――しょっぱなからあれですけど、今回のシングルを最後にギターの夏目さんが脱退されるという。
下川リヲ「あ、そうです」
――もはやリヲさんのソロプロジェクトなのかっていう。
下川「ボーカルとベースなので、ドリカム(DREAMS COME TRUE)状態ですね(笑)。でもバンドの形にはこだわりたいっていうのがあって。まあ僕がひとりでできることがあんまりないからっていうところで人の力に頼りたいっていう(笑)」
――夏目さん脱退の理由は煎じ詰めると何なんですかね。公式にも面白おかしくしか書いてなかったんで。
下川「ちょっと煙に巻いた感じで。意外と僕の人間性の問題だけじゃないんですよとは言っておきたいですね(笑)」
――なんか30歳っていうなんかやっぱ節目なのかなあ?と。
下川「それと同時にコロナとかもやっぱりあって。バンドマンの生活ぶりみたいなところはみんな変わりましたし。まあ考えないバンドマンは多分いないと思うんですけどね。他のバンドも脱退とかすごい増えてますし、長年一緒にやってた人たちも脱退とかやっぱ多くて。このタイミングで続けるって選択した人も考えた上で“続ける”って決めた人だと思うんで。考えた結果辞めるってなった人と分かれましたね」
――“バンドで食べていく”っていうことを是とする人と、“仕事をしながら”週末バンド的な人たちもいるから、“自分達はどっちなんだろう?”みたいな。
下川「そうですね。これはバンドの考え方っていうより個人個人の考えがまずあると思うんですけど、週末バンドやる方っていうのは外的な要因で音楽性が変化したりしないっていう、それはそれですごい一つの美しい形だと思いますし、ある意味、健康的にバンド続けていけるっていう感じがすると思うんですけど。でも、バンド一本でやるぞっていう人はですね、僕の考えですけど、バンドドリームみたいなのに賭けている人は本当に少なくて、 実は。“バンドだけでやってくぞ!”っていう人は本当に社会性がないパターンだと思うんですよ。僕とかもう(苦笑)。バンドないとやばいんですよね、かなり社会的に言うとマークされるタイプの人間だと思うんで。コロナとかで思うように活動ができないみたいな息苦しさの中で“じゃあバンド辞めてどうするんだ?”ってなったら、“いやそっちの方がやばいな”っていうことでバンド続けているところがある(笑)」
―リヲさんの場合、“不安になるのなんて当たり前だろ”っていう前提でやってるっていうか?
下川「もう“調子悪くて当たり前”っていうか。不安定じゃなかったらこんなことしてないと思うんですけど(笑)。不安との付き合い方はちょっと人よりは得意っていうところはあると思います」
――いいメンヘラっていうか、ものを作るためのエネルギーとしてのメンヘラっていうか。それは特にソングライターであるかどうかっていうのも大きいですよね。
下川「そうですね。気持ちに向き合う時間はやっぱりすごくたくさんあるというか、よく考えますね」
――試された2〜3年ではありますね。
下川「結局自分の軸とか、そういうものに向き合わなきゃいけなかったと思うんで。なんかそこが不安定な人は結構大変かもなとは思います。」
――あとは自分を削るっていうのが犠牲と思うか、生きてると感じるかですね。
下川「そうですね。どうせ人間生きててもそんなになんか残せるもんじゃないですからね」
――分かりました。いきなり最初かららヘヴィな話をしてしまいました…。
下川「ははは(笑い)」
――では今回の本題に。アルバム『OSジャンクション』、『ブラクラ』、『散漫』っていうのは3部作的だったと。それが終わった時、次に見えたものってなんだったんですか?
下川「この3枚のアルバムを作って、人生の一番息苦しい時期が終わったような気がしますけどね。なんかある種、自分の八つ当たり的な音楽活動も一つの形で終了して。なんかこの3枚が3部作としてあるとしたら、その前の作品が…アルバムで言うと3枚分になるのかな?ちょうど半々で分かれるところがあるというか。やっぱり最初の3枚ぐらいは若いですし、何もものを知らないというか怖いものがないみたいな感じがありまして。その次の3枚はいろいろよく考えている時期ですね。まあそれは良くも悪くもっていうところではあると思うんですけど。メンバーもいないとか…まあそれずっといないのか(苦笑)。でも規模が大きくなったのもこの3部作の時期だと思いますし。でも3部作の(3部作って勝手に言ってますけど)気持ちとしてはバンドを始めた頃のように10代の“人から受け入れられない気持ち”とか“怒りとかルサンチマン的なもの”だけを原動力にすることに限界を感じていたので。そこに対する“じゃあ次どうしよう?”っていうのを非常にいろいろ考えながら作っているので、あの3枚を作って変な言い方ですけど肩の荷が下りたというか。もう少し“じゃあ人を喜ばせる音楽で自分にできることって何なんだろう?”みたいなことを今は割と気楽に考えられるようになったような気がします。変な話、諦められるというか(笑)」
――『散漫』の頃のインタビューで、“『散漫』を作ったことによって、人に聴いてもらうような曲ができるかも?”みたいなことを話されていて、“まさにだな”と思ったんですけど。
下川「本当ですか?じゃあそれはかなり良かったです」
――「このままでいたい」も穿った見方をしたらなんかいろいろな角度で見れるんですけど、ある種なんかオールディーズというか、ロネッツみたいなすごいシンプルな曲で。どういう心境だったのかなぁと。
下川「複雑化しないようにはしました。曲もそうですし、歌詞もできるだけシンプルな方向で考えましたね」
――リヲさんの声だから成立するんでしょうね、こういう曲。
下川「それはありがたいですね」
――というか、他のタイプのボーカルであんまり想像ができなくて。
下川「(笑)。そうかもしれないですね、確かに」
――すーって流れていっちゃいそうじゃないですか。
下川「そうですね、大事かもしれないです。なんか引っ掛かりがあるとか」
――この曲は何からできたんですか?
下川「これは恥ずかしい話なんですが“一番みんなの基礎になっているものってなんなんだろう?”みたいな、本当にでっかくバンドをやっている人って考えた時にたどっていくと“ビートルズとかにぶち当たるのかな?”みたいな、もうすごく雑な考えで片っ端から聴き返してて。で、“意外と変わったコードを使うんだな”とか、ちょっと違和感あると思ったら変な話、“トニックのコードでメロディがケツ締めて”みたいな。“それあんまりやったことなかったな”と思ったり。ちょっと自分にないやり方を発見したので実験的に“それ使って曲作ってみよう”と思ったら、パッとできたのが「このままでいたい」っていう感じなんで(笑)」
――これは逆に言うとバンドにキャラクターがないと唐突に聴こえそうな気がして。
下川「そうですね。“僕らなら逆にこれでやっても面白いかな?”っていう、できるだけ“今までやったことない曲をリリースしたい”っていう気持ちがあるんで。逆に“こういうのをやってない”なみたいなところで“いいかな”って思いまして」
――こんなシンプルな楽曲ってホフディランのワタナベイビーさんかリヲさんしかできないじゃないですかと思うぐらいで。
下川「あ、ベイビーさん大好きなんで」
――そういう声の人しか許されないんじゃないですか?
下川「かもしれないですね。自分でも聴いて変な声だなと思います(笑)」
――しかもリヲさんの声だと男性目線なのか女性目線になのか分からなくなるっていう。
下川「確かに。声高いですよね、なんか人ごとみたいに言っちゃいましたけど(笑)」
――実際はどうなんですか?
下川「目線ですか?そうですね…僕に女々しいところが多分にあるっていうところもありますけど、これまで男目線の曲を書くみたいなことあまりないかもしれないですね。男らしい歌詞も書けたことないですし、なんか「このままでいたい」とかも何となく女性目線で書き始めちゃいましたけど、こういうことを言う男もいますよね(笑)」
――すごく大人の自覚って言うか、不安になることで変わってしまう二人の関係みたいなことが今回はストレートに描かれていて。
下川「“シンプルなほうがいいな”、“シンプルな歌詞を書くのってすごく難しいな”と思って。シンプルで分かりやすいっていうか、簡単な言葉を使うこととかっていうのはなかなか難しいですよね、そう思ってたところで、「このままでいたい」っていう言葉は“シンプルで簡単かな?”っていうところがありまして。あれ何の話でしたっけ?(笑)」
――(笑)。
――最近のインタビューで、“大人の自覚がないっていうのはちょっとやばいんじゃないか?”ってことも話されてて、大いにこの曲も関係あるんじゃないかと思って。
下川「そうですね。でも、バンドをやってる僕の主観の視点で言うと、僕の後輩ってまだ全然出てきてないんですよ。僕も30とかなんですけど。下の世代のバンドってあんまりいなくて。僕、10代からバンドやってるのにずっと後輩っていう感じなんですよね。で、たまにちょっと下の子がいるくらいで、なんかこの若手のいない環境って“もうジャンルが死んでるんだ”っていうか、“バンドってかなり厳しいんだな”って改めて思うと言うか。というのが逆に“大人がいない”っていうふうにも見えるなと思ったんです。尊敬する先輩のバンドとかもたくさんいますけど、“ちゃんと大人になんないとカッコ悪いと思われるな”と思いまして。自分が普通にリスナーとして曲を聴いてても、“こいつ20代の時からずっと同じことを言ってるな、もう50なのに”みたいな人にあんまり魅力を感じないっていうか。忌野清志郎さんとかもそうですけど、カッコよく歳を取っていくやり方みたいなのを見せてくれた先人がいるんで。ちゃんと歳取りたいっていう気持ちはすごく強くありますね」
――清志郎さんはそんなにおじさんになる前にちゃんと<おとなだろ、勇気を出せよ>(RCサクセション「空がまた暗くなる」)と歌ったわけですもんね。
下川「あれって多分すごい衝撃的だったと思うんですよね。なんかロックスターって死ななきゃいけないみたいな、極端に言うとそういうところがあったと思うんですけど、なんかそれを変えた人がいて。そういう様式美ってあるじゃないですか?“27で死ぬ”とか。そういうところを含めてカッコ悪いとされる“歳をとる”っていうことをちゃんとカッコよく見せないと大人としてカッコ悪いから、若い人が憧れないとか、やるならちゃんと責任持ってやるっていうことだと思うんです。大人になるっていうところも含めてちゃんとカッコよくないとダメだなっていう気持ちはあります」
――だとしたらこの曲は何かどういう端境期にいるんですかね。
下川「僕もこの曲に関しては…僕、軽く老害なんですけども」
――だんだんそうなってきますよね(笑)。
下川「もう諦めが付いてるんですけど、“エモい”っていう言葉に“なかなかついていけない”みたいな。その爛れた恋愛を知って、爛れた恋愛も結構なんですけど、それが切ないけど楽しくて気持ちいいみたいな、そういう映画とか見せられて気分悪いっていうか(笑)。“ちゃんとしろよ”としか思わないんですよ。でも“そういうムードが今の流行りなんだな”っていう気持ちがありまして。でもそれと決別する方がずっと痛いし、引き裂かれるようなところとか、勇気とかが必要じゃないですか。そっちの方が僕はずっと歌にしたいし。まあ10代とか20代前半とかだったら全然その“エモい”にビタビタにしちゃっても全然いいと思うんですけど。“やっぱ30ですからね”っていうところがあります。まあなんか気持ちはどうこうできないとしても、“ちゃんとしようぜ”みたいなところがあるかもしれないですね。ちゃんとしようと思っている人こそ、“このままでいたい”って思うんだろうなっていうところがあるので、そういう気持ちで書いたんですよね」
――淡々と進んでいくんで、この曲は名曲として一人歩きして行くんじゃないかなと。一部の人にしか分からない感情ではなくて、すごくさらーっと伝わって残る、みたいな。そういう意味では挫・人間の新しい側面だと思います。
下川「ありがとうございます。自信になります」
――もう2曲は笑わずにはいられないです。
下川「(笑)。ひどい高低差があるかもしれない」
――「人類終了のおしらせ」はあまりにもジャストナウすぎて。
下川「(笑)」
――この“世界大統領”は誰なんだ?って話ですが。
下川「これは一気に書いた歌詞なんですけど、この“世界大統領”は僕の中では楳図かずお先生の『14歳』っていう漫画で、たくさん大統領が出てくるんですけど、一番出番の多いアメリカ大統領のことを僕が“世界大統領”として記憶してて。だからそのイメージで書いたんです。“世界大統領”なんて言葉、多分ないですね(笑)」
――この歌詞のような世界がなくもない感じですもんね、今。
下川「書いた時はちょっと気楽に書いたんですけど、リリースする頃にはもうだいぶことが進んで、スピードを感じますね(笑)」
――今は現実がエグすぎてSFを書けないというか。
下川「『魔法少女まどかマギカ』の最終回で津波のシーンがあったんですけど、そのときに311の震災が起こってみたいな。現実がSFとかを超えちゃうんですよね。そういう出来事がすごく増えてきたんで、洒落にならんっていうところもありますけど(笑)」
――あと、ハマるものが音楽でよかったなあとちょっと思いますね。
下川「思いますよね。何らかの信仰対象じゃないですけど心のよりどころってみんな持ってて、うまく持てなかった人とかはやっぱりちょっと大変なことになることあるんだなって思いますね」
――そう考えると“自分ってそこまで不幸じゃなかったからそういう目にあわなかったのか”ってちょっと思っちゃいますね。
下川「思っちゃいますね。なんか難しいですよね、人の悩みと自分の悩みをデカさで比べられないっていうところもあるんですけど。かなりシビアな問題ですね、本当に(笑)」
――「人類終了のおしらせ」っていう曲を書けるぐらいなんで、“なんか良かったですよね、音楽が好きで”っていう。
下川「笑えた方がいいですからね」
――そして「B・S・S〜ボクが先に好きだったのに〜」のイントロにCOMPLEXの「BE MY BABY」を感じまして。
下川「ははは!初めて言われました。でもそうかもしんないですね。最初はラモーンズの「ロックンロールレディオ」みたいな感じだったんですけど、まああれよあれよというまにアレンジが変わって。もうおぞましい変化をしてしまいました(笑)」
――アレンジは人が少ないなら少ないなりにっていうことが功を奏してるような気がします。
下川「夏目が“じゃ、最後にこの曲のアレンジするわ”って、僕の出したデモに対してアレンジするっていうことでやってくれたんですけど、もう原型を全く残さない形の、音源になっているトラックだけ送られてきて。“これメロも乗せるの難しいし、どうしようもないぞ”、みたいな状態だったところで、2日間あるレコーディングの1日目を終了して帰った時、家でメロと歌詞書いたんです。2日目のレコーディング当日までメンバーもまだこの曲がどうなっているか知らないみたいな状態で」
――インダストリアルなユニットがベースを強調した「スリラー」みたいな音像ですね。
下川「確かにマイケルっぽくなりましたよね(笑)。」
――夏目さんはいいアレンジを残していってくれたんですね。
下川「そうなりますね。最初はかなり困りましたけど(笑)」
――カッコいいと思います。なんかシングルって言っても今は皆さんがサブスクで3曲続けて聴くのかどうかわからないけれど、続けて聴くことによって。
下川「世界観が…」
――今の挫・人間がわかる感じかと。
下川「そうだと思います、補強されるかと」
――話が最初に戻っていくんですけど、これからバンドをどう運営していきますか?
下川「どうしようもできないこととしては、バッチリいいギタリストからの応募とかがあれば、スムーズなんですけど。でもサポートのギターの人とかとライブは今まで通りやります。アルバム『散漫』から今回のリリースまで1年かかっちゃったんで、早いうちにまたアルバムもリリースしたいなとかそういう気持ちがありまして。ガリガリ曲作って、今までと変わんないって感じですね(笑)、そう考えると」
――ちなみに現在、新しいギタリストとドラマーの応募はあるんでしょうか。
下川「全然ないですね(笑)。まあそうですよね、このタイミングで新しくバンド始めようって人があんまりいないんだと思いますけど、全然こないです」
――では意外な人がサポートしていることを希望します(笑)。
下川「(笑)。多分意外な人が来ます。」
(おわり)
取材・文/石角友香
Release Information
挫・人間「このままでいたい」
2022年9月7日(水)発売
初回限定盤(CD + DVD)/RCSP-0125〜0126/3,850円(税込)
redrec/sputniklab.inc
挫・人間「このままでいたい」
2022年9月7日(水)発売
通常盤(CD)/RCSP-0127/1,100円(税込)
redrec/sputniklab.inc
Live Information
TOKYO CALLING 2022
日程/会場:9月17日(土)
出演会場:新宿LOFT
出演時間:16:30
開場/開演:12:00/12:30
詳しくは公式ウェブサイト「TOKYO CALLING 2022公式ウェブサイト」でご確認ください
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