杏子、山崎まさよし、スキマスイッチ、秦 基博など数々の有名アーティストが所属するオフィスオーガスタは、2021112日に設立30年目を迎えました。「この節目の年に、アーティストや共に音楽を届けてくださるスタッフの皆様、そして何よりオフィスオーガスタの発信する音楽を愛し、応援してくださるリスナーの皆様へ、改めて感謝とエールを送りたい」という思いを「MUSIC BATON」と言うタイトルに込め、この一年を通して様々なライブをお届けしていきます。

開演時刻の17時ちょうどに、「Office Augusta 30th MUSIC BATON」のロゴを形作る映像が流れるとバンドメンバーの3人が登場し、大きな拍手が会場を包む。少し遅れてこの日の主役であるさかいゆうがステージに姿を現すと、さらに大きな拍手が起こる。

この日のバンドメンバーは、ベースに日野 JINO 賢二、ドラムに沼澤尚、ギターにMasa Shimizuというそれぞれ世界を股にかけて活躍する名うてのミュージシャンたち。Masa Shimizuは、ボサノヴァの巨匠であるジョアン・ジルベルトの娘であり、現在のプラジリアンポップミュージックの第一人者であるベベウ・シルベルトのバックを長く務めたことで知られる。日野は、歴史に残るトランペッター・日野皓正の次男であり、MISIAのツアーにも参加している。沼澤は、チャカ・カーンやボビー・ウーマックのツアーへの参加から元SUPERCARの中村弘二とのコラボなど、長年にわたり幅広く活躍する日本を代表するドラマーだ。その3人の演奏に、さかいの歌と鍵盤が加わるのだから否応なしに、期待が高まる。

最初の曲は、’19年の5thアルバム『Yu Are Something』の1曲目に収録されている「Get it together」だ。さかいならではのシルキーな歌声で、英語詞が流れるような曲調によく映える。着席こそしているが、すでに観客たちの体は心地よさそうに揺れている。

アウトロが終わるとすかさずリズムが変化し、同じく、『Yu Are Something』に収録されている「桜の闇のシナトラ」が始まった。ピアノのアバンギャルドな和音織り交ぜながら、インプロビゼーションのやりとりが素晴らしい。間奏では、フリーなギターソロがスリリングに響く。約7分の熱演に、会場の温度も上昇する。沼澤が刻むビートに合わせてほんの少しだけ話すと、さかいはピアノを奏で始め、おもむろに歌い出した。この日がバンド形式ではライブ初披露となる「His Story」。1曲の中で、ジャズ、ファンク、ソウルが行き来する展開に、会場にはさらなる熱が充満する。続いて間髪入れずに歌い始めたのはスケールの大きいミディアムバラード「Magic Waltz」だ。胸を締めつけるような歌声に、さっきまでの雰囲気は一転する。それにしても、沼澤のドラムを中心に、とにかく演奏が充実している。強弱の繊細なダイナミズムがすごい。このメンバーなら当然という声があるだろうが、それは重々承知の上で、それでもすごいと言いたくなる。開演前の期待値を、この時点ですでに大きく上回っていたと言っていい。

Magic Waltz」が終わると、次に披露するカーラ・ブレイの「Lawns」という楽曲について、その由縁を語り始めた。“フュージョンとかが好きな人は、アメリカの素晴らしい女性コンポーザーであるカーラ・ブレイのことを知っているかもしれません。僕も大好きなアーティストです。「Lawns」は、もともとインストだった原曲にShantiという素敵なシンガーソングライターが英語の歌詞をつけて、僕の20年来のミュージシャン友だちFried PrideのボーカルShihoが歌ったものです”と。そして、ここで語られたエピソードが、まさに“MUSIC BATON”だった。

“Shihoはライブで「Lawns」を披露していたんだけど、ある日、お客さんに「Lawns」の音源が欲しいって言われたそうなんです。音源化するには、本人の許諾が必要になる。でも、カーラ・ブレイは非常に有名な方なのにインディペンデントなスタンスで活動していて、マネージャーがいなかったりするし、かつて作品をリリースしたメジャーレーベルを通してもなかなか本人にたどり着かない。ここでさっき演奏した「Magic Waltz」に繋がるんですけど。「Magic Waltz」には僕が大好きなギタリストのジョン・スコフィールドをはじめ、スティーブ・スワロウというベーシストとビル・スチュワートというドラマーに参加してもらっているんですが、そのスティーブ・スワロウはなんとカーラ・ブレイの旦那さんなんです!そこでShihoに頼まれた僕は、拙い英語力で「She really really respects you!」とカーラに伝えました。そしたら、喜んで許可してくださったんです”

そんな、リアルに音楽のバトンが繋がったエピソードに続いて、その「Lawns」が演奏される。ピアノから始まり、少しずつ最少限の音数で楽器が加わり、楽曲の世界が色づいていく。原曲は、どこか乾いたセンチメンタリズムを感じる名曲だが、この日の歌と演奏ではメロウなソウルナンバーへとその彩りを変化させていた。曲中では日野のスキャットも披露され、原曲にはないアクセントを加えていたのだった。

6曲目からはしばし、さかいが“スーパー・ウルトラ・ミラクル・レジェンダリードラマー!”と紹介した沼澤と2人だけでのパフォーマンスになった。エレガントに転がるピアノとハートウォーミングな歌声、そしてタイトなドラムが心地いい「lalalai」では、ピアノでボサノヴァを彷彿とさせるメロディをインサートし、そこからブルージーな展開に持っていく。続く「故郷」では、唱歌を思わせる旋律と手紙のような歌詞が感情を動かす。レイドバックしたサウンドが魅力の「BACKSTAY」では、まるで空に届けるように大瀧詠一と小坂忠の名前を叫ぶ。

鳴り止まない拍手の中、ベースの日野JINO賢二とギターのMasa Shimizuが再びステージへ。演奏されたのは、さかいの故郷である高知の銘酒“酔鯨”のために書き下ろした「Whale Song」だ。ドラマティックな展開のあと、最後の雅やかなピアノのフレーズが印象に残る。そのまま続けて披露された「ストーリー」では、タイトなリズムの中で軽やかに上昇していくメロディが快感を呼ぶ。シュアで音楽の楽しさや自由さを感じさせる演奏もいい。ここで本編が終了するが、余韻が冷めやらぬ状態ですぐにアンコールを求める大きな手拍子が巻き起こった。

アンコールを求める手拍子に促されるように、さかいが一人でステージに戻ってくる。“せっかく渋谷にいますんで、渋谷のことを歌った曲を。20代で作った曲ですけど、30代、40代、50代、60代と歌っていきたい曲です”と話し、「SHIBUYA NIGHT」を披露した。アーバンなムードを醸し出す「SHIBUYA NIGHT」に、観客が酔う。ハンドクラップから最終的にスタンディングオベーションが起こるという展開が、この日のライブの素晴らしさを物語る。ライブの力、音楽の力をまざまざと見せつけられた、そんな一夜だった。

取材・文/大久保和則
写真/清水ケンシロウ

Office Augusta 30th MUSIC BATON vol.12さかいゆう『歌い繋ぎたい音たち』

SET LIST
M1.Get it together
M2.桜の闇のシナトラ
M3.His Story
M4.Magic Waltz
M5.Lawns(オリジナル:Carla Bley)
M6.lalalai
M7.故郷
M8.BACKSTAY
M9.Whale Song
M10.ストーリー
En1.SHIBUYA NIGHT

さかいゆう
/バンドメンバー:日野JINO賢二(Bs)/沼澤尚(Dr)/Masa ShimizuG
┗2022年10月15日(土)@東京・duo MUSIC EXCHANGE

Office Augusta 30th MUSIC BATON

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