――sajiの作品の中でも今回のアルバムのこのトータル感は最も突き抜けている印象を持ちました。
ヨシダタクミ「自分らしくできた気がします。作ってて楽しかったですし、今までの作品の中でも今作が一番好きと言える自信作ですね」
――タイアップ楽曲も4曲ありますが、その辺のバランスも意識しながらアルバム曲を作った感じですか?
ヨシダ「あくまでもアルバムということで、そこはあんまりバイアス調整はかけず、アルバムのコンセプトに寄り添って作りました」
――アルバムのコンセプトは“ユーリカ”という“何かを発見・発明したときに発する感嘆符”という概念はもちろん、具体的には星や宇宙が登場する曲が多いですね。
ヨシダ「そうです。星・宇宙をベースに書いていって。もともと単曲では星に符合する曲ってあったんですけど、アルバムトータルのコンセプトで自分主体じゃない曲を書くってこれまであまりなかったんですよ。“僕、こう思うんですけど”って曲を書く、いわゆる自分の内なる部分を書く曲が多かったんです。だけど、今回は世界というか、“ちょっとドラマチックな曲をやりたいな”って。あと、バンドマンって星と宇宙が大好きなんで(笑)。そういうドラマチックで、見えないものを僕も知り得ないし、誰も知り得ない世界に何か思いをはせるって、多分何千年も前の先祖たちも空を見上げながら“あの先って何があったんだろうな?”って思ってたと思うんですよね。妄想しながら思いをはせるって人間しかやらない行為なので、素敵な思考だな、と。それで、僕が空とか星を思い浮かべたらどうなるかな?と思ったら、これも昔からよく言いますけど、亡くなった方ってお星様になるっていうじゃないですか。だからもう会えない人も、もしかしたらこの世界を飛び越してあっち側までいけたらもう一度君会えるかも知れないみたいな。なんかそういう歌で、星を君になぞらえて書いた曲が多いですね」
――そのことによって、結果的に若い人を励ますような内容に着地しているのかなと思いました。
ヨシダ「そうですね。基本どの曲も僕は希望で終わりたいと思って書いてるんです」
――頭3曲、「スターフライヤー」「フォーマルハウト」「アスファルトと水風船」の感じは今までになく、爽快で新鮮です。
ヨシダ「好きなんですよね、この手の曲って。でもsajiになってからはミディアムベースの曲が多かったり、やっぱりコロナの影響もあってライブを基軸とした作品作りって、難しくて想像ができないから。それで、アルバム『populas popless』の時にも話したかもしれないですが、あれってライブのセットリストみたいなアルバムなんですよね。その理由がライブができない時期だからこそ、お家で聴いてもライブに行った気持ちで聴いてねっていうアルバムだったんです。でも今回はライブで会いに行った時にみんなと答え合わせをしようっていう曲なんで、そういう意味ではバンドらしさがようやく出せる世の中になったかなと思いました」
――制作の手法自体は変わってない感じなんですか?
ヨシダ「変わりました。今作はボーカルから録った曲が多いですね」
――そうなんですね!意外です。
ヨシダ「バンドって、リズムチェックが多いんですよ。ドラム、ベースを録って、ギターやピアノを録ったりして色々完成してから歌を乗せるんですけど、今回でいうと、2曲目の「フォーマルハウト」、 9曲目の「After the Rain」、10曲目の「ゆりかご」、それと通常盤のみに収録している11曲目の「どうぶつのうた」の4曲はボーカル先行で録りました。だから自分で作ったデモ持っていって、歌入れをして、“これ本チャンです”ってメンバーに渡して、“じゃ、RECよろしく”みたいな」
――その方法っていうのはどうでした?
ユタニシンヤ「僕はやりやすかったですね。もともとデモでメロディとか入ってた方がやりやすいんで。それこそ本チャンの曲とか譜割りと歌詞が入ってたほうがそこに追従できるギターだったりとか、ヒントみたいなものがあったんでとっても弾きやすかったです」
――曲調はいろいろですよね。「フォーマルハウト」のベースアレンジに関してはいかがでしたか?歌があることによって。
ヤマザキヨシミツ「テンション上がりましたね。仮歌じゃなくて、本チャンのテンションで歌っているものを聴きながら弾けたので、いつもと違うテンションで弾けました」
ヨシダ「曲の解像度は上がるでしょうね、みんなも」
ヤマザキ「今思えば、これまでで一番歌詞聴いたかも」
――そして、冒頭の段階ですごくテーマ性のあるアルバムなんだなっていうのがわかります。
ヨシダ「最初の2曲、「スターフライヤー」と「フォーマルハウト」はアルバムを代表するというか、表題曲ではないんですけど、このアルバムをアルバム足らしめる曲になるなと思って書いた曲なので」
――sajiがラブソングからなんかライフソングになったなあっていう感じがします。
ヨシダ「確かに(笑)」
――コーラスワークが特徴的ですね。
ヨシダ「確かに今回割とそういう意味でいうとどの曲もそうですけど、 「フォーマルハウト」はみんなで歌ってますし、「どうぶつのうた」もスタッフさん含めて歌ったりして。「After the Rain」は僕が全部コーラス当ててるんですけど、カウンターコーラスっていういわゆる歌にかぶせて歌詞が入っているけど追っかけるみたいな、いわゆるK-POPとかダンスボーカルユニットがよく入れるようなカウンターコーラスを意図的に入れたりしてて」
――「After the Rain」は唯一のファンク・ダンスミュージックと言えるのでは?
ヨシダ「もともともっとバンド感なくて、エレクトロポップみたいな感じだったんですけど、これをライブでやるってなった時に多分お客さんがついてこれないんじゃないかな?と思って。sajiってドラムレスのバンドなんで、いろんなやりようがもちろんあるんです。例えばこの曲をもっと削ぎ落としてエレクトロにしてしまうと僕がハンドマイクになって、打ち込みサウンドを例えばユタニがDJでやってとかになってくると、面白いですけど、それよりももうちょっとバンドサウンドとしてやってみたらどうなるか?っていう実験もありましたね。アレンジャーさんと話し合って、“ドラムを生っぽくしてもらっていいんですか?ベースやっぱシンベやめて生のベースにしましょう”とかいろいろやりましたけど、結果ちょっと変わった面白い曲になりましたね」
――シンベじゃなくて生ベだっていう判断はアレンジャーさんなんですか?それとも相談して?
ヨシダ「相談しました。で、あとはお任せしました(笑)」
ヤマザキ「デモで全編終わりまでシンベ入ってて、再現しようとしたら、“シンベのほうがこの曲はいいなあ”って思っちゃって。で、頑張ってシンベ寄りの感じを生で出せないかっていうのを試行錯誤して、今の感じに落ち着いたんですけど。というのも、ライブも意識したからなんです。再現できる範囲で生ベースでシンベっぽくしようと」
――この楽曲の歌詞は他に比べるとリアリティがある現在の事案ですね。
ヨシダ「元々歌詞の芽生えはコロナが流行りたての時だったんですよ。もうこれ以上増えていくとパンデミックになるんじゃないか?とか。まだ世の中が今以上に予断を許さない状態の時にそれを連想して書いた曲だったので。とは言えピークアウトじゃないですけど、止まない雨はないんじゃないかなっていう意味で、アフターザレイン、雨上がりみたいな意味にしました」
――結構強い存在感のある曲になってますね。ユタニさんはこういう楽曲のときはどういうアプローチしようと思いました?
ユタニ「こだわったというか、ギターをちょっと特徴的な音にしたいと思って。ギターにハーモナイザー入れたりとかして、特徴のある、ちょっとエレクトロに寄せた音色にはしましたね」
――空間系ではあるけど、やっぱり“sajiってバンドなんだな“っていう感じがします。
ヨシダ「うちのバンドのサウンド面で言うとユタニのギターが一番いなたいので。ギターサウンドってバンドによるじゃないですか?例えば僕らの先輩で、大好きなサカナクションさんは曲のベースで根幹をなす楽器の中にあんまりギターって入ってないんですよ。意図してだと思うんですけど、ギターが二本いて鳴ってるようには思えない曲が多い。でも、sajiはそれとは対照的に、いかなる時でもユタニが何を弾いてるか分かるみたいな(笑)、特徴的にすごい出てくるっていう。今のバンドシーンだと割とこのタイプって絶滅危惧種というか、リードギターがリードギターっぽいのって、珍しくて。ギターソロがまずこんだけ主張してくるバンドがあんまりいなくなってしまったので、絶滅危惧種として頑張っていただきたい。背負ってくれ(笑)」
――ギターソロ飛ばす説もありましたけどね。
ユタニ「今、YouTubeでやってる、『ROCK FUJIYAMA channel』に出られるように頑張ってます(笑)」
――反論を聞きたいところですけどね、ギターソロ飛ばすっていう人に。
ユタニ「悲しいですけどね、やっぱり。聴いてほしいっていうか、ギタリストが一番気持ち良いところというか、聴いてほしいとこなんでそれをシカトされるっていうのはね」
ヨシダ「一回やってみたいね、「ギターソロ」って曲名だったらどんぐらい聴かれないのか(笑)」
――そして「灯日」はヤマザキさん大活躍のベースフレーズが印象的な1曲で。
ヤマザキ「“ギターがシンプルになるから、できるだけ動いてくれ”って言われたので、できるだけ動きました」
――こういう重心が低い曲って久しぶりじゃないですか?
ヨシダ「本来3人ともこういう曲が大好きなんですよ。なんですけど、バンドとしてのsajiサウンドって決して軽快なサウンドではないので。やりすぎるとこのぐらい重くなってしまうんですよ。最近はミディアムベースの曲を作る機会が多かったので、こういった曲をやるタイミングがなくて悲しかったんですけど、 せっかくこういうアニメのタイアップ(TVアニメ「トモダチゲーム」エンディングテーマ)、人間の心理描写が多めの深くて暗いアニメってことで、“やった!”って(笑)。こういうのをやっておくことによって、もしかしたら今後この曲をきっかけにフォロワーが増えてくれれば、またこういう機会がいただけるかもしれないじゃないですか」
――唯一、女性目線の「Apricot」がちょっとネガティブな感情をもたらしますが、リアルですね。
ヨシダ「これももうほんとにコンセプチュアルに書いた曲のひとつですね。主人公が完全に僕ではない誰かなので。なんか女の子から見た時の、男からすればちょっとしたお遊びのつもりでも、女の子の方の感情の機微みたいなものを書きたいなと思って。で、男って本当に何も考えてないんで。考えてないじゃないですか?」
ユタニ「うん」
――ユタニさん、言わされた感が(笑)。
ユタニ「いや僕もだいたい何も考えてないんで(笑)」
ヨシダ「自覚なき悪意であったりとか、もしくは女の子からしたら“その一言がほしいだけなのに”っていう部分で、男の方は何も言ってあげないとか。もしかしたら確信犯かもしれないですけど。付き合う気はないけど手放す気もないよみたいな。で、“都合のいい女で助かる”って相手は思っているけれど、“全部こっちはわかった上でやってやってんだ!”みたいな、それがこの曲ですね」
――だからかなり呪いが強い。
ヨシダ「「Apricot」って花自体は可愛いんですけど、花言葉が怖いんですよね。“不幸にします”だっけ。だから“あなたの不幸せを願っています”って曲なんですよね。怖いですね(笑)」
ユタニ「怖いね。気をつけようね」
ヨシダ「ははは」
――だからただ爽快に流れていくわけではないんですけどね。
――今回はリードトラックを「ゆりかご」という、かなりストレートな内容の曲に挙げていて。
ヨシダ「もうシンガーソングライター全開って感じの曲ですね」
――書いておきたかったことですか?
ヨシダ「実はこれアルバム制作期間中にできた曲なんですよ。この曲って唯一このアルバムのコンセプトから完全に離れて書いた曲なので、アルバムの仲間ではないんですよね、僕の中で。なぜリードトラックにこの曲を持ってきたかというと、当時このアルバムのコンセプトに則していろいろ曲制作している中で、リードトラックが決まってなくて。だいたい先に決まるんですよ。なんですけど“アルバムのリードトラックをどれにしようかな?”っていうのをチーム全体とディレクターとで喋ってるタイミングで、僕が別の用事で出かけてたんですけど、出先で“ばあちゃんの曲を書いてみよう”と思って書いて。多分1時間ちょっとぐらいですかね。で、書いているうちになんかつらくなってきたんですけど(笑)」
――何がきっかけでおばあちゃんの曲を書こうと思ったんですかね。
ヨシダ「“こういう曲にしよう”ってイメージだけはあったんですよ。感謝であったりとか、恋愛ではない愛情を歌う曲を書きたいなっていうのだけはディレクターと共通認識で持ってて。“ありがとうって何だろうな?”って思ったときに、自分が小さいい頃のことを回顧して、確かに家族の歌って歌ってないなと思って。で、ばあちゃんのことを思い出している時に、筆を走らせました。僕が幼稚園ぐらいの時にばあちゃんがクモ膜下出血で倒れちゃって、車椅子生活だったんですよね。で、父が結構忙しい仕事で単身赴任でいなかったので、基本うちの兄貴と僕とオカンとで介護しつつ一緒に暮らしてたんです。もう亡くなって2年ぐらい経つんですけど。言いたくないことまで言うのは嫌だなと思ったんですけど、“耳障りのいい言葉だけ並べてもしょうがないな、毒にも薬にもならないし”、と思って、悲しみながら書きました。結果これが一番初期衝動感があってエモーショナルで」
――ひと筆書的に書いたんですか?
ヨシダ「本当にそうです。走り書きでバッと書いて。それで、レコーディングのとき、“試しに1回歌ってみるか”って、歌入れしてみたんです。何回か歌ってこなれた状態でも歌入れしたんですけど、ディレクターが“やっぱり最初のテイクが強い。インパクト強い”って、ほぼほぼそれベースで使ったんです。そういう意味では一番衝動で書いて衝動で歌った曲ですね」
――今のsajiのアルバムのリードトラックがこの曲なのは新鮮です。
ヨシダ「だってこのアルバムタイトルでバンド足らしめる曲でってなったら「スターフライヤー」か「フォーマルハウト」になると思うんですよね、リードトラックって。でもあえて一番バンド色が低い「ゆりかご」になったのは面白いなと思います。でも今までの過去作のリードトラックを聴いてきた人も決して何か違うなとは思わないと思うんですよ」
――ユタニさんはこの曲も先に歌があることによって、どういう気持ちでレコーディングしました?
ユタニ「とりあえず悲しみですね。2サビが刺さるというか、“もうどんだけ辛くするのこの人?”みたいな。MVの内容もそのままだったんで、映像化するともっとくるものがありましたね」
ヨシダ「2サビがちょっと毒づいているんです。MVでは食事ひっくり返したあと、ばあちゃんがきゅうり拾ってるシーンが胸痛くて。怒るでもなく、何かを告げるでもなくただそれを拾ってるっていうのを多分主人公が見つめているシーンだと思うんですけど。名誉のために言いますけど、僕はひっくり返したことないですからね(笑)。逆に僕がご飯作ってましたから」
――そして6月に台湾で開催されるアワードに日本からリモートで出演されると。すでに現在でも台湾のリスナーはかなりいるのでは?
ヨシダ「アニメから入られた方はいるみたいです。僕ら全員SNSをそれぞれやってるんですけど、海外の方からのコメントだったりとか結構届くようになりましたね。ただ言葉がわかんないんで、翻訳機かけますけど(笑)」
――さらにこのイベントきっかけで広がるといいですね。
ヨシダ「そうですね。広く知って頂けたら本当に嬉しいですね。やっぱり日本のアニメ文化って海外でもすごい人気ですし。言語は違えど、メロディであったりが日本以外で伝わっているのは嬉しいですね。ちなみにユタニはずいぶんこのイベントのためにコメント撮りさせていただく時、ずいぶんネイティブに頑張って喋ってましたよね。なんて言ってたんだっけ?」
ユタニ「大家好(タージャーハオ/みなさんこんにちは)、謝謝(シェイシェイ/ありがとう)」
――(笑)。もうちょっと喋ってくださいよ。
ユタニ「(笑)。中国語、大事ですからね」
(おわり)
取材・文/石角友香
Release Informationsaji『ユーリカ』
2022年6月22日(水)発売
初回限定盤(CD+Blu-ray)
KICS-94065/4,950円(税込)
通常盤(CD Only)
KICS-4066/3,300円(税込)
KING RECORDS
Event & Live Information
★「2022 GMA SHOWCASE」出演決定!
6月24日(金)、台湾にて開催される音楽マーケットイベント「2022 GMA SHOWCASE」へ日本を代表して出演することが決定!
GMA公式ウェブサイト
★2nd Full Album『ユーリカ』発売記念イベント開催決定!
【リリースイベント】
・6月25日(土)大阪:タワーレコード難波店 13:30~
【スペシャルミニライブ】
・7月22日(金)東京:タワーレコード渋谷店 19:30~
★saji Tour 2022 開催決定!
2022年秋、ツアーの開催が決定!
詳細は追ってご案内いたしますのでお楽しみに!