――DarkPopと称して、4ヶ月連続配信リリースされたタイミングでこれまでのファンやこのタイミングで聴いた方からどんなリアクションがありましたか?

「私も結構、ツイッター見てたんですけど(笑)、“こういうの待ってました!”っていう、すごく嬉しいコメントをたくさんいただきました。やっぱり、“May J.がいま感じてることをそのまま歌にしてほしい、知りたい!”みたいな。“ああ、こういう風に言ってくれるんだ。良かった!嬉しい!そうだよね”って思いました。でも、中にはちょっと曲調が普段聴いてる感じのものじゃないって人もいましたね(笑)」

――それはそれで素直な反応ですね。

「そういう反応もあるだろうと思ってましたし、あとやっぱり、全然うちのことフォローしていない新規って言ったらあれなんですけど、“May J.とミルのタッグが最高!”みたいな、そういうのも見かけました」

――それはMay J.さんも篠田さんも聴いてほしいリスナーではありますよね。

「そうですね。新しい、言ってしまえば今までノーマークだった方々に聴いてほしかったですね」

――アルバムの完成度と曲ごとのMay J.さんの表現力が気持ちよすぎて。シリアスな内容なのにサラッと聴けちゃうという。

「それはそうですね。シリアスなことをネチネチと語るのではなく、ひとつのアートとしてさらっと聴けるような感じにしたかったですね」

――配信リリースを単曲で聴いてたときのほうが重く捉えていたというか。

「うんうん。確かに。やっぱり1曲ずつ配信だったので、1曲にすごい時間をかけましたし、テーマも慎重に決めてましたね」

――今回のインタビューから読む方もいると思うので、改めて今回のプロジェクトそのものの経緯をお話いただいてもいいですか?

「はい。2020年のもうコロナが始まる直前から、何か感じてましたね。これはもしかしたらライブも全部中止になって…ミュージカル『WEST SIDE STORY Season2』が中止になったんですよ、途中で」

――それは実感しますね。

「そうなんですよ。決まっていた本番が中止になるって今までなかったし、“なんか来るな”って予感がして。で、タイミング的にも15周年にこれから入るので、私もスタッフのみんなも『May J.の新たな挑戦』っていうのをイメージしてたんですね。で、私がそのときにやりたいと思ってたのが、ちょっとオーバーグラウンドじゃない、ちょっとダークな、それこそミルくんがやるようなああいった楽曲に挑戦してみたいなっていうのがあって。で、ミルくんもオーバーグラウンドの人とタッグを組んで面白いことをやりたいという思いがあったので、そこはすごい運命的な出会いだったんじゃないかなと。そこから“一緒に作って行きましょう”って話を進めて。で、私が“こういう曲を作りたい”とか、“こういう曲が好き”っていうプレイリストを作ってミルくんに共有して、そこからミルくんが“じゃ、May J.さんだったらこういう感じかな?”っていうのを作ってくれて、最初に来たのが「Can’t Breathe」って曲のトラック。ものすごくダークで……メロディがすぐに出てきて、このメロディだと今まで言えなかった自分の心の傷だったりにフォーカスしたら面白くなるんじゃないかなと思って。もう誹謗中傷のことを迷わず書きました」

――最初の方向づけというか、覚悟が決まる感じだったんですか?それとも素直に出てきたもの?

「ある意味、“これは公開しなくていい”って気持ちで作ってました(笑)。遊びじゃないんですけど、“試しに自分がいま感じてることを正直に書いてみよう”、みたいな。誰が聴くのかわかんないけど書いてみようみたいな気持ちだったのでできたのかもしれません」

――なるほど。それが最初のインパクトになり、リリースしようと思えたのはなぜなんですか?

「もちろんリリースすることを考えて作ってるんですけど、でもやっぱり曲調も今までと全然違うし、“これをリリースしたらどうなるんだろう?”みたいな、私はもうドキドキしかなかったですね。こういうの好きな人は絶対いると思ったんです。だけど、今までのファンの人達はたぶんびっくりするだろうっていう、その2つの思いがあって。でも、すごい楽しみでした。「Can’t Breathe」をリリースしたときに“どんな反応が届くんだろう?”っていうワクワクがありましたね」

――新しい挑戦だから、チームとしての足並みも揃ったと?

「はい、そうですね。私とミルくんが“これでいい”と思ったらスタッフのみんなも“よし!これだ”って付いてきてくれた感じです」

――それはアーティスト冥利に尽きますね。15周年といったときに、集大成みたいになっちゃうのか、新しいことに挑戦するのかその時の状態によって変わるとは思うので。

「確かに。でも、全てはコロナ禍の2020年、何にもできない時間っていうのがあったからですね。この15年のあいだで1年半ぐらい何にもできないのは初めてだったんですよね。だからこそだったんです」

――DarkPopというプロジェクトはアルバムに向かって行ってたんですね。

「そうです。当初からアルバムを目標にしてました。でももっと先のつもりだったんですよ。ほんとに1曲1曲時間をかけすぎてしまって(笑)。“終わるのかな?”って気持ちがあったんですけど、でもフルアルバムとは言っても、10曲、あっという間で。1曲1曲も短くて。今までの自分のアルバムだったら16曲とか入れてたんですけど、自分がいちサブスクリプション・リスナーとして感じるのも、最近の曲ってすごく短くて聴きやすいし、そこに特化してもいいんじゃないかなと思って」

――このアルバムってすごくストーリーになっていて。

「ストーリーにしました(笑)」

――当初から計画していたんですか?

「いや、全然なかったんですよ。好きな曲を好きな感じで全部作ってたんですけど、アルバム・タイトルが思い浮かんできたのが、「Unwanted」っていう曲を作り終えたときで、急に光が見えたんですよ。「Unwanted」って曲自体はすごく悲しい曲で、もう”必要とされていない”っていう孤独の思いを歌ってる曲で。それを自分で認めて、その思いをそのままピアノで表現してできた曲だったので、ある意味すっきりしたというか、全部吐き出して、そこに自分の孤独のアイデンティティを残して次に進めるような気がしたんですよ。それはシンガー・ソングライターとしての思いもあって。シンガー・ソングライターだったら当たり前だし、日々、曲を作っていくのはそういうことなんですけど、今までの自分はそうじゃなかったので。歌だけで全部発散してたんですけど、ソングライティングでこうやって発散できたってことに対してもやっぱり光が見えてきたし。時期的にもコロナ禍が少しずつ収まってきて、ワクチンもあってっていう、世の中の流れも考えてこのタイトルにしました」

――「Unwanted」はピアノが主体の楽曲ですが、大げささがなくて心の深いところに届くというか。

「はい。今は笑って喋れるんですけど、この曲書いた日はほんとにもう……すごーく悲しくて孤独を感じていて、“私は歌い続けていいのかな?”とか、そんな気持ちになっちゃうときがあるんです。全部がネガティヴになっちゃうときの思いを歌いました」

――そういうときは誰しもあると思います。自分の仕事なり役割なりに対して疑問を持ったり、“なぜ今、ここにいるのか?”とか。

「はい。ほんとに波があるんですよね、感情の。すごく嬉しいときもあれば、“もうだめだ”っていうときもみんなあると思うんですよ。そのいちばん下がってるときにピアノと向き合えたっていうのが、この曲の感情のきっかけだったんですよね」

――それが最後の曲につながっていきますね。

「“Un”がなくなった方の「wanted」に」

――「(Un)wanted」は“始まるんだな”という予感があるんですよね、環境音が入っていたりもして。

「このアルバムの全体の流れが最初が一番低いところから始まって、徐々に徐々に上がっていくのをイメージしてるんですね。で、「Silver Lining」ってインタールードでは、また語ってるんですけど、いろんな気づいたことを。もっと自分自身を信じてあげたり、周りの声を気にせずに自分らしくいることの大切さにここで気づいて、で、どんどんもう…なんて言えばいいんだろうな?…強気になっていくというか(笑)」

――確かに大門弥生さんと共演した「Psycho(feat.大門弥生)」では強い気持ちを取り戻してますね。

「大門さんとの曲ではいちばん言いたかったことを言い放って。で、「(unwanted」ではまた気づくんですよね。今まで自分は何気なく過ごしてきたんだけど、でも今振り返ってみると“何のためにそういうことをしてきたんだろう?”、“何のために歌ってきたんだろう?”って考えて。そして“自分は常に足りないっていう感情を持っていままで生きてきたな”って。でも、自分でいられることだけで奇跡だってことに気づくんですよ。生きている、それだけで素晴らしいことだからっていうところから、歩いて帰っているSEにつながっていくんです」

――これは思ったことをそのままレコーダーに向かって喋ったんですか?

「そうです。家で一人で、もう何か思いついたことをそのまま喋りました」

――ちなみにどの曲もここまで音数がミニマムなのに成立してるっていうのはMay J.さんのボーカルが全て別人格なぐらい多様だからなのかなと思いました。言ってみたら人格が変わるぐらい。

「そうですね。歌い方はその曲の雰囲気とメロディだったり、歌詞に合わせてどんどん変化させていくので。「Pycho」は地声の低い、気だるい感じ、悪い部分を出すようなイメージでやりましたし。「Feels Like Home」は全部ウィスパーで語るように。でもウィスパーって意外と歌うの大変で難しいんですよ。酸素がなくなるんで(笑)」

――(笑)。完全にポップスからかけ離れるんじゃなく、ポップスとしても新しい側面に挑戦してる感じがして面白かったです。「Feels Like Home」などはいちばん歌モノR&Bとして完成度が高いというか。

「LapistarくんがR&Bがすごく得意な方で。しかも静かめのトラックで、柔らかい雰囲気が得意なので、それを意識してメロディを考えました」

――
ダークなだけではなかったんだなと。パーソナルはパーソナルですけど。

「すごくパーソナルなんですけど、こういう温かくなる曲ができると思わなかったんですよ、今回」

――そういうフェーズじゃなかった?

「じゃなかったんですけど、なんかこの曲調、トラックを聴いたときに、浮かんできました。歌詞ではこの曲がいちばん挑戦しましたね。すごーく時間をかけて。サビは英語なんですけど、ほとんど日本語なので。日本語の表現ってすごく奥深いじゃないですか。だから言葉選びという部分でも、あまり説明になりすぎないようにアートな部分を残しながらも、想像しやすい、自分に置き換えやすい歌詞をすごく探りましたね」

――「Paradise」なんてタイトルからして意外な曲が入ったことも感慨深かったです。

「ミルくんとラテン調の曲は絶対やりたいって話てて、私がダークな曲とラテン調の曲が聴くのはいちばん好きなんですよ。ミルくんが作るラテン調がラテンすぎなくてちょうどいいダークさも入って。トラックが届いた日にメロディも考えて、歌詞もすぐ浮かんできて、これは一日で書けました」

――ミックスの細分に至るまで気持ちよくて、一瞬、悲しみやダークさをテーマにしたアルバムであることを忘れるぐらいで。

「そうですね。だからゆっくり歌詞を読んで気づいてもらえたらいいなと思って」

――今改めて聴くと「Love&Hate」のアレンジは相当エッジの効いたものになって。日本語詞のあとに入ってくるシンセの重いサウンドが効いてますね。

「そうですね。最後に2パターンに絞られたんですよ。今回出したパターンともうちょっとわかりやすいエレクトロ。だけど私は攻めきったほうがいいなと思って、こっちのトラックにしたんです。言葉数は少ないですけど、より想像させやすい感じにしたかったですね」

――言葉数が少ないから、<何も言わずにいるの?>って問いかけが刺さる。

「うん。それぞれが感じる余白を作りたかったですね」

――日本のポップスは言葉数多いですもんね。

「そうなんです。説明が多いんです。映画もそう(笑)」

――そういう意味でも余白があって聴く人に任せる部分を残して?

「それはね、全曲意識してました。たぶん一回だとなんのことかわからないと思うんですよ。でも何回か聴いて、もしくは歌詞を読んだり辞書で調べたりとかしてみると、謎が解けるみたいな、そんな存在でありたいですね。この曲たちは」

――そして大門弥生さんはまず名前からしてかっこいいですね(笑)。彼女のインスタグラムをフォローしていたとか。

「はい。インスタで見つけて。女性から見てすごい憧れですね。自分自身をすごい楽しんでる強い女性で、フェミニストであることも公言してるし、そんな強い女性になりたい憧れから、近づいてみたいと」

――「Psycho (feat. 大門弥生)」はどういうふうに作って行ったんですか?


「これはトラックがもうできてて。一人でも成立するように実は作ってたんですよ。ラップしたいって気持ちから、ラップも書いて、サビだけなかったんですね。で、大門さんに仮歌を送って、テレビ電話で話して。“じゃ、ちょっと自分のバース書いてみまーす”って、一日でラップが届いて、すごいかっこいいヴァースができあがって。このヴァースだと“私のラップやべえな”(笑)というか“ショボいな”と思ったんですけど、そこから<歌うまくて何が悪い?>みたいなストロングなワードを入れて。で、実際に一緒にスタジオで歌いながら、“ここのメロディはこの歌詞がいいね”とか話しながら、できていきました」

――<歌うまくて何が悪い?>のラインは痛快です。この曲はMay J.さんのやりたいこともですけど、篠田さんの初挑戦もすごくたくさんありますね。

「ミルくんもやりたいこと散りばめてますね。いちばん最後のあのちょっとクレイジーな感じもやりたかったんだと思う」

――アルバム冒頭では「Unwanted」って歌っていたのに、ここまで吐き出せたんだってびっくりですよ。


「はい。だから、自分自身を見つける旅だったというか、自己肯定感を上げるというか。だけどそれは自分だけじゃなくて、やっぱりこのコロナ禍でみんな自信をなくしてるというか、自分を出せる場所がなくなったことで、何かネガティヴになっている流れをすごい感じていたので。でも少しずつ自己肯定感を上げる本が出版されてたりとか、そういう話題がラジオでも流れたりとか、世の中の流れもあったし、私自身もすごく感じていて。“いま、自分のことがすごく嫌いだな”と思う瞬間があって。だからみんなでもっと自分自身を愛せることを当たり前のようにできるような世の中になってくれたらいいなって思いも込めて歌いましたね」

――May J.さんがこのプロジェクトに取り組んだ事自体がいろんな人の勇気になってると思いますよ。

「(笑)。ね?繋がっていってくれたら嬉しいですね。私自身はこのアルバム作ったことで自信に繋がったので、同じように肯定する気持ちがCDを聴いてくださる方に伝わってくれたら嬉しいですね。周りの目を気にして生きることが当たり前になってるじゃないですか。私もそうだし。でもそれによって本当の幸せを失ってしまってるというか、それに気づいたのがコロナ禍だと思うんですよね」

――ところでこのアルバムを作って客観的に見たときに、ご自分の好きなアルバムと並べるなら何でしょうか。

「そんな畏れ多い(笑)」

――リスナーとして、自分のライブラリーに並べるとしたらどうですか?

「なるほど。じゃ、アリシア・キーズとビリー・アイリッシュの間に。ははは!アリシアだったら『Songs In A Mirror』とか。ビリーは「Ocean Eyes」はあの曲だけが好きだから、アルバムとしては1stアルバム『WHEN WE ALL FALL ASLEEP,WHERE DO WE GO?』ですかね」

――そしてファンとしてはライブが待ち遠しいわけですが、このアルバムを核にしたライブは開催されるんですか?

「したいなと思ってて、来年。もうこのアルバムだけの何かライブができたら。時間的にはあっという間になりそうですけどですけど(笑)。光も作り込んでやりたいですね」

(おわり)

取材・文/石角友香
写真/野﨑慧嗣

May J.『Silver Lining』

2021年12月8日(水)発売
CD+DVD/RZCD-77440B5,500円(税込)
avex

配信・サブスク

May J.『Silver Lining』

2021年12月8日(水)発売
CD/RZCD-774413,300円(税込)
avex

配信・サブスク

May J. 15th Anniversary Jazz Tour ~May J.azzy Christmas Live~

2021年1210日(金) 大阪府 ビルボードライブ大阪
2021年1211日(土) 兵庫県 加西市民会館 文化ホール
2021年1218日(土) 埼玉県 大里生涯学習センター
2021年1219日(日) 茨城県 取手市民会館大ホール
2021年1225日(土) 宮城県 岩沼市民会館大ホール
2021年1226日(日) 栃木県 大平文化会館

May J. 15th Anniversary Jazz Tour ~May J.azzy Christmas Live~

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