――2020年12月の豊洲PIT公演「majiko ONE MAN LIVE "世界一幸せなひとりぼっち達"」は、いわゆる有観客でのライブがリカバリーし始めた時期で、いろいろと手探りだったと思いますが、振り返ってみていかがですか?

「真冬の豊洲で換気しながらだったから、お客さんもみんな会場のなかでもダウンを着ていて寒そうだなあと思った記憶があります。あの時期、有観客でライブをやっていたアーティストの方々も、お客さんとの間合いがはかれないし、結構キツいって言っていて、どうしよう?って思ったし……そうですね、すごい手探りでした。声を出しちゃいけないってことはわかっていたので、あのライブではお客さんに録音した声援を流してもらうリモート応援システムを使ってみました。パチパチパチって拍手みたいな音がでる鳴り物を物販で出そうかってことも考えていたんですけど、配信もしていたので、映像的にはあれですごくよかったですね」

――見ている側も歓声が聞こえていたほうが乗れるし、ドラマチックな演出でした。いろいろと制限があるなかでもこれだけのライブができるんだっていう驚きがありました。

「よかったです。気持ち的にはいろいろと大変でしたけど思い切ってやってよかったと思います。その後、どうなるかわからないっていう状況が続いてしまったので」

――『世界一幸せなひとりぼっち』はコロナ禍の真っただ中でのリリースだったわけですが、制作はコロナ以前に?

「いや、制作ももうコロナ渦中でしたね」

――その後、2021年8月の「白い蝉」、12月の「FANTASY」と配信リリースが続きましたが、そんな状況下でクリエイティブのためのインプットとアウトプットのバランスはうまくとれていましたか?

「コロナ前後でいろいろな変化があったと思いますけど、私自身、制作に対する気持ちみたいなものも変化があって――それはネガティブな面ばかりではなくて――だったらいまだからこそできることをしようという気持ちであったり、フォーカスが定まってやるべきことが明確になったというふうにも感じています。私はもともとあまり家から出ないタイプの人間なので、実はあまりライフスタイル自体は変化していなくって(笑)。ライブができないっていうのは大きかったですけど、それまでとかわらず家で筋トレして、映画見て、あまり人にも会わず……という感じですかね。ただ、やっぱり音楽とかライブというものの世間的な位置づけとか価値観が変化してしまったことへの不安とか危機感はありました」

――まあ、不要不急の範疇に入れられてしまいましたからね。

「人間の三大欲求っていうんですかね。やっぱり、ここ数年で生存欲求の優先順位が格段にあがって、対して音楽とかエンタメっていうものが二の次、三の次っていう位置づけになったことを肌で感じてしまったので。“そうか、不要不急かあ……”って」

――なるほど。思うところはいろいろあったけれど、コロナ禍中に時間を持て余すということもなく?

「そうですね。制作の体制も新しくなり、逆に新たなアイデアも生まれたりもして。ライブができなかったり、海外に行けなくなったりというストレスはありましたけど、目標を決めてひた走る感じでした」

――海外といえば、2019年には中国3都市+台北での公演もありましたね。

「あのときの感覚っていうか、実際、すごく楽しかったし、自信がつきましたね。“あ、日本以外の国でも待っていてくれる人がこんなにいたんだ!”という驚きとよろこびで2019年を締めくくったので、また早くあの空気を吸いたい、お客さんと戯れたいという気持ちがあるんですが、この状況下ではいかんともしがたいので。寂しいですね、めちゃくちゃ手ごたえを感じていたので。次は2週間くらいのツアーを回ろうと計画してましたけど、いまはお預けという感じですね」

――majikoというアーティストがそうやって海外でも支持されていると実感したのはいつごろですか?

「2018年「狂おしいほど僕には美しい」のときかな。“いや海外で聴かれてるってどうゆうこと?”って(笑)。その3都市ツアーのときも“本当にお客さんが来るのかな?”って半信半疑だったので。そしたら初日がめちゃくちゃ盛り上がったっていう。そこで初めて“あ、そうなんだ”って実感しましたね」

――ツアーに行く時点である程度確信めいたものがあったのかと思ってました。

「YouTubeで海外のコメントがたくさんついているのは知っていましたけど、スタッフさんたちがなんかうまいことやってるのかなって勘ぐってみたり(笑)。中国ではYouTubeが見られないんですけど、ニコニコ動画で歌い手をやっていた時代に何回かその周辺の歌い手さんたちと中国に行かせてもらって、ある程度盛り上がってるって知ってはいたんです。でもあのときは人の歌だったし、他の歌い手さんといっしょのライブで、私自身は中国のリスナーの反応が全然見えてなかったから。日本で私がライブしたことがある最大キャパくらいの会場でやらせていただいたんですけど、「歌ってみた」時代の曲を多めにセトリに入れたんですね。何が刺さるのかわからなかったので。でも、実際やってみたら自分のオリジナル曲のほうが盛り上がっていたので“あっ、その時代のファン層じゃなかったんだ……”って思いました」

――それってちょっとうれしくないですか?

「いや、めちゃくちゃうれしくって“なるほど、そっちかー!”って(笑)。3都市公演の1回目でそれがわかったので、2回目からはオリジナル曲中心でセトリを組んで。すごく大きな経験になりましたし、現地ファンの皆さんも“来てくれてどうもありがとう!”って感じでよろこんでくれていたので、早くまた会いに行きたいですね」

――さて2022年のmajikoさんは、配信シングル「劫火のエトワール」でスタートするわけですが、こちらはPlayStation 4/Nintendo Switchタイトルの『バトルスピリッツ コネクテッドバトラーズ』の主題歌です。

「実は、この曲は他のアーティストさんのために書いた曲がベースになっているんですけど、クライアントさんに気に入っていただいて。作品に合わせてほんのちょっとだけ歌詞を書き直した感じですね。歌詞も含めて楽曲の世界観を好きだって言ってくださったので。ゲームのティザー映像で楽曲が流れているのを見て“合ってる、よかったー!”って」

――確かにしっくりきていました。でもmajikoさんのレパートリーとしては、突然変異とまでは言わないにしても異色ですよね。

「そうですね。やっぱり自分で歌う想定で書いていなかったので出来上がった曲を聴くとある意味新鮮に感じました」

――転調やボーカルのエフェクトだったり、楽曲の構成にアニソンぽいメソッドが感じられますが。

「もともとアニソンぽい歌を歌うアーティストさんを想定していたので、そのままその手法を取り入れて仕上げてみたんですけど、思っていた以上にマッチしたみたいで、それがアニソンぽいイメージになったんですかね」

――鍵盤のインサートとシンセが絡み合ったり非常に巧みな構成ですね。

「うん、うまくまとまったなと思います。ライブ映えしそうな曲でもあるので、いまから“どんなセトリにしようかな……”って考えちゃいます。まあ、これからいくつか新曲を出せると思うのでうまく流れを作って組み込めると思います」

――いいですね。疾走感というとありきたりですが、すごく追いかけられてる感というか、緊張感があります。歌詞に使われている言葉は平易なんですけど、耳で聴くとすごく非日常というか……

「自分でも不思議です。疾走感を出そうというのは意図的に考えていましたけど……きれいな部分と鋭利な部分の両立っていうか、アニソンによくあるそういうアプローチが好きで、それを取り入れてみようと思って書いた曲ではあります」

――テーマ曲とかタイアップ曲のようにお題ありきのクリエイティブって得意なほうですか?

「あ、オーダーが明確であるほどうれしいですね。やるべきことが絞られてくるので“それじゃあ、あれをこうして、これと組み合わせて……”って具体的に考えられる感じ。逆に好きなようにやってくださいって言われちゃうと“あー、ど、どうしようかな……”ってなっちゃいます(笑)。明るいのか暗いのか、早いのか遅いのか、ほんの少しでも何かヒントがあったほうが取り掛かりやすいというか。今回の『バトルスピリッツ コネクテッドバトラーズ』は“バトルものなんで”という明確なオファーだったのでやりやすかったです。私はゲームもカードゲームも結構やっていたことがあるので、楽曲にもゲームをやってるときの緊張感とか高揚感みたいなニュアンスは出せていると思います」

――2022年の、この先のビジョンというか、majikoさんなりのロードマップは?

「いま、書き溜めている曲がたくさんあるなかで――でもリリースはちょっとずつしかできないので――“どれを出そう”“こっちもかっこいいよね”ってスタッフとポジティブにやりとりしている段階です。次に出す曲は決まっていてもう制作に着手しているんですけど……やっぱりアルバムを出したいですね。漠然とではありますが、ライブをやって、アルバムを出して、またライブをやって、とにかくみんなに早く聴いてもらいたいっていう気持ち。コロナの状況にもよりますが、ツアーも考えたいですね」

――たとえば2020年の豊洲PITワンマンの経験をふまえて、今度はもっとこういうステージにしたいっていうイメージはありますか?

「ただ客席のみんなに“久しぶり!元気だったかい?ちゃんと生きてまた会えたね”って言いたい」

――安否確認と近況報告ですね。

「そうですね。私もみんなの顔が見たいし。でもライブはまだ声は出せないだろうし、“いま私はこんなことやってるんだよ”って感覚かな。単純にみんなの目にmajikoがどう映っているのかっていうことを確かめたいというか」

――ここ最近、ライブのMCでよく聞く言葉ですけど、マスク越しの目もとの表情だけでも楽しんでるのか、そうじゃないのかちゃんとわかるって。

「おお!目でわかるってやつですね(笑)。いや、そうなんだ……私のファンは、みなさん超いい人ばっかりで、マスク着用!声出し厳禁!って言われたら真面目に守ってくれるタイプなので、それが心配だったんですよ」

――うまく繋がりましたね。「愛(めで)わかる」に(笑)。

「まさにその状況のとおりで(笑)。言葉は発していなくても目で伝わるよという……このタイトルを思いついたとき“おおっ!やるじゃん、私!”って自画自賛しました(笑)。7月の恵比寿ガーデンホールでうれしいお知らせができるようにがんばります」

――じゃあ、その先の未来はどう思い描いていますか?

「やっぱり海外にどんどん出ていきたいなって思いますね。アジアもそうですけど、その先のヨーロッパとかにも。さっきお話しした中国でのライブの時に、こんなに世界は広いのに日本だけに固執してちゃダメだ!って思いました。いろんな場所に行って、いろんな人と出会いたいって。これはアーティストとしての未来予想図で、個人的には自分で曲を書いて、自分で歌ってって自己完結しちゃうんじゃなくて、もっと人に曲を書いたり、クリエイターとしてもいろいろ挑戦したいなって」

――髪型と髪色は?

「えっ?」

――いや、『世界一幸せなひとりぼっち』のインタビュー当時と変わってなかったので(笑)。

「あ、あのときといっしょかい!って思われちゃった(笑)。いや、インナーカラー、好きなので、10年以上これなんです。おばあちゃんになったら白髪にインナーカラーしようかな……これ、遠い未来のロードマップってことで」

(おわり)

取材・文/高橋 豊(encore)
写真/タマイシンゴ

LIVE INFOmajiko ONEMAN LIVE「愛わかる」

2022年7月2日(土)@恵比寿ガーデンホール

イープラス

DISC INFOmajiko「劫火のエトワール」

2022年4月13日(水)配信
ユニバーサルミュージック

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