時代や流行などにとらわれず、奇を衒わず、オリジナリティあふれる楽曲を、唯一無二のヴォーカルで歌い続けているシンガー・ソングライター、笹川美和。その深く美しい世界観が抗えない魅力に満ちていることは、彼女の音楽に触れたことがある人なら、わかるはずだ。今年6月には、自ら「ライフワーク」と語るプラネタリウムライヴ“LIVE in the DARK”とコラボレートした、CDとブックレット仕様の写真集(歌詞/エッセイ/短編小説を収録)からなる最新ミニ・アルバム『スピカ』を、会場限定で発表。同作を携え10月1日からは、東京、福岡、京都、新潟の4都市を回る全国ツアー『笹川美和 tour 2022 -スピカに願いを-』が開催される。それに先駆けて、本人に話を聞いた。
――そもそも“LIVE in the DARK”に最初に出演されたのは、何かきっかけがあったのですか?
「個人的に、普通にプラネタリウムに遊びに行ったんです。プラネタリウム天空(※押上にあるコニカミノルタプラネタリウム天空 in 東京スカイツリータウン®)に。その時に時間を知りたくてホームページを見て、初めてライヴをやっていることを知りました。私が観たのは、知り合いの安藤裕子さんだったんですね。それで、もしかしたら遠からず機会があるかしれないと思いつつ、“私も出たいな〜”って当時のマネージャーと話していたんです。そしたら、先方のプロデューサーさんのほうからお話をいただきまして」
――プラネタリウムが好きなのですか?
「好きなんですよね。星空とか」
――なんか、そんな感じがします。
「ハハハハハ。星や月を眺めるのがクセというか、よく空を見ています。たぶん、実家がすごく田舎で、星がよく見えていたのと、あと祖母がよく“美和さん満月だよ、観に行こう”って誘ってくるような人だったので、身近だったんですかね。落ち着くんです。ずっと見ていられます」
――そういう話が、プロデューサーさんの耳に入っていたのでしょうか?
「それが入っていなかったみたいなんですよ。それなのにお誘いして頂いて、嬉しかったですね。即答で“出ます出ます!”っていう感じでした(笑)」
――『スピカ』には“LIVE in the DARK”のために書き下ろされた、4曲が収録されています。実際に、プラネタリウムでのライヴで披露された楽曲なのですか?
「そうです。私は今年6月の出演が5回目だったんですけど、3回目から今のピアノとストリングスの編成になって、“嬉しい!”と思っていたら、そのライヴがコロナで延期になったんですね。それで、“ストリングスが好きだから曲を作ろうかな?”なんて話していたら、バンマスのコントラバスの(渡邉)紘さんも“本当ですか?ぜひ!”ということで、そこからあれよあれよと。セットリストも決まっていたし、延期にならなかったら作っていなかったかもしれません」
――それが1曲目の「アルタイル」なんですね。
「そうです。その回のテーマが夏だったので、夏の星の歌にしました。実際に“LIVE in the DARK”で歌ってみたら楽しくて、評判も良かったので、“じゃあ秋、冬、春と四季の曲を作ろう!”という話になって、4回目に秋ソングの「ペガサス」、冬ソングの「スバル」、そして今年6月に春ソングの「スピカ」を披露させていただきました」
――こういうテーマ性の強い楽曲は、どのようにして作っていくのですか?
「私は、テーマが自由なほうが不自由っていうのがあって、季節が決まっていたりするほうが作りやすいんです。星や空の名前の本とかも持っていて、読んでいたら自分の思い出が甦ってきたので、それを曲にしていきました。たとえば『アルタイル』の<僕>は私で、地元が新潟の海のある町なんですね。高校生のころ、夜の海に遊びに行ったりすると、もう星空がすごいんですよ。それを思い出しながら、都会と地元の空を対比させた歌詞にしました」
――「ペガサス」は、結ばれる運命だったと思っていた人との別れの歌ですね。実体験なのでしょうか?
「そうですね…実体験をもと創作を広げた歌詞になるんですが、私ぐらいの世代の女性だったら、1度は経験しているのではないでしょうか。若いころと違って、思い起こしても諦めがつくというか、自分で自分を救えるようになった世代の失恋ソングなのかなと。“なんだかんだ生きていくと、傷が癒えるのよね”ってわかったうえでの失恋というか。でも、こういうことを経験していない方は、本当に幸せだと思います(笑)」
――大人の女性でいらっしゃるのですね。
「ハハハハハ。さすがに40も近くなると(笑)。20代とか10代とかだと、“なんとか元に戻れないだろうか?”とか考えるんですけど、“まあダメなもんはダメなんだよな”って。“これ以上はダメージが大きくなるから、ここで線引きしよう”って、自分で納得する理由を見つけられたりするのが、このぐらいの世代なのかなと思うんですよね」
――「スバル」は、運命の残酷さのようなものを考えさせます。
「個人的には、人間は幸せになるために生まれてくると思っていますし、人生を悲観しているわけでは決してないんです。とは言えやっぱり、ことごとく感情が傷つくことが人生には起きて、“やっと解決した”と思うと、また想像していなかったことが起きたりしますよね。ただ、私自身はクリスチャンではないんですけど、キリスト教の高校出身なので神様を否定しないし、乗り越えられないものを神様は与えないとは思っているんですね。ものごとにはすべて、意味があるっていう。「スバル」は暗く聴こえるかもしれませんけど、乗り越えたことによって前向きになれるという曲なんです。もちろん、聴く方がうんと落ちるんだったら、それでいいんです。落ちたい時ってありますし。それでも、新潟の自然の中にいると救われることがあるということを、表現したかったんですよね」
――最終曲の「スピカ」は希望を感じさせてくれる楽曲で、最後のフレーズに心を揺さぶられてしまいました。
「嬉しいです。一番わかりやすい、前向きな曲かもしれませんね。スピカは和名が真珠星なんですけど、胸に希望を持っていると、人間は生きていけると思うんですよね。小さいことでいいんです。“今日帰ったら、家でドーナツが待っている”とか(笑)。そんなことで、けっこう頑張れるというか、その積み重ねでいいんじゃないかなって。生きていればもちろん、劇的な幸せもあるでしょうし、さっきも言ったように、人は幸せになるために生まれてくるんだと思います。“幸せだったな”と思って死にたいです。死にたいくらい凹むこともあるけど、死んでしまって、その先にあるかもしれない素晴らしい景色を見られないのはもったいないですし、光と影があるのが人生なのだとしたら、自分で光を見つけていけばいいのかなと」
――確かに前向きです。
「私がそもそも、ものすごくマイナス思考な人間なんですね。ただ去年は、1年の目標を“首の骨を折ってでも前を向く”にしたんですよ」
――首を骨折して前を向くのは難しそうです(笑)。
「そういうものすごい目標を掲げて、プラス思考に変えるように頑張っていると、それがけっこう習慣になるみたいで」
――プラス思考に変われたと。
「わりと、ちょっと悪く考えそうになっても、“いやいやいや”って持っていけるようになりました。そうすると、ものごとっていいほうに回転したりするので、本当に気持ち次第なんだなって。まあ精神論なんですけど、そう思えるようになりました。「スピカ」も、“こうありたい”っていう願いを込めて歌っています。聴いて少しでも前向きな気持ちなってもらえたら、嬉しいです」
――ピアノとヴァイオリン、コントラバスという今の布陣も、とても合っていますね。
「プロデューサーさんから“美和さんに合うと思います”って薦めていただいて、3人の生演奏も実際に拝見したんです。“好き!”と思って、ご一緒させていただきました。ツアーもこのチームで回りたいんですよね。世代も近いですし」
――エッセイと短編小説も面白くて、短いながらも読み応えがありました。
「稚拙な文で、お恥ずかしいんですけど。今は多いかもしれませんが、“CDはグッズというか、物販の扱いのほうがいいんじゃないか?“っていう話になりまして。今は皆さん、イヤフォンで聴かれますからね。”だったら、写真も入れてきれいな作品にしよう“ということで、文章を書いてみようと。ただ私、歌詞を見ておわかりかと思うんですけど、文字数が少ないと思うんですよね。あんまり長く書くよりも、詩として読めるようにというのが、こだわりとしてあるんです。どちらかと言うと言葉を削っていく作業なので、短編とは言え長く書くのは逆行する作業で、難しかったです。楽しかったですけど。エッセイに関しては、曲にまつわる思い出をフラッシュバックさせる感じで書きました。歌詞やメロディを書くのとは、全然違いますね。歌のときは”できた!“という感覚があるんですけど、正解がないというか。作家先生はすごいです(笑)」
――その『スピカ』のツアーが、もうすぐ始まります。
「はい。『スピカ』を引っさげたツアーなので、ステージの中で四季の流れを表現しようと思っていて、そういうセットリストを組んでいます。CDも6月の“LIVE in the DARK”以降、どこでも販売していないので、今回のツアー会場で手に取っていただけるようにしました。実際に音を聴いて、気に入っていただいて買っていただきたいというのがあったので。実は、ストリングスを取り入れたライヴは今回が初めてなんです。私が一番、楽しみにしているかもしれませんね(笑)」
(おわり)
取材・文/鈴木宏和
写真/山口明宏
LIVE INFORMATION
笹川美和 tour 2022 -スピカに願いを-
東京公演
日程:2022年10月1日(土)
1st Stage [宙の章] 16:00開場/16:30開演
2nd Stage [星の章] 18:00開場/18:30開演
会場:自由学園明日館 講堂
福岡公演
日程:2022年10月7日(金)
1st Stage [宙の章] 17:30開場/18:00開演
2nd Stage [星の章] 19:30開場/20:00開演
会場:九州キリスト教会館 礼拝堂
京都公演
日程:2022年10月15日(土)
1st Stage [宙の章] 16:00開場/16:30開演
2nd Stage [星の章] 18:00開場/18:30開演
会場:紫明会館 講堂
新潟公演
日程:2022年10月22日(土)
1st Stage [宙の章] 16:00開場/16:30開演
2nd Stage [星の章] 18:00開場/18:30開演
会場:マルタケホール
RELEASE INFORMATION
PROFILE
1983年2月23日生まれ、新潟県出身。シンガーソングライター。
学生時代から地元・新潟を拠点に音楽活動を始め、2003年にavex traxよりシングル「笑」でメジャーデビュー。
その独創的な世界と歌声が話題を集め、数々のCMやドラマ、舞台の主題歌に起用される。
デビュー15周年にあたり、齊藤 工監督初長編映画『blank13』主題歌となる「家族の風景」を収録したフルアルバム『新しい世界』をリリース。
同曲を含む新曲とこれまでの軌跡の楽曲で構成された15周年記念ベストアルバム「豊穣 -BEST ’03~’18-」をリリースする。
2003年のデビュー以降、言葉を紡ぎ出すストーリーテラーな面と経験を歌に昇華することから、エッセイスト的シンガーソングライターとして唯一無二の楽曲を生み出している。
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