──今回の楽曲「地球へ」のプロジェクトは、どのような出会いから始まったのでしょうか?

早見優(以下、早見)「まず、この企画の元の始まりについてなのですが、本田美奈子.ちゃんが急性骨髄性白血病で2005年に亡くなり、彼女が「Live For Life」という難病と闘う方たちを応援するチャリティワークを残したんです。それが毎年113日に『LIVE FOR LIFE 音楽彩』というコンサートを開催していて、私は開催1年目から司会進行を務めているんですね。その流れもあって、昨年、美奈子.ちゃんの事務所ビーエムアイ社長の高杉敬二さんと、私が所属しているキープスマイリング(KEEP Smiling)社長の市瀬達弥さんのふたりから、美奈子.ちゃんが残した地球に対しての散文「地球へ」で“オリジナルの特別な事が出来ないかな?”と、私にも相談してくださったのがきっかけなんです。市瀬さんは、20218月に亡くなられてしまったのですが」

──半崎さんとはどのような繋がりで出会ったのでしょうか?

早見「社長同士の話の中から、ご縁で音楽出版の方に半崎さんをご紹介いただき、歌を書いていただいたという感じでした。歌は、すでに昨年には出来上がっていたのですが」

半崎美子「打ち合わせさせていただいたのも昨年なんです」

早見「本当は、昨年113日の『LIVE FOR LIFE 音楽彩』で歌う予定だったのですが、残念ながらコロナの影響で中止に。半崎さんのバージョンが素敵でしたし、USAフォー・アフリカの「ウィ・アー・ザ・ワールド」みたいにパートで歌い合うという企画だったのですが、このコロナの影響もあってなかなか進まず。そこから、なぜ英語バージョンを作る事になって、なぜ私が歌う事になったのかは、実は分っていないんです(笑)」

──最初は早見さんが歌う予定ではなかったという事ですか?

早見「最初に英詞を作るお話を頂いた時は、英語バージョンも半崎さんが歌うか、子供たちが歌うか、という話でした。ガイドボーカル、いわゆる仮歌を“早見さんに入れて欲しい”との事で、スタジオに行き、仮歌を入れたら“このまま優ちゃんでいきましょう!”と(笑)」

──結局、そのまま進んでいったという感じなんですか(笑)?

早見「半崎さんの声って私のキーよりも高いので、“キーが高いんですけれど!”って(笑)。そこから英語バージョンのアレンジを担当された山川恵津子さんと話していく中で、いろんなネイティブの方の声を入れようという事になり、私のふたりの娘がアメリカに行っているので、彼女たちにリモートで歌を録って送ってもらったり、他のいろんな方にも歌っていただいて。そんな感じで英語バージョンは、パズルのピースを当てはめていくように少しずつ出来上がっていった感じです」

──半崎さんは、この「地球へ」という曲を作るにあたり、どのような過程を辿られたのでしょうか?

半崎「“美奈子.さんの思いから生まれる"何か”をテーマとして曲づくりが出来たら”というお話をいただきまして、「地球へ」というタイトルで曲を書くことにしました。美奈子.さんは他にも散文を残されているのですが、その中でもこの「地球へ」は、彼女の強い思いが込められていると思うんですよね。どこか予言的ですし、今の私たちへの提言というか、とても感銘を受けました。痛みや警鐘を鳴らすようなメッセージでもあるのですが、その奥に深いいたわりとか、寄り添いの気持ちを感じたんですよね。だから、どちらかというと“みんなで地球を守りましょう!”というよりは、"私たちが地球に守られていて、地球の一部であり、細胞の一部である”という"ひとつの命"として、地球へのメッセージにしてみました」

──強い環境的なメッセージには感じないですよね。

半崎「「地球へ」とはなっていますが、日本語版の歌詞の中では"地球"という言葉は出てこないです。例えば、“疲れてないですか?”、“大丈夫ですか?”という言葉って、人にも自然にも言える事だと思うんですよ。そういう感じでひとつの命に寄り添うというテーマで書きました」

──メロディはどのように生まれたのでしょう?

半崎「いつもそうなのですが、メロディをともなって詞が出てくるので同時なんです」

早見「すごいですね!」

──曲が出来てから歌詞をつけるか、逆か、どちらかが多いと思うのですが、同時は珍しいですね!早見さんの方は、日本語歌詞を英詞に変える時に気をつけた点などはありますか?

早見「美奈子.ちゃんの散文って、いま地球が危機に晒されていて“何かしなければいけない”という、アージェント(危機感がある)なメッセージが込められているんですね。これを半崎さんが“どういう風に曲にするのかな?”と思っていた時に歌をいただいて、語りかける感じが良かったんですよ。"地球"というテーマだとあまりにも規模が大きすぎますし。半崎さんの詞の様に大切な人が“疲れてない?”とか、語りかける事は日常にもありますから。だから、英詞を考えている時は、アメリカにいるふたりの娘の事を思い浮かべながら書きました」

──たしかに語りかけの方が、柔らかい印象を与えますよね。

早見「あとは、日本語の歌って音符に対してひとつの文字、例えば"あ”とかが入るのですが、英語だと言葉が入る。だから、半崎さんの詞をそのまま入れようとすると、音に対してすべて詞が曲の前半ですぐに入ってしまうので“どうしよう?”って(笑)。そういう時は、何度も歌を聞いて、メッセージを読み返して、この英詞を作りました」

半崎「すごいですね!」

早見「それと歌詞の最初の<眠らず>の”ね”であれば<never>という感じで、同じような母音のサウンドで始めるようにもしましたね。<あなたの>の"あ”と口を開ける時は、同じ母音の音をイメージして<mother earth>にしたり。そういうクリエイティブな作業は、とても楽しかったです」

──半崎さんからは歌い方の指示の様なものはあったのでしょうか?

早見「なかったですね」

半崎「特にしていないですね」

早見「私自身は、ガイドボーカルを入れに行ったつもりでしたので(笑)。ただ、山川さんが先に歌う部分のパート分けをしてくださっていたので、なんとかなりました」

半崎「優さんの歌入れ音源をいただいた時点で、キーが私は高いとおっしゃられていましたが、声が出ていましたし、もう心を打たれる歌になっていましたから」

早見「Dメロがね。もうオペラシンガーになったような気持ちで歌いましたよ(笑)」

半崎「でも、英詞の最後が<harmony>で終わるのがとても素敵ですよね」

早見「オリジナル歌詞の<生きるために>の"に”と同じ母音で、韻を踏んでいるんです。最初の時点ではどなたが歌うのか分からなかったですし、みんなで歌うなら合わせやすい言葉の方を選びました。<harmony>なら発音も難しくないですから。ただ、<earth>や<with>などの「th」が多くなってしまいましたけど……」

──「th」の発音は日本人には難しいですよね。発音の指示みたいな事はされましたか?

早見「例えば、<earth>の"th”の発音って、日本語表記だと"ス”になってしまうんですよ。本来は"ツ”の音が強いので、その辺りは山川さんにはお願いしました」

──さて、本田美奈子.さんの散文「地球へ」の内容もそうですが、いま世界ではSDGsやサステナブルなど地球環境問題や多様性の動きが始まり、日本でもやっと注目され始めた状況ですが、おふたりの考えを教えてください。

早見「SDGsって、地球環境問題をはじめ、ジェンダーの事だったりと17項目あって、ひと言でSDGsと言ってしまうと意味が広い。総称して“みんなで共存共生していこうよ!”という事だと思うんですね。だから、みんな違っていて良いと思っています。環境問題に関して言えば、私たちは地球にお邪魔しているみたいな気持ちで、生活を少しだけ見つめ直して、意識改革をすれば変わると思うんですね。ただ、無理をしても人間は続かないですから」

──確かに無理は続かないですよね。

早見「サステナブルも、実際何でも良いと思うんです。例えば、もう生活の一部になっている3R(リデュース、リユース、リサイクル)は、日本はよくやっていて、ペットボトルのリサイクル率もすごく高いですから。私は、個人的に木を植えるボランティア団体をサポートしていて、子供が小さい時には一緒に植樹に行ったりしていました。木って樹齢が長くなればなるほど、たくさん二酸化炭素を吸ってくれますから、“ありがとう!”という感じですよね」

半崎「私も植樹は何回か参加しています。小さな木の苗を植える事って、未来に生きる子供達に対してのメッセージだと思いますし、まさに次世代に繋ぐ事を体現していますよね。あとは優さんもおっしゃっていましたが、多様性や違いを認める事が、当たり前に出来る様になれば良いと思っています」

──今作でも"語りかけ"という当たり前なことが重要な要素になっていると感じています。

半崎「"今作は地球の声を聞く”がテーマのひとつですし、言語問わずの対話って、よく観察していたり、見ていると気持ちが分かると思うんですよ。例えば、赤ちゃんの気持ちがお母さんなら分かるとか、犬を飼われている方であれば、ワンちゃんの気持ちが分かるとか、そういう多言語的な要素ですよね。私は、何に対してもそういう部分は持っていたい。それが共生に繋がっていくのかな」

──個人的には、最終的に教育が大切になっていくのかなと考えています。

半崎「実は、教育関係の方からこの「地球へ」を小学生にも歌って欲しいという要望をいただきまして、今度、教材集に載る事になったんですよ!」

早見「いきなり3バージョンですよ!そういう事って、なかなかないですよね」

半崎「「Dear Earth」はグローバルなみなさんによる合唱で、教材の方では日本の合唱曲的なアレンジで、そういう形で小さなお子様から歌っていただけるのは、いまの教育というお話の部分でも、形になったのかなと感じています」

早見「生活の中で見つめ直せたり、感じてもらえたら良いですよね」

半崎「"考える"よりも"感じて"もらうことの方が大事ですよね」

早見「環境問題の話になりますが、いまの子供たちはかなり小さい頃から環境問題の教育が始まっているので、例えば、大手のコーヒーメーカーがストローを止める事になった時に、小学校低学年のお子さんが"これは社会的にインパクトがある!”って、一番に喜んでいましたよね。きっと子供たちの方が身近に感じていて、素直なんだと思います」

──夢を感じる話ですね!ちなみに、近々「地球へ」を歌うタイミングなどはあるのでしょうか?

早見「すでにコンサートでも歌ってますよね」

半崎「365日命に関わる相談を受ける命の電話のボランティアスタッフが企画した"横浜いのちの電話”というコンサートで歌わせていただいたのですが、ちょっとフライング気味で歌ってしまいました(笑)」

──ご自身のコンサートでも歌う事は考えていますか?

半崎「もちろん歌っていきたいです。コロナ前までは、各地のコンサート会場で地元の子供たちとの合唱も交えていたのですが、またこの状況が明けたら、みんなで「地球へ」や「dear earth」を歌えたら良いですよね」

──例えば、コンサート中に半崎さんが歌っている後ろから、突如、ゲストの早見さんがご本人様登場形式で出演されてもいいですよね!

早見「どこかのモノマネ番組じゃないんですから(笑)。でも、まずは来年の『LIVE FOR LIFE 音楽彩』で両方のバージョンで実現したいですよね」

半崎「ぜひ、そうしたいです!」

(おわり)

取材・文/カネコヒデシ
写真/encore編集部

半崎美子「地球へ」

2021年116日(水)配信
日本クラウン

Yu Hayami・Yoshiko Hanzaki「Dear Earth」

2021年116日(水)配信
Triangle LLC

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カネコヒデシ

メディアディレクター、エディター&ライター、ジャーナリスト、DJ。編集プロダクション「BonVoyage」主宰。WEBマガジン「TYO magazine」編集長&発行人。ニッポンのいい音楽を紹介するプロジェクト「Japanese Soul」主宰。そのほか、紙&ネットをふくめるさまざまな媒体での編集やライター、音楽を中心とするイベント企画、アパレルブランドのコンサルタント&アドバイザー、モノづくり、ラジオ番組製作&司会、イベントなどの司会、選曲、クラブやバー、カフェなどでのDJなどなど、活動は多岐にわたる。さまざまなメディアを使用した楽しいモノゴトを提案中。バーチャルとリアル、あらゆるメディアを縦横無尽に掛けめぐる仕掛人。

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