――ソロとしての最新EP「Minds&Colors」はSuperorganismのOronoさんら世界のミュージシャンとの共演や、mabanuaさんのボーカル曲など、アーティストでありプロデューサーであるmabanuaさんのレファレンス的な作品になりましたね。

「mabanuaって、おしゃれだよねとか、ブラックミュージックっぽいねとか、いろいろなイメージがあると思うんですけど、僕自身そんなにスタイリッシュさとかおしゃれさを全面に出してきたつもりもないんですよね。聴いてる音楽自体も雑食で、悪く言うとフォーカスが定まってないような志向なんですよ。アーティストのやっている音楽がアンダーグラウンドかポップな音楽か、ということでそのアーティストの印象が変わってしまうこともあると思うんですけど、僕はどちらの音楽も良いと思うんです。ポップスを軽く捉える人もいるけど、ポップさって実は難しい。音楽的な濃さも持ち合わせつつきちんと聴きやすく楽しめるようなポピュラリティを共存させるってのは実はすごく難しいことで。そういったこと僕は音楽を始めた時からずっとやりたいと思ってたんです。で、その象徴というものがOronoとやった「Coffee Excess feat.Orono(Superorganism)&Lennon」のようなワールドワイドでHIP HOPの要素もあって、でもシンプルなメロディっていう……自分が求めていた要素が凝縮された一曲で。このEPに入ってるのはどれもがそういったコンセプトを持った曲ばかりで、まさに自分の名刺代わりになるEPにできたかなという感じがあります」

――そして今年の音楽シーンにとって大きな一枚である星野さんのニューアルバム『Gen』にも携わっていて、プロデューサー、作家、ミュージシャンとしてこの作品でどんな発見がありましたか?

「源さん自身はあの規模のアーティストであると同時に、音楽を作っている時というのはすごくパーソナルな――曲によっては2人でずっとキャッチボールしながらアレンジを詰めていったような――一面もあったりして、それがすごく源さんらしいというか……僕にとってもとても居心地がいいんです。音楽って本来そうあるべきなのかなと思ったりするような貴重な制作体験でしたね」

――mabanuaさんにとってどんな作品になりましたか。

「こういう一枚に自分が少し力添えできたっていうこと自体が、自分がこれから音楽家として残りの人生を生きてく中で、そしてこの人生を終える瞬間まで自分の貴重なプロフィールひとつになる……そういった仕事にできたということがすごくうれしいですね。自分にとっては大切な宝物であるというのはもう断言できる感じです」

――最近のプロデュースワークでいうと、imaseさんとタッグを組んだ、映画『ババンババンバンバンパイア』主題歌の「いい湯だな 2025」はいろいろお題がある曲ですね?

「そうですね。映画サイド、原曲のオリジナルサイド、imaseくんサイドとの兼ね合いがあり、ある種の制限の中でポピュラリティを持ったものを作らなくてはいけないなという、それこそ“ポップなもの”ですけど、きちんと音楽的な濃さを出さないといけないなというので、とても良い体験でした」

――シンガー・ソングライターの望月ヒナタさんの「Hands Up」のプロデュースされていて。これは逆にmabanuaさんらしさが求められたプロデュースなのかな?と。

「彼女はデビューしたてということもあって、歌声と歌詞もそうなんですけど、とても純粋な部分というのがすごく光っているアーティストだと思うんですよね。これからリリースを重ねていく上でどうなっていくのかわからないんですけれども、自分としてはこれからデビューするアーティストの子とか、自分より世代が下のアーティストと積極的に関わっていくことで自分もアップデートできると思うんです。表現したいことがあるんだけれども、それをうまくアウトプットするやり方がわからない若い子はたぶん多いと思うので、そういったところをサポートしてあげたいなというのはありますね。もちろん若い人だけでなく、源さんや田島貴男さんなど上の世代の方もそうで、世代に対して分け隔てなく一緒に音楽を作っていきたいと思っていますね。そうすることでいろんなフィールドとかいろんなリスナーからある意味で信用を得られるんじゃないかと思っていて」

――mabanuaさんの活動はまさにそうですね。

「ちょっと話が飛躍しちゃうかもしれないですけど、この世代間とかジャンル間でのバリアみたいなものが昔から一定数あるような気がしていて。若い人からしたら年長者がちょっと面倒くさいんじゃないかとか、怖いとか、そういう感覚ですね(笑)。逆に上の世代からしたら”何を考えてんのか分かんない”とかあるとは思うんですけど、でも音楽って聴いた瞬間に”あ、いい!”とか”カッコいい!一緒に音作りたいかも!”って思わせる魅力があるわけですよね。そういった初期衝動が音楽にはあるので、まず音楽が良ければ別にその人が80歳だろうが10歳だろうが”一緒にやりませんか?”ってなると思うんですよ。そういったところは音楽家が世の中に言葉ではなくて音楽として提示して行かないといけないんじゃないかなっていうのは日々思ってることですかね。そういった意味では”これからデビューする子なんですけど”ということでプロデュース依頼が来たら僕はなるべく積極的にやるようにしていますね」

――そして今年はニューEP「Silent Storm」がリリースされフジロックにも出演されたOvallですが、ソロとOvallの音楽性が良い意味でかなり違ってきましたね。

「そうですね。Ovallは自分の中でバンド感というのを失わないために継続しているようなプロジェクトで。だから良くも悪くも力が入りすぎてもいないし、入らなさすぎてもいないみたいな、自分の中では物事を考え過ぎずに音楽に打ち込めるプロジェクトなんですね。普通のバンドだったら”これは果たしてOvallらしいのか?”というのを検証したりすると思うんですけど、むしろOvallらしくないようなこと、自分のソロでもできないようなことをOvallでやるっていうのがいいんじゃないか、ちょっと実験に近いような場所にしてるのがOvallっていう感じですかね。その中で傍からは「Ovallって面白いこと最近やってますよね」とか”あの曲はちょっとOvallっぽくないですけど好きです”みたいな反響もらうのが楽しいという感じです」

――なるほど。では、ドラマーとしてのmabanuaさんにインスピレーションを与えた、あるいはロールモデルになっているドラマーを改めてお訊きしても?

「ドラマーとしての僕を形成してるドラマーは、クエストラブとスティーブ・ジョーダンですね。この2人が10代後半の多感な時期に最も影響を受けたドラマーです。そしてもうちょっとあとですごく勉強になったのはザ・バンドのリヴォン・ヘルム。さらに最近僕が注目していて、好きなドラマーが桑畑怜吾くんです。たぶんチャーリー・ワッツファンでオーセンティックかつ美しいドラムスタイルで、テクニックはもちろんそれ以上にグルーヴを追求していて、すごく刺激を受けてますね。最近、生ドラムを叩いても最終的に打ち込みたいな音に加工していくというか、加工せざるを得ないような音楽のトレンドになっているんですが、でもやっぱり生ドラム然とした魅力が必要な時があって。この前もジョン・ボーナムに関するインタビューを受けたんですけど、それも生ドラムでないと表現できないフィールだし。だから”生ドラムが必要な時ってどういう時なんだ?”ということを考えるタイミングがあるんですよ。なので今挙げた4人ともにインスピレーションをもらっています」

――さて、今回OTORAKUのために作っていただいたプレイリスト「For Weekday Morning」はどんな発想から?

「曲ありきってのもちろんあるんですけど、自分の「Minds&Colors」のEPを、できるだけ自分の曲を使わずして表現するとしたらこういうプレイリストになるなっていう感じなんですよ」

――なるほど!

「昔、バイトをしてた頃、いちばん辛いのって平日の朝だったんですよ。土日はライブできてるけど、バイトのある平日の朝をいかに乗り切るかが、その週末のモチベーションにかかってくるみたいな感じがすごくあって。で、この夏フジロックに出た時、現地のラジオ収録があったんですけど、そこに集まったお客さんの顔を真正面でマイク越しに見るわけです。でその時、日々疲れてるけどこの日のために頑張ってここに来たっていうのが表情から読み取れたんですよ。ということは、それだけ皆さんが日々を頑張ってるんだろうなというのを感じて、そういった人たちをプレイリストでサポートしたいと思ったんです。平日の朝に”今日も頑張って乗り切ろう!”って気持ちにさせるプレイリストがあっていいんじゃないかって」

――元気が出るけど、適度に脱力感もある曲が散りばめられていてまさに平日にぴったりだと思います。このプレイリストのフックになっている楽曲を挙げていただけますか?

「僕のことを知っている人ほど意外に感じるかもしれないですけど、ジャスティン・ビーバーを2曲選んでいます。ジャスティン・ビーバーってこの2曲に限らずですが、毎回プロダクションがすごくいいんですよね。ポップの中に音楽的なセンスの良さみたいなものを毎回感じさせてくれるんです。だから冒頭にお話したポップなものっていうのは実は全然バカにできないし、むしろ難しいものなんだよっていう意味でジャスティン・ビーバーの曲は毎回象徴的だなと感じますね。あとはジェニーとドミニク・ファイクの「Love Hangover」もそうで、”そういった路線いいね!”みたいな、リスナーが想像してなかった楽曲がリリースされたっていう感じ。あと僕の中学生ぐらいのときの音楽体験の思い出として、ジャミロクワイの「Canned Heat」と、オアシスの「Don’t Go Away」ですかね。単純に自分が中学生の時にコピーもしていたし聴いてもいたっていう、リトルmabanuaの思い出っていうふうに思ってもらえば(笑)。あとはリリー・アレンの「Knock ‘Em Out」とカーロ・エメラルドの「Riviera Life」ってのがあるんですけど、元ネタが民族音楽的なヨーロッパのクラシカルな音楽と、いまのHIP HOP、R&Bを混ぜた楽曲の作り方をしていて。そういった新旧の音楽を混ぜ合わせる手法では、昔から面白い作り方をしていたなと思いますね。これは「いい湯だな 2025」にちょっと通じるものがありますね。ジャンル的には全然違いますけど(笑)」

――ある意味新旧のマッシュアップというか(笑)。なるほど面白い見立てですね。

「あと、Clairoの「Add Up My Love」。これすっごい好きで。ヒット具合で言ったら前作、前々作かもしれないんですけど、僕はヒットを越えて次の段階の作品がいちばん好きなことが多くて。Clairoの最新作である『Charm』ってアルバムは、僕のなかでClairo史上1位か2位に入るぐらいのアルバムですね。ちょっと70年代風で、プロダクションもそんな感じなんですけど、ボーカルがそんなに大きくなくてちょっと奥まってる感じっていうんですか?単純にベッドルームポップのように言われて話題だった頃から完全に抜け出たなっていう感じで、これはすごく聴いてもらいたいですね」

――最新のUSシーンを代表するアーティストの曲もあれば、時代が過去に飛んだりもしつつ、全体的にはしっくりきますね。

「サブスクの時代になったからこそ大事にしていきたい音楽の聴き方っていうか、いい曲はいつになっても引っ張り出してプレイリストに入れて聴きたい、サブスクのメリットをより享受できる聴き方かなというふうには思いますね。消費的に聴いてすぐ忘れちゃう、年超えたらもう前の年に何聴いてたか忘れちゃうみたいな感じより、人生を通して音楽を聴き続けてもらいたいなっていうのはミュージシャンに限らず、常日頃願ってることではあります」

――ちなみにmabanuaさんは街鳴りの音楽とか、BGMとして耳に入ってくる音楽に惹かれる瞬間はありますか?

「実は日常的にShazamの回数がすごくて(笑)。外出すると2日に1回くらいしてるんです。案外みんなもそうなのかな(笑)。たとえば毎日ジムに通ってるんですけど、すごく選曲がいいんですよ。もしかしたらあれは有線なのかな?“あ、いい曲”と思って運動中にもShazamすることがよくあります。マシンがガンガン動いてる中でも”なんかいい”って思わせてくれる何かがあるはずなんで、そういった自分の勉強も兼ねてのBGM探索っていうのは実は結構大きな割合を占めてますね」

(おわり)

取材・文/石角友香
監修/三浦祐司、北村魁知(USEN)
写真/堀内彩香

「OTORAKU -音・楽- 」PLAY LIST「For Weekday Mornings」by mabanua


■ Message from mabanua
休日や週末に聴くのではなく、慌ただしい平日の朝専用プレイリスト。疲れのとれていない、元気が欲しい、不安な朝。一日のスタートに聴いてもらいたい50曲です。

1. mabanua「Coffee Excess feat. Orono (Superorganism) & Lennon」
2. Remi Wolf「Monte Carlo」
3. Mae Stephens,Meghan Trainor「Mr Right」
4. Charlie Puth, Jung Kook, BTS「Left and Right (Feat. Jung Kook of BTS)」
5. Dominic Fike「Ant Pile」
6. slowthai「Feel Good」
7. Ovall「Bloom feat. KIKI」
8. BENEE「Supalonely (feat.Gus Dapperton)」
9. Shelley FKA DRAM「Best Hugs」
10. Michael McDonald「(I Hang) On Your Every Word」
11. Mama Cass「Make Your Own Kind Of Music」
12. MICHELLE「SUNRISE」
13. Peach Tree Rascals「Mariposa」
14. Clairo「Add Up My Love」
15. HAIM「Relationships」
16. Teddy Swims「Suitcase」
17. Breakbot「Baby I'm Yours (feat.Irfane)」
18. Calvin Harris,Justin Timberlake,Halsey,Pharrell Williams「Stay With Me」
19. SZA,Justin Timberlake「The Other Side (from Trolls World Tour)」
20. THE WEEKND「Out of Time」
21. Dijon「The Dress」
22. slenderbodies「belong」
23. Quadron「LFT」
24. Jenevieve「Midnight Charm」
25. Lyrical Lemonade,Gus Dapperton,Lil Yachty,Joey Bada$$「Fallout」
26. SGルイス,Lucky Daye「Vibe Like This (feat.タイ・ダラー・サイン)」
27. Alessia Cara「All We Know」
28. Lily Allen「Knock 'Em Out」
29. Ben Westbeech「So Good Today」
30. BENNY SINGS「FOR YOUR LOVE」
31. Elliott Smith「Baby Britain」
32. BENEE「Beach Boy」
33. Flo Morrissey,Matthew E. White「Look At What the Light Did Now」
34. COOL UNCLE「GAME OVER (FEATURING MAYER HAWTHORNE)」
35. JAMIROQUAI「Canned Heat」
36. Childish Gambino「Sober」
37. Electric Youth「Running Away」
38. JENNIE,Dominic Fike「Love Hangover」
39. common「So Far To Go」
40. Pete Rock & C.L. Smooth「In The House」
41. Jean Grae「Keep Livin」
42. Caro Emerald「Riviera Life」
43. Peach Tree Rascals「Pretty Wings」
44. Dominic Fike「Superstar Sh*t」
45. JUSTIN BIEBER「DAISIES」
46. JUSTIN BIEBER「Intentions (feat.クエイヴォ)」
47. Forrest Frank「YOUR WAY'S BETTER」
48. Post Malone「I Had Some Help (feat.Morgan Wallen)」
49. Oasis「Don't Go Away (Remastered)」
50. The Bird And The Bee「愛はきらめきの中に」

OTORAKU キュレータープレイリスト

mabanua「Minds&Colors」DISC INFO

2025年3月26日(水)配信
origami PRODUCTIONS

Ovall「Silent Storm」

2025年6月4日(水)配信
origami PRODUCTIONS

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