――7月19日に5年ぶりのアルバム『Sweet Vision』がリリースされました。5年ぶりということもあり、どんな想いでこの1枚を制作なさいましたか?
「今回のアルバムは『Sweet Vision』というタイトルなんですけど、自分の人生を振り返ってみても、頭に浮かぶビジョンっていうものが全ての現実を作り出していくところにつながっているなって思うんです。僕自身、5年後、10年後の自分の姿を常に思い浮かべながら行動を起こしていますから。だから、僕を応援してくださっている方やこのアルバムを聴いてくださった方が、自分の未来に対して明るいビジョンを描ける。その手助けができるような音楽が届けられたらなというような想いで、このタイトルを含め楽曲制作もさせていただきました」
――タイトル曲の「Sweet Vision」は、山下さんご自身が作詞にも携わっていらっしゃいます。楽曲自体にも夜明けを迎えるような明るさがありますし、歌詞にも<どんな致命的なScarsもSweet visionで上書きしていこう>というメッセージが込められていますよね。そこには、やはりご自身の率直な気持ちが反映されているのでしょうか?
「そうですね。僕の理想も込めつつ、リアルも混ぜつつという感じです。でも、やっぱり強く希望を抱ける自分でいたいなという気持ちはありますね。人生にはいろんなことがありますけど、例えば過去に失敗があったとしても、未来が変わるとそれも失敗というだけではなくなったりすると思うんです。だから、常に前に進んでいく力は忘れたくないなという想いを込めました。そういう波長って、たぶん聴いてくださる方たちにも伝わると思うので、まず自分がそういう気持ちを忘れないようにというのはありますね」
――<人は綺麗なままじゃ いられないのさ>というフレーズに、とてもリアルさを感じました。
「綺麗なままだと自分が綺麗であることにも気づけなかったりする。そういう意味でもあるんです。常にコントラストが強いほうが、自分自身の視野や心の質量も大きくなっていく気がしています。僕個人の抽象的な感覚ではあるんですけど、そういう意味もこのフレーズには入っています」
――他にも作詞なさっている楽曲もありますが、やっぱりなるべくご自身が制作面に関わりたいという思いはあるんですか?
「無理せず、できることはという感じです。忙しいときはどうしても出来なかったりするので。でも、逆に「Sweet Vision」はすごく集中して出来たりしたので、タイミング的なものもありますね。そういう意味でも、この楽曲に関しては自分が感じていることを含めて表現出来たと思いますけど、最終的には人と人との愛情や友情が一番強い力になるのでは?って思っています」
――この5年間の中ではコロナ禍もあって音楽活動が制限された時期もありました。それを経て、音楽活動そのものに対するスタンスや意識に変化はありますか?
「確かに音楽活動は難しかったですけど、逆にそういう時間を過ごせたことで音楽に励まされる瞬間っていうのを自分自身が体感できました。コロナ禍では孤独な時期を過ごした人が多いと思うので、その背中を押してくれる音楽という存在が、より自分の中で大きくなった気もします」
――それが今回のアルバム『Sweet Vision』にも繋がっているのでしょうか?
「そうですね。ポジティブなほうが今の自分にも合っていると思いますし、ちょっと暗い世の中だったというのもあるので。だから、少しでも光のほうを意識しました」
――コロナ禍によってエンターテインメントに対しても何か感じたことはありましたか?
「エンタメの力で何かを変えたいというような気持ちよりは、今、自分が感じていることを表現するっていうことが僕の場合は大きいかもしれないです。確かに作品が持っている力や音楽が持っている力というのはあると思うんです。でも、僕には今あるものに全力で取り組んでいくということしか出来ないなということも感じていて。だから、今、目の前にあることをポジティブな気持ちで作っていくしかないなっていうシンプルな考えになってきましたね」
――『Sweet Vision』はUTAさんと一緒に作られた楽曲も収録されていますが、普段どういうふうに制作をなさっているんですか?
「曲によりますね。UTAさんの作業場に行ってっていうこともありましたし、デモを聴かせてもらったうえで、“ここをもう少しこうできますか?”っていう相談をしながら進めることもあります。今の時代は流行とかってあってないようなものだなって思うんですよ。海外では、昔の日本のシティポップがすごく取り上げられていたりしていますし、国によっても世代によっても反応する曲が違う。そういう意味では、より正解がないなっていう感覚にもなっているので難しさもあるんですけど、僕はシンプルに今の自分が心地いいなと感じるものを意識して作りました」
――トレンドは気にしない?
「トレンドの移り変わりもすごいスピードなので、今の自分がほしいものっていうのが僕の中でのキーワードになっています」
――そこが今回のアルバムで一番こだわった部分ですか?
「そうですね。自分が心地いいものっていうところを意識してやっていたかなと思います。それに加えて映画やドラマとのタイアップで使っていただいた楽曲や、夏にはアリーナツアーもあるので、“ライブでみんなと一緒に歌ったら楽しいんじゃないか?”ってところも意識して作りました」
――「Vision」はかなりヘビーなロックチューンなので、ライブでやったら盛り上がりそうですよね。5年ぶりに、みんなで一緒に歌えるんじゃないかと思います。
「そうなったらいいですね。この曲はCMで使っていただいたりもしたので、聴いてくださった方もいるかなって思いますから」
――シンガーとしての自分に関してはいかがでしょう?5年前と今とでは違いを感じたりはしていますか?
「どうなんでしょう…音楽に携わっているときは歌に対する感覚があったまっている感じがしますけど、離れちゃうと冷めちゃうというか。気持ちが冷めるわけじゃないんですけど、自分は特殊な環境に置いていただいていると思っているんですね。こうやって音楽もやらせてもらって、演技もやらせてもらっているので。だから、演技から音楽に戻ってくると音楽への熱が蘇ってくる。そんな繰り返しをずっとやっている感じです」
――楽曲制作やレコーディングをすることでスイッチが入る感じですか?
「そうですね。だから、本当の理想は、例えば2023年は音楽だけ、2024年は演技だけとかっていうほうが気持ち的には楽なんですよ。でも、なかなかそういうわけにもいってなくて。そのうち環境もそういういい具合に設定していけたらと思っています」
――ボーカルトレーニングもされてますか?
「レコーディング前のときだけですね。撮影とかに入っちゃうと、全然できなくて。もう気持ちがそのことしか考えられなくなっちゃうんです。なかなか器用にできないですね」
――音楽活動と俳優活動の同時進行は難しい?
「年齢を重ねてより難しくなりましたね。ひとつひとつもっと掘り下げて行かないといけないというか。深さを出していかなきゃいけないので、両方やるっていうのは僕の中では不可能に近いです。ひとつひとつ時間をかけないと深く掘って行けないっていうところがあるのかもしれないですね」
――そうなんですね。
――今回のアルバムを聴いていて、すごくファルセットが多い気がしましたし、とてもキレイに出ていたのでトレーニングしていたのかと思いました。気持ちが入っていたせいかもしれませんが。
「確かにファルセットは多かったかもしれないです。でも、それをうまく使えていたとしたら、そこには気持ちの部分が大きかったような気がしますね。気持ちを込められるようにっていうことは意識していたと思うので」
――やはり今の自分にフィットした楽曲になっているからこそ、より想いを込められたということでしょうか?
「そうですね。あとはいろいろな経験とかも含めて、その言葉が持っている意味の捉え方が自分の中で少し変わってきているのも感じています。言葉が持っている意味のレンジが、自分の中で広くなっているのかな?って思います」
――ご自身の経験値が増すことで、でしょうか?
「そうですね。その結果、そこに深みが出たりレイアーが生まれるのかもしれないです」
――今回のアルバムにも、ご自身が出演した海外の映画やドラマで使われた楽曲が収録されていますが、山下さんは海外活動も盛んです。山下さん自身、海外で活動することは自分にとって必然だったと思いますか?
「はい。僕が生きて来た環境が、たぶんそういうふうに自分の進む方向を決めてくれたような気がします」
――若い時から、それを欲していた?
「そうですね、子供のときから。僕のおばあちゃんのお姉さんがアメリカの方と結婚したんですよ。そのお孫さんが僕よりちょっと年上なんですけど、子供のとき、夏休みによく日本に遊びに来ていたんです。そこでカルチャーの違いとかをなんとなく感じていたんですね。そういうこともありましたし、僕は子供のときから海外で雑誌の撮影をさせてもらったりもしていた。そういうのが積み重なって今に至るっていう感じだと思います」
――どんどん海外への興味が増していった?
「そうですね。でも、もちろん海外を旅するのは好きですけど、日本を旅するのも好きなんですよ。自分の住んでいるベースから、いろんなところに行きたいって思う。そういう性質なんだと思います(笑)」
――その結果、自分の生活や精神的な部分が豊かになりますか?
「はい。だから、たぶんまだ気持ちが外に向いているのかもしれないです。逆に僕は家になかなかいれない人なんですよ。1日に1回は外に出ないとダメ。1日中家にいるのは風邪ひいているときくらいですね笑)」
――旅も含め、外に出ることが刺激になったり、癒しになったりするんでしょうか?
「やっぱり外からの刺激って大事だなって思っているので、常に自分に刺激を入れるようにしています。以前とは少し環境が変わりましたし、今の僕は道なき道を手探りで進んでいる状態だと思うんですよ。でも、それも楽しんで進んでいますね」
――“道なき道を手探りで進む”ことって、大変なことでもあると思うんです。でも、逆に山下さんにとっては、それが心地よかったり、やりがいがあったりするのでしょうか?
「“生きてるな”っていう感じは、より強く感じる気がします。例え話ですけど、道がちゃんと舗装されている場所や特急列車に乗ったら早く目的地に着きますけど、その過程って忘れがちになっちゃうじゃないですか。でも、自分で運転していくと、時に地図を見ながら、“あれ?この道で合ってるのかな?”っていうことがあったり。そうするとその過程すら目的化するんですよ。そうやって全部のプロセスを味わえる。それは大変だけど楽しいです。元々そういう性格なのかもしれないですけど、僕の中では、その過程を体感したいという気持ちが消えないんです。それが自分にとっては、ある種の活力の一部なのかな?と思うので、ポジティブに捉えてやっていますね」
――全部自分で選んで、自分でジャッジして?
「そうですね。でも、そこに深い意味はないんですよ。単にそういう性格だっていうだけ(笑)。そういう性格に生まれちゃったから、自分で運転しているだけなんです」
――途中で間違って別の道に行っちゃっても、それはそれで楽しめるんですか?
「はい。その結果、また新しい道が見つかるかもしれないですからね」
――今、山下さんはグローバルに活動なさっていますし、アーティストとしても俳優としても活躍しています。では、山下さんご自身が思う“表現者・山下智久”の現在地は、自分が思い描く目標に対して、今どのへんの位置にいると捉えていますか?
「いや、まだ全然です。たぶん5合目くらいじゃないですか?まだまだ先は長いというか、先が見えちゃったらつまらないと思うんですよ。むしろ5合目あたりだったら、ギリギリ“頂上が見えるかな?”くらいなので、そのほうが楽しいなって思います。でも、もしかしたら途中で体力がついて、すごく早く頂上に登れちゃうかもしれない。そういうことも含めて楽しんでやっていきたいですね」
――先ほども“常に5年後、10年後の自分を思い浮かべながら行動している”とおっしゃっていましたが、そうやって遠いビジョンを設定することも大切だと考えているんですね。
「そうですね。“一塁打を打つぞ!”みたいなことではなく、やっぱり場外ホームランを狙ったほうがボールは飛ぶと思うんですよ。だから、5年後、10年後の目標を立てておいたほうが、進みやすくなるだろうという感覚なんです。目の前ばっかり見ていたら、進み具合はあまりよくないと思いますから」
――視野も狭くなりますしね。
「そうなんです。僕は自分のキャリアを質のいい形で構築していきたいと思っているんですけど、そのためには、まず自分の視野を広げていくことが大事だと思っていて。旅が好きなのも、そうすることで自分の中にいろいろなものを吸収できるからなんです。そして、それを続けていくと、そのときの自分に合う人に出会える。だから、自分を成長させていく、自分の感覚を広げていくということを繰り返していけば、きっとしっかりしたキャリアを築けていけると信じています」
――山下さんのキャリアには音楽と俳優の両方がありますよね。どちらもあることが、山下さんにとってはバランスがいいんですか?
「結局のところ、そうだと思いますよ。俳優としての僕が好きな人も、音楽をやっている僕が好きな人もいるかもしれないですし、両方やっている僕が好きな人もいるかもしれないので。それに自分はずっとそうやって生きて来ました。だから、これからもそうやって生きていくと思います」
――今回のアルバムが5年ぶりにはなりましたが、音楽も山下さんにとって欠かせない要素なんですね。
「そうですね。アルバムもそうですけど、コンサートっていう場を作れることって、すごくありがたいことだと思うんです。そして、会場に来てくださる方がいることもありがたいですし、コンサートそのものがシンプルに楽しい時間でもあるんです。そういう楽しいことはやっていきたいなって思うので、音楽も演技の仕事もいいバランスで両方やっていけたらいいなと思っていますね」
――アリーナツアーも8月から始まりますが、どんなツアーにしたいと考えていますか?
「コンサートの時間って2時間くらいだと思うんですけど、その2時間が、できるだけ長い期間、来てくださった方の思い出に残る。そんな時間にしたいですね。そのためにも楽しいとかせつないというような感情の波をひとつのコンサートの中で作りたい。そして、いろんなものをみんなで一緒に発散して、心をクリアに出来るようなコンサートになったらいいなと思っています」
――長い間待ってくれていて、今回の会場に集ってくれるファンの方がたくさんいると思います。やはり応援してくださるファンの方への想いは強いですか?
「僕とファンの方って、どちらか片方だけじゃ存在できないじゃないですか。お互いがいてこそ成立するところがあるので、僕がもらってばかりじゃなく、ちゃんとギブしたい気持ちがありますね。だから、今の自分に出来るベストなものをしっかり届けられるよう、コンサートというパズルをひとつひとつ組み立てていきたいと思っています」
――今は声出しもOKになってきています。それも含めて山下さんが楽しみにしていることはありますか?
「声を枯らしてほしいですね(笑)。日常で声を枯らすことってなかなかないと思うので、みんなの情熱をぶつけて来てくれたら嬉しいです。そうやってみんなで一緒に盛り上げたいです」
(おわり)
取材・文/星野 櫻
写真/中村功
RELEASE INFORMATION
山下智久『Sweet Vision』
2023年7月19日(水)発売
初回限定盤(CD+初回限定盤DVD)
/LB9CD-0004/5,500円(税込)
LABEL9
山下智久『Sweet Vision』
2023年7月19日(水)発売
初回限定盤(CD+初回限定盤DVD)
/LB9CD-0004/5,500円(税込)
LABEL9
LIVE INFORMATION
TOMOHISA YAMASHITA ARENA TOUR 2023 -Sweet Vision-
8月11⽇(祝・⾦) 愛知 ポートメッセなごや 新第1展⽰館
8月12⽇(⼟) 愛知 ポートメッセなごや 新第1展⽰館
8月15⽇(⽕) 兵庫・ワールド記念ホール
8月16⽇(⽔) 兵庫・ワールド記念ホール
9月2⽇(⼟) 神奈川・ぴあアリーナMM
9月3⽇(⽇) 神奈川・ぴあアリーナMM
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