――毎回テーマを設けてリリースされてきたので、“カバー、今度はいつやるのかな?”みたいな気持ちにちょっとなってました(笑)。

「そうですよね。やっぱり何かないと出したくなかったので(笑)。今回はYouTubeが最初にあって、去年から始めてるんですけど、“YouTubeで『スナック橋本』っていうのをやろう”ってなって(笑)。私はスナックにあんまり行かないんで、ママっぽくないんですけど。“スナックで歌ったら雰囲気の合う曲”っていうので、『スナック橋本』で歌える80年代の曲を選んで歌ったのが思いのほか見て頂いたっていう(笑)。で、ドンピシャの世代の方からコメントをいただいたり、若い子からは“この曲知らなかったです”っていう人もいるんですよね。今はシティポップが熱くなっているので、“若い子達にはちょっとエモく聴こえるんじゃないか?今のタイミングでもう一度出したらいいんじゃないかな?“と思って決めました」

――『スナック橋本』(YouTube再生リスト >>)はロケーションが本格的なスナックですよね。

「はいスナックで撮ってます(笑)」

――スナックでのMayさんのキャラクターって、『はしもっちゃんねる』で他の企画をやってる時とまた違いますね。

「違いますね。自分なりに“スナックだったらこういう感じかな?”っていう、手探りな中でやってます(笑)」

――スナックのカラオケで歌った経験ってあります?

「ありますよ!ツアー中の四国だったんですけど“エンペラー“っていうすごい名前で。入ってみたらなんか”あ、楽しいじゃん!“って感じで、その時に「フライディ・チャイナタウン」を歌ったんです」

――スナックのカラオケに入ってそうなっていう部分もあるし、若い人にしてみたら逆輸入っていうか。

「新しく聴こえるっていうか。あとやっぱりサブスクで、昔の曲と今の曲の境界線がなくなって、皆さん普通に聴けるようになってるんじゃないかなって」

――しかしMayさんのボーカリストとしての幅を実感します。『Silver Lining』の次がこれですから。

「ねえ?(笑)。色んな自分がいるんだなって思いました」

――単純にキーも違うしボーカルの方向も全然違いますからね。でもオリジナルがあのタイミングで出たことで、別にどれが真ん中っていうこともないんだなって。

「はい。なんかそれがメジャーになってたんだなあって思いますね」

――歌うこと辛かった時のこと考えると感慨深いです。

「はい…(笑)。本当に今一番楽しくて。ほんと、おかげさまで」

――MVも公開されていますが、盟友と言えるクリス・ハートさんと今回また共演されてるのはすごく腑に落ちました。

「クリスは事務所が元々一緒だったんです。今は会える機会がそんなにないんですけど、でも時々撮影とかライブで一緒になることがあったんで。で、“何かやりたいね”ってずっと話してて、「ロンリー・チャップリン」を歌うことになって。この曲ってすごいソウルフルな曲だし、原曲はもうちょっとキーが低いんですよ。(鈴木)聖美さんのあのソウルフルな低い、渋い感じを私は出せないんです。やっぱり自分のキーに合わせて歌いたかったので、そうなると男性がけっこう高くなるんですよ。そういうのが歌えるのは“クリスしかいないな”と思ってお願いしました」

――クリスさんは活動をお休みしている時期もあったりして、単にシンガー同士っていうことじゃなくて、気持ちが通じるのかなと。

「なんか落ち着きますね。二人ともブレイクの仕方が似てたんですよ(笑)。ちょうど2013年でカラオケの番組で。で、一緒に紅白出て。カバーアルバムとオリジナル交互に出すっていう。で、二人とも外国のルーツも入ってるっていうところですごい共通点があって。私も色々もやもやすることいっぱいあるんですけど、クリスと話をしていると“私もまだまだ頑張らなきゃ”って思えるんですよね」

――なんとなく分かります。今回の収録曲はどれも名曲なので、どうやって選曲されたのか興味があります。

「実は私、あんまり知らないんですよ、その時代の曲を」

――昭和ですからね。

「そうなんです。だから以前歌った曲以外の新録が「ウイスキーが、お好きでしょ」と「ロンリー・チャップリン」「土曜の夜はパラダイス」「フライディ・チャイナタウン」「メロディー」「埠頭を渡る風」、これが新録なんですけど、ここはもう、シティポップにすごく詳しい栗本(斉)さんに…」

――選曲は栗本さん監修なんですか?

「はい、栗本さんにお聞きしました。“May J.が歌うならどれがいいですか?”って」

――今、引っ張りだこですよね。シティポップ解説者として。

「ね?それで、選んでいただいたのが「埠頭を渡る風」と「土曜の夜はパラダイス」でした」

――今回、山下達郎さん、EPOさん竹内まりやさんという、いわば山下ファミリー的なお三方の曲が入っていて」

「「土曜の夜はパラダイス」を聴いて、“竹内まりやさんにすごい似てるなぁ”って思ったところもあったりして。やっぱりそこはファミリーなんだなぁ、と」

――初収録の「ウイスキーが、お好きでしょ」のアレンジが若手のジャズバンドなのかな?って思ったんですが、実際には?

「ほんとですか?これ実は笹路(正徳)さんという大ベテランの方のアレンジで。以前も「M」のカバーでご一緒したんですが、オリジナルを弾いてる方にやっていただいたんですよね、「M」の時。それで、今回の「ウイスキーは、お好きでしょ」で笹路さんが連れてきてくれた人は皆さんベテランでしたね。クリス・バジェとか、ドラムは渡嘉敷(祐一)さん」

――錚々たる顔ぶれ。このアレンジが出てきた時にどう思われました?

「ビルボードやブルーノートでやりたいなって(笑)。このままやりたいっていう感じでした」

――確かに。ビッグバンドが似合う感じの曲だと「異邦人」も。

「はい。「異邦人」はビッグバンドと“せーの!”でみんなで同時録音したんですよ」

――すごい!あの間奏のシンコペーションも一発録りなんですね?

「あれはしびれますね、ライブでオーケストラでやったことあるんですけど、すごい楽しかったです」

――「ウイスキーが、お好きでしょ」に戻ると、CMに使われているのでウイスキーの曲みたいなイメージがありますけど、なかなか深い歌詞ですよね。

「短いんですけどね、あっという間の曲なんですけど、この限られたメロディの中にあれだけの情景が浮かぶ歌詞を埋められるって凄いなあって」

――Mayさんはどう捉えてらっしゃいますか?

「この曲?いやもう全然共感できないですよ(笑)。こんな経験したことないです」

――確かに(笑)。別れたような感じなんだけど今はちょっと忘れてみたいな感じですもんね。

「“忘れるってどういうこと?”みたいな感じです、もう本当に。“忘れたでしょう”って言うかな?多分もうちょっと歳を重ねないと言えないなあって。何もなかったようになって今一緒にいるってことですよね?なんかそれってすごくエロいなあ、とか(笑)」

――(笑)。そしてシティポップといえば「RIDE ON TIME」のカバーは改めて凄いです。

「「RIDE ON TIME」のこの曲を歌うときのタイミングっていうか、リズムがめちゃくちゃ難しいんですよ。テンポはオリジナルから落ちてるんで、より難しかったです」

――山下達郎さんのエネルギーがわかる?

「そうですね。いまだに歌い方がわかんないです。こんなこと言ったらおかしいんですけど、“何が正解なんだろう?”みたいな感じで歌ってますね」

――逆に正解が見つけやすい曲ってどれでした?

「うわー…それぞれありますね。やっぱり普段のMay J.の歌い方ですんなり合うっていうのは意外とないですよ」

――きっとシティポップでもあるし歌謡曲でもあるからかもしれないですね。

「どれもやっぱり自分じゃない誰かを演じている部分ありますね。あと「埠頭を渡る風」も難しかったですね…」

――ユーミンのメロディってつかめないですね。

「つかめないし、わかりやすい盛り上がりっていうのがないんですよね。だからどこにエネルギーを出せばいいのか?っていう、そのせめぎ合いでした。あとキーも低くて自分の声が一番生きるキーではないんですよ。その“自分”を出せないけれども、ちゃんと一曲として完成させなきゃいけないっていうところが難しかったですね」

――ユーミンって強さと繊細さがあるというか。彼に寄りかかる人ではない印象があります。

「でもこの曲は…これも正解は分かんないですけど、“もう二人は別れてて、だけどたまに会っちゃうような関係なのかな?”って。で、“自分は元の関係に戻らないように強がってる女性なのかなあ”とか思って聴いていたんですけど」

――昭和の楽曲って歌詞がなかなか深い(笑)。

「本当そうですね。あと女性がやっぱ懐が広い(笑)。男性を立てるっていう。あとどれもうまくいってない恋なんですよね。だから“Bittersweet”にしたんです、ほろ苦い」

――なるほど。そしてカラオケでも歌われたという「フライディ・チャイナタウン」はここ数年リバイバルヒットしていますね。

「この曲を最初に聴いたのが2016年で。岡村隆史さんのラジオのイベントが毎年開催されてて、それに毎年出演させて頂いているんです。そこで、“この曲を歌ってください”っていう曲しか歌わないんですけど、2016年が「フライディ・チャイナタウン」で、とっても好きだったんですよ」

――シティポップ・リバイバルよりも前に聴いていたんですね。

「そうですね。その頃から大好きでカラオケに行ったら絶対歌う曲って決めてて。自分のライブでは歌ってたんですけど、音源にしてなかったので、“この際に!”と思って(笑)」

――これも不思議なシチュエーションの歌詞で。

「これもエロい曲で、めっちゃ好きです。どうしても横浜中華街を私は想像するんですけど。<ジャスミンに接吻を>とか、ジャスミン使うところとか最高ですね」

――夜遊びしてて、ドレスを買って着替えたいとか、結構破天荒だし。

「遊び方がね。<私も異国人ね>って言っちゃうぐらいだから。私はこの曲の持ってる異国の雰囲気がすごく刺さりましたね。「異邦人」もそうなんですけど、どちらも異国感が出てて好きですね」

――今回のカバーでアレンジが特に気に入ってるは曲というと?

「「初恋」はギターの押尾コータローさんと一緒に同時録音したので、すごい緊張したんですけど、すっごい楽しかったですね。押尾さんの演奏、とてもカッコ良かったです」

――「メロディ」と「初恋」はシンプルなアレンジですね。

「「メロディ」はYouTubeの“歌ってみた”企画で去年歌ったんですけど、ちょうどコロナで、ライブがほとんどないって時期に歌ったんです。それで、いざ歌ってみたら“「うわっ、全然声が出ない…”っていう。息も浅くなっちゃうし、“すごい緊張する…”みたいな状況で。そんな中で振り絞って、全部を一生懸命出すように歌った曲なので、私は歌った時の恐怖の気持ちが蘇るんですけど、後から聴くとこの鬼気迫る感じもこの曲に合ってるかもしれないと思いました。“この時にしか歌えない曲だったなあ”って思います」

――Mayさんご自身としてはそういうことを思い出すのもちょっと怖いですか?

「いえ、今聴くともうちょっとマイルドになってきました。“あ、なんか意外といいじゃん。頑張ったじゃん!”っていう気持ちで聴けます」

――この楽曲もどう解釈するかが難しそうです。

「この曲も難しいですね。一つに定まらないんですよ、いつも自分の中でストーリーが。毎回変わるんですよ情景が。“隅に書いたその名前ってなんなんなんだろうな?”みたいな。“結婚式なのかな?”とか思ったり。そういうのをいつも考えながら歌ってますね」

――玉置浩二さんは無二のボーカリストですが、この曲自体は淡々としていて。

「レコーディングの玉置さんの歌は結構そうなんですよね。でもライブがすごいんですよ。何度かライブをご一緒させていただいて、“その場を支配できる人だな”って憧れの気持ちで見てました」

――H2Oの「思い出がいっぱい」のアレンジは素直に80sのイメージがあありますね。

「分かります(笑)。急に懐かしくなりそう。小さい頃にどうやって聴いていたのかは覚えてないんですけ、聴き馴染みがある曲なんですよ。「思い出がいっぱい」は今だから歌えるってところもあります。もうちょっと若かったら多分わからないですね…<いつの日か思う時がくるのさ>とかって若い時はあまり考えないし。私、この曲を若い子の前で歌うことがあったんですよ。卒業式じゃないけどこれから卒業する子たちの前で歌った時にすごいしっくりきたんですよね。“これからいろんなことあるよ”っていう気持ちで歌えたのが」

――ではボーカリストとしての発見があった曲っていうと?

「「土曜の夜はパラダイス」は今までだったら歌えなかった曲だと思うんですよ。私、結構ビブラートで全部片付けちゃう人なんですね、言い方悪いんですけど(笑)。洋楽ってビブラートで終わることが多くって、気が付くとビブラートをかけるっていうのが自分の中のベースにがあって。“ビブラートで終わらない”っていう選択肢が今までなかったんですよ。ビブラートしなかったら裸を見せているぐらい、ちょっとできないことだったんですけど。最近ようやくそうじゃなく歌えるようになってきて、この曲は割とビブラートしてないですね。もうフー!って抜けるように歌ってる感じ歌えました」

――ジャンルもさまざまな楽曲群なので、カバーって改めて挑戦なんだなって思いました。

「めちゃくちゃ難しいですね、改めて思いました。オリジナル曲でアルバムをリリースした後だからっていうのもあると思うんですけど。オリジナルアルバムはそれはそれで生みの苦しみがあったんですけど、カバーはやっぱり自分じゃない人の曲を歌うっていうところで難しいですね」

――しかも曲自体、みんなが知っているということもありますか?

「そうですね。『Bittersweet Song Covers』では原曲の歌い方をリスペクトしながら自分の歌い方に落とし込むっていうやり方に挑戦しています。でもやっぱり若干声色を変えたりとかしないと曲のイメージに合わないから、その声色を決めるのが大変でした」

――しかし「Psycho(feat.大門弥生)」の中で<歌うまくて何が悪い?>って歌っちゃったMayさんなんで、逆にカバーアルバムを作っても…。

「“何が悪いの?”って感じですね。ここまでやったらもうやり切りますよ(笑)」

――頼もしい。今回また新しい取り組みをやってみて、何か確認できたことはありますか?

「まだまだ発見っていっぱいあるなって思いましたね。「異邦人」を歌ったのが2016年にリリースしたアルバム『Sweet Song Covers』だったんですけど、この頃から“大人になってるな”っていうか、声もそうだし、背伸び感がなくなってきて“May J.って人がちょっとずつ確立されたな”って今回のアルバムのマスタリングのときに思ったんです。でもまだまだ、オーケストラだったり、ジャズだったり、ミュージカルをやったり、いろんな経験をしていく中で、アップデートして行くので。だからこれからまた変わるんだろうなあと思うと楽しいですね」

――楽しみですね。そして12月にはビルボード3ヶ所でのライブもあります。

12月なのでクリスマスナンバーもやりたいし、 初めて来る人も喜んでいただけるような感じにもしたいです。去年ジャズツアーを6本やった経験も生かして、ジャズスタンダード、クリスマス、オリジナルも盛り込みたいですね。まあ70分2ステージなので、選曲は悩むんですけど(笑)」

(おわり)

取材・文/石角友香
写真/平野哲郎
取材協力/Amazon Music Studio Tokyo

RELEASE INFORMATION

May J. 『Bittersweet Song Covers』

2022年119日(水)発売
CD+DVD/ RZCD-77617/B5,500円(税込)
avex

▶各CDショップ特典情報はコチラ
▶オフィシャルファンクラブショップ特典情報はコチラ

May J. 『Bittersweet Song Covers』

2022年11月9日(水)発売
CD/RZCD-77618/3,300円(税込)
avex

▶各CDショップ特典情報はコチラ
▶オフィシャルファンクラブショップ特典情報はコチラ

LIVE INFORMATION

May J.azzy Christmas Billboard Live Tour 2022

2022年121日(木) Billboard Live TOKYO
1stステージ 開場17:00 開演18:002ndステージ 開場20:00 開演21:00
2022年126日(火) Billboard Live YOKOHAMA
1stステージ 開場17:00 開演18:002ndステージ 開場20:00 開演21:00
2022年1220日(火) Billboard Live OSAKA
1stステージ 開場17:00 開演18:002ndステージ 開場20:00 開演21:00

May J.azzy Christmas Billboard Live Tour 2022

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