毎回好評のカヴァー・アルバムの最新作にして、発売のきっかけやコンセプトも含めて大きな話題を呼んだ“流し”シリーズの第2弾『流しのOOJA 2〜Vintage Song Covers〜』に続いて、Ms.OOJAの通算9作目となるオリジナル・アルバム『40』が届いた。タイトルが示す通り、今作でMs.OOJAは、40歳になった自身の心情や見えている景色を、ストレートに綴っている。至るところにR&Bに対する愛があふれるサウンドも、大きな節目を迎えた彼女のシンガー・ソングライターとしてのステイトメントと言えるだろう。アルバムのリリースに先駆けて、東京と横浜、大阪のBillboard Liveを回るツアーを開催、リリース直後の9月8日からは、ゆかりの深い北海道をツアーする本人に話を聞いた。
――まずは、終えられたばかりの“Ms.OOJA「40」Billboard Live Tour”の感想を聞かせてください。
「今回は、Ms.OOJAの進化した部分を見せられたライヴができたんじゃないかな?って思います。「30」で始まって「40」で終わるセットリストにして、流れを大切にしたのが伝わったのか、アルバムのリリース前なのに、とてもいい反応をいただけました」
――ステージで、どんな進化を見せられたと思いますか?
「今までだったら、スタンディングで踊るような曲を必ず入れていたんですけど、今回は大人っぽい雰囲気の曲を中心にして、それでもグルーヴで体が勝手に揺れるみたいな、そういうライヴをイメージしてセットリストを考えたんです。実際にそれができていたと感じました」
――なるほど。その「40」ですが、40歳のタイミングで年齢をタイトルにしたアルバム『40』をリリースするというのは、ご自身が考えていたことだったんですか?
「はい。「30」という曲を作った時は、「30」というタイトルの曲を作ろうとは思っていなかったんです。悩んでつけたタイトルだったんですけど、結果的にとてもいい節目になったし、ファンの方にもすごく愛していただけて、“10年後は「40」だね”っていう声をたくさんいただいたんですね。私も40歳が近づくにつれて意識するようになって、実際に40歳になってみて、“「40」を作りたい“と思いました」
――今回は曲名でもあり、アルバム・タイトルでもありますね。
「初めは、「40」という曲を作るつもりでした。でも、それよりも40歳をコンセプトにしたアルバムを作って、そのタイトルにするほうがいいんじゃないか?と思ったんです。というのも、「30」はけっこう重い失恋ソングだから、それを「40」で表現すると、さらに重くなっちゃうんじゃないか?と思ったからで(笑)。そこですごく悩んで、アルバムのタイトルにすることを念頭に置いて、40歳をテーマにいろんな曲を作ってみることにしたんです」
――『40』は、コンセプト・アルバムということですね。
「そうです。「光射す方へ」だけタイアップ曲ですけど、歌詞の内容的にテーマから外れてはいないですし。ただ、「40」という曲を入れるかどうかを、最後の最後まで悩みました。実際に作ってみたんですけど、できた瞬間はいいと思っても、録って聴いてみると、なんか違うな…っていう気がして。でも、アルバムの制作が佳境に入ったタイミングぐらいで、“やっぱりあの曲が必要だ”って思ったんです。というのも、いろんな曲を私は歌いますけど、「40」ってすごくMs.OOJAらしい、決定的なアイコンになるような曲なんです。あまりにもMs.OOJAっぽすぎて、最初は同族嫌悪じゃないけど、ちょっと受け入れられないところがあったんです。でも本当に素直な気持ちで作った曲だし、少し距離を置いてから聴いてみたら、しっくりきたんですよね」
――複数のプロデューサーが起用されていますが、OOJAさんが音楽的に目指しているところを、よく知っている方たちなのでしょうか?
「その通りです。ここまでがっつり恋愛ソングを入れたのは、久し振りだったし、人生ソングとか応援ソングとかもあって、いろんなテーマで曲を書いたので、自然にそうなりました。「Little Car」では、20年前の自分へのメッセージというか、あのころの自分を忘れないようにしたいという気持ちと、あの頃があったから今があるという気持ちを歌っています。20歳の自分に30歳の自分が言っても説得力がないし、50歳だと離れ過ぎているし、40歳だからこそ書ける曲かな?と」
――R&Bテイストが効いたアーバンでグルーヴィーな楽曲が揃った、まさに大人のポップ・アルバムに仕上がっていますね。
「リファレンスが、1990年代、2000年代のR&Bっていうのはありますね。自分が好きで、実際に聴いてきたものなので、そこは素直に表現したいなっていう。「楽園」だけちょっとロックっぽいところがあって、それはそれでMs.OOJAらしいと思っています。実はこの5、6年の間、発表するタイミングを見計らっていた曲なんです。歳を重ねるごとに、時間というのは限られたものなのだから、もっと自分を喜ばせてあげてもいいんじゃないか?って考えるようになってきていて、その感覚にピッタリの曲なので、アルバムに収録しました」
――40歳になった心境というのは、やはり20歳、30歳の時とは違いますか?
「違いますね。“オトナ”っていう感じ(笑)。私も大人にならないといけない年齢になったなと。死がリアルに見えるようになるというか、失っていくもののほうが多くなるのかなって、考えたりもします。まだまだ人生は長いと思うんですが、ここまで上りだったものが、折り返して下りになっていくようなイメージがあるんですよね。30になった時も、“もう大人なんだな”って思ったんですけど、今30代を振り返ると、まだまだでしたね。親との別れとか、これから先に起こることを、いろいろ覚悟しないといけない世代であることも意識するようになりました」
――恋愛観は、どうでしょう?
「恋愛観も変わってきていると思います。「40」もそうだし、「Desert」もそうなんですけど、すごく未来を見ているんですよね。大切な時間を、誰とどう過ごしていきたいのか?っていう。相手にも幸せになってほしいし、頼り過ぎないような選択肢を、40になって持てるようになった気がするんです。求めるより与えたいという想いが、強くなってきていて…。まだまだ施しを受けることが多い立場ではあるんですけど(笑)。私が尊敬する大人の方って、だいたい与える人=“GIVER”で、そういう方ほど周りに人がたくさん集まってきていたり、成功していたりするんですよね。人間の真理というか、愛する人に与えることが、喜びになっていくんだっていうことを実感するようになって、そこは30歳との大きな違いかな?と思います。「40」は<強くなるよ>っていう歌詞で締めているんですけど、そういうところにも変化が表れていると思います」
――今回のアルバムのアイコンにもなっている曲と言えますね。
「そうですね。実は歌詞に「30」とリンクしている部分が多いので、見比べながら聴いていただきたいんですよね。ジャケット写真もかなり踏襲していて、メイクもほぼ同じなんです。当時は、ちょっと外国人っぽい、目の上を真っ黒にする囲み目メイクとか、バサっとしたつけまつ毛とかがはやっていたんですよ。それを再現してみました。1周してまた流行が来ると思うので、先取りです(笑)」
――「Little Car」の歌詞に出てくる『Songs in A minor』は、実際によく聴いていたアルバムなんですか?
「本当によく聴いていました。アリシア・キーズが大好きで。聴いていたし、歌ってもいました。当時は車に乗る機会が多かったので、乗ったらずっと歌っていましたね。すごく小さな車に乗っていたんですよ。ピンクのNissan MOCOとか、かわいいやつ。車って、ヒッホップのイメージがあるじゃないですか。大きいアメ車的な。全然そうじゃないんです。「Little Car」なんてカッコ良く言っていますけど(笑)」
――「優しい世界の真ん中で」では、世界は優しいと歌っていて、この時代に素敵なことだなと思いました。
「コロナ禍は、まあ抜けましたけど、世の中がどんどん殺伐としていっているなって、特にメディアを見ていると感じるじゃないですか。そしてそのメディアに、生活が占領されてしまっている。気がつけば私も、ぞっとするほど携帯を見ていたりしていて。そういうところにばかりいると、世の中がすごく冷たくて厳しいものに感じられて、窮屈になるんですよね。でも実はそうじゃなくて、“世界は優しさにあふれているんだよ”っていう希望を込めて、心の中のモヤモヤを表現しました。願いですね」
――「Sky」という曲では、とてもクリアなハイ・トーンの歌声が際立っています。
「大野(裕一)くん(SoundBreakers)と一緒に作った曲なんですけど、大野くんはよりポップでクリーンな音楽が好きなイメージがあるんですね。90年代のボーイズ・コーラス・グループとか。だから、“ベイビーフェイスをイメージして、ひとりコーラス・グループみたいな曲を作ろう”って(笑)。私が毎日欠かさずやっている、“おはようツイート”のことを歌っています。ファンの皆さんのありがたさや、愛おしさを感じることが多いので。ファンとの絆の曲ですね」
――シンガーとして、ソングライターとして、そして女性として成熟した姿を収めたアルバムになりましたね。
「自分にとってもすごくメモリアルな1枚になりましたし、不自然さがないというか、40年生きてきた自分をリアルに表現できた気がしています。9曲というヴォリューム感もいいし、繰り返し聴いてほしいですね。40、40って、そんなに自分の年齢を言わなくてもいいような気もしますけど(笑)。でも年齢って、生きてきた明かしだと思うし、それを表現した作品なので、すごく気に入っています」
――9月8日からは、6年ぶりとなる北海道ツアーです。
「北海道でラジオをやらせていただいて、もう12年目になるんですけど、それだけ長いとホームという感覚になってくるんですよね。でも意外と札幌以外に行く機会がないので、いろいろ回ってリスナーの皆さんにお会いしたいという想いがあって、6年前に道内ツアーをやったんです。それがすごく楽しくて、2020年にも計画していたんですけど、コロナでダメになって。3年越しに、ようやく実現しました。すごいハード・スケジュールで、キャパが100人から200人ぐらいの小さな会場を回るんですよ。最終日の翌々日にフェスに出ることも決定したので、道内8カ所を10日で回ります」
――すでにほとんどソールド・アウトしているんですよね。
「それもありがたくて。ただ、前回は私、6歳若かったんですよね。大丈夫かな?と(笑)。でも、近くでファンの方に会えるのが、すごく楽しみです」
(おわり)
取材・文/鈴木宏和
RELEASE INFORMATION
LIVE INFORMATION
Ms.OOJA 2023 道内Tour
日程
9月8日(金) 函館 函館山山頂展望台ホール クレモナ ★Thank you Sold Out
9月9日(土) 小樽 小樽GOLD STONE ★Thank you Sold Out
9月10日(日) 美唄 アルテピアッツァ美唄 アートスペース ★Thank you Sold Out
9月12日(火) 旭川 島田音楽堂 ★Thank you Sold Out
9月14日(木) 釧路 アイコム・イベントホール ★Thank you Sold Out
9月15日(金) 帯広 ランチョエルパソ ★Thank you Sold Out
9月16日(土) 池田町 池田町田園ホール
NAGANUMA OASIS 2023 -FOOD & MUSIC FESTIVAL-
9月18日(月) 夕張郡 ながぬまコミュニティ公園
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