車で巡ったりしていましたので、昔から好奇心や探究心は強い方だったと思います」
――全てのモチベーションは好奇心と探究心なのですね。
「と言うか、むしろFoodieというのは、好奇心と探究心がアンコントローラブルなまでに肥大化し暴走している状態と言えなくもない。一般的には、人生のバランスを崩している人にしか見えないでしょうし(笑)」
――もし、浜田さんが満腹にならない特殊な胃袋だとしたら、今よりもっとたくさん食べていらっしゃいますか?
「間違いなくそう思います。舌で味わった食べ物が喉を通ったら胃に行かないでほしいですからね(笑)。もともと代謝は良いほうなので乗り切ってきましたが、僕は大食漢ではなく、むしろ少食なほうで、強く空腹を感じるという感覚にもあまり襲われない。美味しいものを少量でいろいろと食べたいんですよ。胃袋って結構鍛えられるので、何日間か連続である程度の量を食べていると大きくなるし、僕の場合、仮に満腹だと感じても、それは本当に胃袋がいっぱいなのではなく、満腹中枢が刺激されているだけの、言わば気のせいの状態なので、その気のせいというリミッターを取っ払えば、もうちょっと食べられたりします。体調管理は年々課題になっていますね。最近はたまにファスティングをしています。一旦、胃の疲れがリセットされるので、今のところは効果的だと感じています」
――遠征の場合のスケジュールは、どのように組まれるのですか?
「例えば、その土地や地域の様子や営業形態によって目的の店の営業時間が限られている場合もあって、夜に2軒行かなきゃならない場合もあったりするんですね。北欧とか、週3日営業のお店も少なくないので。来週は中国の潮州に行くんですが、そのエリアの店は夜中の 1時とか 2時まで営業している。つまり夜 9時以降に食事をするのが当たり前という業態なんです。その場合は、その前に夕方 5時半頃にどこかでディナーを1回入れます。ほかにも朝7時から9時の間しか営業しないお店もあるので、来週は朝 7時から夜中の2時までずっと食べるつもりでスケジューリングを組んでいます。一方、これがスペインの田舎のほうだと、早い時間からやっているお店がほぼないので、お昼でも午後2時ぐらいから、夜は 10時ぐらいから営業というパターンが多い。まあ、ケースバイケースですね」
――ちなみに今回、潮州へ行かれる目的は?
「潮州は、タイやマレーシア、インドネシアといった東南アジアに移住された多くの中華系移民が作る中華料理の源流ということで。特に高級店は無いのですが、カジュアルな店に関しては中国で一番美味しいエリアとも言われているんです。僕は今回初めてなので、上海出身の友達と一緒に6、7人ぐらいのチームで動く予定です。中華料理って、鳥1羽とか魚1匹を丸ごと調理するので一人ではどうしても限界がある。人数を集めるとか、作戦を考えなければならない」
――Foodie同士で交流があるのですか?
「僕の場合はFacebook上に幾つか存在するFoodieのグループで情報を共有しています。かなりの人数がいて、まだ実際に会ったことがない人もたくさんいます。あとはシェフをはじめ、個人的に仲良くしている様々な職種の人が世界中にいるので、そういった方々と情報を交換しています。僕は人見知りなので、潮州のケースは特例で、基本的にはあまり人と絡まず、単独で行動しています」
――現在、定点観測というか、長期的視点でご興味のある土地は?
「海外で最も頻繁に行っているのはイタリア、次いでスペインです。イタリアは、今年4回行きました。来年もたぶん2、3回は行くことになるかと思います。郷土料理が美味しくて、伝統的なお店が国中にある。それにプラスして、新しく、意欲的な試みに取り組んでいる若い料理人がいろいろなところで店を開いているので、どうしても全国行脚みたいなことをしたくなるんです。若い才能が活躍出来て、尚且つ、それを応援するお客さんの土壌が出来ているのも注目のポイントですね。やはり、どんな職業でも同じですが、どれほど素晴らしいものを作ったとしても、お客さまがいなければ成り立たない。イタリアは、そうしたバランスが上手く成り立っている土地だと思います」
――スペインについてはいかがですか?
「スペインと言うと、日本人にはバスク地方のサン・セバスティアンが美食の都で知られています。もちろんレベルは高いんですが、最近はアンダルシア地方やバレンシア地方にも面白いお店がどんどん出来始めているんです。やはり若い世代の台頭が盛んなんですね」
――それは食材や風土もさることながら、物価の影響もあるのでしょうか?
「無関係ではないと思います。例えばイギリスなら、”ロンドンは地価が高過ぎてそう簡単にはお店が開けないから郊外でやる”みたいな話も聞こえてきますし、先日の市長選が話題になったニューヨークも同じですね。イタリアやスペインでも、ロンドンやニューヨークほどではないものの、やはり新しい店は郊外というか田舎で開く傾向があります。ミラノやマドリードは、今でこそ美味しい店いっぱいあるというイメージですが、10年くらい前までは選択肢が限られていたので、車で 2時間かけてあれを食べに行くという行動をみんな当たり前にやっていた。ちょっと足をのばしてでも美味しいものを食べようというお客さんの土壌が出来ているんですね」
――そのほかの国や地域で面白いと感じられる場所は?
「最近訪れたなかだとインドとバリ。あと、先日、ミシュラン初のフィリピン版が誕生したフィリピンも面白くなってきましたね。この3ヵ所は、とにかく進化が激しい。シェフの頑張りはもちろんのこと、ロジスティクスやサプライチェーンの整備も影響していると思います。つまり、国としての成長度合いと比例しているんですね」
――日本についてはいかがでしょうか?
「日本はやはり今も美食の先進国と言えると思います。世界中のシェフたちに、”今、どこの国でご飯を食べたい?”と訊くと、大抵は日本という回答ですから。なかでも、物価高の影響がある意味では好材料にもなって、まさに近年は日本も地方が面白い。僕は5年前から「Destination Restaurants」というアワードの審査員をやっている関係で、日本国内のさまざまなレストランにも足を運んでいますが、それこそ5年前だったら成り立たなかったような業態が幾つも成り立っている。若いシェフでも、地方で頑張ってみようという人がすごく増えているんですね。最寄りの大きな駅や空港から車で 2時間はかかります……みたいな場所にも、たくさんの良いお店が増えているし、東京の感覚からすれば安くてびっくりするようなお店もたくさんあるんです」
――それは興味深い状況ですね。
「日本にいれば食事は美味しいし、たまにフランスやイタリアに行けばいいじゃないか?という考え方もあるとは思いますが、僕は、その場所でしか味わえないユニークな味や体験を得たい。そして、時間を経て変わっていく環境と共に成長していくお店を自分なりに応援していきたいという思いもあってFoodieをやっているという感じですね」
――後編では浜田さんのリスナーとしての音楽遍歴や、プレイリストの詳細について伺います。
(つづく)
取材・文/内田正樹
監修/大園絢音、北村魁知(USEN)
写真/平野哲郎
取材協力/Suppage(株式会社Styrism)
「OTORAKU -音・楽- 」PLAY LIST「Chillhop Dining BGM」by 浜田岳文
■Message from 浜田岳文
Lo-fi Hip HopやChillhopをベースにした、リラックス感のあるインストゥルメンタル。会話の邪魔をせず、レストランやカフェなどの空間をおしゃれに保ちます。
1. UNITED FUTURE ORGANIZATION「TEARS OF GRATITUDE」
2. re:plus band set「Solitude」
3. Kan Sano「On My Way Home」
4. Anomalie「Notre-Dame Est」
5. nitsua「Morning Horizon」
6. Jazztronik「EVOKE」
7. STUTS「Conflicted」
8. Uyama Hiroto「End of the road」
9. Ljones「July」
10. Ljones「Mango Kimono」
11. Ljones「Autumn Groove」
12. Ovall「Slow Motion Town」
13. Shingo Suzuki「Night Lights 2020」
14. 賽「JAPAN THREE (feat.澤村一平)」
15. Kazuhiro Bessho「HARU」
16. Blazo「Essential Violet」
17. re:plus × 島裕介「Evening glow」
18. Ljones「Feelings, Mutual」
19. Bonobo「Terrapin」
20. L'indecis「Soulful」
21. L'INDECIS「Second Wind」
22. SUKISHA「Cigar」
23. 7SEEDS,GREEN ASSASSIN DOLLAR「Everything」
24. 7SEEDS,GREEN ASSASSIN DOLLAR「Lights」
25. 7SEEDS,GREEN ASSASSIN DOLLAR「Osdope」
26. DJ OKAWARI「Luv Letter」
27. tsunenori「Umbrella」
28. Anomalie「Mollo」
29. Jazztronik「Still Sea」
30. nitsua「shadow of a tree」
31. nitsua「slow light on a feather」
32. Ovall「Neon」
33. Shingo Suzuki「Echo From The Sky」
34. Blazo「Exotic Azure」
35. Blazo「Lucid Dream」
36. Bonobo「Jets」
37. Bonobo「Ontario」
38. L'indecis「Wine & Roses」
39. SUKISHA「Decision And Beginning, Minami-osawa」
40. SUKISHA「Welcome to NewNormal」
41. DJ OKAWARI「Daydream」
42. DJ OKAWARI「After the Wind」
43. tsunenori「View of the Ocean」
44. tsunenori「Another Perfect Day」
…… and more!
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