――ニューアルバム『ReLOVE & RePEACE』は、1曲目からパンチのある曲で驚きました。どのように制作していったのでしょうか?

「デビューしたときから、作り方は変わっていないんですよね。過程や機材は変わっていますが、歌詞やメッセージはデビュー当時から変わってはいないんです。日ごろ自分が思っていたり、見ているものがそのまま曲に出てきているんです」

――このコロナ禍であった数年での変化も大きく曲に出たのではないでしょうか?

「そうですね。でも、僕に変化があったというよりも、世の中の方が変化したように思います。とくにコンプライアンスが厳しくなって、“この言葉を入れるとよくありません”というようなことがすごく増えたんですよね。だからこその、葛藤は強くありました。このアルバムを作るにあたっても、本当に使いたい言葉が使えないこともあったんですよ」

――その言葉の“調整”はすごく難しいですよね。

「そう思います。映画『笑の大学』はご覧になられたことはありますか?三谷幸喜さんが原作を担当されているんですが、戦時中に喜劇を作るのにあたって検閲が入るんです。その検閲をする人を役所広司さんが、喜劇を書く人を稲垣吾郎さんが演じているんですが、“こんなチャラチャラしたものを世に出せるか!”って言われ、一晩考えて、その言われたことを守った上でもっと面白いものを考えてくるんです。そこで“これが僕の戦い方だ”って言うんですよね。その返し方がすごく大好きなんですよ。今って、それに近いものをたくさん感じるんです。誰が怒っているか分からないけど、ダメなことが多すぎるんです。でも、会って話してみると、そこまで怒っている人って少ないんですよね。となると、“心に余裕がなくなればなるほど、許せない部分が大きくなってくるのかな?”って思ったんです。その人たちの気持ちをクリアにしながら、さらにいいものを作ろうという戦いを常にしていました」

――ハードルを与えられると、“やってやるよ”という気持ちにも繋がりますよね。

「そうですね。腕力で戦う人は、それでしか戦えないけど、僕が戦う部分は、“いろんな人の条件をクリアしたうえで、一番いいものを作る”というものだと思うんです。それを意識しながら作り上げていきました」

――そこでの歌詞を引き立たすサウンドに対しては、どんなことを考えましたか?

「サウンドに関しては、自分のなかで全体像が見えていたんです。だから、いろんな方に演奏をしていただいてはいるんですが、そこは妥協することなくリクエストをして、“こういうメロディで、こういう風に弾いて下さい”と、たとえ時間がかかったとしても伝えるようにしていました。ただ、僕はあまり音楽用語を知らないので、感覚や擬音で伝えることにみんな困っていましたけどね(笑)。もしかしたら嫌われちゃったかもしれない…」

――あはは。でもみなさんプロですからね。

「そうなんですよね。高橋優を中心にやっていく以上、僕が妥協したら絶対にダメなんです。最終的に楽曲を受け取ってくれる人たちに、納得のしていないものを渡したら本末転倒ですからね。ただ、譲れる部分はめっちゃ譲りますよ。そこは信頼しているからこそ、お願いするんです」

――そこで新しく生まれてくることも多そうですね。

「そうですね。ha-jさんという編曲家の方と一緒にやった「HIGH FIVE」は、シンガロングから始まっているんです。このアイディアはha-jさんのものなんですよ。今回、侍ジャパンのドキュメントである『侍たちの栄光~野球日本代表 金メダルへの8か月~』のテーマソングだったので、このシンガロングバージョンと、ないバージョンとで、野球が好きなスタッフさんたちからアンケートを取り、これに決まったんです」

――そういう意見ってすごく大事ですよね。

「そう思います。僕は子どもを持ったことがないですが、楽曲は子供だと思っていて。その子供に旅をさせた方が良いと思うときは、いろんな方にアイディアを求めるし、自分で育てると思った時は全部細部までこだわり抜くんです。まさに「HIGH FIVE」は、“旅をさせよう”と思った曲だったので、旅から帰ってきてすごくいい形に成長していて感動しました」

――そうすることで間口の広い曲が仕上がるのかもしれないですね。

「ソロの強みってそこだと思うんです。バンドだと、そこで終始してしまいますけど、ソロの場合は玉手箱のように、曲ごとにどんなこともできるので、飽きないんですよね」

――編曲家さんたちとの出会いもたくさんあると思いますが、積極的に探すタイプですか?

「実は、前回のアルバム『PERSONALITY』でそれをやったんです。いろんな編曲家さんに曲を委ねて、僕がそこに行き、レコーディングするような形を取ったんです。今回は、それを続けたものと、長年やっている方ともタッグを組んで、どちらもやってみたんです。『PERSONALITY』に収録されたroomは、聴いてくれた方も“高橋優っぽくない”と驚いていましたね。それも僕としてはすごく楽しかったです」

――逆に、自分で育てようと思った曲はどれですか?

「「雪の筆跡」と「あいのうた」ですね。「あいのうた」は、アコギ始まりにしたかったのと、リズム感をとにかく大事にしたんです。ちょっとリズム感が変わるだけで、曲の印象が変わりますし、せわしないものにしたかったので、細かく編曲家さんにリクエストして作りました。歌詞は、最初は“これは提出できないな”って思うくらいのものが書けちゃったんですよ。でも、それをそのままスタッフさんに聴いてもらったんです。たとえ使われないと分かっていても、“こういうことを伝えたい”ということはしっかり言わなくちゃダメだなと思ったんです。こういう時代だからって、作り手が丸くなっちゃうのはもったいない気がしていて。その後に、ラジオでもかけられるような表現に変えたんですが、それも含めて、ドキッとする歌詞、言いたいことが詰まった曲となりました」

――高橋さんは、10年前から、本当に丸くなっていないですよね。これは、いい意味で言っています(笑)。

「あはは。“丸くなった方が良いんだろうな”とは思っているんですよ。例えば、誰かが何かを言った時に、“おっしゃる通りですね”って言えればいいんです。そうすれば丸く収まるんですが、それをやりたくなくて。なんなら、そういう時こそニコニコっと笑って終わらせちゃうんです」

――一番怖いタイプですね(笑)。

「あはは。分かり合える人って、あまりいっぱいいるわけじゃないけど、本当に分かり合える人って、喋らなくても、笑わなくても、居心地がいいじゃないですか。そういう人はもともと大事にしているし…。本当なら、”美しいバラードだけ12曲をうたえていたらいいんじゃないかな”って思うんです」

――その道もありますよね。でも、高橋さんが歌う意味は、そこではないんですよね。

「そうですね。今の時代の音楽って、周囲の人たちの鏡だと思うんです。周りが愛に満ち溢れていたら、“僕も愛の歌を書こうかな”と思うかもしれない。でも、それが分かりづらくなっている気がしていて。人とあっても、メディアを見ていても、どこかギスギスしている人が多いような気がするんです。そこに対しての漠然とした疑問、訴えかけたいものが当時から変わらないというよりは、新たに生まれてきているように感じています。戦争も始まりましたしね。だからこそ、ちゃんと“LOVE & PEACE”を歌いたくなったんです」

――譲れない部分と、自由にさせる部分が両方できるようになったからこそ、曲で遊ぶこともできるようになったと思うのですが、いかがですか?

「それは、そう思います。前はちゃんと文章立てて、起承転結で歌詞を書かなくちゃいけないと思ったんです。でも最近は筆に任せてみたり、“この言葉が言いたいから歌詞を書こう”って思うようになったんです。まるで絵を描くみたいに作るようになったんですよね。抽象画のようなものを作ったり、関係ないものを合わせて曲にしようと思ったり、以前よりはたくさん挑戦ができている気がします」

――余白や余裕って、大人になればなるほど必要ですよね。

「そうですね。余白って、どうしても必要なんですよ。“やっちゃダメ”、“「ダメに決まっているじゃん”って話し方をしたら、“うん”しか言えないですが、“ダメっぽいけどやった時もあるよね”って話すと、相手にも考える余地が生まれるんです。映画も、すべて説明しない映画や、無理やりハッピーエンドにしない映画が好きなんです。『ReLOVE & RePEACE』では、そういう曲を作ることができたので、楽しかったですね」

――ちなみにどの曲が顕著に表れていますか?

「「STAND BY ME!!!!」は、LiLiCoさんの声が入っているんです。すごく仲良くさせていただいていて、この曲にLiLiCoさんのセクシーボイスを入れさせてもらったんですよ。その声がすごく魅力的で、包容力があって、最高だったんです。感謝しています」

――いい関係が築けているんですね。

「僕は人間関係に助けられているんですよ。ムカつくヤツもいっぱいいるけど、時々、こうやって光になってくれるような人に巡り合うんです。ライブをして、対バンした相手と音楽の話をするとすごく元気をもらうし、お客さんの顔を観た時にパワーがみなぎってきたりとか、そういったことに救われているなって思っているんです。僕はステージを降りたら、いやステージの上でも普通の人間なので、いじわるなことを言われたらイヤだし、微妙な人間関係のズレも悩むし、分かり合えない人っているじゃないですか。でも、そうじゃない、大切な人たちと会うと、すごく頑張れるんです」

――高橋さんって、タレントさんや俳優さんとも親交が深いですよね。ちゃんと、出会う人を大切にされているんですね。

「みんなと仲良くできるタイプではないので、本当に局地的です(笑)。ただ、波長が本当にあった人のことは、むちゃくちゃ大事にします。これからも、そこは大切にしていきたいですね」

――出会いと言えば、「沈黙の合図」もおもしろい曲でした。

「マッチングアプリの曲です。僕の周りでマッチングアプリをやっている人が多くて。この曲は僕が喫茶店で食事をしている時に、隣に座ったカップルのまんまの会話が歌詞になっているんです。あとは、友だちの経験談などを交えて曲にしました」

――めちゃくちゃリアルですよね。“これぞドキュメンタリーだ”と思いました(笑)。

「この前、友だちがマッチングアプリで出会った人と、車で待ち合わせをしていたらしいんです。そこで、ガラス越しに挨拶されたときに、あまりにアイコンの中のひととはかけ離れていて、ドアを開けずに帰ったらしくて(笑)。それも曲にしたいなと思いましたね(笑)」

――あはは。いまは共感できる人が多そうですよね。さて、高橋さんが、今年挑戦したいことはどんなことですか?

「いまは、ちゃんと羽根を伸ばしたいです。何をやっても、曲作りに頭が行っちゃうんですよね。でも、上手に生きている人たちって、釣りとかいい趣味を持っているんですよ。なんで、何の身にもならない旅行がしたいですね」

――それが叶うのを願っていますね。では最後にメッセージをお願いします。

「僕は歌詞を聴いてもらえるように曲を書いているので、どこかワンフレーズでもひっかかってくれたら嬉しいですね。あとは、機会があれば歌詞カードを見ながら聴いてもらえたら、とっても嬉しいです」

(おわり)

取材・文/吉田可奈
写真/野﨑 慧嗣

RELEASE INFORMATION

高橋優『ReLOVE & RePEACE』

2021年10月5日(水)発売
初回限定盤A(CD+DVD):WPZL-32006/7 ¥4,950(税込)
【初回限定盤A・DVD収録内容】
「10th Anniversary Special 2Days DAY1-黒橋優の日-」
Warner Music Japan

高橋優『ReLOVE & RePEACE』

高橋優『ReLOVE & RePEACE』

2021年10月5日(水)発売
初回限定盤B(CD+DVD):WPZL-32008/9 ¥4,950(税込)
【初回限定盤B・DVD収録内容】
「10th Anniversary Special 2Days DAY2-白橋優の日-」
Warner Music Japan

高橋優『ReLOVE & RePEACE』

高橋優『ReLOVE & RePEACE』

2021年10月5日(水)発売
初回限定盤C(CD+DVD):WPZL-32010/1 ¥4,950(税込)
【初回限定盤C・DVD収録内容】
高橋優LIVE TOUR 2021-2022『THIS IS MY PERSONALITY』2021.11.9中野サンプラザ
Warner Music Japan

高橋優『ReLOVE & RePEACE』

高橋優『ReLOVE & RePEACE』

2021年10月5日(水)発売
通常盤:WPCL-13405 ¥3,300(税込)
Warner Music Japan

高橋優『ReLOVE & RePEACE』

LIVE INFORMATION

高橋優 LIVE TOUR 2022-2023「ReLOVE & RePEACE ~ReUNION 前編~」

2022年
12月23日(金) 神奈川 よこすか芸術劇場 ※FC限定公演
2023年
1月13日(金) 兵庫 神戸国際会館 こくさいホール
1月14日(土) 岡山 倉敷市民会館
1月21日(土) 福岡 福岡サンパレスホテル&ホール
1月28日(土) 千葉 市川市文化会館
2月3日(金) 東京 中野サンプラザホール
2月4日(土) 東京 中野サンプラザホール
2月11日(土) 新潟 新潟テルサ
2月18日(土) 静岡 静岡市清⽔⽂化会館マリナート ⼤ホール
2月23日(木・祝) 秋田 あきた芸術劇場ミルハス
2月24日(金) 秋田 あきた芸術劇場ミルハス
2月26日(日) 山形 シェルターなんようホール(南陽市文化会館)
3月30日(木) 大阪 フェスティバルホール
3月31日(金) 大阪 フェスティバルホール

※高橋優 LIVE TOUR 2022-2023「ReLOVE & RePEACE ~ReUNION 後編~」の情報は2023年年明けに発表予定。

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