開演前のインタビューでは「私のレパートリーには、もちろんバラードもありますし、USENさんの「DJ OKAYU」のコーナーを聴いていただいているリスナーさんは知っていると思いますが、最近ではシティポップを基調とした楽曲もあります。でも基本的には「横浜ヘンリー」や「渋谷のマリア」のように、ベースにはグルーヴ歌謡があって……というふうに、一曲一曲作りながらいろんなアイデアが出てくるんです。今日のライブもバンドメンバーの皆さんとコミュニケーションをとりながら、どうしたら皆さんによろこんでいただけるかということを考えながらリハーサルに臨みました」と意気込みを語ってくれたおかゆ。さて、今宵のライブの出来映えや如何に?

揃いの赤いはっぴを着た親衛隊が客席前列に陣取り、開演前から熱気に包まれたけやきホール。定刻を迎えて照明が落ちると聞こえてきたイントロは「Amazing Grace」。会場後方から客席を通ってステージへと歩みを進めつつ1コーラスをアカペラで歌ったおかゆ。最初の1曲で彼女が豊かな歌唱力を備えた実力派であることを印象付けた。

ステージで待つのはベース、ドラム、ギター、バイオリン、キーボードという布陣のバンドメンバー5人。ゆったりした1曲目から一転、ロック調のサウンドが響き渡ると客席からは手拍子が起こり、ペンライトが揺れる。今やおかゆの代名詞ともなった「渋谷のマリア」に歓声が飛ぶ。歌い終えて元気いっぱい「皆さん、こんにちはー!」と呼びかけ、遠方からの来場者にどこからやって来たか訊ねると、福岡や札幌といった声も。遠くからも駆け付けるファンを掴んだのは、彼女の歌がしっかりと人々の心に寄り添ってきた証と言えるだろう。

続いては“突き進む”おかゆの原点にある曲だと言う「柳ヶ瀬ブルース」、そしてシンガー・ソングライターとして活動するきっかけになったと話す「オトナのワカレ」。流しとしての経験を持つ彼女であれば、美川憲一の代表曲であると同時に昭和歌謡の名作でもある「柳ヶ瀬ブルース」を取り上げることに不思議はないが、若く、今どきのセンスを感じさせる彼女が歌うとそこには心地よい違和感とでも言うべきギャップが生まれて、この辺りにも彼女の人気の理由が窺えた。それは次の「伊勢佐木町ブルース」でも同様。昭和歌謡が帯びるある種の湿度がなく、むしろカラッとしたものを感じさせて、それが今どきのシンガーならではの表現を生んでいる。2024年のテーマは“シン・おかゆ”で、“シン”は、「心・信・進」のトリプルミーニングであると彼女は話していたが、彼女の歌う歌謡曲には「新」の字を当てた“シン・歌謡曲”が相応しいと思った。

その後は中島みゆき「時代」、ちあきなおみ「冬隣」、葛城ユキ「ボヘミアン」、八代亜紀「なみだ恋」、門倉有希「ノラ」とカバーを5曲。どれも同じ歌謡曲の範疇にあるものの、歌い手の個性や曲調は大きく異なる。その多様性こそが歌謡曲の魅力であることは疑いようがない。しかし、そうしたものを並べたときはとかく消化不良を起こしがちがちだ。が、彼女にはそんな心配は無用。“シン・歌謡曲”の色合いで楽曲を包み込みながら“ひとり「ザ・ベストテン」(1978年から89年までTBS系で放映されていた歌番組)”のような楽しさで観客を魅了。故人である八代、門倉との生前のエピソードも交えて楽曲を紹介するという緩急の利いたMCに成長の跡を見せた。こうしたスキルはUSENで放送中の「おかゆーせん」やTBSラジオ「にゅーとぴ♪」文化放送制作の「ラジおかゆ」でトーク力を磨いた成果だろう。

「食べるおかゆのように聴く人を癒せる歌を書いて歌い、全国の人々に生のステージで歌を届けたい」という気持ちを込めた2025年のテーマ“リアルおかゆ”の発表がされたクイズコーナーを挟み、衣装を替えて登場したおかゆはオリジナルの「星旅」「愛してよ」と「赤いひまわり」を歌った。門倉有希が「自分にもこういう歌を書いてほしい」と話していたという「赤いひまわり」は、そんな逸話が紹介された後だったこともあるだろうが、特に深く胸に沁みるものがあった。

続いてはクリスマスが近いこという時節柄、「戦場のメリークリスマス」を披露。ご存知のように本来は坂本龍一によるインストゥルメンタルだが、彼女はこれに自ら詞を付けて歌った。東洋的なメロディーと日本語詞の相性が望外によく、世界的な名曲に新たな生命を吹き込んで、言葉の紡ぎ手としての才能も豊かなことを窺わせた。

続くMCでは、彼女自身がけやきホールでファンと共に心地よい時間を過ごせているという感想から “心地よい場所”についてのトークへ。けやきホールという会場を選んだ理由が渋谷であるというこだわりを感じずにはいられない「渋谷ぼっちの歌謡曲」、彼女いわく数少ない得意料理と母への想いを歌った「たまごやき」、おかゆ流人生応援歌「ガラクタのど真ん中で」と続けて本編は終了した。

おかゆやバンドメンバー、ライブに華を添えていた2名のダンサーがステージから消えるとすぐに湧き起こるアンコール。もちろんそれに応え自らも共演のメンバーたちと共に親衛隊の赤いはっぴを着て現れたおかゆは感謝の言葉を述べ、ディナーショーの開催と東京国際フォーラムでの公演という次の目標を表明、亡き母の口癖を歌にした「七転び八起き幸せに」の2024年バージョン、そしてデビュー曲の「ヨコハマ・ヘンリー」を歌って終演を迎えた。最後はファンとの記念写真に写りステージをあとにした彼女だが、その顔にもファンの表情にも浮かんだ満足感が、2025年の飛躍が確かなものになるという予感を感じさせられたライブだった。

(おわり)

取材・文/永井 淳

渋谷のオカユ 2024@けやきホールSET LIST

M1. Amazing Grace
M2. 渋谷のマリア
M3. 柳ヶ瀬ブルース
M4. オトナのワカレ
M5. 伊勢佐木町ブルース
M6. 時代
M7. 冬隣
M8. ボヘミアン
M9. なみだ恋
M10. ノラ
M11. 星旅
M12. 愛してよ
M13. 赤いひまわり
M14. 戦場のメリークリスマス
M15. 渋谷ぼっちの歌謡曲
M16. たまごやき
M17. ガラクタのど真ん中で
EN1. 七転び八起き幸せに 2024
EN2. ヨコハマ・ヘンリー

おかゆ「渋谷ぼっちの歌謡曲」DISC INFO

2024年5月1日(水)発売
遥かな人へ盤/VICL-37733/1,500円(税込)
ビクター

おかゆ「渋谷ぼっちの歌謡曲」

2024年5月1日(水)発売
ミッドナイト盤/VICL-37734/1,500円(税込)
ビクター

おかゆ「渋谷ぼっちの歌謡曲」

2024年5月1日(水)発売
八起き盤/VICL-37735/1,500円(税込)
ビクター

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