──バンド史上初のカバーアルバム『オメでたカバー横丁~一番街~』を、非常に楽しく面白く、かつ興味深く聴かせていただきました。まずは初のカバーアルバムの制作に至った経緯から教えてください。

赤飯「いや、もうすごく単純な話で。納得できる曲が作れなくなってしまったというか、何が正解かわからなくなってしまったというか……」

──とても楽しいアルバムに仕上がっていますが、バンドとしてはわりとシリアスな状況があったんですね。

赤飯「元々自分の理想を形にすることがこのバンドの目的なんです。自分たちなりの“みんなでもみくちゃになって騒げるライブ”を形にして広げることがモチベーションの根元にあるんですが、ご存知の通り物理的に禁止されてしまいました。そうなってくると当然、オリジナル曲も出来なくなってくるんですよね。向かうべき道をまるっと失ってしまったような、そんな感覚になって、文字通り露頭に迷ってしまいました。そんな我々の様子を見るに見かねて、うちのスタッフから“一回気軽にカバー集とか作って純粋に音楽をやる楽しさみたいなものを思い出してみたらどうか?”という提案をもらって」

324「そうだね。悪い流れというか、閉塞感に包まれて淀んでいたから、ここでいったん音楽を純粋に楽しもうって」

──誰かの曲をカバーするって、バンドの原点だったりしますしね。

赤飯「ある種、初期衝動を取り戻す感覚もありましたね」

324「人様の曲をやると、逆に自分たちの音楽性を模索するというか、自分たちらしさと向き合うことになるんですよね。オリジナルのどこに魅力を見出して、どこを残して、どこを自分たちらしく変えるのかっていう」

赤飯「そうやって自分たちらしさに気づくことで、これからオリジナルに向き合い直すきっかけにもなるというか」

──カバーする曲は、どんな流れで選曲されたんでしょうか?

赤飯「シンプルにやりたい曲をばーっとブレストして、“よし、許諾を取りに行こうぜ!”、“弾かれたぞー!”っていう繰り返しで(笑)」

324「で、許諾が取れた曲が残ったという(笑)」

──結果的に、水前寺清子「三百六十五歩のマーチ」(1968年)や坂本 九「明日があるさ」(1963年)といった昭和の名曲から、当時は放送禁止にもなったつぼイノリオ「金太の大冒険」(1975年)、モーニング娘。「恋愛レボリューション21」(2000年)、薫と友樹、たまにムック。「マル・マル・モリ・モリ!」(2011年)など、約60年の日本ポップス史を飾った多彩な楽曲がカバーされました。

赤飯「最近の僕の中のテーマに、郷愁とか哀愁というものがすごくあって、そういう気持ちにリンクしている部分はありますよね。ただ、もちろんそれだけではなくて。たとえば、4曲目のH JUNGLE WITH T「WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント~」(1995年)は90年代を代表するヒット曲ですけど、その当時に小学生ぐらいだった僕は、歌詞の内容もわからず、何も考えずに歌って楽しんでいたんです。でも、いまあらためて聴くと、当時は感じられなかった魅力を感じることができるんですよね。懐かしさだけじゃなく、いろんなことを経験してきたいまだからこそ見えてくる新しさがあるというか」

324「「WOW WAR TONIGHT」とか、昔はそんなこと感じてなかったけど、いまあらためて聴くとけっこう尖った楽曲構成してるなとか、「恋レボ」もかっこいいアレンジだなとか」

赤飯「「恋レボ」、尖ってるよなー!歌詞も、最終的には広大な世界観に広がっていくし。ヒットしていた当時は、モーヲタとしてただただ愛でてただけだったんですけど(笑)。そう考えると、初めて聴いたときも好きだったけど、いまもあらためて好きだと思えた9曲をカバーしたんだなと思いますね」

──アイドルソングでは、うしろゆびさされ組の「うしろ指さされ組」(1985年)も収録されています。

赤飯「3年前ぐらいに、おニャン子クラブを好きになったんですよ。僕、たまにDJをやってるんですけど、アニソン縛りのDJをするときに、たまたまうしろゆびのライブ映像を見たんです。そしたら、もともとドルヲタだったんで、その血がドバッと騒いじゃって。気づいたら、振りコピしてました」

──赤飯さんは、うしろゆびさされ組だと、どっち派ですか?

赤飯「ゆうゆ(岩井由紀子)です!で、そこからはやっぱりマザーシップも知っておかなきゃいけないなと思って、おニャン子クラブのDVDをメルカリで買ったりとか、レコードとか雑誌も家にめっちゃあります。ゆうゆの次に好きなのは、生稲(晃子)ちゃんですね」

324「「うしろゆびさされ組」は、ハードロックみがあるゴリっとしたアレンジでカバーしたよね」

赤飯「もともとギターのリフがかっこいい曲だからね」

──「うしろゆびさされ組」と同じく秋元 康作詞、後藤次利作曲による、とんねるずの「ガラガラヘビがやってくる」(1992年)も収録されています。しかも、曲順的にH JUNGLE WITH Tと並んで収録されているという。

324「とんねるずとダウンタウンの夢の競演!」

赤飯「この2曲は、やっぱり外せないですよ。とんねるずもダウンタウンもテレビのスーパースターで、テレビっ子だった自分にとっては気づけばいつもそこにいた存在なので。自分の血肉になってるんですよね」

──日本のコミックソング史上に燦然と輝く名曲「金太の大冒険」も収録されています。

赤飯「まさに金字塔ですね」

──歌詞はもちろんですが、いろんな音楽性がマッシュアップのように展開される部分も注目ポイントでしょうか。

324「歌詞の世界観が完成しきっている楽曲なので、そのパワーに負けないようにするのがマジで大変でした。こんなに完成度が高い曲を、自分たちはどう演奏すればいいのかっていう。考えた結果、金太が大冒険しているわけですから、それこそ旅をしているようにいろんな音楽性が展開されていくアレンジにしたっていう」

──「金太の大冒険」もそうですけど、かつては笑いと音楽、下ネタと音楽が融合した楽曲が多くあったし、みんなそれを表現のひとつとして自由に楽しんでいた気がします。

赤飯「確かにそうですよね」

324「その頃の感覚でやってるよね、俺ら(笑)」

赤飯「でも、クールな音楽が席巻してるよね、昨今は」

──それこそ、うしろゆびさされ組に「バナナの涙」という曲があったり。

赤飯「うしろゆびには、「象さんのすきゃんてぃ」もありましたもんね」

──オメでたには、笑いと音楽、笑いと下ネタという部分もより意識的にになってほしいなという個人的な願望もあります。

赤飯「もし席が空いてるなら、がんばります(笑)。でも、結果的に笑ってくれるならうれしいなって感じですね。笑いを取りに行くんじゃなく、どうやったら楽しんでもらえるかにトライした結果として。笑いだけじゃなく、そういうエンタメ性は大事にしていきたいです」

──“自分たちらしさ”という部分で、あらためて気づいたことは?

赤飯「しっかりと演奏しているメンバーの姿が想像できるサウンドというか、とにかくちゃんとギターが鳴っている、ベースが鳴っている、ドラムが鳴っている、歌を歌っているということが明確になる音作りを、あらためてすごく意識しました。自分たちらしさを考えたときに、今回のアルバムからそういう考え方をするようになりましたね」

324「悩んでいた時期に“自分たちがやりたい音の表現とはなんぞや?”ということに向き合ったからこそ、やりたいことが明確になったというか。いま、赤飯も言っていましたけど、バンドの人となりが見えるような、どんな表情をして演奏しているのかも見えるようなアレンジや音の配置に変わったなと思います」

赤飯「僕がやりたいことは、“空間演出”なんだなということにも気づきました。でも、いまはみんながいっしょに騒ぐような空間を演出することはできない。じゃあ、代わりにどういう空間が演出できるかって考えたときに、米米クラブ「君がいるだけで」(1992年)のアレンジが生まれました。最近、肩の力が抜けて圧のない曲が好きなんですけど、「君がいるだけで」はそういう最近の好みも影響して、全編アコースティック編成で演奏しています。牧場ですごいリラックスして、ギターをポローンと引いているイメージを作りたいと思って、初めて環境音を入れたり。そんな感じで、どこまでやさしい空間を演出できるかにとことんこだわって、実験した曲なんです。この曲をきっかけに、こういう理想も持っているんだぞっていうことを伝えていきたいですね。こういう理想と、もともとあった理想が融合したらどうなるのかっていう部分も含めて」

──「WOW WAR TONIGHT」も最初はやさしいアコースティック・サウンドですけど、途中から急に激しく展開するという、らしさ全開のアレンジになっていて。

赤飯「「WOW WAR TONIGHT」は、キャンプファイヤーでギターをポローンと弾いているところに謎の部族が現れて拉致されて、謎の儀式に参加させられるっていうストーリーを考えて作りましたから(笑)」

──それにしても、カバーした9曲をあらためて見ると、テレビ歌謡史のようなものを感じますよね。

赤飯「僕が本当に生粋のテレビっ子だったってことですよね(笑)。それともうひとつ、9曲全部に共通しているのは、ポジティブな曲ということなんです。後ろ向きな曲が、いっさいない。それは、出来上がってから気づいたことだけど。結果として、カバーした曲が自分たちの背中を押してくれることになったと思います」

324「それは、時代を越えて残っていくスタンダードはそういうものだということなのかもしれないし、自分たちのバンドがいまそういう曲を求めていたということかもしれないし。なんにせよ、歴史に残る名曲ってすげーいいなーって」

──『オメでたカバー横丁~一番街~』を作り上げたことで、次のオリジナル曲が変化し、進化していく手応えはもちろんあるんですよね?

赤飯「その通りです。そして、またバンドが苦しくなったら、「~二番街~」を作ろうっていう選択肢もあるぞ!という気付きもあった(笑)」

──オメでたがカバー集を出したら、それはバンドが苦しい時期だと(笑)。

324「いやいや!今度はバンドがいい時期にさらに楽しんで作りますから(笑)」

赤飯「このカバーアルバムを作ったことで、これからどんなオリジナル曲が生まれるのか、どんな理想を掲げて活動をしていくのか、乞うご期待という感じです!」

──5月には、東京と大阪で“人の曲しかやらないライブ”も開催予定です。

324「まだ固まってないですけど、このアルバムの曲を中心にしつつ」

赤飯「プラス、アルバムには収録されていないカバー曲もやるんじゃないかなと!」

──これからのカバーもオリジナルも楽しみです。

赤飯「あ!聞かれなかったので自分から言っちゃいますけど、「ガラガラヘビ~」に<時代を先取るニューパワー!>というとんねるずが貴明&憲武だった時代のギャグを入れてるんですよ!あのふたりのギャグをリンキンパーク的に落とし込むとどうなるかというアプローチでやってるんで、ぜひ聴いてみてください。この話、今日の取材の置き土産っていうことで!」

(おわり)

取材・文/大久保和則
写真/いのうえようへい

LIVE INFO

■オメコンベストテン とちょっと 2022(イープラス
4月4日(月)恵比寿 LIQUIDROOM(東京)

■オメでたカバー劇場~大阪座~(イープラス
5月13日(金)味園ユニバース(大阪)

■オメでたカバー劇場~東京座~(イープラス
5月15日(日)ダンスホール新世紀(東京)

「オメコンベストテン とちょっと 2022」楽曲リクエスト投票は3月27日(日)まで受付中!

DISC INFOオメでたい頭でなにより『オメでたカバー横丁~一番街~』

2022年3月30日(水)配信
ポニーキャニオン

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