杏子、山崎まさよし、スキマスイッチ、秦 基博など数々の有名アーティストが所属するオフィスオーガスタは、2021112日に設立30年目を迎えました。「この節目の年に、アーティストや共に音楽を届けてくださるスタッフの皆様、そして何よりオフィスオーガスタの発信する音楽を愛し、応援してくださるリスナーの皆様へ、改めて感謝とエールを送りたい」という思いを「MUSIC BATON」と言うタイトルに込め、この一年を通して様々なライブをお届けしていきます。

今年11月に設立30周年を迎えるオフィスオーガスタの30周年記念イヤー企画として、昨年11月からスタートしたライブシリーズ「MUSIC BATON」。そのVol.7として、秦 基博が歌とピアノだけで楽曲を披露するスペシャルなライブが、ビルボードライブ横浜で行われた。ピアノを演奏するのは、ライブへの参加・共同アレンジなどで秦との関わりも深いトオミ ヨウ。会場の特性的に着席してじっくりと音楽を楽しむスタイルだけに、歌とピアノだけという簡素な編成が期待感を高めてくれる。

大きな拍手で迎えられた秦が最初に披露したのは、秦の1stアルバム『コントラスト』に収録されている「風景」だ。ピアノの音色が会場をやさしく包むと、その音色に寄り添うように静かに、しかし確かな熱を帯びた声で秦が歌い出す。歌声以外にはピアノの演奏しかないゆえに、彼の節回しの特徴や息遣いまでが届いてくる。歌とピアノだけで奏でられる世界に、会場にはどこか神聖なムードが漂っているようにも感じられる。続くMCで秦は「そんなに緊張する必要ないですよ。肩の力を抜いて、歌とピアノの音楽の世界に浸ってもらえれば」と、笑顔で語りかけた。

秦のその言葉にすぐさま呼応したかのように、2曲目の「泣き笑いのエピソード」では、高揚していくメロディラインに合わせ、観客から自然にハンドクラップが沸き起こる。そのハンドクラップは、曲の終わりまで鳴り止まない。続けて披露された「トレモロ降る夜」では、エレガントなピアノのイントロから、ぐっと力強さを増したソウルフルな歌を聴かせる。歌とピアノだけのライブでも、十分にグルーヴィーなサウンドアプローチが可能だということを、あらためて感じさせてくれるパフォーマンスだ。その編成からイメージする、しっとりとした音楽性だけに落とし込まないアグレッシブさに感情を揺さぶられた。その後のMCでは、「編成が変わることによって、曲が新しい顔を見せたりする。次の楽曲もいろんな形でやっていますけど、今日はピアノと歌だけで」と、この日のライブの意味合いを話した。

その言葉のあとに披露されたのは、「初恋」と「恋の奴隷」。「初恋」では、美しいピアノの旋律がリードする中で、切なさを帯びた歌声が響く。ピアノの音色が歌声の魅力を増幅させている印象で、ピアノとの親和性が高いナンバーであることがよくわかる。観客たちは、その歌と演奏にじっと聴き入っている。歌い終え、大きな拍手が鳴り響く中、儚げなピアノの音が鳴り始め、「恋の奴隷」をゆっくりと歌い出す。音数が少ないだけに、オリジナル以上に歌声がスッと染み入ってくる。2曲を歌い終えると、「今日しかできない、この編成でやりたいなという楽曲を選びました。久々に「パラレル」を聴いていただきたいと思います」と語る。「パラレル」は、2009年に冨田ラボ feat. 秦 基博としてリリースされた楽曲で、作詞を松本隆、作曲を冨田恵一が手がけている。穏やかな歌い出しから、ドラマティックなメロディと松本隆ならではの詩情が感じられる世界が展開され、ピアノの力強い演奏がその世界観を後押しする。そんな「パラレル」から、「Trick me」と「夜が明ける」、「Girl」を続けざまに披露。三曲三様の魅力を放っていた。

そこからMCを挟み、『映画ざんねんないきもの事典』の主題歌に起用された「サイダー」、2ndシングル「鱗(うろこ)」が披露される。「サイダー」では歌詞の一つひとつを噛み締めるように歌う姿が、「鱗(うろこ)」では瑞々しいメロディの魅力とサビでの歌の熱量が際立つ。

「今回、「MUSIC BATON」というライブ企画の中で僕にバトンが回ってきたんですけど、僕が所属するオフィスオーガスタが設立30周年。僕はその半分の15年所属しているわけですけど、あらためて30年という月日を聞くと、30年にわたって音楽をみなさんに届け続けてきたすごさ、尊さを感じます。先輩たちが作ってきた道の上で続いていく、繋いでいくその中にいられたことが、すごく幸せです。始まりは杏子さんがいてくださったことですけど、今は音楽的に本当に豊かですごい才能の人たちが身近な先輩や後輩にいる。尊敬できる人たちが、周りにたくさんいる。それが、一番幸せなことだと思います。これからも、先輩たちから受け取ったバトンを、いい形で後輩たちに繋いでいけたら」

秦 基博は、そう語った。

本編のラストは、5thアルバム『青の光景』に収録された18thシングル「水彩の月」。メランコリックなピアノの調べがよく似合うバラードで、本編を締めくくるにふさわしい熱唱だった。歌い終えて秦がステージを降りると、大きな拍手はすぐにアンコールを求める手拍子へと変わる。秦とトオミが再びステージに姿を見せ、切々と歌い上げる「アイ」が披露された。「アイ」を歌い終え、感謝の言葉を述べたあと、この日一番の大きな大きな鳴り止まない拍手の中でステージを後にする秦。そして、その姿を温かく見送る観客たち。そうして終演を迎えたこの日のライブだったが、観客たちはみな、濃密な余韻に浸りながら、それぞれの帰路についたはずだ。もちろん僕も、帰路につく中でそう思った一人だ。

取材・文/大久保和則
写真/清水ケンシロウ

Office Augusta 30th MUSIC BATON vol.7秦 基博

SET LIST
M1.風景
M2.泣き笑いのエピソード
M3.トレモロ降る夜
M4.初恋
M5.恋の奴隷
M6.パラレル
M7.Trick me
M8.夜が明ける
M9.Girl
M10.サイダー
M11.鱗(うろこ)
M12.水彩の月
En.アイ

秦 基博 / トオミ ヨウ
┗2022年527日(金)@神奈川・ビルボードライブ横浜

Office Augusta 30th MUSIC BATON Vol.10

スキマスイッチ『The baton has passed』
出演:スキマスイッチ
日程:202293()
会場:東京・duo MUSIC EXCHANGE

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Office Augusta 30th MUSIC BATON Vol.9

杏子『KYOKO 30th Anniversary Special Live』
出演:杏子 / ゲスト:和田唱(TRICERATOPS
バンドメンバー : 木下裕晴(Ba)、吉川LEE理(Gt)、坂本暁良(Dr
日程:2022814日(日)
会場:duo MUSIC EXCHANGE

Office Augusta 30th MUSIC BATON

Office Augusta 30th MUSIC BATON Vol.8

元ちとせ『えにしありて』
出演:元ちとせ / バンドメンバー : 新井健(G)/黒木千波留(key)/高橋結子(Per
日程:2022717日(金)
会場:東京・duo MUSIC EXCHANGE

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