――コロナ禍でも毎年コンスタントにアルバムをリリースされていて、この原動力ってどこからくるのでしょうか?

Rover「“アルバムを出した方がファンの方も喜んでくれるよね“っていう共通認識と、僕たちが”TEPPAN MUSIC“っていういわゆる自分たちのレーベルを設立したっていう意味としては、セオリーというものを持ってないんで。いい曲ができたらどんどんどんどん出していこうっていうスタンスはなぜかずっと昔からあって。なんだか世の中のスピード感が早いっていうのもあるし。あとは一番デカいのはツアーですね。”前と同じ曲をやるわけにはいかない“という気持ちと、あとは”新曲があるからまた今回もツアーに遊びに行こうかな?“って思ってもらえるようなツールとして、新ネタを作ってるっていうような感覚。だから後ろを振り返っている時間はもうほぼないんですけど、それぐらいの方がなんか僕たちらしくて常に新鮮な風が流れてるって感じです」

――新ネタっていう考え方はしっくりきます。

Rover「うん。そうですね。お笑いでいうコントとかそんな感じです。あと番組でいう企画とかコーナーとかを常に新しいものでっていう。『ガキ使』(「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」)は尊敬してる番組の一つで、ダウンタウンが好きで松本人志さんが好きで、常に新しい企画だから、“第一回チキチキ”って言えるっていう、多分そういうポリシーだと思うんですけど。なんかそこを音楽業界ではあるんですけど、“ちょっと真似したいな”っていうような気持ちはありますね」

――なるほど。リスナーの人の日常に定着している曲がたくさんありますが、似たテーマでも新しい曲を作りたいと思うのでしょうか?

Rover「“作りたい”って思うし、これはデータ的な話なんですけど、2〜3年前の曲が再沸するとか、盛り上がるんですよね、僕たちの「ハイライト」って曲も、3年以上前ぐらいかな。で、例えばインスタライブで“「ハイライト」が好きです、このプロ野球選手が使ってたんで”とか。「ライオン」って曲も本当に世の中に認知されたのはリリースしてから2年ちょっと経ってからとか 。てことは“もう何かを狙って作るっていうことはほぼ不可能に近いかな?”って思ってるっていうか、作り続ける中でたまたまなんかヒットするというか。だからとにかく作ってる人だけが知る世界っていう感じがあるんで、ほとんどハズレなんですけど、それが“おもろい”と思ってやってますね」

――今作のタイトルも『すごいかもしれん』ですからね。毎回“すごいかもしれん”と思って作ってるわけですよね?

Rover「“すごいかもしれん”、そういう気持ちで一応作っているつもりですけど。僕としては”音楽は永遠に不滅だ”という考えの中で、じゃあ「聖者の行進」って曲とか、「オー!シャンゼリゼ」とか、そういう口ずさめば誰もがわかる曲がいっぱいあるんで、”そこにたどり着くにはどうしたらいいかな?”っていうのはずっと考えていて。答えはほぼ不可能なんです。あの時代と今とじゃ音楽に触れる環境が違うから」

――曲の絶対数も違いますからね。

Rover「少ないんだったら少ない人に届けられる、その人にとってのヒットソングっていうのを作ろうっていう考えに至ったときに、“毎日幸せです”っていう人もいれば、“毎日が辛いです”っていう人もいるわけじゃないですか。そんな人に届く曲をいろいろ出していこうというのは考えとしてはありますね」

――なるほど。タイトルを決めて、他の楽曲のバランスを考えてらっしゃるっていうのを拝見したんですが、「すごいかもしれん」はアルバム『すごいかもしれん』の発端の曲っていう考えで合ってますか?

Rover「そうですね。アルバム、まあタイトルからちょっと考えちゃったんですけど、今回は。そこから曲を書き出して。でもその曲のアイディアはすでにあったりとかして。で、“「すごいかもしれん」っていう曲が別になくてもいいかな?”と思ってたんです。でも、たまたまっていうかすごく調子良くできたから、“これにしよう!”って言えただけで。「チョベリグ」っていうEPの時も確かそんな感じだったような気がするんですよね。僕たちの中でそこまでルール化してないんで、今回『すごいかもしれん』というアルバムタイトルを決めたのも、ツアーがあったから、“ツアーはどんなツアーにしよう?”って話し合ってたときに、“『すごいかもしれんツアー』って面白いね”って話になってアルバムを作ったんで。走りながら考えて行ったって感じですね」

――“すごいかもしれん”というニュアンスは大阪の人は“すごいかもしれん。知らんけど”ってセットで使ったりするじゃないですか。このニュアンスをちょっと他府県の方にうまく説明してもらえないでしょうか?

MOCA:先日、岡山にキャンペーンに行ったら、“これ岡山弁ですよね?”って言われるぐらい、関西近郊ではよく使われているのかな?みたいなところがあって。この間、ネットニュースで見たんですけどZ世代が“知らんけど”っていう言葉をめっちゃ使ってるみたいな話があって。全く狙ってなかったんですけど、“やっぱ一周するもんやな”って思いました。チョベリグもそういう発想なんですけど。チョベリグからインスパイアを受けて、その時、楽屋で自分たちの中では“すごいかもしれん!”っていうのが流行ってて。“すごいかもしれんなぁ”とか、“知らんけど”っていうのはジャマイカでいう“ヤーマン”ぐらいよく使われる言葉かなっていう(笑)。とりあえず思ってなくても、関西人が口にしちゃう照れ隠しのような、人情の町で生まれた魔法の言葉かな?みたいな感じはありますね」

――J-POPとしてのクオリティのある音楽であると同時にストリートを思い出させる言葉だなと思いました。

MOCA「後は自分たちも歳を重ねて、かっこいいフレーズみたいなのを逆に使えないっていうか。「ワンダフルデイズ」とか「サンライズ」とか、そっち系がちょっと似合わなくなってきているなみたいな…。で、どっちかといったらユニークな人たちだと思ってるんで(笑)、そういう余裕あるような見せ方が自分たちの陽気さに合ってきてるかなみたいな感じもありました」

――ぶっちゃけた内容なんですけど、トラックがオシャレなのもいいですね。

MOCA「この「すごいかもしれん」要素としては前作のアルバム『必ず何かの天才』で「GroovyでDancingParty」っていう曲が、自分たちの最近のライブでは欠かせない曲になっているんですけど、そのトラックを作ってくれたのが、10年前ぐらいに出会った人なんです。この曲でベリーグッドマンの曲に初めて参加してくれたんですけど、その人がこの間のチョベリグツアーに友達を連れて来てくれてて。その友達のインスタのストーリーを見てた時に“ああ…このトラック全くメロディ浮かばない”っていうのを上げてたんです。それで、僕たちとしては制作モードでアンテナを張っている時に、“このトラック、なんかすごい可愛いかもしれん”と思って、“ちょっとワンコーラス作って送ってくれへん?”って、インスタで繋がった人に作ってもらうっていう、そんな面白味の化学反応が合ったんですよ」

――そんな経緯が…。

――ところでベリーグットマンは応援歌とラブソングのイメージが強くて、実際にこのテーマの曲は多いと思うんですけど、必ずしもこのテーマが書きやすいから書いているということでもないんですか?

Rover「“入り口を広げるために”っていう感覚で、その音楽のテーマを決めたりもするんですけど、例えば“高校球児に向けて応援歌を“って考えたときに、去年2年生だった人は今年引退だとか、3年ぐらいでパンパンと変わっていくから、そういう意味では”3年前の曲よりも今書いた応援歌の方が今の3年生に伝わるよね“とか、僕はそういうふうに考えていたりして。楽曲をリリースするのって一年かけて作る人もいれば、僕たちみたい二か月とか一ヶ月ぐらいで作ったりしてる人もいるので。僕の感覚的には番組に近いと思っているので、情報番組ほど早くはできないですけど、一ヶ月ぐらい作りこんで、その番組を世に出すみたいな。それで、応援歌っていうのは僕たちの中で一番の本ネタの漫才で、「すごいかもしれん」のような曲っていうのがリズムネタみたいな、全然違うことをやってるっていう。だけど同じ漫才師がやってるから、”この人たちおもろいな“と。で、ラブソングはすごいドラマ仕立てのコントみたいになってる。普段ふざけてるんですけど、新喜劇でも泣けるところがあったりするみたいなことで」

――分かりやすいです。

Rover「人間の感情は喜怒哀楽以外にもあるから、音楽で表現するにはもう足りないっていうか。だけど一番大事なのはできる限り希望になる音楽でありたいと思いますね。恋愛でも勉強でも家庭でも子育てでも、何かの希望になって、力になってもらえないと歌う意味がないんじゃないか?って思うので。それが楽しさとか喜びが倍増するという意味も込めて、“希望“ってことなんですけど。」

――今回で言うと「雑草」は応援というか、自分自身のことのようにとれるので、より強いなという印象でした。

Rover「今や「雑草」って何回も歌っているから、美しいものだと思いますけど、この曲を作るまでは別に雑草を何とも思っていませんでしたし…でも、そこに何か音楽的な魂が入るからそう思うっていう。どこにスポットライトを当てるかっていう当て方だと思うんですけど、何曲か応援歌を出してきた中で、このタイミングで「雑草」っていうのはすごい素敵なスポットライトの当て方だなと思いましたね。そういうのが言いやすい年齢にもなってきたし」

――そして今回もプロポーズソングと言えるのか、ウェディングソングと言えるのか、感謝なのか、「いい気分」というこれまた本当に音像自体がいい気分な曲があります。

MOCA「これはふたりを切り抜くと、もう何年も寄り添ったカップルだったり、老夫婦とか、僕はまだ奥さんと結婚7年目なんですけど、ツアーとか回ってて、めっちゃ華やかな瞬間ももちろん幸せで。大歓声を浴びて、自分たちがやりきって、“ベリーグッドマンがおったから、私たちは頑張ってこれた!”って言われる瞬間もすごい幸せだし。でも人間の原点ってめっちゃ地味で。コロナ禍で特に感じた、家族と何気ない朝飯とか晩飯を食べてる瞬間、“最高やん”みたいな。高級料理じゃなく味噌汁とご飯と漬物と焼き魚とあとはもうその場の家族の会話というか空気感があれば、“これだけでええな”みたいな。ここを幸せと思える人の瞬間を切り取っているんですけど。あとはパートナーとどこかの海を見ながら座っていたりとかっていうのもイメージしました。素朴なワンシーンを切り取ったというか。でも、それを切り取れたのも、Def Techを長年一緒にやってたNagachoさんというギタリストがHiDEXと一緒にこのサウンドをまず作ってくれて。もうこのタイトルしかないんじゃないかと思うぐらい、ハッピーでアイリー(ジャマイカの方言でAlrightの意)な感じやったんで、導かれるように出来た、久々に感覚的に作れた曲かなと思います」

――歌詞とかメロディだけの問題じゃないんですよね、きっと。この空気感というか、全然ベタに聴こえないのがすごいなと思いました。

Rover「そこはNagachoさんという先輩がすごい多忙の中、末端である我々に(笑)曲を提供するっていう」

MOCA「ははは」

Rover「で、憧れがずっとある僕たちの師匠であるDef Techにも絶対これ完成したら聴かれる…と。だから中途半端なことができないっていう、まずそんな大前提であって。で、三回か四回ぐらいサビを書き直したんですけど、平均点をとるのにすごい恐怖を覚えて。かといってNagachoさん本人は何を作っても“いいね”って言ってくれると思うんですけど、そこに僕は結構すべてを賭けた感があって。サビのメロディとかも、Def Techに敬意を持ちながらも、僕たちの節を使って。あとはド頭の歌も、最近の僕たちらしさを盛り込んだんですけど、結構過酷でしたね。決していい気分ではなかったです、作ってる時は」

――(笑)。

Rover「だから、ここまでいいものができたと信じてます」

――一転じてラストの「Mic」はハードボイルドな感じもありますよね。

Rover「そうですね。なんかちょっとアホなことも盛り込んだんで、真面目に行こうっていうことですね(笑)。「Mic」はもう本当に恥ずかしくて、聴いてて今でもちょっと照れくさいぐらいリアルを歌ってて。リアルというか、むき出した感じ?そういうのって昔もやってたような気はするんですけど、当時はなんか説得力に欠けるみたいなところもあったりもして。しかもそれをほぼ喋ってるような声のラップテイストでやってるっていうのは僕の中ではすごい挑戦だったですね。これをライブでどう表現していくかはやって行きながら考えようとは思ってるんですけど。でもできる限りあんまり繕わない感じで行きたいなと思いますね」

――いわばボースティングなので、これは知っておきたい曲っていう感じがします。

Rover「そう思ってもらえると嬉しいですね」

――この曲の淡々としたトラックがまたかっこよくて。これはHiDEXさんからスッと出てきたトラックですか ?

Rover「HiDEXからは“もっと歌もので来ると思っていた”って言われたんですけど。アルバム制作の中でいい意味でこう、そこまでアイディアを作り込まずにHiDEXが叩いて作った曲みたいで。聴いたときは“暗いな”と思いました、正直。“でも別にこれを明るくする必要もないか”みたいな。海外っぽいサーフ系だとかウェストコースト系のメロディとか乗せたら、ちょっと色味はつくというか、“『写ルンです』で撮ったかっこいい写真みたいな感じになるなあ“と思ってたんですけど、そこにMOCAが乗せてきたのがラップで、”ああそっちで来るんか“ってなった時に、”じゃあ俺もラップしよう“って言って、MOCAが入れた後で僕が入れてHiDEXに投げたら、すごく困ってて。”じゃあ俺もラップやん“って感じですよね。だから誰も本意じゃないところで自分をさらけ出してしまってるっていう曲ですね」

――MOCAさんはさらけ出そうとしたんじゃないんですか?

MOCA「僕はどっちかっていうと音を聴いて、それが“どういう世界観なのかな?”っていうか、“景色ってどういう感じかな?”ってことにインスパイアを受けたい人で。で、それが雨の中のこの鳴かず飛ばず感みたいなイメージがあって。僕達、ライブ当日が雨の日が多くて、ワンマンライブがね(苦笑)。“うまいこといかんな”とか思うんですけど。それこそインタビュアーの方に“負けの美学っていう言葉がすごい似合うと思う”というか、“負け続けてきたからこそ、人の痛みや苦しみが分かって応援ソングに説得力が出る”って言われたことがあって。その人の言葉は自分たちの中ですごいパワーワードとして残ってて。そんなことも思いながらこのサウンドを聴いて、気がついたらもう作ってたみたいな感じですね。だから非常にもう暗い(笑)感じの曲にはなってるんですけど。でも雨っていうのと自分たちの音楽人生っていうのはすごい似てるなって」

――マイクは絶対手放せない武器って感じですか?

MOCA「そうですね。そうですけど、“マイクなんかなくても俺ら全然路上でも行けんで”みたいな気持ちも込めてたし。それでもマイクに助けられて自分たちを大きく見せてくれる瞬間もあったし。死に物狂いで握ってた時もあるし、それこそもうマイクを握れなかった時もあるし。音楽どころじゃなくてバイトをしなきゃ生活もできないみたいな、その辺をいろいろ書けたかな。」

――10月29日からホールツアーが始まりますが、これぐらいの長さのツアーは久しぶりですか?

Rover「一年ぶりですね。『必ず何かの天才ツアー』があったんで」

MOCA「自分達としてはコロナ禍でもツアーを止めなかったし、結婚式場を回らせていただいたり、『超好感祭』でドライビングパーティーをやってみたり。完全に止めるというチームもいれば自分たちは動き切るみたいなところを決めて走ってきたので。自分たちとしてはあんまり感覚としては変わってないんですけど、最近お客さんが少しずつライブに戻ってきてくれたなと。それがすごい嬉しいなあという感じはあります」

――ホールツアーの良さてどういうところだと思いますか。

Rover「やっぱり音がいいですよね。ツアーとして回った時にムラがないかな。そういう意味では僕たちが音楽的に表現したかったり、歌のニュアンス的に表現したいことはホールの方が伝わりやすいと思います。僕たちのライブはスマホで撮影オッケーの時も多いんですけど、それをお客さんがSNSに上げたりしてる映像を見ても、なんかいいですよね、音的にも(笑)」

――MOCAさんは?

MOCA「自分たちがやりたいことを表現しやすいっていうのはもちろんあるんですけど、お客さんが自分の場所というか席が決められているところで遊んでもらえるので、その安心感がまずあります。もみくちゃになって子供をずっと抱っこしとかなあかんみたいな心配もないし、そういうある意味安心安全が整い切ってるんで、自分たちも安心して挑めるっていう安心感がすごいあるっていう感じですね。後はスマホとかイヤホンじゃ体感できないくらいのボリュームで聴いもらえるのを想定して曲を作ってるんで。「チョベリグ」はライブハウスをめがけて作ったし、今回の『すごいかもしれん』はホールで映えるような曲を多く入れ込んだので、すごいワクワクしかないかな?って感じです」

(おわり)

取材・文/石角友香

RELEASE INFORMATION

ベリーグッドマン『すごいかもしれん』

2021年928日(水)発売
通常盤
CRCP-40649/3,300円(税込)
TEPPAN MUSIC

STREAM/DOWNLOAD

ベリーグッドマン『すごいかもしれん』

2021年928日(水)発売
限定盤
CRCP-40648/4,400円(税込)
TEPPAN MUSIC

LIVE INFORMATION

ベリーグッドマン"すごいかもしれん"TOUR2022-2023

2022年1029日(土) 兵庫 神戸文化ホール 大ホール
2022年1112日(土) 岡山 岡山市民会館
2022年1113日(日) 奈良 なら100年会館 大ホール
2022年1125日(金) 北海道 札幌市教育文化会館
2022年1210日(土) 京都 文化パルク城陽プラムホール
2022年1211日(日) 滋賀 大津市民会館 大ホール
2022年1223日(金) 福岡 福岡国際会議場 メインホール
2022年1225日(日) 愛知 一宮市民会館
2023年17日(土) 宮城 トークネットホール仙台(仙台市民会館)大ホール
2023年19日(月・祝) 大阪 大阪国際会議場 メインホール
2023年114日(土) 愛媛 松山市総合コミュニティセンター
2023年115日(日) 広島 広島上野学園ホール
2023年121日(土) 東京 TOKYO DOME CITY HALL

ベリーグッドマン"すごいかもしれん"TOUR2022-2023

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