――明石選手のセレモニーを見たのですが、本人のスピーチも、OOJAさんのパフォーマンスも、とても感動的でした。
「ありがとうございます。明石選手の引退発表があった9月23日(金)は四日市でライヴだったんですね。突然で、しかも翌日の9月24日(土)に引退試合ということでした。私は9月25日(日)が大阪でライヴで、引退試合当日は空いていたから、“試合を観るだけでもいいし、歌えるなら歌いたい”って伝えたんですね。そしたら行けることになったので、9月24日(土)に四日市から福岡に飛んで、歌いました。リハーサルをする時間もなかったので、ぶっつけ本番で」
――そんな急な話だったんですか。本番に強いんですね。
「強いんです(笑)。明石選手は2013年から私の「Be...」だけを使ってくれていたので、お客さんも「Be...」が流れたら“明石選手が出てくる!”って、インプットされているんですね。だから、ホークスファンはもちろん、プロ野球ファンの中にも、明石選手を通じてMs.OOJAを知ってくれた方が、たくさんいるんですよ。しかも、生え抜きで19年間ホークスでやられてきた方なので、球団にもファンにも本当に愛されていて」
――代打の場面も、セレモニーも泣けました。
「ですよね。もう号泣ですよ。ずっと泣いていました。本当にいいものを見させていただいたし、素晴らしい場に参加させていただきました」
――待望の『流しのOOJA 2』が、リリースされました。改めて、このシリーズが生まれた経緯を聞かせていただけますか。ラジオの仕事で、札幌に行くようになったところからですよね?
「そうなんです。そのラジオ番組を始めるきっかけとなった、ディレクターさんがやっているバーがあって、昔の歌謡曲やニュー・ミュージックをレコードで流しているお店なんですね。そこで聴く音楽がとてもカッコ良くて、自分でも歌いたくなったんです。それで、お店で地元のキーボーディストの方とセッションをやらせてもらって、インスタライヴで配信するようになったのが始まりでした」
――普通にお客さんもいる中で、ですよね?
「そうです。なんの予告もなく」
――ゲリラ的に?
「まさにゲリラライヴですね(笑)」
――OOJAさんは、昭和歌謡やニュー・ミュージックにどんな魅力を感じているのでしょうか?
「“体にそういう血が流れているんだろうな”って感じるんですよね。日本語ならではのメロディの美しさに、すごく魅力を感じています。今シティ・ポップって呼ばれているような音楽にしても、洋楽の要素を取り入れてはいるんですけど、日本語にとても合うメロディなんです。それがオリジナリティになっていて、土着的なものも感じる。だから、オリエンタルな音楽としてシティ・ポップがはやっているのかなと思っているところもあります。先人たちが楽しみながら、試行錯誤して作り出したものなんでしょうね。歌謡曲も、演歌から派生して、少しずつ違う路線が作られていった感じだと思うんですよ」
――なるほど。
「いろんな人の才能を感じますよね。スペシャリストしか世に出られない時代だったと思うんです。レコードを作って出すとか、今とは違って限られた人しかできなくて。なおかつ、当時はアウトプットが基本、テレビじゃないですか。日本全体が同時期に、同じヒット曲を聴いているみたいな時代でしたよね。大人も子供も、『ザ・ベストテン』とかで。選ばれし者たちみたいなイメージが、私の中であって、だからこそ、そういう人たちのヒット曲は歌い継がれていくし、いまだに色褪せないんじゃないかって。八神(純子)さんの「パープルタウン」とか、まったく知らなかったんですけど、めちゃくちゃかっこいいなと思いました。「フライディ・チャイナタウン」(『流しのOOJA』第1弾に収録)もそうです」
――この第2弾は、どのように選曲したのですか?
「今回は、リクエストがメインです。YouTubeのコメント欄に届けて頂いたたくさんのリクエストから選曲させて頂きました。ひとり1曲ということはないので、かなりの曲数で…まったく知らない曲もあったし、スタッフと聴きながら候補を絞って、自分に合う曲をカラオケで歌いながら決めていきました。ひとりカラオケデビューしましたよ(笑)。歌ってみて録音して、聴いてみてっていうのを何日もかけてやりました。スタッフにも送って。すごく悩みました」
――ものすごい競争率を勝ち抜いた12曲なんですね。
「そうなんです。まだまだ歌いたい曲があって、もう『3』を作りたいと思っています(笑)」
――個人的に男性の曲の「初恋」に興味があったのですが、村下孝蔵さんが醸す切なさとは、また違う切なさがあって、聴き入ってしまいました。そして改めて、曲の良さを実感しました。
「唯一、男性の曲ですね。前回の「夏をあきらめて」も研ナオコさんヴァージョンのカヴァーでしたし、女性縛りだったんですよね。今回は“性別に関係なくカヴァーしよう”と思っていて、男性の曲の候補がもっとあったんですよ。だけど気付いたら「初恋」だけで。次回は増やすかもしれません」
――ちなみに村下孝蔵さんのことは?
「確か亡くなられた時だったと思うんですけど、母から話を聞いていました。“すごく歌がうまくて、声も良くて、いい曲を歌っていたんだよ”って。私が中学生か高校生ぐらいの時でした」
――「MIDNIGHT PRETENDERS」は、ザ・ウィークエンドがサンプリング(アルバム『ドーン・エフエム』収録の「アウト・オブ・タイム」)したことでも話題になりました。
「そうですね。ザ・ウィークエンドは好きで聴いているんですけど、この曲をサンプリングしていたことは知らなかったんです。知って原曲を聴いてみて、“いい曲だな”と」
――「恋におちて」は、“金妻”(TVドラマ『金曜日の妻たちへ』。主題歌が「恋におちて」)世代から反響がありそうですね?
「すでにめちゃくちゃ反響があります。YouTube再生数もサブスク再生数も、一番多いんじゃないかな。私、2番から英語になるのを知らなかったんですよ。カラオケに行った時に、“歌って”と言われて歌ったことがあるんですけど、“2番から英語になるなんて聞いてないよ!”っていう(笑)」
――OOJAさんのカヴァーって、オリジナルの良さが際立ちつつ、OOJAさんの色もしっかり出ていて、だけど決して出過ぎないという、絶妙なバランスがあると思うんですよね。
「私としては、自分のオリジナル曲を歌っているのと、そんなに変わらないスタンスなんです。自分の曲だと思って、歌っているところもあるので。カヴァーなので、いろんな声色を試せるというか、いろんな自分になれる楽しみみたいなものがあるんですけど、レコーディングするとなると、そこに責任が生まれてくるわけですよね。ただライヴで歌うのとは違って、責任を持つには、いったん自分の曲にしないといけない。だから、“曲対歌手”という向き合い方は、オリジナルもカヴァーも全然変わらなくて。ただ、本当に素晴らしい曲ばかりなので、歌うことが楽しいんです。嬉しくてしょうがないし。そういう感覚でやっています」
――愛、ですかね。
「そうですね。愛はかなり深いと思います。だから、私がどうというよりも、曲がどう聴こえるかが重要。アレンジも、“原曲を壊さないように”とお願いしています。その中で遊びが入ったりはしていますけど、基本的には私が持っている原曲のイメージに沿ったアレンジにしてもらっています。歌も、そういう気持ちで歌っています。当時の空気感みたいなものを、絶対になくしたくないので」
――これはちょっと若造にはできませんね。
「そうですね(笑)。やっとトライできるようになったと思っています。でも原曲は、皆さん若くして歌っていらっしゃったので、本当にすごいですよね。実はトライしたくてもまだできていない曲があって…ちあきなおみさんの「喝采」なんですよ。リクエストもいただいていますけど、まだ早いんです。“いつ歌えるか?”というのが私のテーマとしてあって、歌うまではシリーズを続けたいと考えています」
――ずっと続けてほしいと思っているリスナーも多いはずです。
「私もカヴァーを通して知った曲がたくさんあるし、“こんな名曲があるんだ”って知った時の喜びって、すごく大きいんですよね。私のカヴァーで興味を持って、原曲を聴いてくれたり、歌ってくれたり、そういう架け橋になれればいいなと思っています。宝石のような名曲が本当にいっぱいあって、全部歌いたいぐらいなんです。私が歌うと、そこでいったん新しくなるわけじゃないですか。それをまた、誰かが受け継いでくれたらと」
――明石選手の引退前日に行われた、「TADAIMA & Birthday Live Tour 2022」の“TADAIMA Live”に続いて、10月28日に横浜、11月2日に大阪で“Birthday Live”が開催されます。
「2018年から毎年、誕生日を強制的に祝ってもらっていまして(笑)。今回は、オリジナル曲パートと、流しのOOJAパートの2部構成のライヴになります。衣装も含めて、期待していてください。私もとても楽しみです」
――最後に、2023年の抱負を聞かせてください。
「2023年は、40代に突入します。人生80年としたら、折り返しです。自分のペースで楽しめる時期だと思っているので、今まで以上に楽しみたいですね。自分でも今、技術も身について、脂も乗っていて、今までで一番なんじゃないかと思っています。ここからいい意味で、いろいろ抜けたり落ちたりしていくんでしょうけど、それも楽しみながら歳を重ねていきたいですね」
(おわり)
取材・文/鈴木宏和
RELEASE INFORMATION
Ms.OOJA『流しのOOJA 2 〜VINTAGE SONG COVERS〜』
2022年9月21日(水)発売
通常盤/UMCK-1723/3,000円(税込)
ユニバーサルミュージック
LIVE INFORMATION
TADAIMA & Birthday Live 2022
9月23日(金・祝) 三重 四日市市文化会館 ※TADAIMA Liveは終了しております。
10月28日(金) 神奈川 KT Zepp Yokohama
11月2日(水) 大阪 Zepp Namba
Ms.OOJA × U-NEXT / SMART USEN
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