――今年行われた“ASKA premium concert tour -higher ground- アンコール公演”のグランドフィナーレ(4月13日 東京国際フォーラム ホールA)の模様を収めたBlu-ray +ライブCDが発売されます。公演からおよそ半年が経ちますが、改めてどのようなツアーだったと感じていますか?
「今回のツアーは、本当にこのときしかできないものだったんですよね。というのも、CHAGE and ASKAの頃からずっとドラムを叩いてくれていた盟友が逝ってしまって…」
――菅沼さんが亡くなられたのは、当初2021年10月からスタートする予定だった今回のツアーが、コロナ禍の影響で約3か月延期された間の出来事でした。本来であれば、このツアーも菅沼さんが参加される予定でしたが、その遺志を継いで娘のSATOKOさんが参加することに。
「孝三とは家族ぐるみの付き合いで、SATOKOも4、5歳くらいの頃から僕らのリハーサルやコンサートに来ていたのでよく知ってるんですよ。最期のときもギリギリまで一緒にいさせてもらって、孝三が“自分に何かあったらASKAさんを頼むぞ”って遺言のようにSATOKOに言う光景も目の当たりにしましたし、彼女もお父さんの遺言を守って、僕のツアー全公演に来てくれて。そういう意味で、今しかできないライブでした。時間が経つと偲ぶ会になってしまいますから。そうじゃなくて、今、この瞬間、っていうね」
――今回のツアーは、元を正せば2019年12月から2020年2月にかけて行われた“ASKA premium concert tour -higher ground-”で、大阪と熊本の公演が中止となったことを受けて計画されたものだそうですね。そういった経験が、より今、この瞬間に対する想いを強くした部分もありますか?
「それはそうですね。この場合、“この瞬間”というより、ここ2、3年をひっくるめての“今”になりますけど。でも、”よくまぁ無謀にも突っ込んでいったな”と思いますね(笑)。今回のツアーが始まったのが1月でしょ?その頃は、いつまた緊急事態宣言が出てもおかしくないような状況だったわけで。そうなったらツアーもまた止まってしまう。でも、不思議と(緊急事態宣言は)出ない予感がしたんですよね。政府はきっと経済活動を止めないだろうという読みもありましたけど、それ以上に、僕らがこのツアーにかけた情熱は通常とは違うものだったので、絶対にいけるはずだと信じて疑いませんでした」
――実際、全国13公演あったツアーは無事に完走。やり遂げた今、この混沌とした時代に自分の音楽ができることを改めて感じることはありましたか?
「自分の音楽がっていうよりも、自分がこのステージに立てていることの喜びですよね」
――映像を拝見していても、その喜びは画面越しに伝わってきました。
「だって、音楽を40年以上やらせてもらっていて、こういう状況の中で贅沢にもストリングスも一緒にって、こんなツアーできないですよ。1公演じゃなくて、ツアーなんですから。普通なら、移動費やら宿泊費やらを考えるとツアーなんてしない。でも、それをする、それができたのも、逆に言えばこんな時期だからこそだなと思います」
――今回のアンコール公演は、ASKAさんの強い希望によって実現したと何かの記事で読みました。
「2019年から2020年にかけて行った“ASKA premium ensemble tour -higher ground-”が、熊本と大阪の2公演だけ中止になってしまったんですよね。それをみなさんすごく残念がってくれて、すでにライブを観た人たちが熊本と大阪組を応援してくれていたんです。“必ず(ライブに)行けるから、待ってよう”って。それで長いこと延期、延期で頑張ってはみたんですけど、目処が立たなかったので一旦(中止という形で)区切らせてもらって。その後、昨年の正月にビルボードの担当者と電話で話したときに、実はもう1回やりたいんだんだけど付き合ってもらえる? アンコール公演ということで仕組もうぜって話をして、僕らの間ではそこで話は決まっていたんですよね」
――それぐらいASKAさんの中では熊本と大阪のことが心残りだったし、何よりあの内容でもう一度やりたいという想いが強かったということでしょうか。
「そうですね。なんなら今でも“またやりたいね”ってみんなで話すくらい、楽しかったですね」
――同じ編成での2度目のツアーということで、バンドメンバーの結束もより一層強くなりますよね。
「その結束力は映像からも伝わると思います。素晴らしいメンバー。ボーカリストとしてそのステージに立っているという立場を置いておいても、映像の中に映った世界っていうのは本当にスペシャルな世界でした。ツアー全体で言っても、前回中止になってしまった熊本と大阪はもちろんのこと、福島にも行けたのがよかった。東日本大震災以降、ずっと気になっていたんですよ。それが今回やっと行くことができたので、自分の中で胸の支えが取れたというか、なんとなく前進できた感じがしましたね。本当に思い出深く、自分の音楽史に残るような出来事でした」
――今回のツアーでは、セットリストが前回のツアーからガラリと変わりました。何を基準に選曲されたんですか?
「タイトルが前回と同じ“higher ground”なので、「higher ground」と「百花繚乱」の繋ぎは残したんですけど、逆を言えばそれ以外はすべて変えました。というのも、この“アンコール公演”っていうのは、あくまでも前回のツアーのアンコールであって、ライブ公演のアンコールじゃないんですよね。前回のツアーから2年が経ったこともあって、今の自分がやりたいことを基準に選曲していきました」
――新たに選曲したなかで、特にインパクトのあったものはどの楽曲でしたか?
「「なぜに君は帰らない」はそういうポジションにきましたね」
――SATOKOさんが、スクリーンに映し出されたお父様の映像とともにドラムソロを披露した直後に演奏される楽曲ですね。
「実は、ツアー初日ではもっと後半に演奏していたんですよ。ところが、あのドラムソロを親子共演でやられると、次の曲が勝てないというか、お客さんの気持ちの切り替えができないんですよ。それ以前に、僕がもうダメだったから。僕もドラムの親子共演の世界に入ってしまっているので。初日は「じゃんがじゃんがりん」をやったんですけど、完全に負けていて。参ったなぁと思って、それで次の公演から「なぜに君は帰らない」に変えたんですよね」
――また、前ツアーの“ASKAとバンドとストリングスの三位一体”のスタイルを引き継いだ今回のツアーでは、前回に続きほとんどの楽曲にストリングスが加わっています。原曲ではストリングスが入っていない楽曲も多いですが、そこにストリングスが入ることによって、歌い手としてはどのような変化や魅力が加わると感じられていますか?
「ストリングスって、すごくソリッドに聴かせるときと、朗々と聴かせるときと、シャープに聴かせるときと、いろんな表情を持っていて。それってボーカルと一緒なんですよね。ストリングスとボーカルってすごく似てる。言葉とブレスのないハーモニーがずっと鳴っている感じというか。だから、ストリングスが入ってくれるだけで、全然曲の印象が変わります」
――その演奏をバックに歌うと、感覚も変わってくるんですか?
「そうなんでしょうね。僕は気が付かないですけど、その演奏に合わせて歌っているからには、なんらかの影響は受けていると思います」
――冒頭の「Overture」では、そうしたストリングスの魅力が惜しみなく全開となって会場を包み込みました。これはどういった意図で用意されたんですか?
「前回のツアーのときに作ったら意外とうまくいったので、今回もやってみたら、なかなかいいものができましたね。前回と今回とではまったく違うものなんですけど」
――それぞれのコンセプトに合わせて制作されたんですか?
「いや、そこまで明確に考えてはいません。自宅の部屋で1日かけて作り込んで、それを生の楽器に変えた感じです。もともとインストが好きなので、楽しく作れました」
――今回のBlu-rayにはツアーファイナルの模様を完全パッケージ。ASKAさんが特に注目して観てもらいたいと思う場面はどこになりますか?
「やっぱり孝三とSATOKOの親子共演。そこに尽きますね。あのパートは、楽曲でいうところのサビですから。コンサートの構成を考えるときもあの場面はかなり早い段階で思い付いたんですよ。どこに持ってくるかも大体イメージできたので、その前後をどうするかを考える感じでした。なので、演出をした者としては、素直にそこ(親子共演)を観てほしいと思います」
――ASKAさんの動きとか表情のココを観てほしいなどは…?
「僕はもう、本番中はそういうところに構っちゃいられないので(笑)。自分のどこを観てほしいとかはないですね」
――映像を拝見していて個人的に気になったことがあるのですが、マイクのところにタオルのようなものが巻いてあるのにはなぜですか?
「あれはね、昔、僕が一時期喉を壊したときから始まったんですけど、コンサート会場って乾燥しているので喉が乾きやすいんです。そうすると喉を痛めてしまうので、あれを湿らせてユーカリオイルを入れているんです。喉が渇かないように、常に蒸気が出るようにしてあるんですよ」
――そうだったんですね。勉強になります。また、MCでは次のアルバムについても触れられていました。
「もう、明日にでも出したいです」
――ステージでもそうおっしゃっていましたね。具体的にいつ頃というのは決まってらっしゃるんですか?
「なかなか明日が遠くて……(苦笑)。でも、11月、遅くとも年内にはなんとかリリースしたいですね」
――前作『Breath of Bless』のリリースが2020年3月。ニューアルバムはこの2年間=つまりコロナ禍で生まれた楽曲ということに?
「そうですね。でも、コロナ禍だからどうのこうのって考えていたときは大変でしたけど、どんな状況であっても今しかできないんだから、それに忠実に、今の気持ちを吐き出したような曲に切り替えようって気持ちになってから、少し気が楽になりました。自分の持っている世界観を、敢えて違うところに持っていく必要はないなと思って。なので、今の自分の素直な気持ちを書いた曲になっています」
――新しいアルバムも楽しみですが、その前に、10月には“ASKA Premium Symphonic Concert 2022 -TOKYO-”が、さらに12月には初めてのディナーショー“ASKA Premium Dinner SHOW 2022”が控えています。
「今年は忙しいです(笑)」
――(笑)。Premium Symphonic Concertのほうは、すでに名古屋と西宮での公演を終えていますが、東京公演も内容的には変わらず?
「そうですね。名古屋と西宮の追加公演のような形なので。基本はほぼ一緒の予定ですが、ちょっと変える部分もあるかもしれません」
――ディナーショーはどんなステージを考えていますか?
「ディナーショーをやろうと思ったきっかけが、昨年、企業イベントをホテルでやらせてもらって、それがすごくいい雰囲気だったんですよね。それで、“ディナーショー、いいかも”ってTwitterに書き込んだら、バタバタバタと決まって。僕が今考えてることがやれるんだったら、相当面白いことになると思うんだけど…予算との兼ね合いですね(笑)」
――とはいえ、近年の“higher ground”やフルオーケストラとのステージとは、また毛色の異なるステージを期待してもいいですか?
「もちろんです。ディナーショーは、それらとは全然違うタイプのライブでお届けする予定です」
(おわり)
取材・文/片貝久美子
写真/野﨑 慧嗣
RELEASE INFORMATION
『ASKA premium concert tour -higher ground-アンコール公演2022』Blu-ray+Live CD
◆ライブ収録公演:2022年4月13日(水) 東京国際フォーラムホールA
◆発売日:2022年10月5日(水)
◆品番:DDLB-0020
◆販売形式:Blu-ray+Live CD(2枚)合計3枚セット
◆定価:11,000円(税込)
◆収録時間:Blu-ray2時間31分、CD:DISC-1 63分、DISC-2 58分
◆レーベル名:DADA label
◆JAN:4562350464803
◆発売元:BURNISH STONE/ダブルカルチャーパートナーズ/テーク・ワン/テレビ大阪サービス/reach Faith
『ASKA premium concert tour -higher ground-アンコール公演2022』Blu-ray+Live CD
LIVE INFORMATION
『ASKA Premium Symphonic Concert 2022 -TOKYO-』
◆主催:GET THE CLASSICS 実行委員会
◆開催会場&開催日時
東京国際フォーラムホールA 2022年10月29日(土) 開場15:00/開演16:00
◆後援:エフエム東京(東京)
◆出演:ASKA
◆指揮:柳澤寿男
◆管弦楽団:京都フィルハーモニー室内合奏団特別交響楽団
◆合唱団:横浜少年少女合唱団
【チケット情報】
◆チケット価格:10,900円(税込・全席指定・来場特典特製プログラム付)
『ASKA Premium Dinner Show 2022』
12月5日(月) グランドハイアット福岡
12月20日(火) ザ・プリンス パークタワー東京
12月22日(木) リーガロイヤルホテル広島
12月26日(月) リーガロイヤルホテル(大阪)
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