この日のアクトは、主役である山本譲二をはじめ、USENの演歌歌謡曲チャンネル「元気はつらつ歌謡曲」内の各番組のキャストであり、彼を慕う歌い手たちが一堂に会した。辰巳ゆうとと共に「浪花人情劇場」のパーソナリティを務める山口ひろみ、「ジョージのぶち好きやけー!」アシスタントの北川かつみ、「岩佐美咲・はやぶさの同期deどーよ!」の岩佐美咲とはやぶさのヒカルとヤマト、「おかゆーせん」からおかゆ、「中澤卓也のオレん家集合!」の中澤卓也という布陣。

譲二ファンと思しき古参が目立つ客席にあって、「OKAYU命」「岩佐美咲は世界一!」などと書かれた揃いのハッピをまとった熱心な男性ファンもいれば、ペンライトを携えた若い女性ファンもいて、そうしたさまざまな世代の演歌歌謡ファンが期待に胸躍らせる中、「みちのくひとり旅」のイントロが流れ、中澤とおかゆが登場。はやぶさ、北川、山口と岩佐が続き、山本がステージイン。全員が揃ったところで「みちのくひとり旅」サビを合唱する圧巻のオープニング。個性なくして成功はないとされる演歌歌謡界を生き抜く8人が歌い繋ぐと、聴きなれたはずの"みちのく"も、各々の声色や節回しの違いが際立ち、それを感じられるだけでも楽しい。

司会は山口と北川のコンビ。山本と長い付き合いのあるふたりだけに、随所で見せるやり取りは、さすがのひとこと。時に大先輩をいじり、からかう山口の進行は軽妙かつ滑らかで、この日のステージのアクセントになっていた。

出演者がひとことずつ山本に祝いの言葉をかけてから、ソロパートへ。トップバッターはおかゆ。札幌出身の彼女が、ギャルに憧れて目指したという渋谷を舞台に、苦い恋の思い出を歌う「渋谷ぼっちの歌謡曲」で会場を沸かせると、次にステージに上がったのは、はやぶさのふたり。ステージの転換時には、山本譲二の50周年記念シングル「妻よ…ありがとう」のカップリングながら表題作にも劣らぬ話題性で注目を集めている「言論の自由」のイントロが流れ、会場のテンションをキープする。

ヒカルが「お祝いの気持ちを込めて150曲歌いたいと思います!」と暴走すると「さすがに譲二さんもキレると思う」と冷静に制止するヤマト。ここで披露されたのは「赤坂レイニー・ナイト」。ハイトーンのヒカルに低音のヤマトが、ボケとツッコミ的な立ち位置でもメリハリを持たせており、結成12年でデュオとしての成熟度が確実に増しているのを感じさせる。

続いてヤマトの呼び込みで登場した岩佐美咲。新曲「マッチ」に合わせて、燃える炎をイメージしたという深紅のドレスを身にまとい、マッチの火のように消えた恋の終わりを歌った。3年ぶりの新曲はファンのみならず本人も待望していただけに、歌声や表情にこの曲への想いの深さが窺われた。

4組目のアクトは中澤卓也。自身が立ち上げたタクミレコードからの第1弾リリース「陽はまた昇る」を披露。自ら詞を書き、バックバンドのメンバーと共に作曲したという意欲作に大きな拍手が贈られた。

続く山口ひろみは、司会を務めるとあって、ふだんのステージ衣装である着物ではなくワンピース姿。それが照れ臭いと言って客席の笑いを誘いつつ、7月リリースの「恋問海岸」でしっとりと情緒豊かな演歌の魅力を伝えた。

山口に代わって登場したのは北川かつみ。「元気はつらつ歌謡曲」チャンネルの看板番組ともいえる「ジョージのぶち好きやけー!」のリスナーにはお馴染みの異色作「四谷・3丁目」を歌ったのだが、真面目に歌えば歌うほどおかしみが溢れるステージに。この日初めて聴くファンが、やや戸惑いながらも引き込まれた様子だった。

そんな北川が「本日の主役、この方です!」と紹介すると、ここまで「言論の自由」だった出囃子が「ゴッドファーザー 愛のテーマ」に!ステージに山本譲二が現れるとBGMはフェードアウト。しかし本人は歌う気満々だったようで「歌わせないんかい!?」と叫んで観客を笑わせる。ここで披露したのは、山本が父親の半生を自ら綴ったという「夢街道」。第37回日本レコード大賞最優秀歌唱賞受賞曲を、他界した父と同じ74歳の山本が歌う。その胸には亡き父への感謝と敬愛が溢れていた。が、曲が終わると何やら神妙な面持ちの山本。「自分で書いた詞なのに、皆さんの笑顔を見ていたら……間違っちゃいました!」と告白。笑い声と共に客席からはひと際大きな拍手が湧き起こった。

ソロパートを終えると、「山本譲二クイズ」のコーナーへ。山本譲二に関する問題に正解か不正解かを山本自らが手に持った〇Xピンポンブーでジャッジするという趣向で出題されたのは……

Q1. 「みちのくひとり旅」が大ヒットした時、北島三郎師匠から"何でもほしいものを言え"と言われ、もらったものがあります。それは一体何でしょう?

Q2. 親友の吉幾三さんは山本譲二さんのあるファッションにちなんであだ名を付けました。そのあだ名とは何でしょう? 

Q3. 先日、山形に行った際、可愛い孫のために山形新幹線を携帯で撮ろうとしましたが上手く撮れませんでした。それは何故でしょう?

の計3問。正解は……

A1.「"親父、金がほしいです"と言ったら"わかった。1千万でいいか?"と言われ、"ありがとうございます!"言ったら"山本、やっぱり900万でいいかな?源泉徴収というのがあるから"と言われて900万いただきました。それを女房に渡したら"来年税金を納めないといけないから300万だけ私に預けて"と言われて600万が手元に残って、それを持って実家に帰り、おふくろに渡しました」

A2.「山本ジャージ。仕事以外で吉に会う時はいつもジャージ姿だったので(笑)」

A3.「撮ろうとしたら何か邪魔が入っていて"何だよコレ!?"と言ったらマネージャーに"それ譲二さんの指ですよと言われました(笑)」

豪快なエピソードからほっこりするエピソードまで、山本の人柄がうかがえるクイズコーナーになった。続いて披露されたのは、ヤマト、中澤卓也、おかゆによるスペシャルコラボ。3人のギター弾き語りで送る「ふるさとのはなしをしよう」。この曲は、山本が創唱者である北原謙二から継承してほしいと請われ、2004年にリリース、同年の紅白歌合戦でも歌っている。「翌年、北原さんは亡くなられたんですが、その前に聴いていただけてよかった」という山本のエピソードに続いて3人が歌った1965年リリースの名曲は、色あせることなく、この日、ファンの耳に、心に鮮やかに届いたであろう。若い世代が歌う「ふるさとのはなしをしよう」は、まさに一服の清涼剤といったところ。聴き終えた山本も、「素晴らしい。じーんとした」と感激しきり。

3人がステージを降りると「この後で歌うのは損ですよね」とこぼしながら「妻よ…ありがとう」を披露する山本。歌に込めた愛妻への感謝を素直な言葉で語る姿に、真っ直ぐで飾ることのない人柄も垣間見えた。曲が終わる頃には出演者全員がステージに揃ったが、全員が話題のメタルTシャツを着用。山本も着替えての再登場となれば歌うは当然「言論の自由」。山口による曲紹介と共に場内に響き渡る激しいメタルサウンド。恐らく出演者の誰もがこれまでステージで歌ったことはないだろうヘビーメタルだが、デビュー50周年の大先輩に導かれ、ある者はドラムを叩くアクションを、またある者はヘッドバンギングしながらシャウト。このシーンだけを捉えたら、誰が山本譲二のデビュー50周年記念イベントだと思うだろうか?

こんなに演歌歌謡界の大御所らしくない歌手はそうはいない。一本気で不器用とすら思える山本譲二が、素直な人柄と表現者としての柔軟さを備えていることを示している。「山本譲二メタル化計画」や「言論の自由」との出合いにより、より幅広い歌手活動への意欲を燃やしているという山本の背中が後進に示すものは大きい。この日、奇しくも羽田空港という象徴的な場所から新たな歌の世界に向けて飛び立った8人の翼が起こす新時代の風に期待しよう。

(おわり)

取材・文/永井 淳
写真/藤村聖那

山本譲二「妻よ…ありがとう」DISC INFO

2024年7月24日(水)発売
TECA-24036/1,500円(税込)
テイチクエンタテインメント

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