――思えばフレデリックにとってのアルバムって1stからストリーミング時代的だったなと。改めてフレデリックにとってのアルバムって今、どういう認識ですか?

三原康司(Ba,Cho)「『フレデリズム』シリーズとして、『フレデリズム』から始まり『フレデリズム2』を経て、フルアルバムも3作目ともなるんですけど、今回の『フレデリズム3』は2019年から2022年の代表曲というか、自分たちの歩みをひとつの作品に収めたものだなと。それは最初の『フレデリズム』を出した頃から同じ形で、フルアルバムとしてリリースするならそういう形でリリースして、そのあいだにコンセプチュアルなものはミニアルバムやEPといったリリースの仕方をしていたんです。だから2019年から2022年の3年間が詰まった一つの作品だなと思っています」

――健司さんもバンドのビジョンとしては同じですか?

三原健司(Vo,Gt)「はい。『フレデリズム』シリーズは自分たちがどういうことを考えてメッセージを打ってきたのかというのと、“ここから自分たちがどうしていきたいか?”っていうものを詰め込んだものになるので、感覚としては写真のアルバムに近い、いろんな思い出を詰め合わせて、まだ余白があるみたいな。余白がいっぱいあるからこそこれからの未来でどう埋めていくか、自分たちでも伸びしろや楽しめる要素がたくさんあるので、そういう意味では自分たちの脳内だけで完結する作品というよりは受け取った人がどう感じるかっていうのも含めてできていく作品だと思いますね」

――アルバム自体、リスナーが参加する広場のような存在なのかもしれませんね。そしてEP『ASOVIVA』からリモートでの制作だそうですが、今回もその手法を基本的には踏襲してるんですか?

健司「そうですね。「YONA YONA DANCE」だったり、EPASOVIVA』にも収録されてる「Wake Me Up」は2020年の緊急事態宣言が発令されたタイミングで、レコーディングスタジオに入れない状況で、もう選択肢が2つしかなかったんですよ。レコーディングを延期してCDリリースを控えるか?、自分たちで機材集めて宅録って形でオンラインでできないか?みたいな。で、自分たちにやれることは宅録しかなくて。宅録はこれから勉強する必要がある茨の道ではあったんですけど(笑)、“そうしたほうが絶対いいな”と。緊急事態宣言で時間ができたっていうのもあったし、そこで得れるものを音楽に昇華しようと、そっちの道を選んで作ったのがEP『ASOVIVA』だったんで。実際、そうやって自分たちで音を作ったほうが“かっこいいよな”とか、実績があったからこそ、今回のレコーディングでも“この曲ってもしかしたらレコーディングスタジオに入って普通に楽器を触るより、宅録で自分の時間たっぷり使って作ったほうがカッコいいんじゃない?”っていう考え方ができるようになって、バンドでバーン!って録るだけじゃないやり方が増えて。音楽を作る上での選択肢が増えたのはバンドとしての成長にもつながってますね」

――なるほど。作品を完成するまでのプロセスも変わりましたか?

健司「かなり変わりました。たぶん制作だけじゃなくて、そもそもメンバーと会わないことってそれまではなかったじゃないですか。スタジオで会話することはあってもそれ以外でわざわざ4人で集まってしゃべるみたいなことって僕らに限らず、ほとんどのバンドはなかった。ZoomとかLINE電話で4人で話す機会が増えて、単純にコミュニケーションが増えたこともあって、今まで以上に仲良くなったし(笑)、単純に会話の精度もあがっていく、会話が多いことで作るものの精度も上がっていくし、方向性ももっともっと強固なものになっていったなと思います。あと、普通に最近、オンラインゲームするようになったな(笑)」

――(笑)。それはありそう。

健司「コミュニケーションをとった結果、音楽にもクリエイティブにもいい影響が出たと思うので、そこはこのコロナ禍でも自分たちで得たものだなと実感してますね」

――昨年は須田景凪さんとのコラボ(「ANSWER」)や和田アキ子さんへの曲提供(「YONA YONA DANCE」)もありました。特に和田さんへ提供した「YONA YONA DANCE」はそんなにフレデリックを知らない人でも“フレデリックってこういう音楽を作る人たちなんだ”っていう印象が強かったと思うんですね。全世界で、TikTokに使った方も多かったようですし。

康司「自分たちの想像し得ない人たちに届いてるっていうのは新たな出会いだし、こういう時代により一層つながりを持てたのはとてもバンドにとっても大きなことだし、必要なことだし。すごく意味のある制作ができたなと思ってます」

――アルバムのお話を具体的に何曲かについてお聞きしたいと思います。まず1曲目の「ジャンキー」はギターとシンセのリフなのかな?と思うんですがちょっとゲームミュージック的な印象を持ちました。康司さんはどういう着想で作った曲なんですか?

康司「この楽曲は一番最後にできた曲でもあるんですけど、フレデリックのいわゆるパブリック・イメージ、印象的なフレデリック像、「オドループ」っていう楽曲から生まれたフレデリック像ってあると思うんですけど、そのイメージっていうのを完膚なきまでに砕いた、でもフレデリックの新しさにつながってる曲だなと思うんです。今までの活動の中でも自分たちの個性に向き合ってきたんですけど、その中でも特にこの楽曲はその個性に向き合って、歌詞を書いたりイメージを着想していったので、そういうメッセージ性も込められた1曲になってます」

――単調なジャンキーは否定してるけど、厄介なジャンキーでは居続けるという、この二重構造も面白いですね(笑)。

康司「(笑)。<厄介>って言葉はすごくこだわりがあって、<厄介>って僕らにとっては愛情に感じる部分もあって。結構、癖のある音楽をやり続ける中で、よく耳にする言葉でもあったりしたので、そういう意味で使いたかったところもあります」

――ジャンキーってタイトルにも意味が2つかかってるところもありますよね。音楽が好きでバンドマンであり続けることはいい意味の中毒でもあるでしょうし。

康司「うん。僕らにとっての話をすると、音楽に夢中になって始めて、そこからやっぱりなにか夢を持つことってとても人生を豊かにすることだなと思って。そういったそれぞれの人生の中で夢中になれることを持つのはとても大切なことだし、そういうことをメッセージにして伝えていくことも、この時代だからこそ大事だと思って。ずっとここ10年とか10数年のことですけど情報量も多くなってきて、いろんな楽しい事があるぶん、何をほんとに好きなのか見つけるのも難しくなってきてると思うんです。選択肢が多ければ多い分。その中の本当に夢中になれることを一回考えることって大事で、それがこれからの人生の中で大事になってくるものかもしれないし、それを見つけたときに、僕らは目指す場所があって、今アリーナって場所に向かって活動してたり、もっともっと大きい夢もあったり。そういうものに対して、楽曲自体はシニカルなものも多いんですけど、熱量感としてはそういうことを本質的には歌ってる曲だなと歌詞を書きながら思いました」

――厄介であろうという前向きなスタンスですね。そして続く提供曲である「YONA YONA DANCE」をアルバムにも収録することにしたのは?

康司「この楽曲をリリースするにあたって、アッコさん側にも“セルフカバーをしていいですか?”って話はしていて。フレデリックが出す「YONA YONA DANCE」はどういうものがいいのかを模索しながら、アッコさんの魂も入ってる楽曲なので、その中でリスペクトを込めた部分もありますし、自分たちらしさっていう部分もすごく出した楽曲なので、その分もハマってリリースすることにしました」

――アルバムならではの楽曲だと思ったのが「VISION」で、素直なメロディですね。あと、意外と歪み系のギターも新鮮なアレンジだなと思いました。

康司「結構、いろんなアレンジをやったりしてるんですけど、確かにフルアルバムの中での「VISION」の見え方は音楽的にはそれが新鮮に入ってくる部分もあるかなと思います」

――フレデリックの歌詞はラップに近いぐらい言葉数も多いですけど、「VISION」はメロディに対して歌がロングトーンで乗っててそれが新鮮でした。

健司「“「VISION」を出そう”ってなったときが2019年で、バンドの状況は「オドループ」だったり、そこでバンドのイメージが広がってフレデリックを知っていただいた人たちに、いろんな音楽要素を楽しんでいただきたいなと思っていろいろ挑戦してた時期なんですね。それでメロディの改革だったりとか、言葉数の多い楽曲でも僕の歌のニュアンスを康司がロングトーンだったり、長いメロディも“健司に合うんじゃないかな?”っていうので、そのときに作ってた曲が今この『フレデリズム3』に入ることによって、また新しさが見えてるなっていうのが、今のお話を聞いて思いました」

――そうした割と長期の音楽性がアルバムでは横並びで聴くことができるのもまた面白いですね。

康司「そうですね。この楽曲のメッセージは見えない未来に対してのことを歌っていて、これからの自分たちの活動の中でもっともっと面白いものを見せていきたいって気持ちがこもってるので、ほんとにその言葉通りというか、この楽曲がまた新たな形で入ってくる、「VISION」を出して以降の活動の内容に意味を感じることができてるので、振り返ってみても、この楽曲を作ってよかったなと思えますね」

――バンドにとってはもちろん、アルバムに入ることによって、リスナーにとってもより意味がはっきりしてくる曲かもしれないですね。あと個人的に好きなのが「ラベンダ」で。これはリモートならではの作り方なのかな?と。

康司「まさにそうですね。EP『ASOVIVA』のときにレコーディングスタジオに行けない中でのレコーディングで得た、自分たちなりのやり方がすごく生かせた楽曲だなと思って。バンドって枠にとらわれずに引き算の美学も使ったし、アルバムの中でも幅広さを出してる曲だなと」

――これはメンバーの録り音をAメロでは切り貼りしてるんですか?

康司「切り貼りしてる部分もあるっちゃあるんですけど、でもそんなにおおまかにって感じでもないです」

健司「でも宅録のすごいところって、一人ひとりメンバーが“じゃあ、この3日間ぐらい家で録るね”って出来上がりを僕たちは待つような状態で、録ったものに対して何回かラリーはありますけど、レコーディングスタジオだったら、スタジオの時間とかがあったり、人もいるから時間配分も気にしながら制作していかないといけない。その部分が宅録にはないと思ってて。だから1時間ぐらい休憩しようと思ったら休憩できるし、寝ようと思ったらすぐ寝れるし(笑)、そういう自由度の高さは宅録の良さだったりするなと思っていて。そういうふうに作っていくのが一番向いてる曲というか、フレーズにしてもその日に何個も思いついた感じじゃないなと思ったりするし。レコーディングスタジオでエンジニアがいてやってもらうみたいなことではなくて、自分の頭にあるフレーズをそのまま自分で作っていけるという意味では他の曲とはまた違ったいい作り方をしたなと思います」

――ひとりの頭で完結してるアレンジだったりするんですか?

健司「ギターとか……でもみんなそうか。割と“一旦作ってくるわ”っていう感じですね。全員で0から1にしていく作業というよりは0からっていうのはおのおののメンバーだったり、スタートはデモをもらってるのでメロディは康司にあるんですけど、この曲はモチーフが何になるのかがいい意味でないから、ギターのフレーズひとつにしても、一人ずつ案を出して行くんじゃなくて、ギタリスト自身が一人で“じゃあリフ考えてくるわ”みたいな方が向いてるというか」

――おのおのの“アレンジ脳”が生々しいままバサッと出てる感じなんですね。

健司「そうですね。そこで出てきたものに対して、“これはなくしたほうがこっちが立つよね”みたいな話をしながら」

――面白いです。そこははっきりした意見交換をしないと延々と終わらなさそうですね。

康司「まあキリはないです。バンドがずっとコミュニケーションとってたことで、離れてても全然終わらなかったというか、いい意味で距離じゃないんだなってすごく思いました」

――そしてタイアップ楽曲で新鮮だったのが「Wanderlust」。放浪癖と言う意味ですね。どこかハウスミュージック的な楽曲で、90年代のダンスアクトみたいな感じもある。これはどういうところからできた曲ですか?

康司「これはニュージーランド観光局の「ニュージーランドの旅を想像しよう」というキャンペーン動画に書き下ろした曲なんですけど、自分もその時期に旅や冒険をイメージする事が多かったので、その話が来てすっと生まれた楽曲ですね。ダンスミュージックってすごくフレデリックが大事にしてる要素ではあるんですけど、広大というか、洋楽のダンスミュージックでも思うのが、すごく想像が広い印象があるんですよ。そこの部分と今回の旅、冒険ってところを照らし合わせて作っていったので、フレデリックの中でも新しいダンスミュージックの感じができたかなと思ってます」

――遠いところに行けない時期なんで、旅に出たい気持ちを掻き立てます。

康司「この時代の中でたぶん一人の時間が多かったと思うんです。その中で自分の中を旅するというか、自分に向き合う瞬間って多かったと思うんです。そういった部分で、自分の中の旅でもイメージを大きく持つことで、何かこう、ルールがある今の中でも考え方によってはそれは広くなるし、自分次第だというところはある。そういうところも晴れやかな気持ちにさせられるような楽曲を生み出したかったし、そういう目線でも歌詞を書いたりしてたんで、そこも感じ取ってもらえたらなと思ってます」

――同じ4つ打ちでもハウスのテイストがあるとずっと続いていく感じのグルーヴになりますね。

康司「そうですね。洋楽の音楽要素みたいなのも「Wanderlust」には取り入れたかったので、そこの形を感じ取っていただいてるのは嬉しいです」

健司「この曲はルーツはそこにありつつ、ダンスミュージックのサウンドと言えばギターが入ってなくても成立する音楽だと思うんですけど、そこをギターがいるバンドとしてどうアプローチしていこうかな?と思って。これはフレデリックのダンスミュージックなんだって棲み分けを意識して、ダンスミュージックでありつつも、ちゃんと歌えるメロディやキャッチーなものを残していく。それをフレデリックというバンドとしてやれてるな、と。自分はそこが好きですね」

――そして「TOMOSHI BEAT」の中にはツアータイトルでもある<朝日も嫉妬する程に>という歌詞もあります。この曲にはフレデリックの2022年の意思という部分はあるんですか?

康司「熱量感を持ってというか、こういう時代だからこそ、その波に負けたくないみたいなのはあって。この「TOMOSHI BEAT」もタイアップがあって、そこからイメージして作った楽曲ではあるんです。そのタイアップの内容の中でも一人ひとりキャラクターがいるんですけど、そのキャラクター一人ひとりが主人公で、いろんな人がいて、そこがつながって大切なものが生まれていくってことをメッセージにされている部分もあったりして。で、その灯、一人ひとりのなかにある熱意みたいなものって、それぞれの燃え方、それぞれの形があって、そこに熱意を持ってやってるからこそ、僕らは音楽だけど、この時代の中でいろんな仕事をされている方がいることも改めて認識したし、そういった方たちの信念みたいな部分により一層火を着けるというか、一緒に暖めていくという、そういった楽曲に仕上げたいなと思って作っていて。よりこの3年間の中の自分たちの目標に向かって進んでいくっていうのも重ねて楽曲が生まれました」

――この2年強は自分たちの暮らしがいろんな人と関連していることを実感せざるを得ない側面はありましたね。

康司「自分たちが体感してることを言葉にしないとなと思って、自分は歌詞を書いたり曲を作ったりして。そこと自分たちの一人の生活の重なる瞬間が多かったんじゃないかと思って。だからできる限りそこに寄り添って音楽を楽しむことで、ちょっとでも背中を押せるというか、そういったことができるんじゃないかと思って制作に向き合ってた部分もありましたね」

――他人のことを違う世界に住んでるとか思いにくくなりますね。こういう日常だと。

康司「同じことで大変な思いをしてるという共感がありますね。自分たちもライブが止まったり動けない瞬間っていうのがあって、そういう瞬間があったときに何かこう、気を紛らわすじゃないですけど、そういう時間が必要だなと思う瞬間って僕自身もたくさんあったし、そうなったときにいつでも音楽を聴ける状態でフレデリックはいるべきだなと思ったんですね。だから絶やさずに止まらずに、バンドであり続けることって大事だなと思って、こうやって形としてフルアルバムというものが出ることはすごくいいことだと感じます」

――そしてツアーもありますし、東京ではキャリア史上最大キャパの代々木体育館でのライブも予定されています。

健司「僕たちは結構昔からというか、音楽をする上で大事にしてるのが、“CDの制作を一旦やったら終わり、これで完成です、おつかれさまでした!”じゃなくて、“このできた音楽をどう楽しんでもらえるか?”っていうところまで考えて、ライブでやってみてその反応をいただいて、“じゃあ次こういう制作に生かしていこう”って、ずっとコミュニケーションし続けてやってるバンドで、どこでやるか?、どうやって鳴らすか?っていうのがすごい大事なんですよ。今回のアリーナ公演も、フレデリックは何回もアリーナをポンポンやるバンドじゃなくって、1回1回のアリーナにもちゃんとテーマがあったりして。今回は曲に引っ張られてアリーナをやることが大きくて。『フレデリズム3』の14曲をどこで鳴らそうかなって考えたときにライブハウスだと“この世界観全部表現できるのか?”ってなってしまって。“この曲たちをどこで鳴らす?”ってなったらアリーナ一択だろうということだったんです。自分たちの熱量というのもあるし、世界観も全部出していけるような公演になればなと考えてますね」

(おわり)

取材・文/石角友香

DISC INFORMATIONフレデリック『フレデリズム3』

2022年330日(水)発売
初回限定盤:CDDVDAZZS-1264,800円(税込)
通常盤:CDAZCS-11063,333円(税込)
A-Sketch

フレデリック『フレデリズム3』

LIVE INFORMATIONFREDERHYTHM ARENA 2022

日程:2022629日(水)
会場:東京 国立代々木競技場第一体育館
時間:OPEN 18:00 / START 19:00
料金:前売り ¥7,700(全席指定)

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