毛織工場からグローバルなアウトドアウェアブランドへ

ウールリッチの起源は、1830年にジョン・リッチ2世がペンシルバニア州プラムランで創業したアメリカ初の毛織工場。まさにリッチ氏によるウール生地の生産工場だ。生地は行商で販売し、やがて作業員向けの衣類の製造も手掛け、原料から製品まで一貫生産するメーカーへと成長。1850年にはブランドのアイコンとして世界的に知られることとなるバッファローチェックを世に送り出した。ハンター同士の誤射を防ぐためにインパクトの強い赤と黒のブロックチェックを採用し、柄名はデザイナーがバッファローの群れを飼っていたことに由来する。19世紀後半にはアウトドアを楽しむ人々の増加を背景に、レジャー用のシャツやパンツ、ジャケットなどを開発し、アウトドアウェアブランドへの礎を築いた。
1925年にはハンティングチェックと呼ばれるチェック柄を使ったハンティングコートを開発。同柄のパンツとコーディネートするスタイルは、ハンターや野外活動愛好家の間で「ペンシルバニアタキシード」として流行した。時代ごとに名品を生む一方、南極探検隊の衣服や戦時のブランケットや衣服の提供、各種作業員のための制服開発も担い、開発力や生産力を拡充。72年にはアメリカ政府から依頼を受け、極寒のアラスカでパイプライン建設に携わる作業者のための防寒着を開発する。高い保温性と作業中の動きやすさを確保し、タウンユースにもおしゃれなデザイン性を兼ね備えたウェアは、後にイタリアの名門サッカーチームACミランの公式コートとして採用されると人気に火が点き、アークティックパーカとして世界にファン層を広げた。現在、ウールリッチは世界約28カ国に展開するグローバルブランドとなっている。

  • 「バッファローチェック」のシャツ
  • ハンティングチェック柄の「ペンシルバニアタキシード」スタイル
  • 「アークティックパーカ」

ウールリッチはアメリカ最古のアウトドアウェアブランドだが、現在、製品はヨーロッパで企画・生産されている。約200年にわたり培ってきたクラフトマンシップによる物作りを背景に、洗練されたデザインを磨いてきた。「ウールリッチアウトドアレーベル」は、ウールリッチのルーツであるアメリカ、ブランドのヘリテージを色濃く体現することを目指し、日本で企画し、スポーツ・アウトドア分野で先端技術を追求しつつ過去のアーカイブへの敬意を一つにしたコレクションだ。日本発のコレクションを通じて、ウールリッチの販路を生かし、欧米やアジアの市場開拓にも取り組む。

ウールリッチのアーカイブを3つの軸でアップデート

ウールリッチアウトドアレーベルは「FLY FISHING(フライフィッシング)」「CAMP(キャンプ)」「HIKING(ハイキング)」を軸に、ウールリッチのアーカイブを掘り起こし、これをベースとして現代の素材や技術によりアップデートしたコレクションを展開する。
ファーストコレクションから継続する「GORE-TEX 3LAYER FISHING JACKET(ゴアテックス 3レイヤー フィッシングジャケット)」は象徴的だ。裏地にゴアテックスの丸編みニット「C-KNIT Backer(シーニットバッカー)」を採用した3層構造の生地が大きな特徴。シーニットにより袖通しの滑らかさと長時間着用時の快適性を高めた。24時間防水耐久テストでブラックラベル認定を取得し、フィールドでのパフォーマンスに対応する高いクオリティーを備える。26年春夏シーズンは2タイプを揃えた。

ショート丈の「ゴアテックス 3レイヤー フィッシングジャケット タイプ3」
「ゴアテックス 3レイヤー フィッシングジャケット タイプ2」

「GORE-TEX 3LAYER FISHING JACKET TYPE2(ゴアテックス 3レイヤー フィッシングジャケット タイプ2)」は、アークティックパーカ由来の襠付きフラップやハンティング仕様の大型裾ポケット、D管、毛鉤固定用ラムファーなど実用的なディテールを装備。真鍮製スナップボタンとロゴ入りPUレザータブがさりげないアクセントとなっている。「GORE-TEX 3LAYER FISHING JACKET TYPE3(ゴアテックス 3レイヤー フィッシングジャケット タイプ3)」は、ウェーダーとの組み合わせで着用することを想定し、ショート丈に設計している。
「ゴアテックスは今や多くのブランドが使用していますが、ウールリッチはゴアテックスが開発されて間もない70年代から採用し、協業してきた歴史があります」と、旗艦店であるウールリッチアウトドアレーベル代官山の宇山昂太郎店長。「特にアジア圏のお客様はオールシーズン着用可能で、軽さ、防水性を重視し、ゴアテックスを使ったアウターを買い求めることが多い」という。
今季はゴアテックスに加え、オーガニックコットンを生かした透湿防水機能のある新素材も投入。細番手のオーガニックコットンを撚り合わせた高密度の平織り生地とラミネートを施したハイブリッド素材の3層構造で、自然な風合いを残しつつ、しっかりと水の侵入を防ぐ。定番のハンティングジャケットをコート丈に変更し、洗練されたスタイルを提案する。同素材の「ORGANIC COTTON 3L CLASSIC FIELD JACKET(オーガニックコットン 3L クラシック フィールドジャケット)」は、ショート丈が都会的で軽快なスタイルを演出する。

「オーガニックコットン 3L クラシック フィールドジャケット」

オーガニックコットン使いでは、「ORGANIC COTTON COUNTRY SHIRT(オーガニックコットン カントリーシャツ)」も目を引く。インド産オーガニックコットンを兵庫県西脇で高密度に織り上げたブロード生地で仕立てたシャツに、コーデュロイの肘当てを配したシンプルなデザインだが、脇のガゼットや袖口のイッテコイ始末、背のゆったりとしたアクションプリーツにより上品な佇まいと可動性を確保。国内で縫製したシャツに製品染めをすることで生地目を詰めてハリを強めた。着用を重ねることでコットンとコーデュロイのコントラストが深まり、風合いが増す。スタンドカラータイプもあり、こちらは襟にコーデュロイを施した。

アメカジの代名詞であるデニムは岡山製。「SELVEDGE DENIM TRACKER JACKET(セルビッジデニム トラックジャケット)」は、ピュアインディゴ染めの斑糸をローテンションで織り上げた14ozデニム生地を使い、着丈を短くし、身幅をゆったりとったビンテージライクな一着。オリジナルのボタン、羊を表現した大型のスタッズやレザータブを施し、ディテールでウールリッチらしさを表現している。ウエスト部にポケットを配し、実用性をプラスした。「SELVEDGE DENIM HIGH WAIST PANTS(セルビッジデニム ハイウエスト パンツ)」は、股上を深くとり、やや細めのテーパードシルエットに仕上げ、ジャケットと同様、羊型のスタッズとレザータブでアクセントを効かせた。

  • 「セルビッジデニム トラックジャケット」を紹介する宇山店長
  • セルビッジデニム ハイウエスト パンツ
  • 羊型のスタッズがアクセント

自然と都市をつなぎ、人と自然の共生の可能性を広げる

ウールリッチアウトドアレーベルの商品はウールリッチの店舗でも立地特性や客層に応じて展開されているが、シーズンのフルラインナップを体感できるのが唯一の直営店であり旗艦店の代官山店だ。23年12月にオープンした店舗はガラス張りのキューブのような建物が印象的。2層構造で、約120㎡の売り場面積を持つ。ウッドワークを得意とする工房「モーブレーワークス」の鰤岡力也さんが空間デザインを手掛け、随所にこだわりを詰め込んだ。

ウールリッチアウトドアレーベル代官山

空間作りのコンセプトは「自然の温もりと街との共存」。ホワイトオークをベースに壁面や床、什器などを作り込み、左官仕上げの壁面には何とウールを練り込み、赤みを加えることで温もりのあるウッドと調和させた。点在する円柱はそのまま生かし、アールに沿って数ミリに削ったホワイトオークを何層も重ねてフィットさせ、左官も丹念な手仕事で滑らかに仕上げるなど、細部に職人の技が光る。1階の入り口と店奥に張ったタイルはイタリアから取り寄せた自然の石で、ビンテージな味わいがある。階段には店舗の内装ではめずらしい分厚い板をあえて採用。上り下りするときに足元から木の感触が伝わることを意図した。2階はホワイトオークを1階よりも多く取り入れ、モールディングなどの装飾も施し、欧米のウッディな家のよう。照明の木製ランプシェードはフランス製だが、どこか和のムードが感じられる。

  • ホワイトオークと左官仕上げの壁面が特徴的な店内
  • ホワイトオークと左官仕上げの壁面が特徴的な店内
  • 木の感触が奥行きを持って伝わってくる階段
  • 木の温もりと自然光が優しい2階フロア
  • フィッティングルーム
  • 柔らか光を注ぐフランス製の照明

オープンから2年余りが経過し、代官山の立地特性から訪日外国人客が多いのが特徴だ。「月によっては日本人のお客様が半数を占めることもあるが、訪日外国人客は年間の買い上げベースで7~8割ほど」となっている。ウールリッチの直営店でアウトドアレーベルの商品を購入している人も含めると「ブランド全体では日本人客が圧倒的に置く、30~40代を中心にウェアのデザインに共感して購入している」という。古着の文化が根付いた若い世代が古着屋やSNSでウールリッチの存在を知り、アウトドアレーベルのアメリカンクラシックなデザインに興味を持つケースも増えている。「認知は広がっているので、国内のユーザーを増やすことが課題」と宇山店長は話す。また、女性客の構成比が高いことも代官山店の特徴で、購入客全体の7割ほどを占める。ユニセックスなデザインを軸とし、グレーディグによるサイズ展開や、XSSは女性向けにパターンを引くといったサイズ設計も奏功し、国内外とも女性のファンを増やしている。

「何らかの目的があって、そのために服を選ぶのが自然な在り方だと思うんですね。アウトドアレーベルの服はフィールドユースもタウンユースもできるように作られています。ぜひ自然の中で着用して、その体験の上に必要なものとして服を選び、フィールドでもタウンでもシームレスに活動する人を国内外にもっと増やしていきたい」と宇山店長。その一つの取り組みとして、23年秋冬シーズンから継続しているのが写真集『WISH YOU WERE HERE』シリーズだ。

  • 写真集『WISH YOU WERE HERE』
  • 写真集『WISH YOU WERE HERE』より
  • 写真集『WISH YOU WERE HERE』より

シーズンごとに全国各地のアウトドアフィールドを巡り、それぞれの土地に固有の文化や自然をテーマにドキュメンタリー形式で撮り下ろした写真で構成。写真集はノベルティーとして配布するほか、アウトドアレーベルのシーズンビジュアルとしても展開する。十勝、軽井沢、奥日光、遠野に続き、25年秋冬シーズンには遊佐町(山形)にフィーチャー。その撮影時に自然と共にある暮らしから得たインスピレーションをコレクションにも落とし込んだ。「人と自然の共存の可能性を広げていくことがウールリッチアウトドアレーベルの役割だと思っています。今後もその思いを伝えていきたい」としている。

写真/遠藤純、ウールリッチジャパン提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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