杏子、山崎まさよし、スキマスイッチ、秦 基博など数々の有名アーティストが所属するオフィスオーガスタは、2021112日に設立30年目を迎えました。「この節目の年に、アーティストや共に音楽を届けてくださるスタッフの皆様、そして何よりオフィスオーガスタの発信する音楽を愛し、応援してくださるリスナーの皆様へ、改めて感謝とエールを送りたい」という思いを「MUSIC BATON」と言うタイトルに込め、この一年を通して様々なライブをお届けしていきます。

──今回は、3月11日に開催された”Office Augusta 30th MUSIC BATON Vol.5 長澤知之『世界は変わる』”について、11月に設立30周年を迎えるオフィスオーガスタについて、いろいろと話を聞ければと思っています。まず、3月に行ったライブ『世界は変わる』は、どんなテーマやコンセプトで制作されたんでしょうか?

「まず、そこにいる人たちが旅をしているような感覚になるライブにしたいなと。ただの音楽ライブではなく、また別の何かを体感できるような、そんな空間にしたいと思ってライブを作っていきました」

──そのコンセプトを具現化するためのアプローチとして大きかったのが、全編にわたってステージ後方のスクリーンに投影されていた映像だったかと思います、映像は、さまざまな街並みや風景、イメージに、その時に披露されている楽曲の歌詞が重なって映し出されるものでした。

「最初に僕が簡単なプロットを作って、同世代の映像作家高橋健人監督に制作を依頼しました。イメージとしては会場の渋谷duo MUSIC EXCHANGEを抜け出して、外国に行ったり、だんだん遠い場所に向かい、時代背景も変化したりしながら、最終的にduoに戻ってくるというものでした。コロナ禍の影響もあって、今は遠くに旅行ができない人もいますし、そうなってくると部屋の中に一人でいてSNSを見続けて悪いところの視野が広くなりがちになって窮屈になりやすいと思うんです。でも、世界は広いし、しかも宇宙は無限大にあるよっていうことを今回のライブでは伝えたかったんです。映像では、特にそこを意識しました」

──長澤さん自身が、コロナ禍の中でモヤモヤを抱えていた?

「僕自身なくはないんですけど、僕の周りの人間だったり、リスナーのみなさんだったり。そういった人たちのモヤモヤを、僕のライブで少しでもほどけたらいいなって」

──その思いは、『世界は変わる』というタイトルにも込められている?

「マネージャーとタイトルについてやりとりしているとき、“ライブを見終わったあとに気持ちが軽くなる。映画館を出たあとにちょっとだけ世界が変わるような、あの感覚になれたらいいんじゃないか?”という話になって、その場で考えて決めました」

──ここまでの話を踏まえて、ライブでは今の自分が歌いたい歌、歌うべき歌を歌った形でしょうか?

「セットリストはそれなりに考えましたけど、悩むというほどではなかったです。今回は、鍵盤とギター2本でリズム楽器がないという、今までの自分にはない音楽的試みをしようという意図がありました。自分はアコースティックギターをメインに弾いて、リズムギターとして今回の編成の中でのリズム的主軸になる。そこにキーボードともう1本のギターをプラスして、“ベースやドラムがない中でのグルーヴを作れたら最高だよね”って。時間的な制限もあったので、すでに共演経験のあるキーボードの細海魚さんとギターの宮崎遊くんと一緒に今回のライブストーリーの中で意味が伴うような楽曲を考えていきました。ある意味、ベースとドラムがいないという制限がいい方向に働きました。あまりに自由がありすぎると、逆に選べなくなってしまうものなので」

──リズム隊がいないというアプローチをしようと思ったのは?

「今回のライブ前に、宮崎くんと2人でスタジオライブをやったんです。2人なのでそのときもリズム隊なしのライブだったんですけど、本来はバンド編成でやるような曲も演奏したんですが、すごく面白かったんですよね。今回のライブの発想はそこからです。」

──新しい試みに挑んだ今回のライブを終えて、どんな手応えを感じていますか?

「まず、楽しかったですね。リスナーさんからも良かったという反響をいただいているので、楽しんでもらえたんじゃないかなと思っています。映像に関しても、ちゃんと旅感があって、ライブの中で意味を成していたという声が届いているので、その部分においても良かったんじゃないかなと」

──歌詞がスクリーンに映し出されることで、その曲の印象やインパクトも変わりますよね。今後、配信で今回のライブを視聴する方たちに向けて、あらためて見どころを伝えてもらえますか?

「普段のライブではプレイや表情を楽しんでいると思うんですけど、今回は映像があってその中に歌詞も映し出されていくので、より作品と向き合うというか、内省的な感覚が生まれるんじゃないかなと思います。内省的な感覚が生まれると、感受性が刺激されて想像力が働くと思うんですけど、そこで歌詞を目視できることで『自分と考え方が似てるな』と思ったり、過去を思い出したり、普段のライブとは違う楽しみ方ができる。そんなふうに、一緒に内省的空間を楽しみあうことが、僕はすごく好きかな。なので、ご自身の心の中にある思い出や過去の出来事と照らし合わせたり、宇宙の果てはどうなっているんだろうなと考えたり、自由に楽しみながら見ていただけたらなと思います」

──長澤さんが所属しているオフィスオーガスタは、今年11月に設立30周年を迎えます。30年の長きにわたって続いている理由は、きっとたくさんあると思いますが、長澤さんが感じている“オフィスオーガスタが30年続く理由”を教えてください。

「僕は途中から所属している形ですけど、やはり初期にオフィスオーガスタを設立した人たちが作り上げた空気感は大きいと思います。スタッフさんもそうですし、アーティストでは杏子さんや山崎まさよしさんの影響はすごく大きいと思いますね。その中で、みんなが自分の音楽人生を送って、どうやって音楽的な高みを目指していくかって意識が高い人が多いのかな」

──そんなオフィスオーガスタにある、“らしさ”というのは?

「(家庭的という意味での)ドメスティックさかな。会社という形態ではありますけど、ある種のコミューンとして、それぞれが思い描いていることを共有しあうというか。やっぱり、アーティストとして一番大事なことは“いい音楽”を作ることで、誤解を生むかもしれないですけど、万人に受け入れられるポップソングばっかり書いていたら、音楽として進化がない。そうじゃなくて、自分の視点から考えて、もうちょっと音楽世界をよくしたい。そういうことを、それぞれが考えている。それが、オフィスオーガスタのいいところかな。ちょっと曖昧な表現かもしれないですけど」

──長澤さんの中での、“いい音楽”の定義は?

「フックのある音楽ですかね。自分は、引っかかりのない音楽を“音楽”って言うんですけど、コンプライアンス的な問題なのか、暗黙の了解なのか、自分の感情を表に出したら“誰かを傷つける”、“誰かに嫌われる”と思っているのか、棘のない音楽も多いですよね。でも、そういう音楽って棘がなくて丸いから引っかからないし、そのまま流れちゃう。そういう音楽じゃなくて、例え奇抜でもやりたいことをやって、“何これ? 面白い!”って思わせる。そして、そのアーティスト自身が見えてくる。なおかつ、その音楽が美しかったらいい。そういう音楽が、自分にとっての“いい音楽”です」

──これからの自身の音楽については、今どんなことを思い描いていますか?

「今、ちょうど制作中なんですけど、こういうことをしたいというよりは、そのときそのときで面白いと思うことをランダムに表現していきたいなと思っています」

──オフィスオーガスタの30周年イヤーを記念したライブシリーズは、“MUSIC BATON”というタイトルです。長澤さんが、これからもオフィスオーガスタの中でつないでいきたいバトンは、どんなバトンですか?

「これというものは、特にないです。音楽を楽しんで、真面目に、一生懸命に、夢中になれたら、それでいいんじゃないかな」

──今後、“MUSIC BATON”のように企画性のあるライブをするとしたら、どんなライブをしてみたいですか?

「今すぐにはむずかしいですけど、だからこそやりたいのは、最初から最後までアーティストもお客さんも全員で歌っているライブ。それとは真逆に、歌なしでジャムセッションのようにひたすらステージ上で演奏を続けるライブ。そんなライブができたら、きっと楽しいんじゃないかなと思います」

取材・文/大久保和則
ライブ写真/清水ケンシロウ

Office Augusta 30th MUSIC BATON vol.5長澤知之『世界は変わる』

SET LIST
M1. ソウルセラー
M2. あんまり素敵じゃない世界
M3. 密なハコ
M4. 宙ぶらの歌
M5. 朱夏色
M6. 幸せへの片思い
M7. 夢先案内人
M8. 金木犀
M9. クライマックス
M10. STOP THE MUSIC
M11. 黄金の在処
M12. 羊雲
M13. はぐれ雲けもの道ひとり旅
M14. JUNKLIFE
M15. ラブソング2
M16. スリーフィンガー
M17. 長い長い五時の公園
M18. マンドラゴラの花
M19. 蜘蛛の糸
M20. 回送
M21. 世界は変わる
En. My Living Praise

長澤知之/バンドメンバー:宮崎遊(Gt)/細海魚(Key)
┗2022年3月11日(金)@東京・duo MUSIC EXCHANGE

Office Augusta 30th MUSIC BATON Vol.6

松室政哉 『F.O.M』
出演:松室政哉
   ゲスト:ReiRay / 村上佳佑
   バンドメンバー:岡本啓佑(Dr) / 植松慎之介(Bs) / 外園一馬(Gt) / 松浦はすみ(Key)
日程:2022年4月16日(土)
会場:東京・duo MUSIC EXCHANGE

Office Augusta 30th MUSIC BATON

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