――今回の「Spread Love」はMay J.さんの新たな表現が聴ける楽曲になっていますが、今年こういう楽曲をリリースする計画があったんですか?

「実はもう5年ぐらい前から“プロデューサーの今井了介さんとしっかりタッグを組んで、1曲だけじゃなくてアルバムを作りたい“っていう話をしていたんです。今井さんはデビュー当時からお世話になっている方で曲も作っていただいてたんですけど、“May J.のイメージをガラッと変えるようなプロジェクトやりたい!”っていう気持ちがお互いずっとあったんです。それで、今回、前作の『Silver Lining』で光が見えてきたその先…ちょっと開けたポジティブなエネルギーの楽曲を作りたいっていうのと、あとやっぱり私は一番影響を受けたのが2000年代のディーバだったり、ポップスに影響を受けていて。Y2Kですよね。それが時代的にも巡ってきていて。音楽的にはR&Bをもう一度今の時代にアップデートした感じで挑戦したい気持ちがあったんで、その点でも今井さんは間違いなかったのでこのプロジェクトが始まりました」

――「Spread Love」1曲ではなく、プロジェクトなんですね。

「そうなんです。だからもうアルバムを作るということを見据えての、新たなMay J.の1曲っていう感じです」

――R&B楽曲でデビューしたというところは大きいですね。聴き返しましたよ、「ALL MY GIRLS」。

「嬉しい(笑)」

――今井さんのプロデュースは「GOOD TIMEZ」が最初でしたっけ?

「はい、そうです」

――じゃあ今回は満を持して?

「そうです。前作のミニマムなのも良かったんです。コロナ禍での制作だったし。だけど今はライブも復活してきて、人もみんな外にも出るようになって(笑)、ライブも声も出せるし、やっぱりもう一度音楽で盛り上げたいというか、みんなでまた音楽で繋がれるようなものを作りたいと思って」

――なるほど。

――今井さんとは“「Spread Love」の他にもどんな曲をやりたい”という話は?

「最初に今井さんとふたりで何時間も話し合って。それこそやりたい音楽もそうだし、今の自分の心境とか、あと音楽業界の話をしたりとか、いろんな世間話をしたりする中で出てきたキーワードとかをもとに今井さんが選んでくださって。…すごいたくさんいろんなクリエイターさんがいる中から、“じゃあこの曲の感じだったらこの人だ”っていう組み合わせを、まるでコーディネーターみたいな感じですよね(笑)。今井さんを信頼して全て任せてみました。」

――今井さんが今回のisseiさんと前田佑さんのコンビを提案されたんですね。

「そうです」

――どんなイメージを伝えてこの2人から楽曲を提案してもらったんですか?

「今井さんと話し合ったことをもとにできているので、“こうして欲しい”っていうことはあまりこの曲に関しては言ってなくて。そこからできた曲だったので、聴いたときは“うわあ、こういうの待ってた!”っていう感じでしたね、まさに」

――リファレンスにした曲とかアーティストはありますか?

「プレイリストにして大量の曲を(笑)渡しました。」

――この曲に関してはボーカルの構成のインパクトがすごいです。

「そういう曲をやりたいって話はしていたんです。デモを聴いた時に“うわ、これ大変だな…”ってコーラスが多くって。久々にレコーディングにすっごい時間かかりそうっていう(笑)。いつもだと何回か通して歌っていい部分をピックアップするやり方だったんですけど、「Spread Love」はもう一行ずつ、納得するまで歌いました。今回のポイントが“ビブラートをどれだけ消せるか?選手権”みたいな(笑)感じだったんですよ。でもビブラートつけるのがくせだったので、筋肉がそうできちゃってて。それをなくすっていうのが“無理!難しい!”みたいなところから始まったので、レコーディングの前半は“本当にこれでいいの?”、“私じゃないみたい”みたいな気持ちだったんですけど、だんだん慣れてきて。“なるほど、こういう曲はこういう風に引き算して歌った方がカッコいいんだ”とか“サラッとしてる方がいいんだ”とか理解しながら。本当にもう細かく一行ずつ丁寧に丁寧に探りながらレコーディングしました。そこはisseiくんがボーカル・ディレクションをしてくれたんです」

――主旋律の歌メロはデモでは打ち込んであったんですか?

isseiくんがほぼ同じような仮歌を入れてくれていました(笑)。男性なんですけど、すごく高いキーも出る方で、すごいうまいんですよ。もともとシンガーユニットのZineeisseiって2人組もやっていて、コロナ禍の時に私、インスタをフォローして見ていたんですよ。メッセージのやり取りとかもしていて。それで、“どこかで一緒にやれないかな?”と思っていたら、本当にたまたまこの曲がisseiくんだったっていう(笑)」

――そんなことあるんですね!

「聴いてる音楽も多分、私とすごい近いものを感じていたし、歌のニュアンスも、ビブラートをかけるかけないっていうのもすごい共感するところがあったので、私の歌をすごく理解してくれたディレクションでした。彼は20代後半なんですけど、やっぱり若い子たちの感性って今の自分にはないものを持っているので、“もうそれ全部教えて!”みたいな感じで(笑)、“遠慮なく全部言ってね”ってお願いしました」

――ソランジュのアルバムの、あのコラージュ感も少し感じるというか。

「そうですね。近しいものがあると思います(笑)」

――なかなか日本でそういう作品はないしカッコいいと思いました。

「そうですね。isseiくんの感性もそうだし、前田さんのトラックの分厚さも素晴らしいし。トラックダウンで聴いたときは音圧がすごいし、もう明るいし、すっごい久々に太陽浴びてる!みたいな、そんな気持ちでした」

――包まれる感じがありますね。

「やっぱりメッセージが包み込むような大きな愛がテーマにもなっているので、強さもあるけど包み込む感じもあるし、かなりニュアンスは意識しました」

――リズムをどう取るか?ってことだけでも難しい曲なのではないかと。

「リズムも大変でした。リズムと声色の調整とビブラートかけないっていうこの3つの意識が大変(笑)。ノっているけどあまり元気になりすぎない。さらっと歌うけどリズムがすごいかっちりしている。そんな相反するようなところがすごく難しかったです」

――しかもラップ部分もあります。

「はい。“わー、ラップ来た!”と思って(笑)」

――「Pycho」でやっていたじゃないですか。

「ちょっと陽気な感じなんですよね、「Spread Love」は。結構、isseiくんのディレクションが印象的で、シニカルに言うんですよね…シニカルというかちょっとミュージカルっぽいというか(笑)。 “このアティチュードが欲しいです”みたいな(笑)。でもそれが分かりやすくて。“ああ、なるほどね!オッケーオッケー”っていう感じでやっていました」

――前田さんはアレンジっていうクレジットになってますけど、レコーディング現場ではどういう感じなんですか?

「前田さんエンジニアさんとしてレコーディングしてくれたんです。なので、歌入れの時はisseiくんの隣にいて、彼も歌については“僕、こっちのビブラートかけてないほうが好きですね”とか、“あ、ちょっとNewJeansっぽいですね、今の”みたいな(笑)、なんかそういうディレクションや、客観的な意見をくれていました。だから、isseiくんと私は崩すことを意識しながらも、でもR&Bのルーツも忘れないようにっていうバランスでやっていたので、前田さんのディレクションはもうひとつの視点としてすごいヘルプになりました」

――トラックメイクしてる人も聴いて研究したくなるような曲だと思いました。

「おお!すごい嬉しい(笑)。私もすごく勉強になったレコーディングだったのでそうかもしれないですね」

――歌詞についてはどういうワードを入れたいみたいなリクエストも言ってないんですか?

最初の今井さんと打ち合わせで、本当に色々なことをお話ししたので、そこから拾ってくれているワードが各所に入っていましたね。まさに今歌いたい楽曲という感じの歌詞でした

――タイトルに関してはどうでした?

「“あ、これが全てだな”と思いました。タイトルはいろいろ候補あったんですけど。でもその候補の方にしなくてよかったなって思うタイトルでした」

――“愛を伝えよう”みたいなニュアンス?

「そうです。“愛を広げよう”みたいな」

――“愛を広げよう”っていう視点までやってきたんですね。

「はい。『Silver Lining』の時は全てが敵に見えていたんですよ(笑)。ライブで歌う時でも“みんなが自分を試している”って、勝手に敵っていうふうに思ってしまって、ネガティブになったりとか、人とのコネクションを遠ざけてしまっていた部分があったなって思うんです。だけど、“いや、それは違うな”と思って。“みんなファミリー”と思ってやってみたらどうなんだろう?って思ったら、もう全然思考が変わったんです。すごくポジティブになれたし、自分らしく歌えるようになったし、勝手に人を敵って思ってしまうのって本当によくないなと思って。それで、この<お互い傷つけるため?広げた両手 どうせ手遅れなんて思わないで この胸にDive in>っていう歌詞は自分から“私はあなたのことが好きですよ、だから大丈夫だよ”っていう、自分からそういう気持ちを持つことって実はすごい大事だったなと思って。その気持ちを込めて歌いました」

――May J.さんのパーソナルな変化の経緯もあるけど、みんなコロナ禍で疑心暗鬼になって、自分の悩みに入っちゃった時期があったと思います。でもそのままでいるのは心身によくないですし。

「よくないですよね。何か制約があるっていう事実がすごい窮屈だったなと思って。“何々をしちゃいけない”とか、“何々ができない”、“人に会えない”っていうのがどれだけ私たちにストレスを与えていたかって、今思うんですよね」

――だからエネルギーを取り戻した人からの“Spread Love“なんですね。

「そうなんです。広げるんだったら、愛を広げていきたいですよね」

――そういう風に健やかな人がこれからは強いんじゃないかと思います。

「ほんとにそう思います(笑)。まず自分が幸せになることって大事だと思う。でないと人に分かち合うこともできないし」

――それにしても今井さんは多岐にわたるコレクティブを持っているんですね。

「本当にすごいです、それで、前田さんにお願いしたんですけど、この曲ができる前に違う曲ができていたんですって。だけど“ああ、違う”って言われて。で(笑)、ゼロから作って出来たのが「Spread Loveだと伺って、驚きました。

――今井さんがビジョンを持ってらっしゃるんでしょうね。

「すごく考えてくれていると思います。そして、これからのアーティストをフックアップするのが得意な人でもあるので。Isseiくんもそうだし、あと今後、私もコラボしたいと思ってチェックしているまだあまり知られてないアーティストがいるんですけど、そのアーティストも今井さんはもうチェック済みだったりとかして。なんか楽しみなんですよ、この先の新曲がどんな風になるのか」

――今井さんとどんな話をしたら盛り上がるのか?っていうのも楽しみですね。

「(笑)。近々、YouTubeを撮ろうかなって思っています」

――是非是非。以前、今井さんとジャネット・ジャクソン来日時に対談をしてらっしゃいましたよね。

「そうですね。で、あの後に一緒にジャネット・ジャクソンの武道館公演をふたりで見に行ったんですよ。その帰りにすごい話し合って、そこから実はもう始まってましたね」

――そうだったんですね!あとはMay J.さんが今井さんに渡したプレイリストも興味深いですけど、それはアルバムが全部できてから知ればいいかもしれないですね(笑)。

「でももうお分かりだと思いますけど…ビヨンセとかね」

――今後の新曲も楽しみです。

「はい。今井さんが目指してるのは“May J.っぽくなさ”で(笑)。例えばJ-POPのサビって必ずハイトーンで歌い上げるじゃないですか。でも海外の曲ってドロップが効いていたりとか、あえてあまり印象的なサビじゃないけど、でもエモーショナルみたいな、そういうのをやりたいっていうふうに言っていて。あとキーをいつもだったら絶対上げるんですけど、 敢えて“下げようよ”みたいな。“え?これ下げるの?”みたいな出来事もありました」

――これから単曲をいくつかリリースして?

「来年の4月頃にアルバムをリリースする予定です」

――今回のプロジェクトは本領発揮って感じですか?それとも新しいチャレンジ?

「両方ですね。 毎回レコーディングは緊張します。ディレクターも毎回違う人でディレクションも違うし緊張しています(笑)。“今日はどうなんだろう?”みたいな。でも気を使われてディレクションしたいけどできないみたいのが嫌だったので、“もう何でも言ってください。私は変わりたいんです!”って言っているんです(笑)」

(おわり)

取材・文/石角友香
写真/野﨑 慧嗣
取材協力/Amazon Music Studio Tokyo

RELEASE INFORMATION

May J.「Spread Love」

2023年827日(日)配信
avex

May J.「Spread Love」

ミュージックカード【TYPE:A】
May J. Family Official Shop、Billboard Live TOUR 2023会場限定商品
RZZ1-77810/600円(税込)
avex

ファンクラブショップ発売日:2023827日(日)
ライブ会場先行発売日:202388日(火)
8/8 Billboard Live OSAKA公演より、Billboard Live TOUR2023会場にて販売)
■May J. Family Official Shop 購入者特典:詳細はこちら
■Billboard Live TOUR 2023ライブ会場購入者特典:詳細はこちら

May J.「Spread Love」

ミュージックカード【TYPE:B】
May J. Family Official Shop、Billboard Live TOUR 2023会場限定商品
RZZ1-77811/600円(税込)
avex

ファンクラブショップ発売日:2023827日(日)
ライブ会場先行発売日:202388日(火)
8/8 Billboard Live OSAKA公演より、Billboard Live TOUR2023会場にて販売)
■May J. Family Official Shop 購入者特典:詳細はこちら
■Billboard Live TOUR 2023ライブ会場購入者特典:詳細はこちら

May J.「Spread Love」

ミュージックカード【TYPE:C】
May J. Family Official Shop、Billboard Live TOUR 2023会場限定商品
RZZ1-77812/600円(税込)
avex
ファンクラブショップ発売日:2023827日(日)
ライブ会場先行発売日:202388日(火)
8/8 Billboard Live OSAKA公演より、Billboard Live TOUR2023会場にて販売)
■May J. Family Official Shop 購入者特典:詳細はこちら
■Billboard Live TOUR 2023ライブ会場購入者特典:詳細はこちら

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