あまりに鮮烈だった「あなたのキスを数えましょう〜You were mine〜」での現役高校生デビューから、2019年に20周年を迎えた小柳ゆき。翌2020年に、13年ぶりにオリジナル・アルバム『SPHERE〜球宇宙〜』をリリースして話題を呼んだ彼女が、今度は19年ぶりとなるカバーアルバムをリリースする。その名も、『RARE TASTY』。生ピアノ、ウッド・ベース、そしてヴォーカルという、ミニマルな編成にこだわって作り上げられた、まさに渾身の一作だ。
カヴァーされているのは、 「Cry Baby」(Official髭男dism)、「unravel」(TK from 凛として時雨)、「Snake Eater」(シンシア・ハレル)、「インフェルノ」(Mrs. GREEN APPLE)、「朝日楼-朝日のあたる家-」(浅川マキ)、「廻廻奇譚」(Eve)、「まっくら森の歌」(谷山浩子)の選りすぐりの7曲。悪いことは言わない。まずは手に取って聴いてみて、想像の斜め上を行く演奏と歌の熱量に、度肝を抜かれていただきたい。本人に話を聞いた。

――19年ぶりに年ぶりにカバーアルバムをリリース。を制作することになった経緯を、聞かせてください。

「作品としてアルバムにしたのは19年ぶりですが、ライヴでは必ずといっていいほどカヴァーをやらせていただいているんですね。今回は、コロナで活動が制限される中、そしてお客さんも普通の生活が制限される中で、“楽しんでいただけるものを何かできたらなあ”と思ったのが、きっかけでした。私も大好きな『呪術廻戦』の「廻廻奇譚」のカヴァーを、YouTubeにアップしてみたんです。少しでもエンターテインメント性みたいなものを、感じてもらいたかったんですね。そこから、アルバムというひとつの作品にもしたいねという話に広がっていきました」

――これだけ振れ幅の広い7曲を、どのような基準で選んだのでしょうか?

「純粋に、自分自身が歌いたいと思う楽曲を選んではいるんですけど、3人編成ですべての楽曲をお届けしたいというところで、イメージが遠い所にある楽曲というか、面白いアレンジに持っていけそうなものをあえて多めに選んだところもあります」

――普段は、偏りなくいろんな音楽を聴かれているのですか?

「あ、そうだと思います。ジャンルなどには関係なく、幅広く聴いているとは思います」

――「朝日楼-朝日のあたる家-」は、浅川マキさんによるカヴァーのカヴァーという解釈でよろしいでしょうか?

「そうですね。」

――発表が70年代前半ですから、生まれていないですよね?

「生まれていません。最初に知ったのは、ちあきなおみさんのヴァージョンなんですけれども、浅川さんのを聴いて衝撃がかなり大きかったんですね。ちあきさんのも衝撃的だったんですけど、ほぼアカペラで語りべの様に歌っていって、ぐっと引き込んでいく浅川さんの世界観がすごいと思って」

――とても気になるのが、3人編成というところなのですが、なぜヴォーカル、ピアノ、ウッド・ベースだったのでしょう?

「鳥越啓介さんのウッド・ベースの表現の振り幅の広さにとても驚いていたんです。ベースを刻み、パーカッシヴに叩くこともでき、更にはアルコで美しい旋律を奏でたり激しいソロでこわれたり()。そのウッド・ベースに、ピアノの松本圭司さん、櫻井大介さんの繊細で超絶的な演奏と、歌を加えるだけで面白くなるのではないかと…これはアルバム・タイトルにも繋がるんですけれども、生の素材を十分に味わっていただけるというか。できるだけ限られた音の中で表現できる、生の息遣いだったり、小さい音の擦れだったり、そういうものをより感じてもらいたいと思って、この編成にこだわってみました」

――楽曲と編成は、どちらが先だったのでしょうか?

「先に編成を決めました。ライヴでその3人編成でやってみて、すごい可能性を秘めているなと感じたんです。まずはそこから遠い曲ということで「廻廻奇譚」を選んだというか。そこが取っかかりでしたね」

――その3人編成のあまりのマッチングぶりに、鳥肌が立つような想いでした。ライヴで確信のようなものを得ていたのでしょうか?

「はい、そうでした。当初はパーカッションやドラムを入れようという話が出ていたことを、記憶しています。それはそれで、いいところもたくさんあると思うのですが、なんというか、3人のほうが逆にもっとアレンジの幅が広がる気がして、それでこだわってしまって、ミュージシャンの皆さんはとても大変だったと思います」

――今は、大正解だったと実感していますか?

「そうですね。そう思っています」

――全編を通して、ライヴの臨場感みたいなものを感じたのですが、一発録りというわけではないですよね?

「歌に関しては「Cry Baby」と「Snake Eater」は一発録りに近いですね」

――小柳さんの中でも、オリジナル曲とカヴァー曲では、やはり表現が違ってくるのでしょうか?

「やはりどの楽曲も“素晴らしいな、カッコいいな”と思ってカヴァーさせていただいていますし、すごく聴き込んでいるので、オリジナルの方の表現の仕方だったり、特徴が体の中に勝手に入っているところがあるんですね。それをどういうふうにアレンジして…どう落とし込んでいくかっていう作業になっていきます。“自分だったらこういうふうに歌う?”っていう表現にしていくわけですけど、体の中に入っているオリジナルの方の特徴とかが自然と出てきて、そちら側に寄っていくことも多いんです」

――一番苦労したのは、どんな点でしたか?

「やっぱり、3人編成というところですね。しっかりとフル尺で聴いていただけるようにするために、けっこう頭を悩ませました」

――もちろん、小柳さんの歌が中心ということにはなるんでしょうけど、演奏の押し引きというか、駆け引きというか。

「やはり、3人しかいないだけに、一人ひとりの力が非常に重要になってくるので、御三方にも前面に出てきていただく方向でやっていただきました」

――バトル状態ですか?

「決して戦ってはいません(笑)」

――「朝日楼-朝日のあたる家-」と「まっくら森の歌」には、浅川さんと谷山さんへのリスペクトから、オリジナルの感触が活かされている印象を受けました。

「たぶん、オリジナルが女性というところもあるとは思うのですが…特に意識したっていうようなことはないんですけれども、特に「まっくら森の歌」に関しては子供のころから聴いている楽曲ですし、かなり長い時間、体の中に入っているものがあるので」

――「まっくら森の歌」には、子供は怖がり、大人は安らぎを感じるようなところもある気がするのですが、ご本人にとってはどんな印象ですか?

「私の中ではけっこう、怖いままですね。ただ、安心感というのもわからなくはないです。あの曲には、ちょっと憧れみたいなものがあるんですね。1回聴いただけで魅了されて、そのまま大人になっても浮かんでくる楽曲って、すごいなって。私は2020年に『SPHERE〜球宇宙〜』というアルバムをリリースしているのですが、「サイドウェイ-並行世界-」という楽曲は、全然タイプは違いますが「まっくら森の歌」が念頭にあって作ったので」

――今回は、怖さも含めて表現したのでしょうか?

「そうですね(笑)。その怖さがけっこう好きだったりするので」

――このような作品で僕らが改めて実感させられるのが、小柳さんの歌唱力、表現力なのですが、ご自分の歌唱というものとは、どう向き合っているのでしょうか?

「う〜ん…そうですね…やっと、自分自身の思っている、想像しているものを、素直に表現することができるようになってきたのかなあとは思っていて。やっぱりデビューしたてのころよりも、歌に対しての姿勢も誠実になっているというか、誠実でありたいなと思っているのですが…でも逆に素直な、真っ直ぐな表現というのを、あの時と同じようにっていうのは難しくなってきているところもあります。ただ、さっきお話ししたような、ひとつの楽曲の中のキャラクターというか、そういうものを細かく自分の中に落とし込むことは、できるようになった気がしています。えっと、伝わりました(笑)?」

――はい。ただ意外だったんですけど、“やっと”なんですね?

「そうですね、はい」

――どんどん凄みを増している印象なので。

「ハハハハハ。ありがとうございます」

――改めて、アルバム・タイトル『RARE TASTY』に込めた想いを聞かせてください。

「生の素材のうまみみたいなもの…より微妙だったり、繊細だったりする味というのは、調理し過ぎないほうが味わえるものではないかな?と思って、『RARE TASTY』とつけました。おいしく召し上がっていただければと」

――ぴったりなタイトルだと思います。

「ありがとうございます(笑)」

――僕がこのアルバムを聴いて、まず思ったのが、ライヴで体感したいということでした。ツアーもあるんですよね?

「はい。このアルバムの楽曲を基本に、今までカヴァーさせていただいてきた楽曲も、久し振りに歌いたいと思っています。『RARE TASTY』は3人編成ですけど、フル・バンドでツアーします。このアルバムが持っているもの自体の印象は変えずに、そのよさをさらにダイナミックにできるようにやっていきたいと考えています」

――もうすぐデビュー25周年ですが、歌に対する考え方で変わったところなどは、ありますか?

「変わったことと言えば、やっぱり歌に誠実になったことですかね。変わらないところは、ちょっと人との距離感をつかむのが得意ではないので、歌がツールになってくれていることです。自分にとっては、それが一番大事なコミュニケーションになっているんですね。それはデビューの時から、全然変わらずにあります」

(おわり)

取材・文/鈴木宏和

■Release Information小柳ゆき『RARE TASTY』

2022年82日(火)発売
通常盤(CD)/VAIJ-63,300円(税込)
VaiJee Records

小柳ゆき『RARE TASTY』

■Release Information小柳ゆき『RARE TASTY』

2022年82日(火)発売
映像盤(CDBlu-ray)/VAIJ-77,700円(税込)
VaiJee Records

小柳ゆき『RARE TASTY』

■Live InformationLIVE TOUR 2022「RARE TASTY」

2022年96日(火) 神奈川県 相模原市民会館
2022年917日(土) 東京都 なかのZERO(大ホール)
2022年1010日(月・祝) 埼玉県 クレア こうのす(大ホール)
2022年1015日(土) 愛知県 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
2022年1016日(日) 大阪府 クレオ大阪中央

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