物々しいダークなSEが、ほんとに演歌歌手のコンサートなのか?と驚いているところに上下レザーの衣装で登場した辰巳ゆうと。ソリッドなロック曲「魂は売るな」を熱唱し、立ち台に足をかけてシャウトまで決めた。歌い終えると一転、爽やかな笑顔で公演の完売に謝辞を述べた。司会の西寄ひがしが現れ、辰巳の衣装や金メッシュの入ったヘアスタイルなどにツッコミ(!?)を入れ、辰巳は大阪弁で軽く受け流し人懐こいところを見せる。「Triangle」の趣向を説明したあと、爽快なオールディーズ風の「君のRougeは渇らさない」、ブルージーなバラード「On the rocks」、さらには「燕」のロックアレンジをヴィジュアル系アーティストのようなしなやかなアクションで魅せた。そしてGS風のロックンロール・アレンジで「誘われてエデン」までを歌い切った。1、2曲目はヒット曲「運命の夏」の異なる形態ごとのカップリング曲で、3曲目は「心機一転」のカップリング曲。シングルリリースのたびに新しい挑戦を続けてきた成果がライブで堪能できる貴重な機会となった。

辰巳が衣装替えをしている間は西寄のMC。オンもオフも精力的に過ごしていて、多忙な中でも富士登山に挑戦したという辰巳のエピソードを披露。ちなみに西寄は富士登山の誘いを丁重に断ってYouTubeで視聴したそうで、客席は笑いに包まれた。

序盤とはがらりとイメージを変え、きらびやかな装飾が施されたロングコートで現れた辰巳。男女のダンサーを従えて、「センチメンタル・ハート」を披露。踊りながら歌うのは苦手だと打ち明ける。なにせ歴代衣装の中でも最もヘヴィなコートだとか……それでも客席からの「回ってみて」というリクエストに応えて身を翻す。煌めきに満ちたポップスが繰り出されるこのコーナーではカバーも披露され、まずは昨今のシティポップブーム人気で再燃する竹内まりやの「純愛ラプソディ」をオリジナルに忠実なアレンジで聴かせ、続いて玉置浩二の大名曲「田園」を披露。言葉数が多く、高低差も多いメロディを力強く歌うと、手拍子のボリュームも大きくなるのだった。

オリジナル曲もダンサブルなレパートリーで、「運命の夏」のカップリングでもある「ふたりは翼」の四つ打ちのイントロが流れ始めると手拍子はさらにボリュームアップ。EDMやスパニッシュ音楽の要素も感じさせられるユニークな曲をダンサーとともに華やかにパフォーマンス。そして80年代のアイドル歌謡を彷彿させる「星くずセレナーデ」ではファンのゆうとコールもこの上なくハマって、懐かしさと華やかさで彩ってくれた。

再び衣装替えで袖に下がった辰巳と入れ替わりに西寄が現れると、幼少期に祖父の影響で演歌や長編歌謡浪曲に触れた辰巳少年のプロフィールが語られ、いよいよ和をテーマにしたいわば本領発揮のコーナーへ!暗転したステージには凛とした着流し姿の辰巳が登場した。まずはひとりで歌、語り、芝居をこなす「長編歌謡浪曲『沖田総司』」。新選組前夜の幼い恋心を抱く総司の心情、池田屋事件の臨場感溢れる場面などから、歴史に翻弄され孤独な最期を遂げる場面まで、物語をもり立てるバンドの演奏と相まってまるで一篇の映画を観るように引き込まれる長尺のパフォーマンスで圧倒した。

打って変わって、グッズ紹介ではアイテムごとの丁寧でユーモラスな紹介に笑いに包まれるLINE CUBE。来年のカレンダーの写真を尊敬する先輩である氷川きよしがインスラグラムで褒めてくれたことがかなり嬉しかった様子で、歌唱とトークの緩急も辰巳のコンサートの楽しさと言えよう。

続いてはデビュー曲「下町純情」で伸びやかな歌声を届け、「心機一転」で王道演歌ならではの心から晴れやかな気持ちをも聴かせてくれた。ロック、ポップスと表現力の幅の広さを見せてくれる今回のセットリストだが、やはり朗々と響き渡る歌の力強さはオリジナルの演歌レパートリーで100パーセント堪能できる。快活な気分に浸っていると告知情報がステージ上のスクリーンに投影され、ざわつく場内に演歌のみで構成される3rdニューアルバム『だけ、だけ、だけ、だけ、演歌だけ!』が12月17日にリリースされることが明らかになった。大いに湧くファンに向け、さらに嬉しい告知が!初の股旅物楽曲「鈴鹿峠の旅がらす」も初披露。東海道は関東ゆかりの歌詞が多い中、関西出身の彼はなるべく西に寄せたかったと話し、鈴鹿や伊勢が登場する内容になったとのこと。ずっと歌い継いでいけそうな王道曲がまたひとつ増えそうな印象だ。

コンサート終盤、さまざまなチャレンジを見せる今回のツアーでも「昭和100年とも言われる今年、どうしても歌いたい曲として次の歌を選びました」と話し、辰巳も「20代で挑戦するにはちょっと早いとも思いましたが、歌うからには渋谷全体に響き渡るように歌います」と、熱く語った大曲「イヨマンテの夜」。アイヌの送り儀式をモチーフにとった菊田一夫の歌詞、アフリカ音楽的なリズムを持つ古関裕而の曲で、昭和20年代には声量自慢の男性歌手がこぞって取り上げた作品を、ジャンルの壁を凌駕する迫力で歌い上げる辰巳。人間の声が持つ神々しさを残してくれたのだった。この日一番の割れんばかりの拍手が鳴り止まない中、オリジナルの「雪月花」のドラマチックな歌唱で本編を締めくくった。

アンコールにはツアーTシャツにハーフパンツという軽やかさに出で立ちでダンサーを伴って登壇。青春賛歌「友よ」を披露。続いては今年の勝負曲「運命の夏」で、振り付けをレクチャーしつつ、SNS用の動画をファンとともに撮影するコーナーも。王道のアイドル歌謡の魅力や楽しさを満喫できる曲でさらに会場の一体感が高まった。そして告知第二弾!来年には東名阪を巡るスペシャル・コンサート・ツアーを発表。地元大阪は過去最大キャパのフェスティバルホール公演だ。

最後のMCでは、3階席まで埋めてくれたファンに、完売御礼となった謝辞を述べ、今年こそは紅白歌合戦への出場を叶えたい、年末まで全力で走り切りたいと決意を示す。そして声のすべてを使い果たすかのようにラストの「迷宮のマリア」を熱唱。歌手としてのポテンシャルを多彩な楽曲で示した約2時間半もの公演の幕を閉じた。

(おわり)

取材・文/石角友香
写真/平野哲郎



▼山口ひろみ&辰巳ゆうと「浪花人情劇場」――USENがお届けするオリジナル番組!(USEN MUSIC GUIDE)



LIVE INFO

■辰巳ゆうと コンサートツアー 2025
11月12日(水)ぎふしんフォーラム大ホール(岐阜市民会館)
11月13日(木)福岡市民ホール 中ホール
11月19日(水)千葉市民会館大ホール

■辰巳ゆうと クリスマスディナーショー 2025
12月21日(日)昼の部/夜の部 名鉄グランドホテル(愛知)
12月22日(月)昼の部/夜の部 ホテルグランヴィア大阪
12月24日(水)昼の部/夜の部 品川プリンスホテル

■辰巳ゆうと バースデーコンサート
2026年1月9日(金)なかのZEROホール(東京)

■辰巳ゆうと デビューデーコンサート
2026年1月17日(土)フェニーチェ堺(大阪)

■力いっぱい演歌です!辰巳ゆうとコンサート in 新歌舞伎座~だけ、だけ、だけ、だけ、演歌だけ~
2026年3月29日(日)新歌舞伎座(大阪)

■辰巳ゆうとスペシャルコンサートツアー2026(仮)
Niterra 日本特殊陶業市民会館(名古屋市民会館)ビレッジホール
LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
フェスティバルホール(大阪)

辰巳ゆうと『だけ、だけ、だけ、だけ、演歌だけ!~辰巳ゆうと サードアルバム~』DISC INFO

2025年12月17日(水)発売
初回限定盤/VIZL-2492/5,000円(税込)
ビクター

辰巳ゆうと『だけ、だけ、だけ、だけ、演歌だけ!~辰巳ゆうと サードアルバム~』

2025年12月17日(水)発売
通常盤/VICL-66113/3、500円(税込)
ビクター

辰巳ゆうと「運命の夏」

2025年10月15日(水)発売
Jタイプ/VICL-37796/1,500円(税込)
ビクター

辰巳ゆうと「運命の夏」

2025年10月15日(水)発売
Kタイプ/VICL-37797/1,500円(税込)
ビクター

辰巳ゆうと「運命の夏」

2025年10月15日(水)発売
Lタイプ/VICL-37798/1,500円(税込)
ビクター

関連リンク

一覧へ戻る