――今回は浜田さんたっての希望で、田中知之さんとの対談が実現しました。浜田さんは、これまでに2本のプレイリストをキュレーションしていますが、田中さんはそれを聴かれてすぐ浜田さんにリアクションをされたそうですね。

田中知之「聴いて即座に”俺の恐ろしいライバルが誕生したぞ”と思いましたよ(笑)」

浜田岳文「やめてください(笑)。とんでもない」

田中「だって真面目な話、例えばプレイリストの見出しに、「世界一のFoodieが選曲」なんて書いてあったら、飲食店からしたらめちゃくちゃ興味を惹かれるじゃないですか。到底、僕じゃ太刀打ちできない」

浜田「ただただ恐縮です。自分はクリエイティブな素養に欠けている人間だと自覚していますので、このキュレーションについても、あくまでクリエイティブな飲食店の方を応援するというスタンスの延長線という気持ちで引き受けています。それと、自著である『美食の教養』の中で飲食店のBGMについて触れたので、その責任は果たそうという思いもありました。これまでもインタビューでお話ししてきましたが、僕も元々音楽好きですから、DJ/選曲家の方々に対しては絶大なリスペクトがある。だからこそ、プロじゃないからこその選曲と、いかに個性を出さないかを念頭に置き、いい意味で印象に残らないプレイリストを目指していまして」

田中「その姿勢は、実は僕の選曲の姿勢ともすごく似ている。僭越だけど、浜田くんの姿勢はレストランにおける僕のプレイリストの姿勢と極めて近い。僕が音楽で考えていることを、この人は食事をしているときに考えているんだなと共感しました。もちろん僕と浜田くんの選曲には若干の差異もあるわけですが」

――田中さんが浜田さんの選曲を聴いて似ていると思う点とは?

田中「浜田くんは『美食の教養』の冒頭で、食事について、①栄養摂取(生存としての行為)、②うまい(本能としての欲求)、③美味しい(文化としての知的好奇心)と定義しているじゃないですか。同じように、ちょっと音についての定義をさせてもらうと、音を”きく”という行為は能動と受動、つまり、”聴く”と”聞く”にわかれる。”聞く”には、生活の中で勝手に耳に入ってくる音も含まれますが、音楽と能動的に向き合う場合は”聴く”です。つまり、浜田くんの姿勢は選曲の核心を突いている。飲食店における”きく”は”聴く”じゃなくて”聞く”寄りの選曲が正解ですから。そして、明らかに匿名性が重要だと僕は思う。でも、案外それをわかっていない選曲家も多いんですよ」

浜田「興味深い指摘です」

田中「それに加えて必要なのは、匿名性を保ちつつも、浜田くんも著書の中で度々用いているように”文化を忍ばせておく”こと。例えば、ふとプレイリストの曲が気になって、Shazamで調べたとする。そこで、アーティスト名や曲名、レーベル名、曲順に、文化的な考察の要素を忍ばせておきたい。その場にマッチするのは大前提として、プロのプライドとしては、リテラシーの高い人に”この選曲、さすがだな”とも思ってもらいたい。それは、例えば美味しいバターを食べた浜田くんが聞いた”これはどこのバターですか?”という問いに対してシェフの方がさらりと言った答えが、実はものすごい生産者の名前だった、というようなことに近いのかもしれない。さらに言えば、飲食店のプレイリストに載る曲名にも目端を利かせておきたい」

浜田「なるほど。僕は曲のタイトルまではまったく意識が及んでいませんでした」

――匿名性とは異なる要素も重要なのですね。

田中「でも、浜田くんは何ヵ国語も話せるじゃない?それはものすごい武器ですよ」

浜田「日本語、英語、フランス語、イタリア語、スペイン語、韓国語、中国語で一応7つ。それも海外での食事で困らないようになるために覚えました」

田中「すばらしい。それでタイトルやワードまで意識されたら、いよいよ手強いライバルになってしまう(笑)。あとは何が浜田くんの圧倒的な武器かといえば、やはり食と飲食店の経験値でしょう。これは僕も含めて、どんなDJや選曲家が束になっても敵わない。しかも、料理には家庭料理から三つ星レストランの料理まであって、さらに飲食店の食事には、価格差という明確な設定を与えることができる。でも、"選曲差”というのは、正直、そこまで明確に伝えられるものではない。テレビの特番で、芸能人格付けチェックってあるじゃないですか。あんなふうに、僕は選曲比べというのを一回やってみてほしくて(笑)。仮に僕が選曲したとて、おそらく判然としないと思いますよ」

――どうでしょう?ちょっと見てみたい気はしますが(笑)。

田中「そういう意味では、選曲って結構自己満足に近い部分もあることも否めない。先日、浜田くんと一緒に食事をした際、浜田くんが”音楽より自然音を鳴らしている方がいいんじゃないかと思うときもある”と話していたじゃない?」

浜田「はい。覚えています」

田中「そういう坂本龍一さん的な発想も一つの正解だと思う。僕も京都にあるSHUIRO(シュイロ)というカフェの店内BGM選曲で、美山の川のせせらぎ、笹林の葉っぱの擦れる音や養鶏場の鶏の鳴き声なんかをフィールドレコーディングして音楽として流したんです」

浜田「その土地の素材、地のものを使ったということですね」

田中「そう。その土地の音を魂として放つ表現があってもいいんじゃないかなって」

浜田「料理の素材で生産者の名前が明記されていたり、時々、空間デザインにおいて設計者から左官職人の名前までクレジットされているように、食事を終えた後、選曲家の名前がわかるようにしておくのも、一つの演出になり得るのかもしれませんね。食事中は意識していなくても、映画のエンドロールのように、知りたいと思う人が、”ああ、あの気分になったのは、この曲が貢献していたのか”とわかるような試みが演出の一つのピースとしてあってもいいかもしれませんね」 

田中「いいですね。選曲家はあくまで黒子でいいけれど、お客さまが心地よくなるための一つのファクターになるのであれば面白いですね」

――AIと選曲の関係性についてはいかがでしょうか?

田中「今のところはまだあやふやなガシャポン状態だったりしていますが、ここからさらにAIが賢くなって、より精度が上がるのは明らかですよね。いずれ、選曲という行為自体の価値が消滅する可能性もゼロではない。ただ、AIの方も学習をし過ぎるきらいがあって、選曲をさせると僕のパーソナリティに寄せてきたりする。それが果たしていいのか?という問題もあります。もちろん、プロンプトを細かく指定すれば個性は出せるのかもしれませんが」

――確かに、「あなたは〇〇のプロです」のように、現時点でも、AIに対するプロンプトってやや画一化されている印象を受けますからね。

田中「そう。結局プロンプトって主張を伝えるための主張じゃないですか。主張しないものを、主張すら交えてセレクトするために使うのはまだ難しい。つまり、AIがいつ情緒を理解するのか。そうした状況下だからこそ、さっきも言ったように浜田くんの食と飲食店についての経験値は圧倒的な武器になるんですよ。それはAIでは賄えませんから」

浜田「そう言っていただけると心強いです」

田中「これは身も蓋もない話になっちゃうけど、すばらしい空間をわかり易く演出したければ、アンビエントをかけておけば何とかなる。もっと乱暴にいえば、下手な選曲家に頼むぐらいだったら、ブライアン・イーノをかけておけばいい。高級な飲食店でも、現代美術館のホワイエでも、イーノが鳴っていたら、まず誰も文句を言わない」

――確かにそうかもしれませんね。

田中「だから、”プロとしてイーノを流すよりもいい体験を提供したい”という志を持っている僕としては常にイーノが仮想敵。そして、さっき話した僕と浜田くんの差異だけど、まず一つは浜田くんの最新のプレイリストにイーノの曲が入っていたこと。僕は、まずイーノは選ばないから(笑)」

浜田「なるほど(笑)」

田中「あと、浜田くんの選曲は、やっぱり料理のシェフとガチンコなんですよ。いい意味でシリアス。僕は大抵の場合、もっと気楽というか、憂いを入れたければマイナーコードの曲からスタートさせるとか、ハッピーエンドにしたければメジャーコードのフレーズで終わらせるという風に、娯楽の要素を入れるから。いずれもあくまで差異であって、もちろん、それぞれのプレイリストに相応しいお店やシーンがあるし」
 
浜田「勉強になる話ばかりです。田中さんはパリにあるBlanc Paris(ブラン・パリ)や、スペインのバスク地方にあるTxispa(チスパ)の選曲もされていますが、それぞれのシェフとどんなやりとりを重ねられたのでしょうか?」

田中「Blanc Parisの佐藤伸一シェフはいわゆる天才肌で、こだわりの塊みたいな方。開業前の構想の時点で選曲を依頼していただきました。ある程度はお任せでありつつ、”ジャズっぽい女性ボーカルを入れてほしい”といったリクエストも受けつつ、前後の流れを整え、むしろそのリクエストが効果的に活きるようにしましたね」

浜田「Txispaは?」

田中「こちらもオープンからやらせてもらっていますが、シェフの前田哲郎くんからは、“エントランスの滞在時間およそ30分”“外から隔離された神殿もしくは洞窟のような場所”“店に威厳を与えて、ここは未知の場所と知らしめるような選曲を”というふうに、厨房横からダイニング、食後のコーヒータイムまで、場所とシーンに対してのイメージを伝えられました。あと、“トイレの中だけはへんてこりんな音楽をかけてほしい”というリクエストがありました(笑)。料理人っぽいサプライズですね。全部で6時間分くらい選曲したんですが、納品まで何ヵ月も待たせてしまいました(笑)。どちらのお店も、僕としてはシェフとガチで取り組めたケースでした。なかなか得られない経験でしたね」

浜田「実は来週Txispaに行くので非常に楽しみです。僕は意図的に自己主張をしない選曲をするのですが、そうするとバラエティ感というか、幅が出しづらい。でも田中さんのプレイリストを見ると、そこがまったく違うと思いましたね」 

――ここで浜田さんの新しいプレイリストに触れていきましょう。タイトルは「Stillness&Resonance」です。 

浜田「ポストクラシカルなエレクトロが占めているのですが、過去2本のプレイリストとの対比としても、より引っかからずに聴いてもらえると思います。空気感というか緊張感もありつつ、より緩やかな感じの選曲になっていると思います」

田中「本当にすばらしいプレイリストでした。自分がレストランのために選曲をする際、伝家の宝刀みたいに選んでいるアーティストがいるのですが、浜田くんのプレイリストでもいくつか選ばれていたし、さすがだなって」

浜田「ありがとうございます」

田中「BGMの選曲って大変な作業だけど、サブスクリプションの時代になればなるほど、USEN MUSICやOTORAKUのようなサービスはより価値が高まると思います。ちゃんとキュレーションされていて、なおかつ権利関係もクリアになっているというのは非常に便利ですから。いつかUSENと浜田くんと僕の三者で何かいっしょにコラボレーションができるといいですね」

浜田「ぜひ実現したいですね。今日は本当にありがとうございました」

(おわり)

取材・文/内田正樹
写真/野﨑慧嗣


 


「OTORAKU -音・楽- 」PLAY LIST「Stillness&Resonance」 by 浜田岳文


静寂に溶け込む音、空間に広がる心地よい残響。会話や料理の味わいを引き立てるアンビエントとポストクラシカルの選曲。食事の余韻に溶けていく美しい音のグラデーションをお楽しみください。"静寂に溶け込む音と、空間に広がる心地よい残響。会話や料理の味わいを豊かに引き立てる、アンビエントとポストクラシカルの選曲です。食事の余韻に溶けていく、美しい音のグラデーションをお楽しみください。



1. マックス・リヒター「The Departure」
2. Olafur Arnalds「saman」
3. Anomalie, Mael「Leiria」
4. Kan Sano「old folk house」
5. 賽「白昼夢」
6. ブライアン・イーノ「An Ending (Ascent) - Remastered 2005」
7. ロスシル「Endless Falls」
8. Aphex Twin「#3」
9. Nils Frahm「Nils Has a New Piano」
10. Nils Frahm「Corn」
11. Max Cooper「Sea of Sound - Ambient Rework」
12. Max Cooper「The End of Reason - Ambient Rework - Vinyl Edit」
13. Pantha Du Prince「Approach in a Breeze」
14. Lusine「In Flight」
15. Mt. Wolf「Intro - Instrumental」
16. Lycoriscoris「weightless」
17. Lycoriscoris「consciousness garden」
18. ブライアン・イーノ「Deep Blue Day - Remastered 2005」
19. Johann Johannsson, Yuki Numata Resnick, Tarn Travers, Ben Russell, Clarice Jensen「Flight from the City」
20. Helios「Emancipation」
21. Olafur Arnalds「Doria - Island Songs VII」
22. ママール・ハンズ「Being Here」
23. Clark「Amor - C.B. Rework」
24. haruka nakamura「ある光」
25. yutaka hirasaka「wander about」
26. 小瀬村晶「Fallen Flowers」
27. Ryuichi Sakamoto, Georgijs Osokins「Andata」
28. Aphex Twin「#20」
29. David Moore「Graze The Bell」
30. Biosphere「Rimanti in Pace」
31. Hania Rani, Dobrawa Czocher「Spring」
32. Hania Rani, Dobrawa Czocher「Whale's Song」
33. Hania Rani「In Between - From xAbo: Father Boniecki」
34. Hania Rani「The Beach - From I Never Cry」
35. Harold Budd, ブライアン・イーノ「The Pearl - 2005 Digital Remaster」
36. Harold Budd, ブライアン・イーノ「A Stream With Bright Fish - 2005 Digital Remaster」
37. Harold Budd, ブライアン・イーノ「Late October - 2005 Digital Remaster」
38. Niklas Paschburg「Behold」
39. Niklas Paschburg「Holtnevel」
40. Nils Frahm「Them - Solo Piano Edit」
※2026年8月4日配信開始

OTORAKU キュレータープレイリスト

第一回 前橋国際芸術祭2026EVENT INFO

2026年9月19日(土)から2026年12月20日(日)まで@群馬県前橋市

Food as Art?@白井屋ホテル 他

128カ国以上を食べ歩く「世界No.1フーディー」であり、食を文化や芸術の域で捉える「ガストロノミー」としてレストラン業界に大きな影響力を持つ美食家の浜田岳文さんが、前橋国際芸術祭で "Food as Art" を提起するプロジェクトを始動。藤本壮介さんや永山祐子さんらスターアーキテクトが手がけた建築を拠点に「食は現代美術の領域に入り得るか?」という自らの問いを検証する多彩な食体験を、ラスムス・ムンクさんや高田裕介さんら世界的なシェフたちと共同で開発・提供します。
※要チケット

前橋国際芸術祭2026

浜田岳文『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』BOOK INFO

発売日:2024年6月26日(水)発売
1,980円(税込)
ダイヤモンド社

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