──ミニアルバムとしては2枚目となる『第六感』が完成しました。
「アルバム『金字塔』のあとすぐに制作に着手したんですけど、「第六感」という楽曲ができたときに、ミニアルバムのタイトルも『第六感』にしようと決めました。内容的には、全曲シングルカットできるぐらいポップであることを念頭に置いて、今まで以上に開かれた作品にすることを意識して作っていきましたね
──それは、これまでの作品とは異なる意識だった?
「これまでの音源集たちは割とコンセプチュアルというか、世界観や時代感を決め打ちで作っていたんですけど、今回はもっと自由度が高いです。その上で、フューチャー感を意識しました。『虚構集』と『事実上』は音的に90年代回帰をテーマに攻めていて、「文明EP」と『金字塔』は世界四大文明のトライバルな感じにインスパイアされて作ったんですけど、今回の『第六感』は未来を見据えている感じ。懐古するんじゃなくて、新しい時代に視座を向けた音源集なので、そこがかなり違いますね。過去への憧れじゃなくて、未来への憧れ。そういう作品です」
──過去から未来へと志向が変わったのは、自分自身に変化があったから?
「コロナ禍もそうですけど、今この国で生きていたら感じざるを得ない“時代が停滞している感じ”から、一歩踏み出したいというストレスが溜まっていたんだと思います。それで、未来が見られない状況に置かれたら逆に未来が見たくなるというか、少なくとも私はそうでした。いろんなものがふるいにかけられて、価値観の違いとかがすごく浮き彫りになったこの2年間だったと思うんですね。今まではちょっと目を背けていた他人とのずれが、コロナ禍によって可視化されたというか……その中で、自分が交わりたい人ってどういうところにいるのか、自分の音楽を通して交わることの目的は何か、そういうことをずーっとめまぐるしく考えていました。それは、別にこれまでも考えていたことだったんですけど、自発的に考えるだけじゃなくて、外的要因で考えさせられることも含めて音楽を作ったのが、2020年と2021年だったと思います。ものづくりをする人は、みんなそうだと思うんですけど」
──自由度が高いという意味では、ボーカリゼーションについても、歌とラップの境界線もより曖昧になって自由に行き来している印象を受けました。性差を超えるというか、ジェンダーレスな声質もひと役買っている感じがしますし。
「私が自分の声の特性に気づいたのは、インターネットに歌をアップするようになってからなんです。高校生ぐらいからバンドを組んで歌ってはいたんですけど、そのときは生身の自分を見た感想をもらうじゃないですか。そうすると、どうしても見た目で女性が歌っているというバイアスがかかるんですよね。だから、自分の声の特性に気づくこともなかったんです。でも、インターネットに自分の歌をアップしたときは顔を出さないリリックビデオみたいな映像だったから、私の素顔を知らない人たちが声だけを聴いて、女の子かもしれないし、男の子かもしれないしって。最初はそれが嫌だったんですけど、自分にとってのコンプレックスってまわりから見たらチャームポイントになっているかも……って考えるようになって、自分の声質を前向きに捉えるようになりました」
──それこそがReolさんのシグネチャーになっているとも思います。
「ジェンダーの問題は、ここ数年でいろんなところで取り上げられるようになりましたけど、私自身は女性性と男性性についてずっと前から考えていて。ずっとジェンダーに対して違和感を抱いた状態で生きてきて、20代の前半までは迷いがあったんです。でも、時代がジェンダーに対してオープンになってきて、自分も歳を重ねたことで自分を受け入れられた。今は自分の中には両面の性があると思っていますね」
──そうした心境の変化があることで、音楽以外の面でも自由度が増した?
「自分が女性として見られることや女性"らしさ"を強制されることへのヘイトは、昔より減ってきたなと思います。前は女性らしい服装が嫌だったんですけど、ボーイッシュなファッションを繰り返していると、逆に女性らしい服装もしたくなったり。今はそういうところのリミッターも外れて、自由に行き来できるようになった気がします」
──楽曲制作をするにあたっては、どんなものをモチーフにしたり、どんなものからインスパイアされますか?
「今までもずっとそうなんですけど、映画や本といった創作物よりも、それこそ四大文明のような事象からインスパイアされることが多いです。今回の作品でいうと、「Nd60」や「ミュータント」がそうですね。「Nd60」はネオジムという世界一強力な磁石のことなんですけど、その磁石の存在を拠り所にして自分との共通項を探っています。「ミュータント」は突然変異体という意味ですけど、人間にとって恋に落ちる瞬間って、自分に突然変異が起こるみたいなことだと思うんですよね。例えば相手に合わせて服装が変わったり……そういう見た目の変化も含めて、その前の自分から変わっちゃう。そんなふうに、自分が興味を持った事象からインスパイアされて曲を作ることが多いです」
──最近、何か興味を惹かれる新しい事象は?
「ニュースなどを見て世相を知っていくことは好きですし、新たなに興味を惹かれている事象もありますけど、それを言ったら次の楽曲のネタバレになっちゃうかもしれないので(笑)。でも、ただ単に興味を惹かれる事象があれば曲が書けるわけではなくて、書きたくなるのは自分の感情が揺れたとき。私は、自分に降りかかる喜怒哀楽を掘り下げて曲を書くタイプなので」
──ちなみに第六感はあるタイプですか?
「直感みたいなものはありますね。だから、何ごとも選択が早くて、優柔不断な傾向はないです。これとこれならどっちがいいか、すぐに決まります。自分の中に確固たる美意識があって、そこから外れていたら切っちゃうんですよね……って言うと潔い感じですけど、切ったものの中には“ああ!あのとき残しておけば良かったな”と思うこともあります(笑)。でも、その後悔も人生だから」
──優柔不断なタイプにイライラしたりします?
「そんなことないですよ(笑)。自分とは全然違うタイプだからこそ、愛らしいなと思います。私にはない感覚を持っている人は興味をひかれます」
──『第六感』のリリースから間もなく2022年がやってきます。
「正念場だと思っています。戦闘モードというか、ギアを上げ続けてトップスピードで突っ走っていこうという感じですね。自分の中にはずっと大きな野心があり続けているんですけど、それを燃やし尽くしたいという感覚があるんです。そのためにももっと聴いてくれる人を増やしたいし、音楽にアンテナを張っている人じゃなくても何気なく耳にして好きになってもらえるような、マスな存在に自分もちょっと近づいていきたいと思っていますね。こういうサウンドのアーティストは少ないと思うので、その第一人者になりたいんですよね。でも、第一人者になるとしたら、Reolをもっと大きなものにして、大きなことをしなきゃいけない。そのための準備を今整えているところです」
(おわり)
取材・文/大久保和則
写真/TOMO(TWEETY Inc,)
DISC INFOReol『第六感』
2021年12月15日(水)発売
通常盤(CD)/VICL-65587/2,750円(税込)
Victor
Reol『第六感』
2021年12月15日(水)発売
初回限定盤A(CD+Blu-ray)/VIZL-1961/4,950円(税込)
初回限定盤B(CD+DVD)/VIZL-1962/4,400 円(税込)
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