──2020年4月に初のオリジナル曲「春を告げる」で鮮烈なデビューを果たしてから昨年4月で5周年を迎えました。

「本当に長いようであっという間の濃い5年間でした。デビューしたばかりの1〜2年は精いっぱいで、内省的な葛藤も多い中で、“とにかく走り続けよう”という気持ちでやっていて。この5年間で、自分自身の至らなさもだんだんと認められるようになってきました。そのおかげで成長できた5年間だったと思っています」

──初期の内省的な葛藤というのはどういうものだったのでしょうか?

「単純に自分自身への期待が高すぎたんです。完璧でいたかったですし、自分の欠点や至らなさが許せないまま生きていました。理想と現実の狭間の葛藤で揺れていて、ライブで手応えを感じられない瞬間があったりすると、かなり打ちひしがれていました。折れそうになりながらやっている時期がありました…」

──そこで、折れなかったのは?

「周りの人の支えが大きかったです。ライブで挫折を味わった時に、“もう無理かもな…”と思うくらいだったんですけど、スタッフさんと話し合う機会があって。それが、初めて人とちゃんと腹割って話すという経験でした。その時に“やっぱり、音楽でしか得られない感情がたくさんある”と思いましたし、使命感のようなものも感じていました。そこから、ライブに来てくれるお客さんも含めて、人への向き合い方も変わりましたし、人と接している中で自分で気づいて成長していくことができました。いい意味で、自分への期待が少しずつ減ったというか…“悪い部分も含めて自分なんだ”と思えるようになってきて。人との交流も含めて、よりオープンに、心も開いていけるようになったんです。自分の失敗も面白がってくれたり、“それも人間らしいね”と許容してくれるファンの皆さんにも支えられていると思います」

──ライブに対する意識、ライブパフォーマンスも変わってきましたか?

「そうですね、変わってきたと思います。最初は一歩も動かず…でしたから」

──デビュー当初は人前で歌うことを拒絶して、仮面の下で目をつぶったままで歌っていましたよね。

「そうだったんですけど、最近はライブがお客さんとのコミュニケーションの場なんだというのを感じていて。直接、会話をするわけではないですけど、お客さんがいるということを意識するだけで、自分の動きや表現も変わってきます。“その場で一緒に楽しい空間を作っていけるように”というのは、毎回、自分に言い聞かせながらやっています」

──少しずつ殻を破っていっているんですね。

「そうですね。新たな視点で一つ皮がむける瞬間ということで言うと、海外のライブの経験は大きいです。必ずしも日本語ができるお客さんばかりではないので、言語も通じない瞬間もあったりします。そうなると、音楽をパッションでと伝えないといけなくなるので、もうなりふり構ってられないというか(笑)。そのがむしゃらさのおかげで、いい刺激を受けて日本に持って帰ってきて、日本のライブでも“お客さんとコミュニケーションを取ろう”という気になれているので、その相乗効果もあると思います」

──そして、このタイミングで“自身のルーツと向き合うコンセプトEP”を制作するに至ったのはどうしてですか?

「今までいろんな方向性の楽曲をリリースしてきました。それは自分がやりたかったことではあったんですけど、一通りやってきた中で、今一度、原点に立ち返って、“自分が本当にワクワクする音楽”、“自分が好きな音楽”を見つめ直したくて。改めて、しっかりとした軸を置いた上で、より洗練された音楽を作っていきたいと思ったのがきっかけです。しかも、それを“やりたい”と言えるようになったこと自体が羽化というか…」

──自分が本当にやりたいことを言えるようになったんですね?

「はい。自分なりの音楽に対する美学を臆することなく言えるようにはなってきました。その行為そのものが蛹から羽化していく過程なんだと思っています」

──yamaさんがワクワクする音楽のルーツを教えてもらえますか?

「簡単にいうと“Pops”です。今回のEPC.U.T』ではキーワードとして“Chill out”、“Urban”、“Tender”という3つの軸を置いていて…」

──それぞれをもう少し詳しく聞いていいですか。

「“Chill out”は名前の通りリラックス出来るようなメロディーやリズムで、ボカロ曲でもカバーしていました。“Urban”はシティポップのような都会的なサウンド。“Tender”は温かみのあるバラード。自分のライブにおいてもより感情にフォーカスできて、歌声の力が届けやすいのがバラードだと思っているので、この3つの軸を合わせて『C.U.T』というタイトルをつけました」

──シティポップもルーツの1つだったんですね。

「そうですね。メジャーデビューする前にボーカロイド曲をカバーしていたんですけど、カバーする曲を選ぶ時点で、既に自分の好みがちゃんと確立されていたと思って。それを紐解いていった時に、幼少期から心地いいと感じていた“Pops”にたどり着きました。例えば、山下達郎さんや竹内まりやさんとか。スタイリッシュで洗練されたサウンドのシティポップがやっぱり好きだったんです。そこから派生して、自分はボカロにたどり着いて、ボカロの中でも“C.U.T”を基準に選んでいたんだと思いました。自分のルーツを深掘りしていった結果がこのEPです」

──5周年を経た今だからこそできたことかもしれないですね。音楽のルーツだけではなく、自分自身にも向き合う制作になりましたか?

「そう思います。これまではyamaという存在を客観的に見すぎていた部分があったので。yamaの中身というか(笑)…今、喋っている自分の本体の意識をどこまで反映していいのかな?って考えすぎていて。“求められているのか/求められてないのか”とか、いろんなノイズがある中で制作をすると、少し濁る瞬間もあったりしました。そこに葛藤があったりもしたので、今回のEPに関しては、一旦、いろんなことを度外視しました。yamaという存在に囚われずに、とにかく表現したいと思うこと、純粋に音楽だけにフォーカスして作ってみようという想いがありました。そこで心置きなく制作できたのは、とてもいい経験だったと思っています」

──“自分がやりたいことをそのままやる”ということに対しての葛藤もあったんですね。

「恐怖心があります。実際、商業的にやっているので、“求められている/求められてない”はもちろんあります。でも、“それを反映させすぎてもどうなのかな?”とか、“本当にこれで大丈夫かな?”という迷いはあって。でも、今回は“自分を信じる”という行為そのものに意味があると思ったので、自分で自分に鞭を打ちながら…という感じでした」

──では、先行配信リリースされた順番に1曲ずつお伺いしてもいいですか?「TWILIGHT」は“Chill out”דUrban”のまさにネオシティポップな楽曲ですね。

EPのトーンや雰囲気を象徴する、分かりやすい楽曲になったと思います。シティなイメージもあれば、ドライブでも似合うような空気感もある中で、“何度でも聴けそう”という重さも調節しながら、綺麗にまとまったと思っています」

──Matt Cab、yamaさんに加えて、GRe4N BOYZさんがコライトで参加しています。

GRe4N BOYZさんとは実際にお会いしてはいなくて、データでのやり取りではあったんです。でも、GRe4N BOYZさんのおかげで前衛的になりすぎない、多くの人に伝わりやすい世界観を提示してくださって。お互いのメロディーや言葉が混ざり合って、新たな今の“Pops”に昇華することができました」

──EPからの先行配信第1弾としてリリースして、ファンの方からの反響はどうでしたか?

「意外だったのが、“初期のyamaを思い出した”というコメントがあったんです。初期を知らない人からは“こういうサウンドのyamaもいいね”というコメントもあったり。自分としては、初期に戻っているつもりはなくて…むしろ、初期の方が自分だけで作っていたので、より趣味嗜好が強かったと思うんです。その部分が伝わっているということは、“ちゃんと届いているんだな”と嬉しくなりました」

──続いて、プロデューサーにGeGさん(変態紳士クラブ)を迎えた「End roll」がリリースされましたが、メロウなUrban R&Bですね。

「この曲は自分がワンコーラスだけのデモを作っていて…メロディアスでグルーヴィーな楽曲を作りたいと思って、GeGさんにお願いしました。前進するようなスイング感がありつつも、ヒップホップ寄りの打ち込みのトラックのおかげで“Pops”との面白い化学反応が起こったと思います」

──この曲は歌詞が気になっています。これまでの話を聞くと、昔からあった歌詞なんじゃないかな?と思ったのですが…。

「鋭いですね(笑)。実は一番最初のブロック、この6行は昔からあった歌詞です。それ以外の歌詞は全部最新で書いているんですけど」

──<ぬかるみ走りながら笑う昼下がり/泥だらけの顔がお似合いだから>というところが気になりました。

「ふふふ。当時はこのままのことを考えていました」

──でも、アーティストとしてのyamaはそんな顔を見せずにやってきたところもあるじゃないですか。

「“本当はそういう自分なんだ”というのを内面では思っていて。本当はこうなのに、クールに演じたり、カッコつけたり、理想の自分がいました。でも、今は、もう少し泥臭くて、人間味のある自分がいるということを肯定したいです。そういう意味の歌詞です。逆に言うと、完璧に全てをやってのける人生を見て、誰が面白みを感じるのかな?っていう。本当に自分自身の肯定のために書いていた歌詞ですし、もうそのまま、奥深くにある自分自身を少し許してあげるようなイメージで書いています」

──<傷付けるようなmistakeにも/実りあるもの>も冒頭のライブの挫折とも通じますし、まさに、yamaさんが今、考えていることが描かれていると感じました。

──そして、「Hanamushiro」は、洗練されたポップス職人が大集合していますね。作詞作曲が秦 基博で、プロデュースがトオミ ヨウ。バンドが玉田豊夢(ds)、鈴木正人(Ba)、真壁陽平(Gt)という完璧な布陣で!

「驚愕でしたね」

──あははは。驚愕でしたか?

「バンドのレコーディングの現場から、もう何も言えないというか…“はぁ…”という感嘆の気持ちでずっと眺めていました。曲が届いた段階で、言葉のチョイスとか、メロディーが展開していく気持ちよさとか、全てが繊細に作り上げられたPopsだと思って。何も言えなくて、驚きました」

──秦さんにはどんなオーダーをされたのでしょうか?

「”内省的なことを書いてほしいというオーダーだったらインタビューするつもりだったんですけど“と言われたのですが、”せっかくなら自分から出てこないストーリーや言葉を書いてほしい“というふうにお願いしました。だから、あまり会話をせずに想像でというか…秦さんに全部お任せで自由に書いていただきました」

──楽曲を受け取ってどう感じましたか? 冒頭の<青い春は とうに壊れて>から「春を告げる」を想起させますし、<麻痺>や<孤独>というワードもあります。

「散りばめられている感じがありますよね。先入観なしに聴くと、ちゃんとストーリーがあって。情景豊かで切ない描写がたくさんあるんですけど、自分がこの曲と向き合った時は“「春を告げる」を彷彿とさせる曲だ”と感じました。「春を告げる」で多くの人に知ってもらったんですけど、過ぎていく時間とか、その先にある何かを感じられる歌詞になっています。だから、心に染み渡ってくるものがあって、自分の音楽人生もちゃんと投影して歌えるのが素敵だとも思いましたし、何よりも愛を感じました」

──ストリーミングの再生回数3億回を突破している「春を告げる」から始まったこの5年間で1つの季節が終わって、次の季節に向かうんだよ。という、まるでシンガーソングライターの先輩からの励ましの手紙のようにも感じました。

「確かに。嬉しいというか、温かい気持ちになりました。おっしゃったように、春が過ぎていく中で季節が巡っていくとは思うんですけど、背中を押されというか…少し祈ってもらっているような感覚になりました。自分で言うのもなんですけど(笑)、とても素晴らしい曲ですよね」

──(笑)。曲のソフトで温かい部分を際立たせられるよなボーカルのニュアンスも素晴らしかったです。

──そして、「Remember」ですが、歌詞はとてもシリアスなものだとしても、ボーカルとサウンドがとても楽しそうです。

「そうですね。音楽を聴いていて、多幸感のようなものを得られると気持ちが満たされますし、今回は“楽しもう”という気持ちで歌うことが多かったです。この曲は、これまでにも何曲か書いてくださっているにおさんにお願いしたんですけど、この方もいい“Pops”を書いてくれるんです。しかも、チャーミングで面白い、自分が歌わないような歌詞を毎回書いてくださいます」

──日比谷周辺で働いているOLさんが主人公のラブストーリーが浮かびました。

「ドラマティックな歌詞を書くのが上手な方なんです。“面白いな”と思って、毎回、お願いしています」

──それでいて、「春を告げる」はもちろん、<煙を喫んだ>と歌っていた「クリーム」や「あるいは映画のような」を思わせるフレーズもあって。

「言われてみればそうですね。ただ、これは、やっていて楽しい曲というイメージの方が強いですね。バンドとの絶妙な掛け合いみたいなところも多くて。すごく難しいんですけど、いつもライブでサポートバンドをしてくれているみんなにやってもらっていて。一緒に歌っている自分もウキウキするというか…楽しい曲です」

──終わった恋を振り返っているけど、メロディも弾んでいますしね。

──5曲目となる「UPSIDE DOWN」はジャジークラブや2ステップのビートを取り入れた打ち込み要素の強いダンストラックになっています。

「生感のある曲が多かったので、振り切ったストイックな曲もやりたいと思って。Mattさんにアッパーめな曲もお願いしたいと思って、話し合いながらテーマ決めから作り始めました」

──最初の構想やテーマはどういったものでしたか?

「“アップサイドダウンだよ、それ”と言うと、“反対だよ。逆になってるよ”という意味らしいんです。それをそのままとして捉えるというよりかは、“天地逆転”みたいな意味合いで使っていて。自分たちが作っている音楽や信じてるものや大切にしているものが、急に世に出る瞬間があるというか…。「春を告げる」はまさにそうでした。“え? 急に変わった?”みたいな。今までと同じことをやっていたとしても、突然、チャンネルが変化する感覚が面白いと思って。その状況を“UPSIDE DOWN”ということにして、テーマとして置いて作ろうと考えたのが、最初のコンセプトです」

──yamaさんの運命も“UPSIDE DOWN”だったんですね。

「“UPSIDE DOWN”でしたし、また“UPSIDE DOWN”すればいいと思っています。“UPSIDE DOWN”した後は、今度はそれが普通になっちゃう。そうなった時に、もう一回、“UPSIDE DOWN”を起こさないと次のステップに行けないと思っていて。それをもう一回やりたいので、前向きで希望的な意味も込めています」

──そして、最後に「蛹」です。冒頭でも少し話していただきましたが…。

「そうですね。このコンセプトEP、“自分がこういう風に表現したいことを我儘に表現する”…その行為自体が、蛹から蛾や蝶に羽化していくようなものだと思っています。その着想を経て、「蛹」という曲を作りたいと思いました」

──タイトルからなんですね。

「はい。その構想だけは決まっていました。一番メッセージ性の強いというか、内省的なことを歌っている曲です。結局、“自分を弱体化させているのも自分だったんだ”ということに気づいて。この<君>というのは<蛹>のことなんですけど、イコール作品というか…音楽だと思っていて」

──この<真っ白な羽根>を隠している“君”はyamaさんですよね。「真っ白」という曲もありますし。

「ほぼほぼそうです。音楽って透明で純なものだと思っています。奥底にある本当に好きなものや表現したいものを、今まではずっと手の中に隠して、誰にも見せないようにしていました。でも、この曲は、羽化を願って、ちゃんと形にして、その作品たちが羽ばたきますように。そういう願いや祈りを込めて作っています。ある種、「Remember」や「TWILIGHT」、「End Roll」とか、それ以外の曲たちを祈るような役割の曲というイメージで書いています」

──「蛹」が『C.U.T』を通して殻を破ったあとには、『yama C.U.Tリリースツアー "羽化"』が開催されます。

「この EP で音楽的に自分が納得できる楽曲を制作できたので、ライブもよりリッチにしていきたいとは思っています。編成を少し豪華にというか、コーラスさんを入れたりとか、キーボードを増やしたりとか、なるべく生の音を出して、音楽の厚みでお客さんには気持ちよくなって帰っていただけたら一番いいと思っていますし、自分の次の未来というか…新しい自分にまた会えるような気がしています」

──蛹から羽化した後、その先はどう考えていますか?

「完成体というものは正直、一生存在しないんだろうと思っています。変わり続けることというか、次へ次へと進んでいくことに意味があると思っていて。せっかくEPC.U.T』でこれからの自分を見据えて曲たちを作ったので、より洗練して、“yamaの音楽ってこれだよね”という分かりやすいサウンドや色みたいなものを詰めていければいいと思っています」

(おわり)

取材・文/永堀アツオ
写真/中村功

RELEASE INFORMATION

yama『C.U.T』

2026年318日(水)配信

yama『C.U.T』

LIVE INFORMATION

yama C.U.Tリリースツアー "羽化"

2026年5月6日(水・祝) 北海道 Zepp Sapporo
2026年5月10日(日) 宮城県 SENDAI GIGS
2026年5月16日(土) 福岡県 Zepp Fukuoka
2026年5月23日(土) 大阪府 Zepp Namba(OSAKA)
2026年5月24日(日) 愛知県 Zepp Nagoya
2026年5月31日(日) 東京都 Zepp Haneda(TOKYO)

yama C.U.Tリリースツアー "羽化"

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