――初のベストアルバム『BEST ALBUM SUPERVILLAIN』を改めて聴き返していかがでしたか?

「今作はリリース順に並べてみたので、自分の変遷も見るだけでなく、自分を振り返るようで面白かったですね。デビュー1,2年目に作っていた曲は、“ようこんなん作ったな”、“どうやって思いついたんだ?”って思うような曲もあるんですよ。そこで自分の記憶を掘り返すと、“あの時にあれを見て作ったんだ”、“車でこの曲を聴いて思いついたんだ”と、懐古することがたくさんあったんです」

――なかでも印象的だったのはどの曲でしょうか?

「日中合作の映画『詩季織々』の主題歌として書き下ろした「WALK」は、まず、自分で書いたメロディなのに“よくここいったな!”と思うメロディが多かったんです。さらに、この曲を作っている時に、舞台『蜂蜜と遠雷』をやらせてもらっていたタイミングだったこともあり、その舞台のなかにある<驟雨>というセリフをサビに入れているんです。この舞台がなかったら、この歌詞は生まれなかったですし、すべての出会いに意味があるんだなと思いました」

――ビッケブランカさんは、自分なりに様々なことをインプットして、アウトプットする作業が好きだからこそ、タイアップもすごく楽しく取り組まれているのではないのかなと思ったのですが、いかがでしょうか?

「そうですね。書き下ろし曲など、僕の音楽の先になにか一つ作品があるということがすごく楽しいですし、それがあるからいい曲が書ける気がするんです。それは単純に、僕のほかにもう1つ、物を作ったり、作品を作るチームがあるからこそ、その方々の知恵を借りながら4分間を作るという考え方になるんですよね。それはもちろん、自分一人で作るよりも、当然、いい曲になるよなって思うんです」

――タイアップを、ビッケブランカさん指名でお願いするということは、すべてが繋がっているということですしね。

「そうなんですよね。何かの“主題歌を作りましょう”というときは、毎回先方から“あのアルバムのこの曲を聴いてお願いしたいと思いました”と言ってくださるんです。その曲がだいたい、ノンタイアップで、自分と向き合った曲であることが多いんですよね。たとえば、3年前に新垣結衣さん主演のドラマ『獣になれない私たち』の主題歌「まっしろ」を書かせていただいたときは、だいぶ前に出した「Your Days」を聴いてお願いしてくれたんです。この曲は、アルバムの中に入れて、買ってくれた人だけが聴いてくれたらいいという気持ちだったので、それが大きなチャンスを持ってきてくれたことはすごく嬉しかったですね」

――基本的にスランプはあるタイプですか?

「ありますね。以前、スランプになった時は、いろんな音楽仲間や、先輩などができていた時期だったので、いろんな人にアドバイスをもらっていました。なかでもいきものがかりの水野良樹さんには本当にお世話になっていて、リハーサルに乗り込んで、“スランプなんでどうしたらいいですか!?”って言って、曲を聴いてもらったんです。そしたら、“あぁ、これはスランプだわ”って言ってくれて(笑)。そこで“いろんなことをやろうとしているから、もっとシンプルにした方が良いんじゃない?”って言われて、書き直したこともありましたね」

――水野さんもいろんな曲を作る方ですしね。

「本当にあの才能はすごいですよ。その時は“ごちゃごちゃやるな”というシンプルなひと言でしたが、すごく救われたんです」

――でも、インプットが多い分、どうしても曲に反映させたくなってしまうのは分かる気がします。

「そうなんですよね(笑)。“もうちょっと整理しろ!”って思うんですけどね。そのアドバイスがもとで出来たのが、「天」という曲です。すぐに水野さんに送ったら、ラジオでそのエピソードも交えてオンエアしてくれて、すごく嬉しかったですね」

――すぐにアドバイスを聴きに行くのはすごく大事なことですよね。

「僕はすぐに人を頼ります(笑)。デビュー前の8年間、ずっと自分と向き合って、悪いところも知ったからこそ、ちゃんと人を頼ることの大切さを知ったんです。その8年間って、頼りたくても、頼る人がいなかったんですよ。信頼できる人もいなかったし、出会う機会もなくて。なので、いまは仲間に恵まれていることが、すごく幸せだなと思っています」

――今作には、新曲「アイライキュー」が収録されています。

「はい。時系列に並べたので、今の最新の気持ちが曲になればいいなと思い、この曲を作りました」

――MVはかなり衝撃的なものになっていて驚きました。

「『SUPERVILLAIN』というタイトルは、悪役という意味なんですよね。キラキラしただけの世界をみながら、そことは全く対極の真っ黒な部屋にいる人が見ているんです。ただ、その人はキラキラなエピソードをバカにしているわけでもなく、感動もできるけど、そのお祝いの仕方が異常なんですよ。なのでラストシーンは最大の賛辞として、あの表現になっているんです」

――おお、それはぜひ見て確認してもらいたいですね。

「さらにこの人が…というのはいろいろ考察していただいて(笑)」

――はい。ちなみに、この曲のキラキラした雰囲気がいまのビッケブランカさんのモードなんですか?

「そうですね。楽しく聴ける曲という感覚が好きですね。曲は自分が好きな音楽とリンクはしているんですが、最後転調して、“ライク”が“ラブ”に変わるという、それくらいの感動がすごくいいなって思うんですよ」

――歌詞もこのベストアルバムで順番に聴いていると、どんどん変化が出てきたように思うのですが、いかがですか?

「そうですね。より口語的になってきた気がします。以前は作詞を文章のように書いていたんですが、もっと自然な言葉を使うようになってきました」

――それは、あえてですか?

「自然とですね。たとえば、曲を作って、デモを作り、聴き直したときに、“もっとはっきり言ってよ!”って自分で思うようになっていたんです。もともとは、夏目漱石が“あなたのことが好きです“と言う言葉を、”月が綺麗ですね“と言いかえるのが日本語の美しさと知って、それもいいなと思っていたんですが、いまは否定派になりました(笑)」

――否定⁉(笑)

「はい。遠回しに言うことって、前に出られない性格に繋がっていくんじゃないかって思うんですよね。それなら、もっとはっきりした言葉で言うべきだよなって思ったんです」

――プライベートでも、言いたいことはちゃんと伝えようというタイプになってきましたか?

「そうですね。言葉はちゃんと選んで、相手に明確に伝えようと思うようになりました。もともと、人間性はそういうタイプなんですが、曲になると、一歩引いて、表現しようとしちゃうんですよね。なので、最近は、“伝える”ということを表現するようになった気がします。僕は29歳のデビューだったんですが、若い頃にデビューをしていたら、もっとわけがわからない言葉をつかっていると思います(笑)」

――あはは。伝えようとする言葉も素直になったということですよね。

「はい。まだこっぱずかしさはありますけどね。最近の曲で、“愛している”という言葉を使ったんですが、今まではその言葉をどう言い換えようかと考えていた時期があるんです。いま、それを発言することは、過去の自分を否定することになってしまいますが、それが時間の経過なんですよね。ただ、これまで言ってきていないから、照れくささがよぎるんですが、そうあるべきだし、そう伝えることが価値に変わるということに気付いたんです」

――そう考えると、ストレートな「アイライキュー」も、いまだからこそ生まれた曲なんですね。

「きっと20代の頃に同じメッセージを伝えるとしたら、かなりひねった曲になったと思いますよ(笑)」

――ちなみに、この時期にこれにハマっていたなって分かる曲はありますか?

「「蒼天のヴァンパイア」は、めちゃくちゃなダンスミュージックになっているんです。これはカルヴィン・ハリスの「サマー」のように、歌のないところでテンションがピークに行く4分間を作ってみようと思って作った曲なんですよね。それが成就して、ライブでも輝く曲になりましたし、日本に無いタイプの曲となったんです。“それでもすごく楽しいでしょ”って提示できた曲が、ファン投票で上位にランクインしてくれたというのはすごく嬉しいですね。こういった形で、“論破”、言うなれば“音破”できたことは、痛快に思います(笑)」

――ビッケブランカさんと言えば、ピアノのイメージが強いと思うんですが、ピアノのおもしろさはどんなところにあるのでしょうか?

「ピアノって、全部できるんですよ。低いところを引けばベースですし、右手で細かいことをすればギターソロになりますし。左手と右手を順番に動かせば、ドラムになるんです。楽器の持っている要素、リズム、メロディ、低音という全部が1台でできるのが、ピアノのすごいところなんですよね。アコースティックギターって、低音が足りないから、友だちでもある、日本で一番アコギが上手いMOROHAのUKは、肘でリズムを入れるという方法を編み出したんです。そのように、他の楽器って、どうしても、他の要素が欲しくなるんですよね。でも、ピアノは初めからすべてができるから最強なんです」

――さらに、ビッケブランカさんのプライベートな姿ってあまり想像ができないのですが、まわりからはどんな人だと言われることが多いですか?


「う~ん…。“いいやつだね”って言われます(笑)」

――あはは。一番嬉しいですね。

「音楽に対しては破天荒だったので、20代の頃はレコード会社の人たちにかなり反抗的だったんです。でも、友人関係となると、“すごくいいヤツだ”って言われますね(笑)。あと、僕は企画することがすごく好きなんですよ。たとえば、エイベックスの社員旅行が無くなっちゃったときに、仲のいいスタッフさんみんなでキャンプに行こうと計画して、実行したんです。さらに、ボクシングをやってみたいと急に思い立ってやったり、野球をしたいと思ったら神宮前球場の予約を取って人数を集めてやったりと、思い立ったらすぐにやっちゃうんですよ」

――すごい行動力ですね!

「人を集めて楽しいことをやるのが楽しいんですよね。いまはアメフトがやりたいので道具だけ揃えました(笑)。スタジオでもDJ機材を買っては見たものの、コロナでクラブがなくなっちゃって…。それならレンタルで良かったのではと思うことも多いんですが、なによりも行動するかしないかということが大事だと思うので、これからもやって後悔する方を続けていきたいですね(笑)」

(おわり)

取材・文/吉田加奈

DISC INFORMATIONビッケブランカ『BEST ALBUM SUPERVILLAIN』

2022年323日(水)発売
2CD/AVCD-9690014,400円(税込)
avex trax

配信リンク

DISC INFORMATIONビッケブランカ『BEST ALBUM SUPERVILLAIN』

2022年323日(水)発売
2CD+Blu-ray/AVCD-968989/B8,250円(税込)
2CD+DVD/AVCD-968967/B8,250円(税込)
avex trax

DISC INFORMATIONビッケブランカ『BEST ALBUM SUPERVILLAIN』

2022年323日(水)発売
2CD+Blu-ray+グッズ/AVZ1-969045/B15,950(税込)
2CD+DVD+グッズ/AVZ1-969023/B15,950(税込)
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LIVE INFORMATIONTHE TOUR『Vicke Blanka』

8月27日(土) 愛知・名古屋国際会議場センチュリーホール
OPEN 16:30/START 17:30
9月9日(金) 大阪・フェスティバルホール
OPEN 17:30/START 18:30
9月16日(金) 石川・金沢市文化ホール
OPEN 17:30/START 18:30
9月18日(日)  福岡・ 福岡国際会議場メインホール
OPEN 16:30/START 17:30
9月23日(金・祝) 宮城・トークネットホール仙台 小ホール
OPEN 16:30/START 17:30
10月10日(月・祝) 北海道・札幌市教育文化会館
OPEN 16:30/START 17:30
10月30日(日) 東京・東京ガーデンシアター
OPEN 16:30/START 17:30
チケット料金:前売 ¥6,500(税込)
東京公演チケット料金:前売 ¥7,000(税込)
オフィシャルファンクラブ「French Link」にて最速先行チケット抽選予約受付
開始:2022年4月25日(月)12:00より

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