──デビュー10周年記念作『The Legacy EP』が完成しました。力強い生命力が感じられる作品でありつつ、どこまでも広がっていくようなスケール感も印象的な6曲です。
「この10年を振り返ってみると、それこそアルバイトも半年続いたことのない人間が、音楽という一つのものをずっと楽しんで、ここまで続けられているのはすごいことだなと思います。デビューしてから、“音楽が嫌だな”、“歌うのが嫌だな”と思ったことは一回もないですから。だから、私は歌を選んで本当に良かったなと思えているんですよね。その上で、“もう大丈夫だろう。歌を続けていくんだ”って。もちろん、最初からずっと歌い続けていく気持ちはあったんです。それが、確信に変わったというか」
──この10年で、歌を続けていくことに迷った経験はないんですか?
「“続けていくよね?”って、自分の中で確認をしていた時期はあります。28歳から29歳の頃でした。私の中で30歳って大きくて、その30歳を前にして自分の気持ちを確かめていたというか。ちょうど周りの友だちが結婚したり、出産したりし始めていた時期で、30歳を機に活動を休止したり、別の夢を見つけて活動自体をやめた音楽仲間もいました。そういう周りの姿を見て、30歳に向けて自分に問いかけたんだと思います。そのときに、私は音楽で生きていく覚悟を決めたんです。それからは、歌うことがさらに楽しくなったし、ちょっと肩の力も抜けたと思います」
──『The Legacy EP』の特徴の一つは、収録された6曲中の5曲が英語詞で歌われていることだと思います。これにはどんな意図があったんでしょう?
「音楽を始めたときから世界で歌っていきたいという気持ちがありましたし、そもそもその前に留学をした時点で世界中に友だちを作りたいという夢がありました。その気持ちはずっと持ち続けていたんですけど、今までの私の歌はやっぱり日本に向けて作っていたなと思ったんです。そう思ったときに、海外でも通用するレベルの英語詞を書いて歌うなら、KT(・タンストール/映画『プラダを着た悪魔』の主題歌「Suddenly I See」で知られる、スコットランドの女性シンガーソングライター)にプロデュースしてもらう今だなって」
──英語詞は、どのように書いていったんですか?
「毎週金曜日の朝11時に、KTとZOOMで会話をしながら作っていきました。1年ぐらいかけて、短いときだと15分、長いと1時間ぐらい2人だけで話していましたね。“最近どう?”という話から始まって、過去にどういう経験をしてきたか、仕事もプライベートも含めて話をしました。私はKTのカウンセリングを受けるみたいに話したし、KTも自分のことを話してくれて。その会話から、歌詞が生まれていきました。なので、英語詞の曲はすべて私とKTの共作詞になっています」
──KTとのレコーディングは、どんな体験でしたか?
「もう、夢みたいでした。KTの家でレコーディングしたんですけど、彼女が作ったこだわりの料理も食べさせてもらって、血がつながっていないお姉ちゃんと過ごしているような感覚でしたね(笑)。KTの家はすごく大きくて、山沿いにあるんですけど、スタジオはガラス張りになっているから開けた山が目の前に見えるんです。レコーディングブースもガラス張りで、歌っていると近所の方が犬を連れている様子が見えたり、究極にリラックスできて、最高にハッピーな環境でした。その環境で歌うと、自分の声がいつもと違うことに気づくんです。いい環境で歌うとこんなに声は変わるんだって、自分の声に感動して、歌いながら涙が出そうにもなりました。その涙を堪えるのが、けっこう大変でしたね(笑)。そして、KTのディレクションが本当に素晴らしいんです。基本的には、“Rihwaの好きなように歌って”って言うんですけど、結果的にはたくさんの新しい扉を開いてくれたと思っています」
──KTが開いてくれた新しい扉を一つあげるとすると?
「「The Gift」です。とにかく“声はもっとちっちゃくていい”ってKTにディレクションされて、こんなにちっちゃな声で歌ったことがないぐらい、小さな声で歌いました。そのちっちゃな声は、あの環境じゃなかったら出せなかった声だと思います。今までは自分のミニマムの声がわからなくて、出したくても出せなかった声というか」
──それが、KTの存在やレコーディングブースから見える大自然があったからこそ出せた?
「そうですね。それ以外にも、細かい部分、小さい部分に今回のレコーディングではすごくこだわりました」
──唯一の日本語詞曲が、KTの大ヒット曲をカバーした「Suddenly I See」です。
「KTとは5年ぐらい前から仲良くなって、私が彼女の家に行ったり、KTが日本に来たら一緒に飲みに行ったりしているんですけど、KTは私のことを本当の妹のようにかわいがってくれていて。そんなKTと一緒に音楽を作る時に、私にしかできない特別なことは何かを考えたんです。それが、日本語で彼女の「Suddenly I See」を歌うことでした。最初は原曲の歌詞を日本語に訳す形で進めてみたんですけど、すごくむずかしかったんです。それで、“私が「Suddenly I See」した経験を日本語の歌詞にするのはどうかな?”って、KTに提案しました。彼女は快くOKしてくれて、そこから生まれたのが今回の「Suddenly I See」の歌詞です。私からKTへの恩返しになればいいなと思っているし、「Suddenly I See」を自分で歌って、“やっぱりKTってかっこいいでしょ?”って伝えたい気持ちもあります。日本語詞で歌うことで、日本のリスナーのみなさんにもっと身近に感じてもらいたいし、たくさんの方に聴いてほしいなと思っていますね」
──そんな「Suddenly I See」を含む6曲が収録された作品は、『The Legacy EP』と名付けられました。「Legacy」という曲も収録されていますが、このタイトルの由来は?
「全曲が完成してから、KTと一緒に歌詞から言葉をピックアップしてタイトルを決める相談をしていました。そのときに、KTが『The Legacy EP』というタイトルを提案してくれたんです。KTは、“Legacyには財産や形見という意味があるけど、時計や宝石だけじゃなくて、形のないものも財産だし、人に残っていく形見だよね。そう考えると、私たちは生まれた瞬間からいろんな感情を表現して、誰かにたくさんの感情を残していることが財産で形見なんだよね”って話してくれました。その言葉を聞いて、まさにこの曲たちもそうだよなと思ったんです。形はないけど聴いてくれた人たちの体に残っていくものだし、何より私が残したいと思ったものだし。それで、このタイトルにしようと決めました」
──今まで作ってきた音楽も財産であり形見だし、これから作っていく音楽もきっとそういうものなんでしょうね。
「壮大な話のように感じますけど、人と音楽はそうやってつながっていくんだなと思います」
──それこそが、音楽の核心というか。それはRihwaさんがもともと感じていたことでもあるんでしょうけど、10周年記念の作品に『The Legacy EP』というタイトルをつけたことはあらためての決意表明でもあるというか、宣言している印象もあります。
「そう受け取ってもらえたら、すごくうれしいです」
──これからの活動については、どんなことを思い描いていますか?
「住んでいるのは日本ですけど、意識は世界に向けて活動していきたいです。世界中の人と友だちになりたいという夢は今も変わってないですし、これからは海外でのライブや海外のアーティストとのコラボも積極的にやっていきたいと考えています。“アメリカとカナダでライブがしたい”という目標もありますが、まずは同じアジアに暮らす人たちともっともっと深く関わっていきたいですね。いつ発表できるかまだわからないんですけど、今動いているアジアのアーティストとのコラボプロジェクトもあって、今後はそういうコラボやアジアでのライブも増えていきそうです。それと、『The Legacy EP』に収録された5曲の英語詞曲については、すでに日本語詞バージョンがあるので、これもどこかのタイミングで発表したいと思っています」
──10周年を記念したライブが、東京とRihwaさんが生まれ育った北海道で開催されます。
「今回は、『The Legacy EP』の世界観をライブで再現してみたいなと思っています。鍵盤とギター、ベース、ドラム、そして私の5人編成で、『The Legacy EP』の世界に連れていきたいなって。10周年なのでこれまでの私に欠かせない曲もやりますし、やっぱりライブは盛り上がってなんぼなので、みんなで盛り上がって楽しくなれる曲も選曲しています!」
──11年目以降の活動も楽しみにしています。
「普通に生きていたら出会わないような人たちにも私は出会いたいので、そのためには自分から積極的に行動しないといけないと思っています。日本でも海外でも、いろんなところにギターを持って出かけて歌う。そんなシンプルなやり方が、自分には一番合っているんだろうなと思います。一時期は、SNSでバズらなきゃダメだとか悩んだこともあったけど、私はそうじゃない。とにかくコツコツとライブ活動をして、一人ひとりファンを増やしていくことが、私の場合は一番の近道な気がしています」
(おわり)
取材・文/大久保 和則
写真/野﨑 慧嗣
■Release Information
Rihwa『The Legacy EP』
2022年7月11日(月)発売
アナログ盤/DR-0001/3,500円(税込)
CD/DR-0002/2,500円(税込)
■Live Information
Rihwa 10th Anniversary Live 2022 〜とうとうやってきた10周年…フタ開けたら二桁!〜
【東京】
■日時:2022年7月9日(土)開場17:30/開演18:00
■会場:晴れたら空に豆まいて
【北海道】
■日時:2022年7月17日(日)開場16:00/開演16:30
■会場:PENNY LANE24
こちらもおすすめ!
-
Kawaguchi Yurina「Cherish」インタビュー――ソロアーティストとしての川口ゆりな
encoreオリジナル -
永井真理子インタビュー――30年前に開催した『横浜スタジアム1992ライブ』復活を前に
encoreオリジナル -
Natumi.「pARTs」インタビュー――夢が3つ同時に叶ったその先は...
encoreオリジナル -
サラ・オレイン インタビュー――デビュー10周年を経て輝きを増す唯一無二の存在が特別な年にリリースするアルバム『One』
encoreオリジナル -
Ms.OOJAインタビュー――初の武道館公演『10th Anniversary Live"はじまりの時" in 日本武道館』を終えて
encoreオリジナル -
湯木慧『W』インタビュー――音楽を作ることも絵を描くことも、服を作ることも全て生きることから発生し、発生したことで生きる感情を揺さぶる
encoreオリジナル