――シングルとしては「車輪の夢」以来およそ5年ぶりとなる「明日への翼」がリリースされます。

「車輪の夢」も2023年のアルバム『徳永がくる』から先行配信した「なんとかなるさ」も両方ともJ-POP系だったんですね。どちらもとても好きな歌なんですけど、僕にはやっぱり自分は演歌・歌謡曲の歌手だという意識がありますし2月20日で30歳になりましたから、一つの節目を迎えたところでもう一度自分の原点に返ってみたいという気持ちから、演歌・歌謡曲路線の作品を歌いたいってスタッフに伝えて作っていただきました」

――この曲から徳永さんの第二章が始まるわけですが、それはつまり三十路に入ること、そして結婚されたことで人としての階段を一つ上がられたということでしょうか?

「そうですね、以前から結婚はこのタイミングでと決めていたわけではないのですが、二つの節目が揃ったところでの新曲リリースになりましたから、今までと同じ考え方や姿勢で歌と向き合いながら、さらに気を引き締めていこうというような気持ちでいます」

――徳永さんの育ったご家庭は、仲が良くてとても温かい環境だったと以前に伺いました。自分でもそういう家庭を持ちたいという気持ちが強かったのでは?

「そうですね、大阪市出身で、上京してからずっと一人暮らしでしたから、家庭の温かさを求めていたところはあると思います。そして家族という、自分が守っていかなければならない存在を手に入れたことで、仕事への心構えも今までとは違ったものになるんだろうというか、意識を変えていかなければいけないという気持ちでいます」

――結婚されたことによるご自身の変化を感じることはありますか?

「具体的にこうというものはないと思いますけど、やっぱり気持ち的にはもっとしっかりしないといけないとか、今まで以上にチャレンジしていかなければあかんなと思うようにはなりましたね」

――最初は積極的になれなかったという役者としての活動ですが、次々に仕事が決まり評価も得るようになってきました。つまり演技の才能にも恵まれていたということだと思いますが、その辺りを自覚するようになったのはいつ頃でしょう?

「いや、そんな自覚なんて今もありません。役者としてはまだまだペーペーですし、芝居のことだって全然わかっていません。例えば2022年のNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」が関西弁で話す役だったように、僕がふだんの自分そのままで演じられるように配役してくださった制作の方のお蔭だと思ってます。本当に周りの役者さんやスタッフの方々に助けていただいてできていることなので、自分としてはどうにか皆さんにご迷惑をお掛けしないように頑張ろうっていうそれだけしかありません」

――デビューの頃にもインタビューをさせていただきましたが、当時は徳永さんがのちにNHKの朝ドラに出演されるなんてことは想像もしていませんでした。

「自分だってそうです(笑)。デビューした頃は演歌が好きで演歌歌手としてデビューしましたから歌一本でやっていくつもりでしたし、お芝居をするなんて考えてもいませんでした。ですから正直言ってお芝居をさせていただくようになった初めの頃は”本当は嫌やねんけどなあ”っていう気持ちで取り組んでいました。でも、続けているうちにドラマや舞台を作り上げていくことの楽しさですとか、共演した俳優の皆さんとの人間関係ですとか、歌の仕事だけでは手に入らなかったであろうものを得られるようになっていることに気付いて、その辺りからお芝居をすることが楽しくなってきたんです。それに歌以外の仕事をすることでそこからファンになってくださる方も多くて、そういうことの一つ一つが自分を成長させてくれますし、仕事の幅を拡げてもくれますので、今はとてもありがたいと思うようになっています」

――ふだんの自分そのままで演じることは実はとても難しいと聞きます。

「さっきも“全然わかっていません”って言いましたけど、本当にお芝居のことなんて語れるようなレベルではないんです。だから、ある部分では開き直っているみたいなところもあって、行き詰まりそうになったら”僕、演歌歌手やしな”って自分の立ち位置をわきまえて、その中で精一杯やろうって気持ちでいます」

――とても良い考え方だと思います。実際に徳永さんの気持ちとしては“歌こそが自分の生きる道”なんでしょうし。そして、その道の“第二章”が「明日への翼」から始まります。

「イメージとしては五木ひろしさんの「山河」のような、コンサートの最後を歌い上げて締めくくるみたいな曲がほしいなぁと前から思っていたんです。要望としてはそれくらいで「明日への翼」もカップリングの「空を見上げて」も前を向いて明日に向かおうというような、人生の応援歌なんですけど、特にそういうテーマのものをとお願いしたわけではないんです。でも以前から”徳ちゃんの声は聴いていると元気が湧いてくるような声だよな”なんて言っていただくことが多くて、その辺りを作家の先生方が感じ取って詞やメロディーにしてくださったのかなと思ってます」

――昨年のレコード大賞で初めて制定された名曲顕彰で選ばれた曲は「上を向いて歩こう」でしたが、徳永さんの新曲も同様のテーマで、人々が常に歌に求めてきたものが形になった印象です。

「明日への翼」はスケール大きく歌い上げる重厚感のあるバラードで、「空を見上げて」は明るく爽やかな、学校などの合唱曲にも適しているんじゃないかと思うような作品です。今までの僕のイメージからは「空を見上げて」の方が想像しやすいと思うんですけど、それだけに”徳永ゆうき、こう来たか!”と思っていただけそうな「明日への翼」にはどんな反応をいただけるんだろうっていう楽しみが大きいですね」

――「明日への翼」はイントロだけで驚きました。

「最初に詞をいただいて、そこからどんな曲が付いてどんなアレンジがされるんだろう?と楽しみにしていたんですけど、聴かせていただいて”おお!こういう風になるのか!”って予想とか期待を超えた作品になっていて、なんだかドキドキしたのを憶えてます」

――2曲とも岡千秋さんの作曲、作詞は原文彦さん、編曲は若草恵さんですが、やはり演歌のイメージが強い作曲家の方なので、意外に感じられる方が多いのではないかと思います。

「昨年末に仕事の現場でお会いしたんですが、その時に”いいのが出来たよー。俺の代表作になるように頑張って!”って言ってくださって、僕の中には「空を見上げて」のような曲調だろうという感覚があったんです。ところが出来上がったものを聴いてみたら全然違っていて良い方向へ予想が外れました。“どんな反応をいただけるか楽しみ”って言いましたけど、客席の皆さんがどんな表情をされるだろう?って思うと早くステージで歌いたい気持ちになります」

――作曲家の方から“良い曲が出来たから自分にとっても代表作になるように頑張って”と言われたら、ありがたいことであるとは思いますが、使命感のようなものも生まれるでしょう?

「そうですね、嬉しかったですけど、気合を入れなあかんなと思いましたし、先生の期待を裏切れないという気持ちにもなりました」

――徳永さん自身の意識や環境の変化もあり、そうした周囲からの期待も寄せられる中で踏み出す“第二章”最初の曲ですから「明日への翼」は徳永さんにとってとても大切な曲になりそうですね。

「前のシングルの「車輪の夢」がコロナ禍の中でのリリースだったことから十分なプロモーションができなかったこともありますので「明日への翼」は、より多くの人に聴いていただけるように頑張っていかなければと思います」

――さて、デビューから11年を経たところですが、ずっと変わっていないこともあれば変わったところもあると思います。

「先日、香西かおりさんと一緒の仕事があったんですけど、その時に”前と歌い方、変わったよね?”って言われたんです。具体的にどこがどんな風にとまではおっしゃらなかったんですけど、何かお感じになったんだと思うんです。去年、扁桃腺を取ったので、そのせいで声の質が変わったのかな?とも思いますし、2016年リリースの4作目「函館慕情」の時に作曲の水森英夫先生に”コブシを回し過ぎないように”ってご指導いただいて歌い方が変わったのもあると思うんですが、自分でもはっきりとはわからないくらいゆっくりと、でも確かに変わってきたところはあるんだと思います。それが成長であればいいですけど」

――先ほど番組中に新曲が流れるのを聴いていて、徳永さんの歌に松山千春さんに通じるものがあるように感じました。それは何故なんだろう?と考えると、歌番組やステージで演歌・歌謡曲にとどまらない幅広い曲を歌って来られたことで何か生まれたものがあるのではないかと。

「そうですか……香西さんがおっしゃったのもそういうことなのかも知れないですね。自分では自分が器用だと思ったことはないんですが”徳ちゃん、何でも歌えて器用やな”なんて言っていただくことも多くて、ありがたいことではあるんですけど、器用なんではなくて一生懸命練習してるからやんって思ってるんです。特に最近のJ-POPを歌わせていただく時なんて難しくて全然身体に入って来ないので本当に大変なんです、”うわー、キーが高いなー”とか”これ一体どこで息継ぎすんねん !?”とか(笑)。歌わないといけないのに歌えなくて泣きそうになることもありますから。ただ一応プロですから、練習して練習して本番までにはなんとか形にするっていう、その繰り返しで、決して器用ではないんですよ。何でも歌えると思っていただけることは歌い手としてとてもありがたいことなんですけど、ホント大変なんです。なんなら不器用と思われたら楽やろうななんて考えてしまうくらい(笑)」

――でもギブアップしたことはないでしょう?

「さすがにそれはありませんけど、2018年、TBS系で放映された「演歌の乱~ミリオンヒットJポップで紅白歌合戦SP~」で米津玄師さんの「Lemon」を歌った時なんて、本当に身体に入って来なくて、しかも番組スタッフさんからは極力コブシを入れないでって言われるし、なんとか歌えるようになるまで2ヵ月くらい掛かったんじゃないでしょうかね、聴いて歌って聴いて歌ってを繰り返して。お蔭さまで放送後には大変な反響をいただきましたけど、結局コブシは入ってもうたし、上手く歌えたという実感はなかったですね。だから放送までが長くて怖くて。でも終わってみたら“コブシが心地よかった”なんてコメントもあって救われました」

▼USENのトーク番組『山口ひろみ&辰巳ゆうと「浪花人情劇場」』ゲスト主演時の収録風景。

――ふだんは歌わないジャンルへの挑戦でしたからリスクは大きかったと思いますが、結果的にあの番組への出演によって徳永さんの知名度は大きく上がりましたよね。

「そうですね、あの「Lemon」は僕にとって大きなターニングポイントになりました」

――“これからは今まで以上にチャレンジしていかないと”とおっしゃっていました。この先には「Lemon」以上のチャレンジが待ち受けているかも知れません。そこに臨む心構えを伺えますか?

「本当は怖いですけどね(笑)、何が待っているかわかりませんから。わかっているところだって4月に『ドリームハイ』っていう、韓国のドラマが元になったミュージカルに出演するんですけど、これだってちょっと恐怖感みたいなものがありますからね」

――恐怖感 !?

「はい、歌だけだって大変なのに踊りもありますからね。ダンスなんて基礎も何もないのに、どうしたらいいんだ!?って話ですよ(笑)。でも、このチャレンジも乗り越えればファンの方に”徳ちゃん、そんなこともできるんや!?”って驚いたり喜んだりしてもらえるでしょうから頑張りたいですね。ホント、自分にできるのは頑張ることだけなんですよ。だけど頑張ってチャレンジすることでファンの皆さんに楽しんでいただけることが増えていくのは嬉しいことなんで、怖くはありますけどやっぱりチャレンジは続けていきたいです。人生、前に進むしかないので、皆さんと一緒に“明日への翼”を広げて“空を見上げて”前進していきたいですね……ちょっときれいにまとめ過ぎましたかね(笑)」

(おわり) 

取材・文/永井 淳
写真/平野哲郎

山口ひろみ&辰巳ゆうと「浪花人情劇場」by USENMEDIA INFO

USENの「元気はつらつ歌謡曲」で、山口ひろみ&辰巳ゆうとがお送りするオリジナル番組「浪花人情劇場」は隔週月曜日更新。3月17日(月)~23日(日)のゲストは徳永ゆうき!

山口ひろみ&辰巳ゆうと「浪花人情劇場」(encore)

徳永ゆうき「明日への翼」DISC INFO

2025年3月12日(水)発売
UPCY-5125/1,500円(税込)
ユニバーサル ミュージック

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