――CDデビュー直前の心境から聞かせてください。
「素晴らしい環境の中で歌わせていただいた曲をデビューシングルで出させていただけるということで、本当に光栄で嬉しいことだなと思っています。ただ、スタート地点でもあるので、これからアーティストとして頑張っていきたいなという思いですね。心境ということでいうと、楽しみが4割で不安が6割くらいです」
――不安の割り合いの方が少し高いですか?
「あはははは。あんまり自分に自信が持ててない部分があるので、それがプレッシャーにつながってるというか。本当にすごい環境下でアーティストとしてデビューさせてもらったので、びっくりしすぎて、嬉しくもあり、不安もあるという感じですね」
――その<デビューの環境>についてはおいおい伺うとして、デビューに至る道のりを知りたいなと思ってます。小さい頃から歌うことが好きでしたか?
「両親が共働きなので、小さい頃は父方の祖父母が経営しているカラオケ喫茶に預けられてて。そこでよく歌を聞いたり、自分でも歌ったりしてて。例えば、祖父が北島三郎さんが好きなので、「まつり」を歌ってるのを聞いて、自然と覚えてしまって。小さい私が「まつり」を歌うと祖父と祖母がすごく褒めてくれたりしてたんですね。でも、当時は、歌うのが好きだから歌ってるというよりは、日常に近くて」
――そうですよね。帰宅する家がカラオケ喫茶なんですもんね。
「ちょっとしたステージがあって、そこに立って歌うんですけど、お客さんも年配の方が多いので、やっぱりみんな褒めてくれるんですね。当時の私としては、それが日常であり、どちらかというと褒めてもらえて嬉しいから歌ってるという感じでした。その後、自分自身で“歌うことが好きだな”、“アーティストになりたいな”と自覚するようになったのは、中学1年生の時ですね。両親は小学生の頃からいろんな習い事をさせてくれていて。水泳やピアノ、バトンやダンスもやっていたんですけど、短い人生の中で、ちゃんと続けて、楽しんでやってこれたのは歌だけだったんですね。ヴォーカルのスクールに通っている中で、ちゃんとしたステージでソロで歌う機会があって」
――中学1年生の時のステージでは何を歌ったんですか?
「Kyleeさんの「Crazy For You」を歌いました。歌っている時は、半年間かけて練習してきた成果をしっかりと出さなきゃという思いで必死になっていて、お客さんの顔も見えなかったです。でも、歌い終わって、拍手をいただいて。会場が少し明るくなって、お客さんの顔を見た時に、“あ、私は歌うことが好きだな”って実感したんです。それがアーティストになりたいなというきっかけですね」
――そこで、将来はアーティスになると決意した?
「夢になったという感じでしたね。決意したのは高校3年生の時です。中学2〜3年生くらいまでは、難しい曲をいかに音程を外さずに、高いクオリティーで歌うかということだけを考えていて。私が地元の広島で歌ってる映像がネットにあがったりもしていたんですけど、“感情がないよね”っていうコメントを見つけて、“歌に抑揚を込められるようにしないといけないんだ”と気付かされて、演劇のレッスンに通ってみたりしていて」
――歌に対するすごい熱量と行動力を感じます。
「そうですね(笑)。それが中3から高1になったくらいの頃で、その経験は今にも活きていると思います」
――ちなみに学生時代はどんな音楽を聴いたり、歌ったりしてましたか?
「中学生の時はKANA-BOONさんやONE OK ROCKさん、MAN WITH A MISSIONさんなどのロックバンドを聴いてたんですけど、アニメ『ギルティクラウン』にハマって、主題歌を歌っていたEGOISTさんが好きになって、“いつかアニソンを歌いたいな”と思うようになって。高校生になってからは、EGOISTさん、Aimerさん、LiSAさん、それに澤野弘之さんを聴くようになってましたね」
――いろいろと今に近づいてきましたね。先ほどおっしゃってた、アーティストになる決意をした高校3年生の時は何があったんですか?
「歌をずっと歌ってきてたんですけど、事故にあって顔に傷ができてしまったんですね。口の横だったので、傷が開いちゃうから歌えないという時期があって。高校1年生の夏から高校2年生の間の2年間くらいですかね」
――ああ、それは進路を考える時期とも重なりますね。
「そうなんですよ。高校3年生になり、やっと傷が治って。一人でカラオケに行って、AmierさんやLiSAさん、EGOISTさんの曲を2時間くらいひたすら歌った時に、すごく楽しくて。そこで、やっぱり自分にとって歌がすごく大きな存在だったんだっていうことに改めて気づいたんですね。唯一ずっと続けてきたものだし、自分にとって、とてもかけがえのないものになっていました。自分の存在意義…というと少し重いですけど(笑)、私にとっては、それくらい大切なものになったんですね。だから、そこで、自分の中でリミットを設けて、ちょっと覚悟をしてチャレンジしてみようって決めたんです」
――リミットというのは?
「2020年、オリンピックが終わった後に上京するっていうことを決めて、それまでに資金を貯めることにしました。コロナもあって、オリンピックは延期になったんですけど、私はその間にいろんなオーディションを受けて、スターダストさんにお世話になることが決まって、2020年に上京したんですね。あと、もう1つのリミットが、25歳までにちゃんとワンマンライブができるアーティストになるっていうこと。それができなかったら、もうそこまでだなって自分の中で考えてましたね」
――第1段階はクリアしてるわけですね。
「そうですね。次は、Natumi.というアーティストをどれだけ知ってもらえるか、どれだけ好きになってもらえるかが大事になってくるので、自分の魅力を伝えていけるように頑張っていきたいですね」
――上京する時はどんな心境でしたか?
「本当にひとり暮らしが初めてだったんですよ。不安は大きかったんですけど、自分が決めた、自分のやりたいことだから、希望を持って、前向きに頑張っていきたいなというふうに思いながら上京しました。家族は私のことを本当に全部肯定してくれるんですね。“やりたいことをやって、あなたが幸せだったらいい”っていう素敵な両親なんです。たぶん、両親は寂しいところもあったかもしれないんですけど、人生経験としても、ひとり暮らしはしておいた方がいいという考えも持っていたので、温かく見送ってくれましたね…ちょっと思い出して泣きそうになっちゃった」
――あぁ、目が潤んでますので、ちょっと休んでください。…当時はどんなシンガーを思い描いてましたか?
「アーティストになりたいと思った時から、大きいステージに立つっていうのが夢でした。具体的な部分はあんまり考えてなかったんですけど、漠然と大きいステージ…テレビで見る武道館やアリーナみたいなところで、サイリウムを綺麗に降ってくれてるお客さんがいっぱいいる中で歌うというのが夢でしたね」
――ちなみにそのサイリウムは何色でしたか?
「妄想の中では青と白でした。あははははは」
――(笑)そして、上京後に澤野弘之プロデュースでアニメ「境界線機」第2部のEDテーマを歌うことが決まりました。
「嬉しすぎて、本当に天にも昇る心地でした。1番の夢は大きいステージに立つことなんですけど、そのためには、アーティストとしてデビューしないといけない。それに、もともとアニメが好きで、アニソンが好きで、アニメのタイアップをいただけるアーティストになりたいなと思っていましたし、澤野さんも大好きだったので、いつか楽曲提供していただけるようなアーティストになりたいなと思っていて。それが一番最初に叶ってしまって。夢だったけど、夢にも思ってなかったというか(笑)。本当にびっくりしました」
――アーティストデビュー、アニメのタイアップ、澤野弘之プロデュースと3つ同時に叶っちゃってますよね。
「そうなんですよ!だから、これがもしかしたら私の人生最高点かもしれないって(笑)。それ以上を頑張って目指すけど、一番幸せな時かもしれないと思ってましたね。とにかくびっくりしました」
――(笑)楽曲を受け取ってどう感じましたか?
「実は2つ候補があったんですけど、両方ともすごく素敵な楽曲でした。打ち込みながらも、すでに澤野節が感じ取れて。“ああ、澤野さんの楽曲だ!”って、一人でニヤニヤしながら聞いてて。その後でキーチェックのために澤野さんとお会いしたんですけど、すごく頭の回転が早いし、とても面白い方でもあるんですけど、その中にも優しさや思いやりを感じ取れて。尊敬というか、もう、すごい方だなと思いましたね」
――澤野さんとはどんな話をしましたか?
「私が一番心に残ってるのは、歌のディレクションのことですね。低音部分が結構ギリギリだったんです。私も未熟ながらも、澤野さんが表現したい音楽にできるだけ自分のパフォーマンスを近づけたいと思ってたんですけど、最初は低音が出なくて。“出たほうがカッコいいことは理解してるんですけど、ごめんなさい、出ないんです”っていう話をしたんですね。ちょっと変えていただいたけど、それでも、声の出し方が微妙だった。そこで、“息を多めにしてみて”って言われて。それまではずっと、ちゃんと発声して、強めに出すってことしかしてなかったんですけど、実際に息を多めにして歌ってみたら、すごく素敵な楽曲に仕上がって。こういう表現の仕方もあるんだっていう勉強というか、発見があって。自分にとって歌唱の幅を広げてもらったレコーディングでしたね」
――ウィスパーから突き抜ける高音まである、ヴォーカリストとして難易度の高い曲ですよね。
「そうですね。しかも、私にとっては本当に初めてのレコーディングで、初めての自分のオリジナル楽曲でもあったので、自分のベストが出せるように、毎日毎日練習して、喉の調子も整えて。声というか、喉に全集中してたんですけど、まだ自分の納得のいくものにはなってなくて。レコーディング当時は、出せる力は出せたんですけど、まだ進行中の曲だなと思ってます。この楽曲とともに一緒に成長していきたいなという思いが強いですね」
――歌詞はどう捉えましたか?
「抽象的ではあるんですけど、タイトルの「pARTs」からアニメ作品とリンクしてて。主人公の子が部品を集めてロボットを作るところから始まるんですけど、結構、優柔不断というか、しっかり芯を持ってない子なんですね。だから、ロボットのパーツを集めるだけではなく、自分探しの意味もあって。個人的には<抱えきれない痛み 乗り越えていくチカラになる>という部分が、自分にもアニメも重なってるし、すごく思い入れがありますね。私自身、日々、歌に自信はあるんですけど…」
――最初におっしゃってた、“自分に自信がない”という部分は?
「そうなんですよ、まだ乗り越えてなくて」
――でも、このフレーズの歌声はとてもパワフルですよね。
「そうですね。たくさんの人に支えていただきながらではありますけど、私自身、乗り越えてきたものも間違いなくあって。こうして、自分が頑張ってきたことが1つ形になったのもそう。だから、これからいろんな壁にぶち当たったとしても、乗り越えていきたいし、歌には自信を持ってできてはいる…その時その時で誠意を持ってベストの表現ができているので、この曲とともに前に進んでいきたいなと思います」
――実際にアニメで流れた時はどう感じましたか?
「本当にずっと夢に思いすぎていたことが実現したので、現実とわかっているんですけど、“夢なんじゃないか?”って思うくらい嬉しかったです。しかも、録画して何回も観直したんですけど、“やっぱりこの曲、いいな〜”って自分でもしみじみ感じてしまって(笑)。改めて、楽曲をもらえたことの喜びが湧き上がってくる感じでしたね」
――ご自身のMVも制作してます。
「楽曲に沿ったスケール感の大きい映像になってて。あと、意図的かどうかわからないんですけど、アニメ『境界線機』の1部の最後が崖で終わってるんですね。私のMVも崖で撮っているので、ちょっとかけているのかなと感じました」
――MV撮影も初めてですよね。
「そうなんですよ。初めてということで、“ちょっと不安なんです”っていう話をしたら、事務所の方がダンスの先生をつけてくださって。布を使った動きやポージング、手や腕の使い方を教えてもらってから撮影に臨むことができてよかったなって思います。あと、何よりも印象残ってるのは、あのロケーションですね。前日は天気が悪くて、予備日として取っていた翌日に海底火山が噴火して、立ち入り禁止になってしまったんですね。本当に嵐の前の静けさというか。奇跡的な天気と風に恵まれて。すごく綺麗な景色でしたし、楽曲と相まって、すごく気持ちよく撮らして頂きましたね。ぜひ、たくさんの方に観ていただきたいです」
――そして、カップリング「Activation」も澤野さん作曲です。
「そうなんです!そうなんですよ(笑)。すごく嬉しくて。ガツガツはしてないんですけど、ミディアムよりは若干アップテンポで、ちょっと後ろノリの楽曲になってて。好きな人に夢中になっちゃって、周りが見えなくなる恋愛っぽい歌詞なんですけど、澤野さん曲ではあまり聴いたことのない、中毒性のある楽曲になってるなと思います」
――これは片想いですかね。
「片想いかもしれないし、もしかしたら付き合ってるのかもししれないですね。向こうが飄々としてて、こっちばかりが気にしてるっていう感じにもとれますよね。私自身は、<確かめるチャンスから逃げてるだけ/経験値が足りてない>とか、特に1番の歌詞は、自分の今の状況に重なる部分があって」
――なるほど。<夢は膨れるばっかりでさ/「いつか」なんて待てない>とも歌ってますし。
「そうなんですよね。ラブソングの一面もありつつ、いろんな捉え方ができるなって感じてて。だから、歌詞に完全に寄り添って歌うこともできたんですけど、リズム感のある中毒性の高い楽曲なので、あえて、感じるような、感じないようなラインで歌ってて」
――感情を乗せすぎないことで、聴き手の想像力に委ねる余地を残すってことですよね。
「そうですね。パッと聴くとリズミカルでカッコよく聞こえるし、声色をよく聴き込むとラブソングに聞こえるかもしれないっていう微妙なラインですね。cAnONさんらしい抽象的な歌詞なので、いろんな捉え方ができるといいなと思います」
――2曲揃って、ご自身にとってはどんな1枚になりましたか?
「私の全く違う一面が見てもらえる2曲になったなと思っています。アーティストとしてのデビュー曲って、誰もがかけがえのないものになると思うんですけど、難しい曲たちでもあるので、Natumi.として活動していく中で、最初から最後まで一緒に進化していきたいなと思っています」
――最後に今後の目標を聞かせてください。
「Natumi.というアーティストを知ってもらって、まずは、「pARTs」をたくさんの方に聴いてもらうことが今の一番の目標ですね。そして、自分のオリジナル楽曲を増やしていきたいですし、いつかは大きいステージで歌いたいし、より多くの方に私の歌声が届くように頑張りたいです。応援のほど、どうぞよろしくお願いいたします!」
(おわり)
取材・文/永堀アツオ
Release InformationNatumi.「pARTs」
2022年6月1(水)発売
初回限定盤(CD+DVD)/AVCD-61200/B/1,800円(税込)
avex trax
Release InformationNatumi.「pARTs」
2022年6月1(水)発売
通常盤(CD ONLY)/AVCD-61201/1,100円(税込)
avex trax
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