――まずは5月22日の野音ライブの感想から聞かせてください。

松尾レミ「コロナ禍以前のライブの空気を久しぶりに感じることができて、改めて音楽をやっていてよかったと思いました。どうしても、どんな人がGLIM SPANKYの音楽を聴いてくれているのか、わからなくなっちゃうんですよ。コロナ禍の前は当たり前のようにライブをやっていたはずなのに、不安になったりして。でも、どうやってノってくれているかとか、どういうファッションの人が来てくれているかとかがわかることで、勇気が出たというか。ちょうどアルバムを作っている最中だったので、すごく力になりましたね」

亀本寛貴「“久々のライブだから、めっちゃ緊張するんだけど”みたいな状態だったけど、時間が経っているわけだからパワーアップしていないといけないわけじゃないですか。それをちゃんと見せるというのが、課題だったんです。場数を全然踏んでいないのに、どうパワーアップしたライブをやるかっていう」

松尾「うんうん」

亀本「でも、お客さんに満足してもらえたと実感できるライブができたので、自分たちとしても満足感があるのと、野音がフルキャパでしっかり埋まってくれたので、安心感と嬉しさが普通にありましたね」

松尾「いい夜だったなあ」

――約2年ぶりのアルバムになりますが、いつも方向性を話し合ったりするのでしょうか?

亀本「あんまりしないね」

松尾「うん」

亀本「アルバムでというより、1曲1曲の楽曲を作る時に、次はこういうふうにしたいとか、もっとこうすべきだとか、バンド全体で話をしているので。その中で自然と、今の自分たちが出したい音みたいなものが共有されているんですよね。常に楽曲制作をしているし、提供もしているから」

松尾「そうだね。ただ今回は、だんだん出来上がっていく中で、短編映画集みたいなイメージが浮かんでいました。レイトショーっていう言葉があったり、「HEY MY GIRL FRIEND!!」という曲にはNetflixのラブコメドラマみたいなイメージがあったりするので。単曲単曲で全部話が違うみたいな感じで。タイトルを決めたのは、ずっと後なんですけどね」

――そこから、どう『Into The Time Hole』というタイトルにつながっていったんですか?

松尾「レコーディングが終わって家に帰った時に、1個1個の曲が箱のように思えて、その箱を覗き穴で順番に覗いていくみたいなイメージが浮かんだんですね。それで何かいい言葉はないかなって考えていて、曲っていつ聴くかによって感じることは違えど、そこに流れている時間は同じだから、時間が止まっているみたいだなっていうところから、タイムホールという言葉が出てきました」

――なんともアーティスティックな発想ですね。

松尾「はははは!そうなのかな(笑)」

――打ち込みサウンドは、これまでの作品の中でもっともウェイトが大きいと考えていいですか?

亀本「そうですね。前作でも使っていますけど。だから、どんどん増えてきているっていう感じかな」

松尾「そうだね」

――それは、自然にそうなっていたということですか?それとも実験精神や遊び心みたいなものを、意図的に加えたのでしょうか?

松尾「いろいろなんだよね」

亀本「うん。単純にやりたかったというのもあります。ただ、全楽曲が生ドラムというアルバムを、今出すのは違うなっていう感覚がすごくあって。どうしても生ドラムって、キックがあってスネアがあって、タム、シンバルって、それぞれに1個ずつマイクをつけるじゃないですか。当然ながら、それを全部足すと干渉し合ったドラムサウンドになるわけです。それを現代の音像の中に置くと、めちゃくちゃ後ろにいるように感じるんですよね。大真面目にやっちゃうと。今って歌が前にバシッと出ていて、音量がでかい音楽が多いので、そこのバランスを取るためにも打ち込みのほうがいいと思っていて、挑戦してみたかったんです。逆にリード曲や配信曲は、GLIM SPANKYの王道感みたいなものを出すために、あえて生ドラムにしています」

――そこまで考えていたんですね。それにしても、ルーツミュージックに関しては、同世代でも屈指の造詣がありながら、現代の音作りのノウハウにも精通しているとは。

亀本「でも、どっちが正解とかはないですよね。逆にそのまま、古いままやる音楽の需要も絶対存在するわけじゃないですか」

松尾「それはそれで、カッコいいしね」

亀本「うん。でも僕がやりたいことは、それじゃなかったので」

松尾「だから、そこの葛藤が私の中であって」

亀本「あったんだ(笑)」

松尾「うん。そもそも、何を大事にするかっていうことを考える機会が、コロナ禍になってから増えたんです。たとえばライブだったら、今まで私はイヤモニ大反対派だったんですよ。どんな大きい会場でも、絶対に転がしじゃないとイヤで。でも、コロナでライブができなくなって、配信しかないわけですよ。ロックのライブって、生で聴くことにはかなわないんですよね、どうしても。それができないってなった時に、同じチケット料金を払ってもらって、同じ満足感を得てもらうには、どっちがいいのかを考えたんです。自分の求めるクオリティ、納得できるクオリティを、どうしたら画面を通じて届けられるかって。それで、自分のポリシーはいったん抑えて、イヤモニを選びました。かなりの覚悟を持って」

――なるほど。

松尾「っていう感じで、絶対に曲げたくないことと、今音楽を届けるために変えた方が良いことを、自分のなかで取捨選択してやっていくというのがテーマでした。打ち込みサウンドも、すごくカッコいいと思っているのでやってはいるんですけど、それだけだと違うし、ちゃんと生の音も入れつつ、でもサブスクとかで今流行っている音楽と並べた時に、ちゃんとインパクトがあるものをっていうバランスを、めちゃめちゃ悩んで作ってこうなったという感じです」

――サウンド面では、「レイトショーへと」のベースラインがまず印象的で。亀本さんのアレンジですよね?

亀本「そうですね。もともと自分の中にないものでもないというか、わりと普通に好きな音の感じです。R&Bなんかも好きだし」

松尾「これはもう、超個人的な話ですよ。裏話というか。私はスライ(&ザ・ファミリー・ストーン)とかのリズムのイメージがあったんです。歌い方は、ジャクソン5時代のマイケル・ジャクソンを意識しました。ブラックミュージック的なノリを意識しつつ、自分のノリで」

――「ドレスを切り裂いて」も、ヒップホップやR&Bのテイストが効いていますね。

亀本「もはやロックを聴こうと思っても、なかなか聴くことが難しいし、普通に生きているとそういう音楽が普通に入ってくるので、自然なフィーリングでやっています。松尾さんは違うかもしれないけど」

松尾「そうだね。もうちょっとブルージーな感覚というか。でもカッコいいサウンドだと思ったので、それに自分がどう音を乗せるかを考えました」

――そして、「形ないもの」ではトランペットを大胆なまでにフィーチャーするという。

亀本「GLIM SPANKYには、あのテンポ感のバラードがたくさんあるんですよ。それを違うように聴かせるっていうのが、長くやっている人のある種の宿命だったりするんですよね。それで、変化をつけるためにドラムのマーチング的なリズムと、トランペットを思いつきました」

松尾「ブリティッシュロックらしいというか、ちゃんとクラシカルな要素を入れたいと思って、あえてめちゃめちゃトランペットをフィーチャーしました。とにかくビートルズの「ペニー・レイン」みたいな感じにしてくださいって言って(笑)。あとチェロも弾いてもらって」

――「ドレスを切り裂いて」は、歌詞も新鮮に響きました。

松尾「楽曲提供が多かったので、それによって、これは自分は使わないだろうなっていう言葉を躊躇なく使えるようになってきたところが、個人的には成長できたのかなと感じています。あの曲には、裏テーマがあって。SNSとかで着飾って見せることが、ひとつの正解みたいな世界ができ上がっている中で、本当の自分を見せるのが怖くなっている人たちがとても多いと思うんですよ。それって人にやらされているのではなくて、自分できれいに見せているわけだから、ドレスを脱ぐ、じゃダメなんですよね。心の中のナイフで切り裂かないと。こういう時代だからこそ、テーマとして忍ばせる意味があると思いました」

――バンドしての充実ぶりを、十二分に伝える作品になりましたね。

亀本「やっぱり作っている時に一番考えているのは、新しいリスナーと出会いたいということなので」

松尾「うん」

亀本「なんかそういうものになったらいいなと。これから世に出てどうなっていくのか、楽しみと期待と不安が入り混じっています。純粋にそういう気持ちでおります、はい」

松尾「1曲1曲に重みがあるというか、気持ちを入れて作りました。自分の好きなロックを、ちゃんとカッコいいと思ってもらいたいという気持ちがすごくあって、だからこそ「シグナルはいらない」を、ヘヴィーでわかりやすいサウンドにして、中学生とか高校生とかにも“なんか強そう”みたいに感じてもらえるようにリード曲にしたんですよ。でもアルバムには、さまざまなテイストがあって、いろいろなカラーがあるので、音楽の楽しさを知ってもらいたいと思っています。これまでGLIM SPANKYの音楽を聴いてくれていた人たちにはもちろん、聴いていなかった人たちに届いたら嬉しいし、こういうことをロックがなかなか難しい時代にやっているっていうことを、ロック好きな人たちにも伝わったらいいですね」

(おわり)

取材・文/鈴木宏和
写真/平野哲郎

LIVE INFO Into The Time Hole Tour 2022

11月2日(水)横浜ベイホール
11月4日(金)福岡DRUM LOGOS
11月5日(土)広島CLUB QUATTRO
11月11日(金)NHK大阪ホール
11月23日(水)札幌ペニーレーン24
11月25日(金)仙台GIGS
11月27日(日)長野ホクト文化ホール
12月3日(土)名古屋市公会堂
12月11日(日)新潟LOTS
12月20日(火)昭和女子大学 人見記念講堂(東京)
12月21日(水)昭和女子大学 人見記念講堂(東京)

DISC INFOGLIM SPANKY『Into The Time Hole』

2022年8月3日(水)発売
初回限定盤(CD+DVD)/TYCT-69242/5,170円(税込)
ユニバーサルミュージック

GLIM SPANKY『Into The Time Hole』

2022年8月3日(水)発売
通常盤(CD)/TYCT-60198/2,970円(税込)
ユニバーサルミュージック

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