――この7月に「Awake」と「Guide」の2曲を発表した早見さん。楽曲についてのお話をうかがう前に、早見さんは2021年から、ご自身の音楽活動のテーマに“孤独や生きづらさを感じている人の心に寄り添い、光となる音楽を届ける”ということを掲げています。ちょうどコロナ禍の時期と重なりますが、そうしたテーマに思い至った理由は何だったのですか?
「やっぱりコロナ禍ですべてのお仕事が一旦ストップしたことですね。それによって自分の音楽活動について想いを馳せる時間がたっぷりありました。そこで、“これからどういうふうに音楽活動を表現していきたいのか?”って考えたときに、自分が音楽に救ってもらった時期のことが浮かんだんです。学生時代、自分の中のモヤモヤした気持ちだったり、言葉じゃ足りないくらいの激情だったりというものを、私は1人、音楽を聴くことで気持ちを昇華し、いいエネルギーに変えてもらっていたなって。なので、ある種の原点回帰というか、当時私が音楽からもらったかけがえのないものを、今度は自分の音楽活動を通して届けていけたらと思うようになったんです」
――7月10日にデジタルリリースした「Awake」も、まさにそのテーマにぴったりの楽曲ですね。初披露は昨年8月のライブ『Animelo summer Live 2021 -COLORS-』のステージということで、リリースを心待ちにしていたファンも多かったのでは?
「そうですね。当時はまだタイアップ作品のタイトルも発表していなかったので、演奏を通して音楽そのものを届けるという場だったんですけれど。でも、直後の自分のラジオとかに届いたメールやお手紙から、この楽曲が持つ力強さやエネルギーを受け取っていただけたことは感じていました。作曲やアレンジをしてくださったTK(凛として時雨)さんとも、曲が完成したときから“発売が待ち遠しいですね”って話をずっとしていて。作り手としても(リリースを)心待ちにしていましたね」
――TKさんと制作することになったきっかけは何だったのでしょうか?
「きっかけはいくつかあって。活動テーマを決めたこともですけど、その過程で音楽チームのスタッフと、“これからは新しい扉をどんどん開いていこう”という話をしていたんですね。そんなときに、アニメ『RWBY 氷雪帝国』との出会いがあったんです。そのエンディングテーマということも決まっていたので、アニメが持つカラーやシナリオも十分に加味しながら、さらには自分の活動テーマにも合う気がして、今回はぜひTKさんに書いていただきたいと思ってオファーしました」
――そこでTKさんのお名前が出てきた理由とは?
「打ち合わせの時に、ワーナーチームスタッフの方から最初にTKさんのお名前が挙がったんですが、それこそ、先ほどお話ししたモヤモヤとした気持ちを抱えていた時期、よく聴いていた音楽の一つがTKさんの楽曲だったんです。そのリンク性はもちろんのこと、TKさんが作る楽曲の魅力って、個人的な感想ですが、静と動だったり、冷たさと熱さだったり、その両方を併せ持っていることだと思うんですね。今回の『RWBY』も、“氷雪帝国”というサブタイトルですが、冷たさの中にもほとばしるような熱さを持つ表現が合うような気がして。いろんなご縁を感じました」
――実際にTKさんとご一緒されて、いかがでしたか?
「もう、すべてが素晴らしかったです。楽曲も、最初に受け取ったのが1番だけの短いものだったんですけど、それだけでも鳥肌が立つような仕上がりで。さらに、そこからフルサイズになったら、最初にいただいたものからは予想もできないくらい、どんどんと展開していく構成になっていて。最初の打ち合わせで“組曲みたいな楽曲にしてほしい”とお伝えして、TKさんもそれを意識して制作してくださったそうなんです。実際、ラストは激情の渦というか、すごくたくさんの音がひしめいていて、私も聴きながら心を持っていかれました。でも、TKさんとの作業はそれだけじゃなかったんですよ」
――というと?
「歌詞は私が担当していて、それも何度も何度も書き直したのですが、出来上がったものを改めてTKさんに見ていただきました。やっぱり、文字で書いたものと、歌ったときとでは音の響き方が違ったりするので。そういった歌詞のブラッシュアップもそうですし、レコーディングもTKさんのスタジオで行わせていただいたんですよ」
――ディレクションもTKさんが行われたんですね。
「そうなんです。TKさんもずっと前から実際に使われているスタジオということもあって、音作り…例えば、歌録りのときにつけるヘッドホンの中の聴こえ方にまでこだわられていて、私も最初に歌ったときに、“わ〜!”って感動したほど。それに導かれる形で自分から出てくる表現も自然といい方向に変化していったりして、聴こえてくる音も大切なんだなってことをそのレコーディングで学びました。さらに、その後のミックスやマスタリング作業まで手掛けてくださり、その中でもいろいろやりとりさせていただいたので、本当に二人三脚で作ったという感じでしたね」
――歌詞のほうは何度も書き直したとのことですが、サウンドだけでなく、歌詞もアニメ『RWBY 氷雪帝国』と早見さんの活動テーマの両方に沿った内容のように思いました。改めて、この楽曲を通して早見さんが届けたいメッセージを教えてください。
「おっしゃっていただいたように、アニメーションに沿うことを大切にしつつ、軸の部分では私自身の楽曲としても成立するように意識しました。メッセージとしては、明けない夜みたいに感じる闇が訪れても、そんな真っ暗闇を引き裂いてでも、あなたと一緒に夜明けに向かって進んで行きたいっていう想い。それを敢えて強い言葉で書いています。私の楽曲の中でも、ここまで鋭い表現を選んだのはなかなかないような気がします。でも、それくらい、想いの強さや激しさを、この楽曲にのせたかったんですよね。というのも、“孤独に寄り添い、光になる”って言うと、ともすると一方的に“私が救ってあげる”とか“こうすればいいんじゃない?”みたいな感じになって、聴き手と歌い手が離れてしまうことがあると思うんですけど、そういうものにはしたくなくて。「Awake」では、痛みを共有し、共に進んでいくっていうメッセージをとても大切にしたかったんです。“あなたの痛みがあって、私にも痛みがあって。それを共有することによって、もがきながらも前に一緒に進んでいこう、そして夜明けを見つけよう”っていう気持ちを込めました」
――「Awake」はミュージックビデオも公開されています。ぜひ見どころを教えてください。
「ミュージックビデオも、やっぱり“冷たいけど熱い”みたいな部分が濃密に表現されています。物語性があるパートもあるんですけど、私の歌唱シーンの撮影で言うと、新しい扉がパカっと開いた感じというか(笑)。これまでにないくらい動きが激しいです。特に後半の盛り上がる部分では、やっぱり私の気持ちも高まっていきましたし、それが出ることで、自然と撮影スタッフのみなさんも高揚して。映像の中には、特に打ち合わせもしてなかったのに、私の動きとカメラアングル、ライティングが奇跡のようにバチってハマる瞬間が何回もありました。本当に心震える撮影でしたし、ファンの方々にも、これまでとは違う変化を感じていただけると思います」
――「Awake」が注目を集めている中、続いて7月29日にデジタルリリースとなるのが「Guide」。この楽曲はアニメ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているのだろうか IV 新章 迷宮編』のエンディングテーマとなっていて、作詞・作曲は過去にもご一緒されたことのある渡辺 翔さんが担当。渡辺さんはバンド・sajou no hanaとして“ダンまち”のテーマソングを手掛けているという、“ダンまち”仲間でもあります。
「渡辺さんは私の1stアルバム『Live Love Laugh』に収録されている「ESCORT」や「水槽」など、これまでいろんな形でご一緒させていただいてきました。でも、今回の「Guide」は、それらの楽曲とはまた違った印象でしたね」
――初めて聴いたときはどんな印象を持ちましたか?
「温かさだったり、優しさだったり…聴いていると心を包んでもらえるような印象を受けました。ただ、歌詞には優しさだけでなく、力強さがあって。自分で自分の道を切り開いていく、人生の道案内は自分でしていくという強い意志を感じました。」
――確かに。私もこの楽曲で一番印象的だったのが<道案内は自分で悩んで標して行く>でした。特に<悩んで>という言葉が入っているのがいいなって。
「そうなんですよね。そこのフレーズは私もすごく好きなところです。私が音楽を通して伝えたいメッセージは、ここに集約されているように思います。“ダンまち”という作品も、過酷な冒険をしながらダンジョンを進んで行く物語ですけど、冒険って、決して大きなものとは限らなくて、自信がなくて先に進めないこととか、実は日々の中にあるものだと思うので。あと、1番に<自由じゃない世界へと>って歌詞が出てくるんですけど、歳を重ねたからといってどんどんラクになっていくわけではなくて。自由のなさとか悩みとか、いいことも辛いこともある世界を生きていく中で、それでも自分で道を標して歩いて行きたいっていう。そういう力強さが、この楽曲を聴いてくださる方の日々の中にも染み込んで、後押しのようになったらいいなと思います」
――また、「Awake」と「Guide」には、奇しくも<光>という言葉が登場します。でも、この2曲で歌われる<光>って、ちょっと違う気がするというか。
「本当、楽曲によって同じ言葉を使っていても届き方が違うというのは感じますね」
――早見さんも活動のテーマの中に“光”という言葉を使っていますが、早見さんにとって光の存在とはどういうものですか?
「そうですね…やっぱり、その言葉だったり、楽曲だったりを聴いてくださる方が、それを聴いて“生きていこう”とか“もう一歩頑張ってみよう”とか、例え楽曲によって届き方が違ったとしても、そういうエネルギーとなってくれるものになるといいなと思います。それをこれからも、いろんな形で描き続けていきたいですね」
――「Awake」「Guide」に続き、新曲「Tear of Will」のリリースも決定しています。2022年も残り半年を切りましたが、今後のスケジュールまたは年内にやっておきたい!と思うことがありましたら教えてください。
「すでに今年は自分の音楽活動としてもかなり濃密な1年だなと感じていて。だからこそ、ひとつひとつを丁寧に、気合を入れてお届けしたい気持ちが強いです。また、ライブも行わせていただくので、まずは今回リリースした新曲をより良い形でお届けできるよう、しっかり磨いていきたいなと思っています」
(おわり)
取材・文/片貝久美子
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