オリー・ハウエルはロンドンを拠点に活動している新進ドラマー。クインシー・ジョーンズやジミー・コブが絶賛したことから一部で注目されていました。『Self-Identity』(Ropeadope)は、ストレート・アヘッドな現代ジャズで、トランペットとテナーの2管にギターが加わったセクステット。聴き所は、緊密なチーム・プレイから繰り出される演奏の密度感で、アント・ロウのギター・ソロが光っています。イギリス・ジャズ・シーンの充実度を示す好盤です。

『ハドソン』(Blue Note)は、ジャック・デジョネットがジョン・スコフィールド(g)、ラリー・グレナディア(b)、ジョン・メディスキ(key)という強力なメンバーをサイドに従えたニュー・グループの最新作。この4人は、2014年のウッドストック・ジャズ・フェスティヴァルで初共演、このアルバムは満を持しての新グループ、デビュー作でもあります。タイトルは、彼ら4人が住むニューヨーク北部に広がるハドソン川周辺の地域の名称にちなんでいるそうです。ジョンスコがいい味を出しています。

3枚目にご紹介する『Passin’ Thru』(Blue Note)は、今や大御所の風格を備えたベテラン、テナー奏者、チャールス・ロイドがジェイソン・モラン(p)、ルーベン・ロジャーズ(b)、エリック・ハーランド(ds)を率いた、結成10周年を迎えたニュー・カルテットのブルーノート第1作。全編ライヴで、今回収録したのは2016年のモントルー・ジャズ・フェスティヴァルでの長尺演奏です。採り上げた楽曲もロイド、デビュー時の名曲「ドリーム・ウィーヴァー」。それにしても、そろそろ80歳に手が届く年齢とは思えないロイドの熱演にはほんとうに驚かされます。

天才アルト・サックス奏者、チャーリー・パーカーへのトリビュート作品は数えきれないほどありますが、『ザ・パッション・オブ・チャーリー・パーカー』(Impulse)はまさに現代にパーカーを蘇らせました。つまり、今パーカーが生きていたらどんなことをしただろうということを基本コンセプトとして、彼の生涯をミュージカル仕立ての作品としたのです。

聴き所の第一は、デヴィッド・ボウイの遺作『ブラック・スター』でサイドを務めたダニー・マキャスリン(ts)、ベン・モンダー(g)、マーク・ジュリアナ(ds)らの参加です。加えて彼らの演奏にそれぞれ、グレゴリー・ポーター(ヤード・バード・スイート)、カート・エリング(ムーヅ・ザ・ムーチェを原曲としたロサンゼルス)といった豪華なゲスト、ヴォーカリストが加わってパーカーの生涯を辿るという、プロデューサー、ラリー・クラインのアイデアが見事に決まっているところです。

シャバカ・ハッチングスはロンドンを拠点として活動するアフリカ系テナー・サックス奏者。『Wisdom of Elders』(Brownswood)は、南アフリカのミュージシャンを従えたグループ「シャバカ・アンド・ジ・アンセスターズ」による初リーダー作です。エスニックなテイストとストレート・アヘッドなジャズがけれん味なく結びついた熱演で、ジャズがまさにワールド・ミュージックとなったことを実感させる好盤です。

最後に『Galaxys Like Grains of Sand』(Athens of the North)は、イギリスのキーボード奏者グレッグ・フォードと、同じくイギリスのマルチ楽器奏者ウォーレン・ハンプシャーによる想像力を喚起させるアルバム。さまざまな音楽要素が万華鏡のようにちりばめられ、聴き手を幻想的な世界に誘ってくれます。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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